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【声劇台本】孤雨日和(こさめびより)(男3:女1:不問1)

登場人物(男:3、女:1、不問:1)

・コン/男
田舎の森の中にある神社に祀られてる稲荷神。陰険で根暗な性格だが、元は紳士的な言動をしていた。長きに渡る信仰の衰退により拗れた。

・春坂(はるさか) かすみ/女
母の死をきっかけに田舎に引っ越した女子高生。明るい性格だが人見知りが激しく、友達がいない。幼い頃、雨の日に狐耳の男の子に助けてもらう。

・蛇頭(じゃとう)/男
神社のある山に身を寄せている妖怪。近辺に住む妖怪達の親分的存在。昔、人間達に棲家を追われ、人間を憎んでいる。

・子分/不問
蛇頭の子分でトカゲの頭をした妖怪。距離感や空気を読まない。

・父親/男
かすみの父。明るく天然で、土地開発業の仕事をしている。妻を亡くし、男手一つでかすみを育ててる。

サブキャラクター(兼ね役推奨)
・女子生徒(1セリフのみ)
・男子生徒(1セリフのみ)

【時間】1時間
【あらすじ】
かすみは小さい頃、雨の中山の中で迷子になってしまった。その時大きな狐耳の男の子に助けてもらう。その時の事をよく夢に見るかすみは母親を亡くした事をきっかけに田舎に引っ越した。そこでは友達は出来ず暗い毎日を過ごしていた。雨が降り始めるある日、かすみは学校をサボりとある神社の前まで来る。その時、後ろからコンと言う大きな狐耳の少年が声をかけてきた。


【本編】


雨の音

子供かすみ「うぅ…ぐすっ……雨、やまない…帰れないよぉ。ママぁ…」

遠くで雷の音

かすみ「きゃあ!……ひっ…うぅ〜!ママぁ、パパぁ……!」

ガサガサと葉が揺れる音

子供コン「…ん?こんな雨の森に人の子が何をしてるの?」

かすみ「へ?……だれ?」

コン「それはこちらの台詞だ。君、もしかして迷子?雨の日の森は危ない。それにここは人間が立ち入らない位、森の奥だ。子供は余計に危ない。下手したら食われちまうかも」

かすみ「ひっ!」

コン「ふふっ、怖がらせてごめんね。でも、僕がいるから大丈夫。森の外まで送ってあげる。手を出して?」

かすみ「……」

コン「いい子だね。行こうか」

二人で森を歩く

かすみ「あ、雨が…」

コン「止んだね。でも足元は滑るからしっかり手を握っててね」

かすみ「……うん」

かすみ「記憶。遠く掠れた幼い頃の記憶。あの時出会った男の子が誰だったのか、わからないまま。あの後、森の近くを何度通ってもあの子に会える事は無かった。私と同じくらいの背で、でも少し大人びていて、わたしより力強い手。私の大切な思い出…」


アラーム音
スマホを探り、音を消す

かすみ「……うぅん。なんだか懐かしい夢を見たような…」

階段を降りリビングへ向かう
父親が料理をしている

父親「お、おはようかすみ。もうすぐで朝ごはん出来るぞ」

かすみ「うん…ふあぁ…おはよ、お父さん」

小さい仏壇にむかい、鐘を鳴らす

かすみ「お母さんも、おはよう!」

父親「毎朝ちゃんとお母さんに挨拶出来て偉いなぁかすみは!お父さんなんか朝ごはん作らないとって、偶に忘れちゃうんだよなぁ(笑)」

かすみ「それはダメでしょ!(笑)お母さん、お父さんって酷いね!大事な奥さん忘れて料理に夢中だって、…お父さん、お母さんが化て出ても文句言えないよ〜」

父親「ははっ、それはそれでアリだな…」

かすみ「何がアリよ!(笑)もう、本当お母さんの事大好きだよね、お父さんは」

父親「あぁ、かすみもだろ?」

かすみ「うん」

父親「ほら、座りなさい。朝ごはん出来たよ」

かすみ「はーい」

父親が食器を片付けている

父親「じゃあ、父さんはもう出るから…学校に遅刻しないようにな」

かすみ「はーい!いってらっしゃい」

父親「……なぁ、かすみ…学校はどうだい?」

かすみ「え?どうって…普通だよ?どうして?」

父親「…いや、ちょっと気になってな…普通ならいいよ。…戸締りはお願いな」

かすみ「はーい。気を付けてね」

父親「いってきます」

父親、リビングを出て玄関を出る
静まり返るリビング

かすみ「………普通、ですらないって言ったらお父さん心配するよね…ってか、普通がもう分かんないや」

食べ終わり、食器を片付ける


学校のチャイム音

かすみ「……はぁ」

校門前、賑やかな生徒たちの声

かすみ「……、息苦しいな」

女子生徒「おはよー!」

かすみ「っ!え?」

かすみの方に声をかけられ思わず振り向く

男子生徒「おはよ〜」

すぐ近くの男子生徒が反応する

かすみ「……あ、そりゃそうだよね…誰も私の事なんて…」

かすみ、立ち止まる

かすみ「誰も、私の事なんて分かんないなら…」

踵を返し、校門から早足で遠ざかっていく
学校から遠のいていくと更に足が速くなっていく
雲行きが怪しくなり、遠くから雷の音がする
かすみ、我に返る

かすみ「……はぁ、はぁ…。やば、私何してるんだろ…学校、このままじゃサボっちゃう…!」

少しの沈黙

かすみ「いや、どうせ先生もクラスの人達も私がいなくなった位で……」

学校とは反対方向に更に足を進める

かすみ「心配するのは、お父さんだよな…でも言えないよ、学校…上手く行ってないって…」

ポツポツと小雨が降り始める

かすみ「雨…あ、折り畳み傘入れてた筈…えっと…」

ゴソゴソと鞄から傘を取り出し、差す

かすみ「どうしよう…学校、行きたくない…」

とぼとぼと歩いていると、森の近くにたどり着く

かすみ「ん?森……石階段だ」

沈黙(雨の音が響く)

かすみ「流石にこのまま制服姿でうろついてたら不味いよね……ちょっと、行ってみよう」

石階段を登っていく


かすみ「なんだか懐かしい感じがする…なんでだろう?昔、ここら辺に遊びに来た事はあったけど、こんな所来たっけ…?」

更に階段を登っていく

かすみ「え、…あ、鳥居…?」

鳥居の目の前に立ち止まる

かすみ「ここ、神社なんだ…結構大きな鳥居だなぁ…。あ、鳥居って境界線みたいなものだっけ。なんか昔お父さんがそんな事言ってた気がする」

コン「そう、境界線。神域と俗界を区切る役割…だからどいて」

後ろから声がし、振り向く

かすみ「え?」

コン「だから、そっから先は神域。…僕のテリトリーだからどいて!道の真ん中に突っ立ってんなよ。これが神域なら無礼な行為なんだぞ。お願いどいて!俗界怖い…」

必死な様子のコンに引いて、静かに端による

コン「ありがと」

そそくさと鳥居をくぐるコン

かすみ「……え、ちょっと待って!?誰!?」

慌ててコンを追いかけ、鳥居の中に入るかすみ

コン「あーー、無礼者、無礼者!鳥居をくぐる前は一礼が基本でしょ!神域に土足で入るって何処の国の流儀だよ。日本は靴を脱いで家に入る国でしょ?何処生まれだよ外国人」

かすみ「いや、日本人です…すみません」

ぺこりと頭を下げる

コン「……まぁ、鳥居くぐった後になってるけど、一礼はしたからいいか…」

かすみ「貴方…誰?」

コン「はー?出たよ最近の人の子は挨拶の仕方も知らないの?名前名乗るのは自分からってのが普通でしょ。こっちが教えても教えないって意地悪する気なんだ。ぜーったい教えな…」

かすみ「かすみです。春坂かすみ…」

コン「………コン」

かすみ「コン…君」

コン「……う、うん」

沈黙

コン「いや、だからって!名乗られても困るんだけど…僕人の子とか嫌いだから。地雷地雷!マジやだ。お賽銭入れずに鈴がっちゃんがっちゃん鳴らすDQNだもん」

かすみ「私そんな事しないし、した事ないよ」
コン「どーだか…昔の事過ぎて覚えてないだけじゃないの!?人間の記憶ってアテにならないからねぇ」

かすみ「してないわよ!断言してやるわ!…ってか、貴方こそ何者なの?…その頭についてる奴…何?付け耳?コスプレ?」

コン「ふぁー!出たよ出たよ、ちょーっと見た目がおかしいだけですーぐコスプレ扱いする。現実見てない証拠っすわ。正真正銘の狐耳でーすだ!ほーら引っ張っても取れませーんいだだだだっ!」

かすみ「自分で自分の耳引っ張ってどうすんのよ…ってか本物!?」

コン「…本物だよ…疑り深いなぁ」

かすみ「え?お化け?」

コン「せめてそこは妖怪って言って欲しかった……じゃなくて、僕、神様。稲荷神…まぁ下っ端っすけど…」

かすみ「……嘘」

コン「嘘つかないし…冷静に考えれば人間なのに僕の事見えるんだね…珍しい」

かすみ「ふつうは見えないの?」

コン「見えないよ。寧ろお化け見るより難しい…大人になってくとどんどん見えなくなる…多分、偶然なんだね…」

かすみ「偶然…?」

コン「うん。この雨と同じで、君の心が不安定だからここに迷い込んじゃったんだろうね…この森は良くないものが沢山いるから…心が不安定だと、導かれちゃうんだ…」

かすみ「心が…不安定…」

コン「でも、僕の姿が見えるなんて…何年ぶりだろ…ってか誰かと話すのも久々……」

沈黙

コン「ぎゃあーーー!」

大声を上げて逃げ出す

かすみ「え!?コン君!何処いくの!?」

慌てて走って追いかける

かすみ「…何で賽銭箱の裏に隠れてるの?」

コン「誰かと話すなんて久しぶり過ぎて、ハードルくそ高いんですけど!無理無理無理!いくら俗界の人の子とは言え、ここ数年ろくに誰かと喋った事のない僕には無理過ぎる!しかも女子なんてもってのほか!だめ!死にそう!」

かすみ「神様…なんでしょ?何言ってるの?」

コン「ひぃ!これが流行りのJKって奴!?容赦なく陰キャのゾーンに入ってくるんですけど!怖すぎでしょ!」

かすみ「怖いのはこっちよ…初対面でマシンガントークされるこっちの身にも…………あれ」

コン「え?何?晒す?晒すの?俗界流行りの写真公開で僕の醜態晒す?」

かすみ「……私、喋れてる…初対面、なのに」小声

コン「え?やば、聞こえん。ボソボソ喋りは陰キャの専売特許ですぞ」

かすみ「あーもう!ぶつぶつうるさいのはどっちよ!」

コン「ひっ!」

かすみ「……ふっ、ふはっ!あははっ!あっはっはっはっ!!」

コン「え、何…急に笑い出して怖い。人の子こわっ…JKまじこわっ…」

かすみ「もうだめ…おっかし…あはは!」

ツボって笑いが止まらないかすみ

怪訝そうに見つめるコンだが、つい釣られてかすかに笑う

コン「ふふっ……変な子」

かすみ「…!………ふふっ」

雨はいつの間にか上がっている


学校のチャイム音
放課後、生徒たちの声
かすみは足早に学校を出て神社に向かう

かすみ「あ、鳥居の前で一礼…よし!お邪魔しまーす」

コン「邪魔するなら帰ってくれないかなぁ…つかテンション高っ…放課後なのに元気とか若いって怖い…」

かすみ「折角遊びに来たのに酷いなぁ」

コン「来なくていいよ…ねぇかすみ殿、これで三日連続だよ?なに?暇なの?今時JKならタピオカだぁ抹茶ラテだぁ洒落乙なもん晒してろよ…」

かすみ「飲みたいの?タピオカ」

コン「ハードル高すぎて笑うしかないー…僕そんなデンプンのかたまり飲もうとか思わないですし」

かすみ「デンプンって…他に言い方あるでしょ。じゃあ今度買ってきてあげる。コンビニならいいでしょ?」

コン「いらない」

かすみ「素直じゃないんだから〜」

コン「いや、いらんて。マジで」

カランコロンと下駄の音が聞こえて来る

かすみ「ん?なんの音?」

コン「うげっ…今日あいつ来る日だった⁉︎……やだなぁもう…何でかすみ殿がいるタイミングで」

かすみ「あいつって?誰か来る予定だったの?」

コン「…そろそろ顔出しに来ると思ってたけど…今日かぁ…からかわれる案件キタコレ…」

蛇燈と子分が現れる

蛇燈「よぉ、稲荷の小僧。調子はどうだ?」

子分「どうだー?」

コン「……はぁ。蛇燈…うるさい奴がきた…」

かすみ「へ!?…へ、蛇!?」

蛇燈「ん?なんだその人の子は?」

子分「人の子だー!」

コン「…あぁ、もう何で今日来ちゃうかなぁ…僕が見えてるんだからそりゃ他の妖怪も見えるよねぇ…ほんと最悪…こういう時、神の加護って奴は厄介で困るんですが…こんな下っ端でもスキル発動?とか、笑えないってマジ」

蛇燈「また小僧がブツブツ言い出したな…人の子、お前はコンの友人か?」

かすみ「え!……ゆ、友人……友人…かぁ」

コン「ちゃうちゃう。何で人の子と僕が友達になるんだよ。つか、僕にはそんなのいませんし?下っ端神様陰キャは身の丈ってのが分かってるんだから、ほっといてくれ…」

蛇燈「ん…じゃあこの人の子はなんだ?」

コン「かすみ殿…迷い込んだだけのただの人の子。…あ、かすみ殿…この蛇頭の妖怪は蛇燈。…んで、そのトカゲみたいな妖怪は何?誰?」

蛇燈「おぉ、最近子分にしてやった奴だ」

子分「子分です!」

コン「あうっ…距離感待った無しのグイグイ系…精神力爆下り中…つら、冬眠したい…」

かすみ「こ、コン君…私、邪魔なら帰ろうか?」

コン「うん。帰って」

蛇燈「何でだ。良いじゃないか、俺たちが見える人間なんて珍しい…外の世界の事久しぶりに聞きたいもんだ!」

子分「ききたい!」

コン「はぁ!?…なんて勝手な…かすみ殿帰っていいよ。妖怪に絡まれるなんていい事ないし、そもそもこれ全部僕のせいですか?あ〜あ…なんかすいませんねぇ」

かすみ「コン君、大丈夫?」

コン「ネガティブスイッチ入りましたわ〜?やってらんねぇよほんと…」ボソボソ

蛇燈「かすみ…と言ったか?すまんな、こいつは根暗な奴なんだ…数年前まではそうではなかったんだが…」

かすみ「そう、なんですか…?」

蛇燈「あぁ、いつからだったか…ここら一体の結界が弱まって来ていてな。祭事も減っているから、人間の信仰心が衰退しているのだろう」

かすみ「信仰心…」

蛇燈「あいつは神だ…人間の信仰がないと生きてはいけない。下っ端なら尚更な…」

コン「ここまで信仰が無くなるなら僕いらんのでは?フフッ…中途半端な祭事で今更信仰が戻るなら僕じゃなくてもいいんじゃないすか?マジで」

蛇燈「数年前もコンはこんな根暗じゃなく、至って普通の小狐だったんだがなぁ…」

子分「超根暗…」

コン「もしかしてかすみ殿がここに来たのも僕の力が弱まってるせい?こんな陰険な稲荷神いないっしょ…数年前までは陽キャ〜とまではいきませんが普通に喋れてたのに…信仰云々で性格まで捻じ曲げられるなんてほんとイミフ…神様辞めろって神様からのお告げでは?」

蛇燈「お前はいい加減にせんか!いつまでぶつぶつと自分の世界に浸っておる!…曲がりなりにも神だろ?」

コン「グフフ…蛇燈、こんな根性も性格も捻じ曲がった神なんていないよ…神の中では雑魚キャラ?他の稲荷神にはお笑いものだし…」

かすみ「コン君…」

コン「仲間とも上手く喋れない、陰キャで臆病者…神への信仰もろくにない土地…僕なんて居てもいなくてもいい存在じゃないか」

かすみ「…!」

コン「蛇燈は昔から知ってるから、しゃ、喋れてはいるけど…」

子分「僕は?」

コン「……いや、え、…う……離れて下さい…」

蛇燈「かすみとも話せてるだろ?」

コン「あー…そりゃ僕も驚いてるけど…多分かすみ殿って僕と同類では?って思ってんだよね」

かすみ「え……」

コン「だって雨の日に此処に迷い込んできて僕の事見えてんだから、ただ目が良いってだけの人間じゃないと思いますし」

かすみ「……」

コン「学校が終わったらすぐにここにくるし、学校の話とかしないし、友達の話も聞いた事ないよね」

かすみ「そ、…そう、と言われれば、そう…だけど…コン君と話したいって思ってるから来てるのよ」

コン「それ本当?類は共を呼ぶとか言いますが、陰キャ同士で仲良しこよししてるとでも思ってました?残念。僕は神だ。たった一人の人の子とお喋りなんて時間の無駄!君と僕はそもそもが違うんだ」

かすみ「そんな事……」

蛇燈「コン…いくらなんでも言い過ぎじゃないか?」

子分「言い過ぎー」

コン「うるさいな!僕は本当の事を言ってるだけだ。かすみ殿もこんな所にいないで人間の友達作りなよ!こんな場面誰かに見られたら「え?あの子一人で何してんの?」、「一人でお喋りしてるなんてこわ〜い」って不思議ちゃんのレッテル貼られて腫れ物扱い決定ですぞ?」

かすみ「っ……!何よその言い方!ぐちぐちぐちぐちハッキリ言いなさいよ!私が学校で上手く行ってないの知っててその言い方なの?コン君ってほんと性格ひん曲がってるね!」

コン「ふひひっ…今更そんな罵倒痛くも痒くもないんですけど!…僕はね、君なんかと違って長い時間を生きてるんだよ。逆に羨ましいと思うね、短い時間に思い出を詰め込めるんだから…こっちは詰め込んだら詰め込んだだけ虚しくなるんだよ!」

かすみ「……」

コン「人間にとっての思い出は、僕にとっては一瞬なんだ…楽しい思い出も幾つか思い出せなくなった…それなのに、人間はすぐに逃げ出そうとするのは何で?…僕はここから逃げ出せないのに…ずるい…」

蛇燈「コン、お前…神を辞めたいってのは嘘じゃなかったのか…?」

コン「っ!…………今のは忘れて、どうかしてた」

蛇燈「……今日は帰ろう…すまんな、かすみ…コン、また顔を出しにくる」

子分「失礼します!」

蛇燈、子分を連れて去る
二人きり、沈黙

かすみ「………帰るね」

コン「…言い過ぎたとは思ってるけど、本当の事だから」

かすみ「……そう」

コン「…………ご、ごめん?」

かすみ「なんで謝るの?」

コン「…いや、この空気耐えられなくて…」

かすみ「意味わかんない…」

コン「別にかすみ殿を怒らせたかった訳じゃない…僕と君が違うのはわかるでしょ?」

かすみ「…そうだね」

コン「僕のせいで君が傷付くのは嫌だ…君も僕の守る土地の人間だもん…」

かすみ「コン君…」

コン「なんだかんだ僕も、神としての責任があるんだ…この土地を護りたい…」

かすみ「…そっか、偉いねコン君」

コン「…えっ、…うあ……ひゃ、はい…」

かすみ「ばいばい」

コン「…またね」

かすみ「……」

かすみ、神社を去る
石階段を降りてるが、途中で立ち止まる

かすみ「傷つくのが嫌って…傷付けてから言わないで欲しいな……」

ポツポツと雨が降り始める


自宅、かすみの部屋

かすみ「はぁ…」

部屋の扉が叩かれ、父親が中に入る

父親「かすみ、ただいま〜」

かすみ「わっ!ちょっとお父さん…勝手に部屋に入らないでよ…」

父親「ごめんごめん!ノックはしたんだけどな」

かすみ「ノックしてすぐに入らないで!…もぅ、おかえりなさい」

父親「うん。今日はまっすぐ帰って来たのかい?」

かすみ「え?…なんで?」

父親「うーん…最近楽しそうだったし、友達と寄り道でもしてたのかなって」

かすみ「……まぁ、そんなとこ?よく分かるね…」

父親「何年父親やってると思ってるの?パパ歴16年を舐めないでくれ?」

かすみ「いや、私が16なんだからそりゃそうでしょ…もう、敵わないなぁお父さんには…」

父親「かすみって何も言わないことが多いからね…お母さんにも言われたんだよ」

かすみ「お母さんに?」

父親「うん…ちゃんとかすみを見ててあげてって…それはかすみの為にもお父さん自身の為にもなるからってね…」

かすみ「私の為ってのは…分かるけど、お父さんの為?」

父親「うん。かすみの為になることがお父さんの為なんだ…お母さんがいない分、お父さんがかすみを支えたいんだよ。僕はかすみに支えられてるからさ」

かすみ「お父さん…」

父親「ま、かすみは昔から大人しくて良い子だったけど、人見知りしやすくて上手く喋れない所があっただろ?お父さんは気付かなかったけど、お母さんはそれを知ってたらしいんだ」

かすみ「え!?」

父親「それを聞いて、かすみをちゃんと見てたら、確かにそうかもって思えてね…お母さんと似てるよ」

かすみ「お母さんと…?」

父親「お母さんも明るい人だったけど、人付き合いが上手くいかない時があったらしいんだ。僕と初めて会った時も会話が続かなかったなぁ」

かすみ「そうなんだ…」

父親「でもお母さんは努力してたんだよ。まずは挨拶からって、そして人の話を聞いて自分の事を言う。当たり前の事だけどお母さんにとっては難しい事だったらしいんだ」

かすみ「………」

父親「嫌われるのが怖いって…言ってたな。下手な事を言って傷付けてしまうかもしれない。不快に思われたら自分も悲しい…被害妄想なのかもしれないけど、実際そう言う事に敏感な人だったんだ」

かすみ「……そうだったんだ…お母さん、お父さんと同じで明るいタイプだと思ってた…」

父親「意外と分かんないもんだろ?一緒にいても分かんないことがあるんだ…」

かすみ「そうだね…」

父親「かすみの事もわからない事はあるからね…でも無理に聞いたりはしたくないんだ」

かすみ「お父さん…」

父親「学校サボった事も何か思う所があったんだろう?…学校、楽しくなかったかい?」

かすみ「……」

父親「……ごめんね、今聞くことじゃなかったかも…かすみは真面目な子だし、こっちに引っ越して来て大変だって言うのにね…」

かすみ「そういう訳じゃ…」

父親「あまり無理しないで、解決出来そうに無かったら何時でも相談してくれていいからね」

かすみ「…ありがと、お父さん」


神社境内

蛇燈「おう、コン。調子はどうだ?」

子分「どうだー?」

コン「……はぁ。また来たの?」

蛇燈「不機嫌そうだなぁ。かすみと喧嘩してからずっとその調子か?ここ2、3日人の子がここら辺に来た様子もないが、かすみもここに来てないようだな」

コン「……別に喧嘩じゃないし、というか。そもそもこんな所、人間が来て良いところじゃない。お参りでもなんでもなく、僕に会いに来るなんてどんな神経してるんだか…」

蛇燈「しかしお前さん。かすみを待ってるだろ」

コン「っ…、そんなんじゃ」

蛇燈「いつからお前はそんな風になった?昔は立派に神事を務めていたと言うのに…」

コン「…何が分かるの?僕の事…。こんな陰キャに変わる事が悪い事だったとでも言いたいの?言っとくけど僕だって好きでこんな性格になったんじゃありませんし!僕は…僕のこの神社が…」

蛇燈「誰にも認知されんと、消えていくのは嫌か?」

コン「当然でしょ…何の為にこの土地を守って来たと思ってんのって感じ…。人間は恩知らずだ」

蛇燈「見えんものを信じろと言うのも難しい話だ。お前はそれくらい分かってると思っていたが?」

コン「それは…」

蛇燈「コン。長く生きてれば変わる事は必然だ。時代の流れ。己の成長。そこは人も神も、俺たち妖怪もきっと同じ…違うのは環境と時間の長さだ。違うか?」

コン「…そんなこと…分かってる。分かってるけど…ムカつくんだ。…何に対してこんなムカついてるかわかんないけど…。かすみ殿の事を考えると…人間のくせに」

蛇燈「……かすみが憎いのか?」

コン「え?」

蛇燈「人間が嫌いか?」

子分「親分?」

コン「蛇燈…何言って…」

蛇燈「人間は傲慢だ。ここは俺たち人外の森だ。勝手に踏み入り、平地を広げ、建物を並べる…大して賢くもないくせに重機に頼り俺たちの居場所を無くしていく人間が…」

コン「蛇燈、お前何が言いたいんだ?」

蛇燈「今に分かる。俺の言わんとしてる事…ただし、時間は無い。いくぞ」

子分「あ、はい」

蛇燈、子分去る

コン「……あいつ、急に何…?どうしたって言うんだよ」



コン「憎い?…かすみ殿に対して?………それは違うと思うけど…」



コン「…かすみ殿を待ってる?あんなに怒らせたのに都合良すぎでは?……おかしい…、一人には慣れてる筈なのに……」

石階段を上がる音が響いてくる


かすみ、神社へ続く石階段前

かすみ「…行きづらくて4、5日も経っちゃった…でもあれはコン君が言い過ぎだと思うんだよなぁ。…けど、コン君はそもそも人間じゃないから、根本的な考えが違って当然なんだよね…」


かすみ、階段を登り始める

かすみ「分かってなかったのは私だったのかな…?コン君となら話せるって事に甘えて、勝手に居座って…邪魔…だったよね…」

手にした袋からドリンクを取り出す

かすみ「コンビニのタピオカで赦されるとは思ってないけど…まぁ、きっかけと口実は大切だよね!…これからもこの土地にいるんだから…神様と不仲とか縁起悪いもんね…あ、もうすぐ着く…」

かすみ、鳥居の前で一礼して神社内に入る

父親「かすみ?」

かすみ「お父さん!?何でここに…仕事じゃ…」

父親「休憩を兼ねて用事でね…」

かすみ「用事?神社に?」

父親「あー…、僕が開発事業関係の仕事してるのは知ってるよね?」

かすみ「うん…」

父親「土地開発として、この森を切り崩すって言う案が出てね…それの下見というか簡易調査というか…」

かすみ「え?…この森、無くなるの?」

父親「案が出ただけだから、本格的な土地開発に乗り出す可能性は多分無いと思うな…土地の権利を持ってる人も拒否してたから…」

かすみ「じゃあ何でお父さんがここにいるの?」

父親「幾つか案が出た場所を見ておきたくてね。まだ土地勘がないから勉強しとこうと思って」

かすみ「そう…なんだ」

父親「うん。かすみも神社に来るなんて信仰深いんだね」

かすみ「…そういうんじゃないけど、まぁね」

父親「あ、お父さんそろそろ戻らないと行けないから、また家でね」

足早に階段を降りていく父親


コン「土地開発ねぇ…」

かすみ「コン君!」

かすみの隣にコンが現れている

かすみ「びっくりした…聞いてたの?」

コン「そりゃ神社内ですし?耳は良い方ですぞ」

かすみ「…どう思う?」

コン「本格始動はないんでしょ?一安心?…もしかして蛇燈の言いたかった事ってこういう事だったのかな」

かすみ「蛇燈さん…何か言ってたの?」

コン「かすみ殿は知らなくていいよ…で、久々に顔出してどーしたの?」

かすみ「……」

コン「用事が無いなら僕はもう引き篭もるけど…」

かすみ「ま、待って…ある。あるから…用事。コン君と話に来た」

コン「はぁ…結局それ?……じゃあ、手短におなしゃーす…」

かすみ「………私、人と喋るの苦手なんだ…特に同年代の子とは」

コン「でしょうな〜。僕は人外だから範囲内?ウケますな」

かすみ「此処に引っ越して来たのは、お父さんの仕事の都合と…お母さんが亡くなったから、お父さんの実家が近い此処に越して来たの」

コン「ほーん…」

かすみ「前に住んでた所も、学校では上手くいってなくて…話せる友達はいたけど、そこまで仲良くはなかったかも…」

コン「うーん…かすみ殿って内弁慶?」

かすみ「…そうかもね。お父さんとは普通に喋れてるし、何故かコン君とも」

コン「それ謎な」

かすみ「不思議だね…」

コン「…で?かすみ殿のシークレットエピソードを開放されて、僕にどうしろと?ほんとに聞くだけで良かったって訳でもないっしょ?」

かすみ「私の言いたい事わかるの?」

コン「分かる訳じゃないけど、何かまだ言いたそうな顔してるって思っただけ。…で、何?」

かすみ「…コン君は神様だよね…私のお願い聞いて欲しい」

コン「急展開キター。神様万能違いますし。…まぁ、聞くだけなら聞くよ?」

かすみ「じゃあこれ、お賽銭代わりにどーぞ」

ゴソゴソと袋からドリンクを差し出す

コン「…タピオカ?え?は?」

かすみ、コンの前で二礼二拍手する

かすみ「学校、頑張れますように!」

かすみ、一礼する

コン「……」

かすみ「よし!」

コン「何がよし!?お賽銭代わりにタピオカ渡される時点でイミフなんですけど!つかこれ、すぐそこの賽銭箱の前でやる事じゃない!?何故に目の前の神様に直談判?」

かすみ「手っ取り早いかと思って」

コン「えぇ…かすみ殿ってほんと変な所あるよね」

かすみ「コン君に言われたくない!」

コン「………ふふっ」

かすみ「…えへへ…ふふ、あははは!」

ゴロゴロと雲行きが怪しくなる

コン「うわ、また天気崩れそう…早く帰った方がいいよ」

かすみ「うん…そうだね。…また来て良い?」

コン「…いいよ」

ポツポツと雨が降り始める

かすみ「嘘、もう降って来た!」

コン「通り雨かな?かすみ殿屋根のある所に行こう」

かすみ「う、うん…」

カランコロンと下駄のなる音が響く

①①
下駄の音と共に蛇燈が現れる

蛇燈「よぉ、…コン」

コン「蛇燈…?」

かすみ「ぬ、濡れますよ…こっちに来て下さい」

蛇燈「分かったか?…俺が言いたい事が」

かすみ「えっ…」

コン「…人間達の行う土地開発の事か?でもそれは行われる可能性は低いらしい…安心して良い…」

蛇燈「安心?何故安心出来ると言う!?」

コン「っ、……何をそこまで苛立ってんだ…」

蛇燈「腹を立てないと思ったか?…俺達の山を切り崩し、己の自己満足の為に全てを奪っていく奴らに…何故腹を立てないと思っている!?」

かすみ「じゃ、蛇燈さん…」

コン「僕の後ろにいて、かすみ…あいつ我を忘れてる」

蛇燈「俺達妖怪は、お前の様なクズで陰湿な神よりも下なんだ⁉︎いつもいつも追われる身だ。それなのに何故お前は己を卑下する?我々には無い神の力を持ってして、何故そこまで落ちぶれた!」

雷の音

かすみ「きゃあっ!」

コン「っ……、」

蛇燈「くくっ…なぁ、お前は神になりたくなかったんだろ?神を辞めたかったのだろう?だったらその座を俺に寄越せよ!お前なんかよりよっぽど上手くこの地を統治してやるよ!」

コン「や、やめろ蛇燈…神が人間に関わるのはご法度だ…かすみ殿の様に迷い込んだ訳では無い限り…」

蛇燈「またその人の子か?随分と熱を入れてるなぁ…人に焦がれた神なぞ無様だぞ」

コン「そ、そそ…そういうんじゃないですし!かすみ殿は迷い込んだってだけの人の子ですし!……はぁ、蛇燈…そういえば君は別の山から来たんだったね…」

蛇燈「あぁ、土地開拓と抜かし、人間共は森を切り崩し、土を削り、コンクリートを埋めていった!…山を…追い出されたのだ…!」

かすみ「そんな…」

蛇燈「ここもいずれそうなると聞いた!赦さん!これ以上俺達が暮らす場所を奪われてなるものか!何故俺達が出て行かねばならん!?俺達は人間よりその地に居たというのに…!!」

かすみ「お、落ち着いて蛇燈さん!そういう話が出ただけで、本当にこの山がなくなる訳じゃないんだよ!」

蛇燈「人の子の言う事なんぞ信じられるか!」

風が吹き荒れる

かすみ「きゃあ!」

コン「…蛇燈、今迄腹の中に溜め込んでた物が爆発したのか…あいつがあんなに取り乱すなんて見た事ないもん…」

かすみ「どうするのコン君!?」

コン「このままじゃ麓の街まで降りかねないし、妖力が暴走し続けると蛇燈自身も危ないかも…」

かすみ「そんな…」

コン「えーもう、どうしたらいいんだよ、これぇ…かすみ殿いるし社壊されたらまた上にどやされるし僕はどうするのが正解なんですこれ〜」

かすみ「もう、またうじうじうじうじ!蛇燈さんを助けるの?助けれないの!?」

コン「……」

かすみ「教えて!助けれないの?」

コン「…たす、け、…ようと、思えば…助け…れ、ま…ます…」

かすみ「はぁ!?」

コン「助けれますぅ!!」

かすみ「じゃあ助けようよ!友達なんでしょ?」

コン「……友…達…う、うん!」

蛇燈「おい!いつまで人の子と喋ってるつもりだ!人の子に唆されてまた俺を裏切るのかぁ!」

コン「…っ、お前の住んでた山はもうないよ!」

蛇燈「ない?…俺の、住処…」

更に風が吹き荒れ、雷が鳴る

かすみ「うっ…凄い風…」

コン「ああぁぁぁあ、もう!人の話を、…神様である僕の話を聞けよおぉ!!めんどくさいなぁ!」

蛇燈「っ…!くくっ、…そうだ、そうだな…お前を倒せばこの山は俺の物になるか…そうだ、お前をこの手で殺せばぁ」

コン「神を倒すとかマジ?ふざけた事抜かしてるのはどっちでしょーねぇ!神様に喧嘩売って簡単に勝てるとか舐められてますわぁ!」

コンから鋭い強風が吹き荒れ、蛇燈を吹き飛ばす
かすみ「凄い…大柄な蛇燈さんが…吹っ飛んだ…」

コン「はいっ!雑魚乙!大口叩いといてその程度とかやっぱ妖怪さんですな〜。煽りまくった挙句その程度?雑魚中の雑魚っすわ。つか無理して妖力バンバン使って、死んだら神になる所が仏になるのがオチでは?もっかい卵から戻って来ては如何です〜?フフフッ」

かすみ「…コン君、その煽りいる?」

蛇燈「っ…この、くそ狐めぇ…!」

コン「狐ですけど?稲荷ですけど〜?この下級神様にも勝てないなんて、蛇燈が神になるとか絶対あり得ませんわー。ねぇ?どんな気持ち?どんな気持ち?」

蛇燈「……」

コン「どっかで僕に勝てるって思ってたのに、返り討ちにあって可哀想でちゅね〜」

かすみ「コン君、ちょっと言い過ぎじゃない?」

コン「……はぁ、ここまで言えるのお前位なんだよ」

かすみ「え…」

コン「僕はお前と喋るの…楽しいんだよ。偶に来てくれるの、正直嬉しかった…僕はいつも一人だったから、こんな陰険で臆病者の神様なんて気を使ってくれる奴いなかったもん…こんな性格になっても、話し相手になってくれるのお前だけだったから、嬉しかった…!」

雨が収まっていく

蛇燈「コン…俺は」

コン「蛇燈が僕を利用しようとしてる事なんてどうでも良い…僕は、と、と…友達…って思ってるから…」

蛇燈「……そう、そうか…わかってたんだな」

コン「かすみ殿のおかげだよ…僕だけじゃきっとお前を止められなかった…怖がって、また逃げた…でも、助けたいって気持ちはあったよ…かすみ殿に背中を押して貰ったから…」

かすみ「コン君…」

コン「ありがとう、かすみ殿。蛇燈を助けられたよ…君以外の友達を守れた。この土地を守れた!僕、僕…凄くね?」

かすみ「調子乗り過ぎ!……でも、かっこよかった。ヒーローみたいだったよ!最後の煽り以外は…」

コン「かっ、…か、かか…かっこ、いい…ひぃぃ…初めて言われましたぞそんなこと!」

蛇燈「決まりきらんな…昔はもっと…いや、もう昔は関係ないか…この山が消えようと、移り変わる物には逆えん…」

かすみ「蛇燈さん…そんな事言わないで下さい!蛇燈さんはこの山が好きなんでしょ?何か方法とかないのかな…」

蛇燈「かすみ…」

コン「待って待って。何この山がなくなる前提で話進めちゃってるの?無くならないよ?ねぇ話聞いてた?」

蛇燈「将来的には分からんだろ」

コン「お前がネガティヴになってどーすんの!?……まぁ、時代が時代だもんね…でも、まだ暫くは大丈夫だろ。…信仰心があれば僕がいるから、ね?かすみ殿。君は僕らを信じてくれてるよね?」

かすみ「うん!だってここにはコン君のいる神社があって、コン君の友達である貴方がいる。私もこの場所が大切だし、今更忘れるなんて出来ないよ」

コン「すっげーかっけー事言う〜…かすみ殿も俗界じゃ僕に劣らず陰キャのくせに」

かすみ「話の腰を折らないで!」

コン「ひぃ、すみません」

かすみ「まぁ…そうだね。まずは…私も学校に馴染む所からだけど…お母さんを見習って少しずつでも踏み出さなくちゃ何も始まらないし、変われない…自分の変化は自分で踏み出さなくちゃ変わらない気がするもん…どうなるのかは分からないけど、コン君にお祈りしたから大丈夫な気がする!」

コン「え?は?その場合の責任って僕?もしかしなくても僕?おふざけ申してるのだが?もしこれで悪い方にいったら僕のせいになんの?タピオカで祈られて全責任僕?理不尽の極みなんですけど…」

蛇燈「お前が悪い考えをしてどうする…神への祈りなぞただの願掛けだろ」

コン「元も子もない事言わんといて〜…こんな出鱈目な信仰とかまた上になんて言われるか分からないんですが?…はぁ、まぁかすみ殿一人でも僕を信じてくれる人が居るだけで有り難いんですけどね…蛇燈にも長くこの山に居て欲しいし…」

蛇燈「なんだかんだ、土地を大切にしてるんだな…」

コン「神様なんてそもそも簡単に辞められないですし?今迄見守って来た土地ですし、信仰がなくても必要とされなくなるまで土地を守る…土地神としての務めも楽じゃないだよ」

蛇燈「…そのようだな」

コン「己の身一つ守れん蛇殿は子分も守れませんぞ?何も言わずに出て来たんじゃない?」

かすみ「え?何のこと」

パタパタと足音が聞こえ、子分が現れる
子分「親分ー!探しましたよ!雨が降ってるのにどこにいたんですかー」

蛇燈「……あぁ、あぁそうだな…すまなかった」

かすみ「子分さん、もう雨殆ど降ってませんよ」

子分「あれ?本当だ!でも、親分も皆さんも濡れてますよ」

蛇燈「あぁ、そうだな…そうだな。…帰ろうか。風邪をひいては堪らん…すまなかったなコン…色々助かった…」

コン「謝る位なら、…また来てよ。待ってるからさ」

蛇燈「あぁ、有難う」

子分「親分、一体何があったんですか?」

蛇燈「帰ったら話してやる…。これは俺の黒歴史確定という奴だな…ハハハッ」

蛇燈と子分、去る

コン「はぁ、疲れた…一世紀分の力使ったかも」
かすみ「この土地ってそんな長いの?」

コン「歴史は長いよ…呆れるくらいね。それに僕にとって今日の出来事もかすみ殿といるこの時間も一瞬…でも、きっと忘れる事は無理でしょーな」

かすみ「なんで?」

コン「蛇燈を友達だって言えたし、神様らしい事しちゃったから。今日の僕輝いて気がするぅ!」

かすみ「ほんと、調子良いんだから!…ふふっ、私も嬉しかったよ。コン君に友達って言ってもらえたし」

コン「………ふぁ?」

かすみ「あれ?言ったじゃん、君以外の友達を守れたって…私コン君に友達認定されましたし〜」

コン「ふぇ!?ぼ、ぼぼ僕そんな事言った!?」

かすみ「言った、絶対言った!ここに来てはじめての友達が出来ちゃった!神様だけど」(笑)

コン「あひゃ〜…僕何口走ってんだよ…はっず…」

かすみ「あははは」

コン「……もう、同僚にすら友達なんて居ないのに妖怪と人間が友達とかまたからかわれるんですけど…あぁ、今更か…」

かすみ「雨も上がったし、私も今日は帰るね。またね、コン君」

かすみ、足早にかけていく
鳥居をくぐろうとする直前

コン「…さよなら、かすみ」

かすみ、鳥居をくぐり、振り返る

かすみ「え?コン君、…また、ね?」

不審がりながらかすみ、神社を後にする


①②
かすみ「あの日以来、何度も何度も神社を訪れた。でも、コン君とは会えなかった。会えなくなってしまった…」

かすみの家、リビング

父親「かすみ、線香ってまだあるよね?何処に置いたっけ…?」

かすみ「もうなかったっけ?予備なら物置にあったと思うけど」

父親「ありがと、探してみるよ!…かすみ、今日って休みじゃなかった?出掛けるの?」

かすみ「あ、うん…と、友達と…遊びに行くの」

父親「友達!?学校の?どんな子だい?今度家に呼びなよ!」

かすみ「そ、そこまでじゃないよ!最近仲良くなったばかりなのにハードル高すぎるって」

父親「そうかぁ…かすみに友達なぁ」

かすみ「もう、大袈裟なんだから…」

父親「いや〜この土地での友達なんて…あの男の子以来かな?懐かしいな〜…もしかして、友達ってその子かい?」

かすみ「は?なんの話?学校の女の子だけど…男の子の友達なんていないよ?」

父親「昔だよ昔!かすみがまだ小さい頃、ここら辺に遊びに来て、…そうだ!あの山の神社だ!そこではぐれたかすみを連れて来てくれた男の子!」

かすみ「……え?知らないんだけど…」

父親「えー!?覚えてないのかい?一緒に神社まで行ったけど、雨が降ってきてうっかり僕がかすみを置いて麓まで降りちゃった事あっただろ?」

かすみ「お父さん、当時からかなりうっかりだったんだね…うぅん…あったかな?そんな事…」

父親「変わった子だったよ、犬だか、狐だかの大きな耳をつけた古風な男の子…あぁ、もしかして神様の使いだったのかな…」

かすみ「え……」

回想
子供コン「森の外まで送ってあげる。手を出して」


かすみ「あっ……、あの時のもしかして…」

父親「あ、思い出した?あの子何処の子だったのかな?…また会えるといいねー。お礼もちゃんと言えてなかったし……かすみ?俯いちゃって、どうしたの?」

かすみ「ううん…何でもない…。ごめんお父さん、私もう行くね!」

父親「うん、いってらっしゃい」

かすみ「後、その子にお礼言っとくね!」

父親「え!知ってる子だったの?」

かすみ「うん、多分その子知ってる!いってきます!」

かすみ、家を出る

①③
かすみ「いい天気だな…お父さんと話してたら時間なくなっちゃう所だった!みんなと会う前に早く行こ…お礼も言わなくちゃだしね」

かすみ、神社に向かう
神社内、境内前

かすみ「コン君、いる〜?………出てこないって言うより、やっぱり見えなくなったって事かな…雨も降ってないし…でもコン君って耳良いし、神社内だから聞こえてるよね?」

風に靡く木々の音

かすみ「ありがとうコン君…あの時助けてくれて…というか、思い出しても今のコン君と違いすぎてびっくりなんだけど!誰あれ!…蛇燈さんが言ってたみたいに昔は全然陰険じゃなかったのね〜。あっちの方が私は好きかな〜…なんて………」

沈黙

かすみ「ま、どんなコン君でもコン君だから、私は良いと思うよ。大事な友達だから!……会えないのはちょっと寂しいけど、いつかまた…会えると、いいね…」

お金を賽銭箱に入れる
二礼二拍手

かすみ「また会えますように!」

かすみ、去ろうとする
社の方からコンの声

コン「次来る時は専門店のタピオカでおなしゃーす…」

風の音

かすみ「……ふっ、ふふ…この辺にそういう店あったかな…?」

コン「聞けば?友達に…JK同士っしょ?」

かすみ「…そうだね、そうする!」

コン「じゃあ、待ってるから…またね、かすみ殿」

かすみ「うん。また来るねコン君!」

石階段を降りていくかすみ
足音が遠ざかって行き、風に靡く木々の音が大きくなる


コン「今日は一日中、晴れそうですなぁ」

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