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【声劇台本】囚獄の華(男2:女6)

メイン登場人物(男:2、女:6)

・リンタロウ/男
女囚人収容所、ハルリス刑務所に赴任してきた新米看守。真面目で仕事熱心。幼い頃、家族が強盗に襲われて妹と生き別れる。

・リカ/女
刑務所に収容されている強盗犯を狙った連続殺人犯。物静かで天然な模範囚。幼い頃、家族が強盗に襲われ、兄と生き別れる。

・バーバラ/女
刑務所に収容されている殺人犯。豪快で姉御肌。収容期間が長いため古株として扱われてる。同室のリカに甘い。

・ニーナ/女
刑務所に収容されている薬の売人。我儘で自分が大好き。リカとバーバラの隣室。面食い。

・シィニィ/女
刑務所に収容されている詐欺師。ミステリアスな性格で人心掌握に長けている。誰しもを魅了する美貌とスタイルの持ち主。

・ノエル/女
刑務所に収容されている窃盗犯。シィニィを尊敬しており、彼女に忠実。

・レスリー/女
刑務所の危険囚人用地下牢に収容されている連続殺人犯。人を殺す事に快感を覚える危険人物。

・ケイ/男
ハルリス刑務所の副看守長。看守長は忙しく、刑務所の実権はケイが握っている。刑務所内で行われている全てを把握している。見た目は優男だが、カリスマ性があり、腹黒く残酷な一面も持ち合わせている。

サブキャラクター(兼ね役推奨)
・看守1/男
・看守2/男

【時間】約45分
【あらすじ】
リンタロウはハルリス刑務所という女囚人を収容している施設に赴任してきた。囚人達に振り回される中、リカと言う囚人に生き別れた妹の面影を見る。刑務所内で行われる男と女の駆け引きに頭を悩ますリンタロウの他所に、数人の女囚人達はとある計画を企てていた。


【本編】


ヴーーーーー

アナウンス「緊急事態発生、緊急事態発生!各自持ち場について下さい。繰り返す。緊急事態発生、緊急事態発生ーー」

レスリー「キャハハハハハッ!緊急事態、緊急事態ー!緊急事態でーす!アハハハハッ!」

リンタロウ「何が起こっているんだ…!?」


数日前
リンタロウ「本日よりこちら刑務所に配属になりました、リンタロウと申します。ご指導の方宜しくお願い致します!」

ケイ「はい、よろしく。私はケイという。ここハルリス刑務所の副看守長を務めてる。看守長は数日間出張で、留守にしてるんだ」

リンタロウ「そうなんですか…お戻りはいつになるんですか?」

ケイ「確か…早くて一週間かかるらしいよ。まぁ小さい所だから多分問題はないと思うさ」

リンタロウ「本所の方も忙しいとはお聞きしましたが…」

ケイ「うん。何処も人手不足だろうね…。だから、リンタロウ君にも早く仕事に慣れて貰いたいから、所内を案内するよ」

リンタロウ「はい!」


所内を歩くケイとリンタロウ

リンタロウ「………女性囚人ばかりですね」

ケイ「そりゃぁここは女囚人の刑務所だもの」

リンタロウ「……」

ニーナ「あぁ!ケイさんだー!ケイさーん」

リンタロウ「え!?」

ケイ「やぁニーナ、元気そうだね」

ニーナ「うん!元気だよ!」

ケイ「相変わらず可愛いね」

ニーナ「ありがとー!ケイさんに可愛いって言われるの毎日の楽しみだよー!ニーナ感激〜!」

リンタロウ「……え、その人…囚人⁉︎」

ニーナ「あれ?その子、誰?」

ケイ「彼は今日からここに来た新米看守だよ。ニーナ仲良くしてあげてね?」

ニーナ「やっほー!ニーナだよ〜!囚人番号217番。あんたの名前は?」

リンタロウ「り、リンタロウ…」

ニーナ「リンタロウね!よろしく〜」

リンタロウ「は……⁉︎」

ケイ「驚かせたかな?ごめんねリンタロウ君。ここは囚人と看守の距離感が近いんだ。ニーナは特に看守に絡んでくるけど、檻の中にいるし特に悪さしないから安心して?」

リンタロウ「はぁ……」

ケイ「まぁ、もし悪さしたら……」

ガンッ(檻を蹴る)

ニーナ「きゃあ!」

リンタロウ「……えっ」

ケイ「お仕置きしていいよ?あ、まずは私に一言言ってからね?看守長には言っちゃダメだよ?」

リンタロウ「……っ」

ニーナ「もー!ケイさんいきなり酷いー!」

ケイ「ごめんごめん」

ニーナ「むー!ケイさんイケメンだから許す!」

ケイ「ありがと」

バーバラ「うっせぇぞ!キンキン高い声あげてんじゃねぇ!ぶりっ子女ぁ!」

リンタロウ「え⁉︎」

ニーナ「げ、あいつ……」

ケイ「隣の牢の囚人。バーバラだよ」

バーバラ「んだよ、お前か?ケイ副看守様ヨォ!看守長はいつ戻ってくんだぁ?お前が統率してっと看守どもが調子に乗ってむかつくんだよ!」

ケイ「ごめんごめん、バーバラ。でも、それは君ら囚人が悪さするからだろ?」

バーバラ「悪さぁ?してねぇ奴もいると思うがなぁ?」

ケイ「いないよ」

バーバラ「…」

リンタロウ「……?」

バーバラ「まぁいいや、で?そいつが新米?ガタイはいいけど頼りなさそうな顔してんなぁ…なぁお前もそう思わねぇか?リカ」

リンタロウ「リカ…?」

ケイ「バーバラと同室の囚人だよ」

リカ「……新米さん?……よろしく」

リンタロウ「……、よ、よろしく…」

リカ「………」

リンタロウ「……」

バーバラ「おい新米。リカを変な目で見てんじゃねぇぞ?こいつ人殺しだぜ?」

リンタロウ「え!?」

バーバラ「ま、私もだけどなぁ」

ケイ「こらバーバラ、新人を虐めないでくれ」

バーバラ「はぁ?度胸試しだぜ?この程度でビビってたらここの看守は務まらねぇだろ?」

リカ「でも、バーバラ、言い過ぎ」

バーバラ「ちっ、リカが言うなら黙りまーす」

ケイ「ふふ、バーバラはリカに弱いね。じゃぁリンタロウ君次のフロアに行こうか」

リンタロウ「は、はい!」

ニーナ「ばいばーい」

リンタロウ「…ニーナさんの牢は一人なんですね…」

ケイ「あぁ、それは…」

ニーナ「教えてあげる!看守に殺されたの!」

リンタロウ「……え?」

ニーナ「めっちゃ可愛い子だったのぉ!顔は私の方がいいけどー、スタイルがいいし力とか弱っちかったから看守どものいい玩具にされて、疲れたーって言って舌噛み切って死んじゃった!」

リンタロウ「……何を、言って!?」

ケイ「その通りだよ」

リンタロウ「え!?」

ケイ「ここは女囚人しかいない…そして勤めている看守の殆どは男だ…」

バーバラ「そういう世界なんだよ、ここは」

ニーナ「女は男のおもちゃ!」

バーバラ「腕力でねじ伏せられる…」

ニーナ「ま、ニーナ達は上手いこと逃げてるけどねー!でも、ケイさんならいいよ〜」

バーバラ「私は嫌だねぇ…ケイもリンタロウも好みじゃねぇ。お前はどうだ?リカ」

リカ「………バーバラに同意」

ケイ「……ふふ、君らを気に入ってる看守が何人かいるから、話しておくよ」

バーバラ「おいおい、やめてくれよぉ」

ニーナ「ニーナもやだぁ!」

ケイ「なら、静かにしている事だね…行くよリンタロウ君」

リンタロウ「……はい」


所内を歩く二人

リンタロウ「あの、……先程ニーナさんとバーバラさんが言ってた事って…」

ケイ「本当だよ。ここは女にとっては地獄だろうね…罪を犯した罰と言えば聞こえは良いだろうけど、男どもの蛮行が絶えない…顔もスタイルも良い奴が多いと手を出してしまうのが男の愚かな性さ」

リンタロウ「……そんな、何のための刑務所なんですか!?」

ケイ「…君は真面目だね。その信念を強く持っときな。女はあの手この手で男を手篭めにしようとする奴もいる」

リンタロウ「え?」

ケイ「このハルリス刑務所は男と女の騙し合いの場所…なんと言ったかな?日本の…遊郭?」

リンタロウ「……そんなものがあっていいのですか?」

ケイ「看守長は多忙なお方だ…バレてないからいいんだよ」

リンタロウ「……」

ケイ「そろそろ昼の時間だ。食堂へ案内しよう」


食堂

シィニィ「ノエル、隣いいかしら?」

ノエル「シィニィさん!どうぞ」

シィニィ「ありがとう…どう?順調かしら」

ノエル「えぇ、シィニィさんのおかげで予定通りに行っています、後は彼女達にも伝えなくては…」

シィニィ「そうね、メンバーはどうなったの?」

ノエル「私とシィニィさん、ニーナちゃん、バーバラとリカちゃんの5人です」

シィニィ「あら、リカちゃん結局来るの?」

ノエル「えぇ、バーバラが説得したらしいですよ」

シィニィ「あの子本当にリカちゃんに甘いんだから」

バーバラ「悪かったなぁ、リカに甘々でぇ」

ノエル「バーバラ!」

シィニィ「あらあら噂をすればというやつね」

バーバラ「例の話しか?…なぁ信用していいのか?」

シィニィ「勿論。何の為に私が看守達に遊んであげたと思ってたの?」

バーバラ「汚ねぇ手を使いやがって…」

シィニィ「使えるものは使わないと…ね?」

ノエル「しかし、これでこの地獄から抜け出せるとなると…」

バーバラ「ふん、簡単に行くと思ってんのかよ」

ノエル「私の作戦は完璧です!」

バーバラ「あー、はいはい」

シィニィ「あら、あれリカちゃん?」

バーバラ「あ?…まぁたあいつ迷ってんのかよ…おーいリカー!こっちだー!」

リカ「バーバラ…ごめん。広いところ苦手…」

バーバラ「相変わらず鈍臭いなぁ」

ノエル「やはり彼女は足手まといになるのでは?」

バーバラ「あ?リカを置いてくなら私はお前の案には乗らねぇぞ?」

ノエル「っ……、」

バーバラ「私は囚人の中では古いし、この建物の事を知り尽くしてるからなぁ…必要だろ?」

シィニィ「そうね…貴方は必要な存在。貴方を連れて行くための条件だもの…リカちゃんは…」

バーバラ「私は捕まっても死んでもいい…だが、リカは逃がしてやりてぇこの地獄から」

リカ「バーバラ…」

ノエル「では、脱獄の期限は…」

シィニィ「三日後よ」


所内を歩く二人

ケイ「これから向かう所は地下だ。かなり危険な囚人を収容している。牢の中で鎖に繋がれているとは言え気をつけ給え」

リンタロウ「は、はい…うっ、変な臭い……」

ケイ「ついたよ」

リンタロウ「彼女が……?」

ケイ「囚人番号13番。レスリーだ」

レスリー「んん?だれー?」

ケイ「やぁレスリー」

レスリー「あー!くそ副看守じゃーん!ひさびさー!どしたの?死にに来た?殺す?殺す?ん?誰そいつ?私のおもちゃー?」

ケイ「残念ながら、新米の看守だ」

レスリー「ちぇー、看守かー。まぁいいや!新しい看守さん!死にたくなったらおいで!あ、勿論鍵は忘れずにね!」

リンタロウ「け、ケイさん…彼女は何を言ってるんですか?」

ケイ「たまにいるんだ…仕事に疲れて、女に振り回されて使い物にならなくなった男を壊してくれる…それが彼女だ」

リンタロウ「え!?」

レスリー「上にはどう言ってるのか気になるねぇ…それが許されてるなんて、この国もやべぇなぁ!」

リンタロウ「え⁉︎はぁ⁉︎…一体どういう事なんですか⁉︎」

ケイ「極端な話をするとね、囚人共は男に食い物にされたりするけど、頭の良い女は看守を徹底的に操りどん底に叩き落とす事もある。その結果精神を病んでここに来て死ぬのさ」

リンタロウ「嘘でしょ……」

ケイ「嘘なものか。この臭いを嗅いで何とも思わない程鈍くはないだろ?医務室はあっても精神科なんてないからねぇ」

リンタロウ「し、しかし…これが本当にバレてないのですか⁉︎」

ケイ「流石にこれはバレてるよ…でも、上も黙認している。それが現実だ」

リンタロウ「狂ってる…狂ってますよ!」

ケイ「そうだね」

レスリー「そうだねー」

リンタロウ「………」

レスリー「新米さん!名前は?」

リンタロウ「リンタロウ…」

レスリー「リンタロー!あんたがこの仕事、辞めるか死ぬまでよろしくな!」

リンタロウ「……!」

レスリー「アハハハハッ!」


看守室

リンタロウ「こんな事があり得るなんて…」

ケイ「初日から災難だったね?」

リンタロウ「ケイさん…」

ケイ「ん?それは写真?…子供が二人写ってるけど…」

リンタロウ「これは自分で、こっちの子は自分の妹です…幼い頃生き別れになってしまいまして…」

ケイ「ふぅん…可愛い子だね」

リンタロウ「もし生きていたらどんな姿なのかな…まぁ、もう叶わないんですけどね」

ケイ「諦めてるんだ?」

リンタロウ「もう20年程昔の事なので…」

ケイ「そう、賢明な判断だね。もし生きてたら…なんて考えてたら、女々しくて笑っていた所だよ」

リンタロウ「え…⁉︎」

ケイ「甘い考えを持ってる優しくて真面目な男は、女に弱みを握られ操り人形になるか、仕事に疲れてレスリーの餌になるかの二択だよ。気を付けてね?」

リンタロウ「……そんなつもりでは、俺は…ただ…あの子が生きていたらと思っていただけなのに…………ここではそれすらも甘さなのか…?」


広場

シィニィ「皆いるわね?」

ノエル「はい」

バーバラ「めんどくせーけどな…」

リカ「うん、いる」

ニーナ「えー、結局リカもくるのー?あんた鈍臭いからお荷物じゃーん」

バーバラ「ニーナ!安心しろ…リカの世話は私がする」

ニーナ「げー、相変わらずバーバラは過保護だねー。きもいよー」

シィニィ「やめなさい二人とも。変に騒ぐと計画が水の泡よ」

ノエル「私の完璧な計画を無駄にするとなると、流石に怒りますよ」

リカ「バーバラ、ニーナ、やめて」

バーバラ「ちっ」

ニーナ「ふんっ、だ!」

シィニィ「ノエル、話して頂戴」

ノエル「はい、計画はシィニィさんのおかげで順調です。後は予定通りにブツが届けられる事と……1番の問題は柵をどう越えるかですが…」

バーバラ「この間の作業時間にペンチをパクっておいたぜ」

リカ「柵は鉄製だから、時間はかかりそうだけど、抜け出せる穴は作れる」

ニーナ「時間稼ぎの件は大丈夫なの?」

ノエル「あれが予定通りの行動を取ってくれたら…問題はありませんわ」

シィニィ「大丈夫よ…信じましょう」


夜、牢獄の見回り

リンタロウ「はぁ、異常はなしっと……しかしどうにもケイさんの言葉が頭を離れないな…俺は本当にここに来て良かったのか…?」

ニーナ「独り言は聞かれやすよ?」

リンタロウ「ひっ……に、ニーナさん⁉︎」

ニーナ「ニーナだよ〜」

リンタロウ「今は就寝時間です」

ニーナ「ねぇねぇ、ニーナ眠くないの〜。ちょっとだけお喋りしよ〜」

リンタロウ「就寝時間です」

ニーナ「ここ異常だよね〜。看守も囚人も頭おかしい…貴方はまだまともだけど…一カ月くらいすれば死ぬか辞めるかおかしい奴らの仲間入りか…」

リンタロウ「俺はそんな事はしない!」

ニーナ「どーかな〜、そう言ってた看守さんは沢山いたけど…大体私の言ったどれかになるんだよ?あ、辞める時はかなり厳重に口止めされるから。どういう方法かは分からないけど」

リンタロウ「………」

ニーナ「まぁいいや、でもあの副看守長さんには気をつけた方がいいよ…顔が良くても腹は黒いから」

リンタロウ「……忠告どうも。早く寝ろ」

ニーナ「はーい!」

リンタロウ「まったく……」

リカ「ねぇ」

リンタロウ「うわぁっ!」

リカ「うるさい、バーバラが起きる」

リンタロウ「り、リカ、さん?」

リカ「うん、リカ。こんばんは」

リンタロウ「就寝時間だってば…」

リカ「知ってる。でも、目が覚めて…」

リンタロウ「君もお喋りがしたいのかい?」

リカ「うん…看守さんが鍵を持ってたら遊んであげてもいいよ?」

リンタロウ「は?」

リカ「だから、そういう事、してあげるよ?」

リンタロウ「バカな事を言うな!俺は看守で君は囚人だ。いくら男と女とは言え、仕事中なんだ」

リカ「真面目だねー看守さん。せっかく遊んであげようと思ったのに…」

リンタロウ「何が目的だ?」

リカ「目的はないよ?ただ眠くないから遊ぼうと思っただけ」

リンタロウ「………そうやって今までも遊んでたのか?」

リカ「んー、乙女のトップシークレットなので、教えませーん」

リンタロウ「…馬鹿にしやがって」

リカ「…看守さんいいこと教えてあげるよ耳貸して?」

リンタロウ「は?」

リカ「ふー」(リンタロウの耳に息を吹きかける)

リンタロウ「ひっ!」

リカ「あはは、看守さん耳弱いー」

リンタロウ「このやろっ…」

リカ「冗談冗談…ちゃんと教えてあげるから」

リンタロウ「…」

リカ「私を含めた何人かの囚人…脱獄の計画を立ててるの」

リンタロウ「え…」

リカ「結構大規模な計画で、看守さん、危ないからその日は建物の外にいて?」

リンタロウ「……何故それを俺に!?」

リカ「なんでだろうね…」

リンタロウ「俺が副看守長に話さないとでも思っているのか?」

リカ「言ってもいいよ。新米看守の言うことなんてあの人聞くかな?」

リンタロウ「…」

リカ「とにかく、館内にはいないで。お願い」

リンタロウ「覚えていたらな…」

リンタロウ去る

ニーナ「何してんのリカ」

リカ「駄目だった?」

ニーナ「しーらない。新米の一人や二人…でも、以外…あんたが看守を誘うなんて…襲われてたかもしれないのに」

リカ「あの人なら大丈夫だと思っただけ、現に大丈夫だった」

ニーナ「はぁ…そーね。本当あんたって何考えてるかわかんない」

リカ「おやすみ、ニーナ」

ニーナ「はいはい、おやすみー」


ケイ「本日は抜き打ちで部屋のチェックを行う!順番に回っていくから、呼ばれた囚人は廊下に出ろ!」

リンタロウ「はぁ…昨日はろくに眠れなかった…なんなんだここの囚人は…」

ケイ「リンタロウ君、ぼーっとしてないで奥の二部屋見てきてくれる?」

リンタロウ「あ、はい!」

ケイ「囚人番号217番、113番、201番出ろ!」

ニーナ「はーい!何もないですよー」

バーバラ「さっさと終わらせてクレェ…」

リンタロウ「あっ……」(リカを見る)

リカ「おはようございます」

ケイ「じゃあ、チェックするから大人しく待ってるんだよ」

ニーナ「はーい!」

リンタロウ「……」

①①
ノエル、シィニィの部屋

ノエル「小型の防毒マスクですね。上手いこと隠しましたね、シィニィさん」

シィニィ「ふふ、この位容易いわ…看守さんは優しいから…」

ノエル「そう言えるのはシィニィさんくらいだと思いますけど…」

シィニィ「まぁいいわ。これで必要な物はだいたい揃ったわね?」

ノエル「はい。後は予定通りに進めば…」

シィニィ「地獄からの脱出ね」

①②
夜、地下室

レスリー「あれー?どうしたの?鍵持ってんじゃん!…死にに来た?意外だねー、あんたはそんな事するタイプだと思わなかったけど…ん?何するつもりだ?……バーバラが待ってる?作業部屋ねぇ…まぁ場所は分かるけど…何する気だい?…まぁいいや、私は何をすればいいんだ?」

夜、屋外

リンタロウ「はぁ…疲れるなぁ…ケイさんもスパルタだし、囚人には舐められてるっぽいし…こんなんで看守が務まるのかな…?」

リンタロウ「……そういえば、今日だっけ…リカ…が脱獄をするって言ってたの…本当なのかな?でも、特に怪しい所はなかったから…やっぱり嘘か?」

リンタロウ「………うぅん?そもそも何で俺にそんな事を言ったんだろう?……もうすぐ見回りの時間だし、戻ろっ……」

ヴーーーーー、ヴーーーーー(警報音)

リンタロウ「えっ!?」

アナウンス「緊急事態発生、緊急事態発生!各自持ち場について下さい。繰り返す。緊急事態発生、緊急事態発生ーー」

レスリー「キャハハハハハッ!緊急事態、緊急事態ー!緊急事態でーす!アハハハハッ!」

リンタロウ「何が起こっているんだ⁉︎…とにかく中に戻って確認しないと…」

リンタロウ、館内へ戻る

リンタロウ「!?…先輩方…?だ、大丈夫ですか!?え?眠ってる?…ん?何だこの薄紫色の煙…まさか、ガス!?外に出ないと…くそっ、どうなってるんだ!?」

①③
館内、廊下

レスリー「あーはははははっ!いいねぇこのチェーンソー!めっちゃ切れ味ばつぐーん!サンキュー、バーバラ良い武器ゲットだわー!」

バーバラ「計画通りレスリーの奴が暴れ回ってくれてるな」

ニーナ「その騒動の間に私たちが逃げ出すって算段ね!」

リカ「でも、小型の防毒マスクをあの人が用意してたなんて…」

ニーナ「流石シィニィ…まさか副看守長様まで手篭めにしてたなんて」

バーバラ「……あぁ」

リカ「バーバラ?」

バーバラ「リカ、ニーナ先に行け。シィニィとノエルはフロアが違うが脱出場所は把握してる筈だ。先に行って柵に穴を開けとけ」

ニーナ「わかった!」

リカ「…バーバラは?」

バーバラ「シィニィ達を迎えに行ってくる。安心しろ、リカ、絶対に追いつくから」

リカ「うん…」

ニーナ「いこ、リカ!」

リカ「バーバラ!待ってるよ」

バーバラ「おう!…………いいよ、待たなくて…さてと、」

①④
別フロア、廊下

ノエル「シィニィさん?シィニィさん、何処に行ったのですか!?」

看守1「いたぞ!あそこだ!」

ノエル「しまった!何処にいったのよシィニィさん!」

銃声(ノエル、背中を撃たれる)

ノエル「あっ……」(その場に倒れる)

看守1「あ、ふ、副看守長…」

ケイが正面から現れる

ケイ「やぁノエル。シィニィを探して逃げ遅れたのかい?情けないね」

ノエル「け、ケイ…!……え?」

看守1「副看守長…何故、そいつが…

銃声(看守、撃たれる)

ケイ「ふふっ」

ケイの傍にシィニィが立つ

シィニィ「うふふ、ごめんなさいねぇノエル」

ノエル「シィニィ…さん…ど、して…」

シィニィ「残念ね、ノエル…貴方はケイを嫌ってるからケイも貴方が嫌いだって…私はケイを愛してるから命拾いしたのよ」

ノエル「はぁ…はぁ…シィニィ…さん、シィ…ニ…さ……」

ケイ「あららら、死んじゃった」

シィニィ「ノエルは可愛い子だったのに〜」

ケイ「でも、彼女は私を嫌っていたからね、仕方ないよ」

シィニィ「そうね…それより貴方は大丈夫?」

ケイ「まぁ、クビは覚悟だけど命があるだけいいさ、それより脱出用のヘリを呼ばないと。私の部屋に行こう」

シィニィ「準備万端ね」

ケイ「金さえ用意すれば大抵のことはやってくれる知り合いは沢山いるからね」

シィニィ「素敵な人と巡り会えたものねぇ…幸せ者だわ私は…」

ケイ「これからもっと幸せになれるよ。何たって私がついてるからね…最初はお金に困るだろうけど、一カ月そこらあれば問題ないよ」

シィニィ「少しばかりの辛抱ね。いいわよ。貴方がいるもの」

ケイ「愛してるよ…シィニィ…」

チェーンソーの音

ケイ「っ!ギャアアアァァァァァ!!」

シィニィ「えっ…」

レスリー「よぉ、シィニィ!副看守長やったぜー」

シィニィ「レスリー…なに、して…」

レスリー「ん?だってバーバラから言われたんだもん!とある一人を残して看守は皆殺しにしていいって!」

シィニィ「それが彼だったのよ!」

レスリー「は?そうなの?バーバラからはそいつも殺していいって言われたけど」

シィニィ「バーバラが…!?」

バーバラ「そうだよ」

ナイフでシィニィを刺す

シィニィ「あっ……ば、バーバラ…!?」

バーバラ「作業場に置いてあったナイフさ。こいつは護身用だって言って、ペンチと一緒にケイに見逃して貰った」

シィニィ「はぁ…、何で、私を…」

バーバラ「お前の計画は読めてたよ。ノエルの頭脳を利用してケイと二人だけでエスケープ…。レスリーを陽動に使い、私達を囮に使った裏切る前提の作戦…ノエルの脱獄計画より浅はかだぜ」

シィニィ「ケイは私を外に出してくれる…って、自分の地位を捨ててまでそう言ってくれたのに…」

バーバラ「あぁ、そこは疑っちゃいねぇよ。嘘でも本当でもどうでもいい…だが、私達を裏切りやがったのが気にくわねぇ…リカもニーナも…ノエルはお前を信じてたのに…殺しやがって」

シィニィ「くぅ…うるさい!私が何を利用しようと関係ないでしょ!私は…私は愛してる人と自由になりたかったのよ!」

バーバラ「…じゃあ、私がお前を殺そうとも関係ねぇな…裏切り者。レスリー、やれ」

レスリー「はーい」

シィニィ「い、いや…いやぁあああああ!」

①⑤
数分後

レスリー「…バーバラはこの後どーすんだ?私はもうちょい暴れるけど」

バーバラ「そーだな。このままじゃ捕まるな。まぁ、リカとニーナを逃がせたからいいや」

レスリー「逃したかったのはリカだけじゃなかったのか?」

バーバラ「最終的にはな。…悪いけどニーナは囮だ。リカはちょっと鈍臭いからな」

レスリー「何でそんなにリカを逃がしたいんだ?」

バーバラ「…リカは私みたいに絶望に落ち切ってないからさ。私は罪を認めてここにいるが、あの子は目的があって罪を犯していたらしいんだ」

レスリー「目的?」

バーバラ「兄を探す事だそうだ」

レスリー「それって…」

バーバラ「それが終われば、捕まろうが死のうがどっちでもいいってさ」

①⑥
ヴーーーーー、ヴーーーーー(警報音)

リカ「はぁ、はぁ、はぁ」

ニーナ「くっ、はぁ、はぁ…早く、リカ!」

リカ「うん!」

看守2「見つけたぞ!撃て!」

リンタロウ「待ってくれ!」

看守2「は?お前新米の…何故ここに。あっ!くそ、見失った!お前いきなりなんなんだよ!」

リンタロウ「すみません…すぐに捜索要請を申請してきます…」

①⑦
数日後、山奥の断崖

リンタロウ「見つけた…こんな断崖絶壁みたいな所によくいたね……リカ」

リカ「看守さん…一人?」

リンタロウ「他の捜索メンバーは別の所をさがしているよ。すぐに来ると思うけど…」

リカ「そっか…」

リンタロウ「その服はどうした?」

リカ「逃げてる途中に拝借した。殺してないよ、庭に干してたのを取った」

リンタロウ「そうか…。ニーナは捕まったよ」

リカ「うん。あの子、私を逃してくれた…私が鈍臭いのに私だけを逃してくれた…」

リンタロウ「ニーナに何を言ったんだ?ニーナは俺にリカを見つけろって言ってきたぞ」

リカ「バーバラに話したことを全部。今まで嘘いくつか吐いてきたけど、これは嘘じゃない」

リンタロウ「なんだ?」

リカ「私、ある人を探してるの…その人を探してる間に罪を犯しちゃって捕まってあそこにいた」

リンタロウ「…」

リカ「私、子供の頃、親が殺された。強盗殺人だって…。その後施設に入れられたんだけど、馴染めないし親を殺した奴が許せなくて、施設を出てから強盗をした奴を片っ端から殺してた。嘘を吐いて近付いて、体を使って油断させて殺したりした」

リンタロウ「……それで捕まったのか」

リカ「うん…」

リンタロウ「脱獄理由は犯行を続ける為か?」

リカ「ううん。バーバラに説得されたから。私はバーバラに全部話した。バーバラは私を助けたいって言った」

リンタロウ「助けたい?」

リカ「私、兄がいるの。兄とは施設が別々になって以来、会ってない…何をしてるのか、生きてるのかも知らない。でも、私はずっと生きてるって信じてた」

リンタロウ「バーバラはその言葉を信じたのか」

リカ「…バーバラは私の目を見てた。バーバラ言ってた。お前の目は私と違って光があるって。私はよく分かんないけど、兄を探すのは諦めてなかったし」

リンタロウ「…その結果があれじゃなぁ…」

リカ「バーバラは捕まったの?」

リンタロウ「あぁ、ノエル、レスリーは射殺されており、シィニィは身体が切断されていた。レスリーがチェーンソーを使っていたらしいから、彼女の犯行だろう。バーバラとニーナは別の刑務所に収監されたよ」

リカ「…脱獄計画知りたい?」

リンタロウ「話してくれ」

リカ「レスリーを陽動にしてその騒ぎに乗じて逃げるつもりだったの。私とバーバラ、ニーナ、シィニィ、ノエルの五人で。ガスを使って看守や他の囚人を眠らせた。私達は小型の防毒マスクを使ってそれを逃れた」

リンタロウ「防毒マスクの入手ルートは?」

リカ「ケイ副看守長」

リンタロウ「そうか…まぁ、だろうな。あの人も他の看守同様にレスリーに殺害されていたが…」

リカ「ガスを使ったのもあの人。抜き打ちの部屋チェックの時にも隠してたナイフやペンチも見逃してくれた」

リンタロウ「……」

リカ「レスリーの牢の鍵を外したのも彼。チェーンソーを渡したのはバーバラだけど、彼女を作業場まで誘導したのはケイ……。何でレスリーに殺されたのかまでは分かんないけど。まぁ、囚人には嫌われてたし…どう?他に何か聞きたい?」

リンタロウ「充分だよ…。バーバラが彼の企みを把握していたらしく、色々証言してくれている。…じゃあそろそろ君を捕まえるとしようか…」

リカ「無理だよ」

リンタロウ「何故?」

リカ「私、死ぬから」

リンタロウ「…何で」

リカ「会いたかった人に会えたから」

リンタロウ「……」

リカ「お兄ちゃん」

リンタロウ「何故、そう言う?」

リカ「わかるよ。家族だもん。本当はお兄ちゃんも気付いてたよね?」

リンタロウ「…確信が無いのによくそんな事言えたな」

リカ「お兄ちゃんに会えたから私はもうこの世に未練はないの。お兄ちゃんは真面目に仕事をしてるのに、私は人殺し…。こんな私はお兄ちゃんに顔向け出来ないもん」

リンタロウ「……リカ」

リカ「だから、私は死ぬの。会えてよかった…お兄ちゃん…。もし、バーバラとニーナに会ったらありがとうって言っといてほしい」

リカ、断崖に歩み寄る

リンタロウ「待て、リカ!何をするつもりだ⁉︎」

リカ「ここ、高いから落ちたら死ぬ…下は海だから…簡単には見つからないと思う。死体は見て欲しくないから…」

リンタロウ「リカ!」

リカ「バイバイ…お兄ちゃん」

リンタロウ「よせ!リカー!」


リカ「……っ、」

リンタロウ「……え」

リカ「あれ?…おかしいな。足がすくんで、動けないよ…どうして?未練なんかないのに。私、おかしくなっちゃった…?」

リンタロウ「リカ…お前」

リカ「ふっ…うぅ、ふぇえ…。何で?何で涙なんか出てるの?おかしいよ!おかしいよぉ!」

リンタロウ「リカ…」

リンタロウ、リカを背後から抱きしめる

リカ「離してよお兄ちゃん…こんな汚い私の事を抱き締めないで…?私、私…お兄ちゃんに顔向けできないのぉ!」

リンタロウ「いいよ。顔は見ないから…泣いていいよ、リカ」

リカ「うっ……ふぅぅ…うわぁぁあん!」

リンタロウ「汚くても関係ないさ、君は俺の妹なんだろ?君がどれだけ罪を犯してしまっていても、俺とお前の関係は変わらない…」

リカ「でも、私、悪い子だよ…お兄ちゃんの邪魔になる…!」

リンタロウ「うん。でも、それだけで君との繋がりを消したくない…。どれだけ周りから何と言われようと関係ない…お前は俺の家族だ」

リカ「お兄ちゃん……!」

リカの泣き声が響く


リンタロウ「ーーーリカはこの後、逮捕されたよ。バーバラもニーナもいない、別の刑務所に。勿論俺はその三人ともいない刑務所に配属になった。リカとの事は隠している。彼女からのお願いだし、俺達が兄弟だと確証がないからだ…。それでも、彼女は俺の妹だし、たった一人の繋がりだ。罪が赦されるその時まで、君が生きている事を信じてる」


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