見出し画像

新感覚!解決しないミステリー小説 ロンドの旅Part1ロンドの旅 Chap1ニューヨークの事件

2.日課

朝食は必ずトーストとコーヒーと決まっていた。複数の新聞を一通り読み、同じ時刻に出かけるのが十数年間の朝のルーティンであった。験担ぎでもあり、たとえ体調が悪くても、旅行をしてても、同じ行動をとることにこだわった。これはおそらく、一度決めたことを生涯やり続けた、いまは亡き父の影響だろう。

ワインが大好きで、若いときにソムリエの試験に合格した。その後もワインの勉強を欠かすことはなかった。父親から受け継いだ小さなワイン製造・販売会社の事業からはじまり、多角経営で会社を大きくした。この経営手腕は世界で評価され、最も影響を与える人物にも幾度か選出されるほどであった。

幼少時代は、両親の英才教育で勉強漬けの毎日だった。これが奏功し兄弟全員が高学歴を修め、それぞれに会社経営や弁護士、医師など多方面で活躍している。年に数回はみなで両親の墓参りや旅行へ行くなど、良好な関係を築いていた。

周囲では人柄の良さが有名で、会社経営は順風満帆、子供はいなかったが、夫婦関係も円満で幸せな毎日を送っていた。休日には趣味のワインやコーヒーをはじめ、グルメやジョギングなどを楽しんだ。

ただ、その日はなぜか少しソワソワしていて落ち着きがなかったが、いつものようにハグをして彼を見送った。…それが最後の姿となった。

会社の駐車上で車を降りて執務室へ向かうまでの僅かな隙に背後から射殺され即死した。遺体が見つかったのは同日午前11時ごろ。最後に食べたと見られる前夜の夕食の消化具合、死斑などその他解剖結果から、撃たれたのは10時ごろと見られた。

監視カメラに不信な人物は映っておらず、社内セキュリティに詳しい社員の犯行が疑われたが、特定に至らなかった。現在、有力な容疑者は不在のままである。

当日の彼の行動は、自宅を出たあと通り道の骨董品店でソーサーを購入したことが確認されている。遺留品のビジネスバッグの中に入っており、店主が来店と購入を証明した。特におかしな様子はなかったという。

他には、財布、鍵、ノートパソコン、筆記用具、手帳、新聞、ビジネス書のほか、小さな陶器の破片が見つかったが、当日購入したソーサーに破損は確認されていない。また、金品が盗られた形跡はなく、指紋や足跡など、犯人に繋がる手がかりは確認されなかった。ただし、私用のスマートフォンが見つからなかったため、犯人が持ち去った可能性が高いと見られている。

妻が知る限りでは、仕事でもプライベートでも彼の周辺でトラブルはなく、警察の捜査は難航している模様である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?