夜にしがみついて、朝で溶かしてライナーノーツ

#ことばのおべんきょう

01 料理

アルバム全体を通して料理が一つのテーマとなっている。蕎麦、チョコ、しらすと色んな食べ物がが出てくる、そんなアルバムの始まりに相応しい一曲。
僕は料理をしない。寒くて外に出たくない日が増えた。そんな夜に意を決して料理を聴きながら出来合いの品を買いに行く。「出来合いでも溺愛で焦げても焦がれて」って良い歌詞だな。好きな人が作ってくれた料理を思い出す。胃袋より心が満たされて、味より愛に悦ぶ様な。
横にツマがいてくれるまでやっぱり横にはクリープハイプでしょう。

02 ポリコ

失礼な話かもしれないが「ハイパーポジティブよごれモン」を観ていて「ポリコ」が流れてくるのだけどどうにも細かい部分の歌詞が聴き取れなかった。待望のCDが届き鈍器の様な歌詞カードを読む。「ポリコレ」というキーワードを踏まえて歌詞カードを読んでみるとすごくメッセージ性の強い曲だとやっと気づいた。
アーティストでなくてもこのSNS全盛時代、表現というのは難しい。長い間クリープハイプを追いながらTwitterをしていると、見るに堪えない表現を見かけることもあった。僕も難しいなりに気を付けたい、誰かの心にこびりついた汚れにならない様に。

03 二人の間

この曲がダイアンへの提供曲だと聞いて漫才コンビである二人にぴったりなタイトルだなと思った。今まで散々言葉に拘ってきたであろうクリープハイプが言葉にならない「間」にまでも拘り始めた。これはちょっと手が付けられないなと思う。
僕の大好きな曲に「言わなくても伝わると思ってたよ」があるけれど言わないと伝わらないこともあれば黙っていた方が伝わることもある。
多分「間」で伝えるのって言葉で伝えるより難しい、でも、「間」で伝わる関係ってきっと深いからそうなれたら嬉しい。だからもう黙ってる。クリープハイプと太客の「間」で、そのままで。

07 一生に一度愛してるよ

「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」は多分僕が人生で一番聴いたアルバムだ。クリープハイプはあまりにも好きな曲が多過ぎて一番好きな曲を挙げるのはすごく難しいのだけど、一番好きなアルバムは迷わず「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」を挙げる。そんな僕の心を見透かす様なこの歌詞に見事にやられてしまった。
尾崎世界観はファンとはいつ切られてもおかしくない恋人の様な関係だと思っていると言う。だとすれば初めてクリープハイプのライブを観て好きになってから9年以上が経過した、こんなに長く付き合った恋人はいない。付かず離れずでこれからも。
「コウキ」は「初期」との対比で「後期」ということなのだろうけど「後期」と言うと終盤というか終わりが近い様な気がして心臓がキュッとなる。変わっても変わらず好きだ。変わることより終わることの方がずっとずっと怖い。何か一つ「一生のお願い」が叶うなら祈りたい。どうかクリープハイプが「一生に一度じゃなくて一生続いていく」ように。

09 ナイトオンザプラネット

僕は弾き語りでも刺さる曲が好きだ。弾き語りを聴いてから改めてバンドの音源を聴くともっと奥まで刺さってくる気がする。「ナイトオンザプラネット」はバンドで聴く方が良い曲だと思った。イントロのギターやキーボードの音がちょうど良いうまい空気を醸していたから。
けれど尾崎先生自ら投稿された弾き語りが案の定刺さってしまって、音源を聴き直してやっぱり奥まで刺されて飛んでしまった。
僕は「空は飛べないけどアレは飛べる」の「アレ」って絶対にエッチな意味だと思ってたんだけど尾崎先生曰く「バイト」のことらしい。それでもやっぱり僕はエッチな意味だと思ってる。尾崎先生が「バイト」って言ってるんだから「バイト」だろうという人もいるかもしれないけど、こんなに言葉と愉しそうに遊んで曲作られたら、こっちとしても噛み砕いて味わって飲み込むまで愉しんだって良いじゃないか。

10 しらす

この曲を初めて聴いたのは「尾崎世界観の日」だ。可愛いらしい振り付けと鈴の音が印象的だったのを覚えている。尾崎世界観の歌詞が注目されることが多いけれどカオナシさんの歌詞もまた素晴らしい。
僕が思うにカオナシさんの魅力の一つは少年の心を未だに持ち続けていることだと思っていて、僕はカオナシさんより若いけれど「しらすのお目目は天の川」と思いつける感性を既に失っていて悲しくなる。
偶然だけれど子どもの頃からなぜか食卓にしらすが並ぶことが多く、しらすも「しらす」もかなりの大好物だ。色んな料理が出てくるこのアルバム米つぶ一つぶ残さず完食したい。

14 幽霊失格

実に6年以上一言も呟くことなく、さながら幽霊アカウントと化していた尾崎世界観のTwitterが唐突に稼働したのは2022年9月2日の丑三つ時のことであった。何か心境の変化があったのだろうか。どんなに悲しくても腹が減る様に生きていれば変わっていくのは当たり前のことだ。
この曲の「顔色悪い?」「ちゃんと食べてる?」という何気ない言葉のやり取りが好きだ。実際に言われたかはわからないけど過去に付き合っていた人に言われたのではないかとも思うし、未来の妻に言われるのではないかと期待してしまう。
ふと初めて付き合った人のことを思い出した。その人に体を重ねるよりそんな何気ないやり取りが一番の愛情表現なのだと教えて貰ったのだ。
初めての別れは嘘みたいに悲しくて随分と引きずった。未練と幽霊は確かに似ている。この曲を聴いた人はきっと色んな幽霊を思い出すのではないだろうか?僕の幽霊はもう成仏して消えてしまったけれど自分を成長させてくれた幽霊に今も感謝している。

15 こんなに悲しいのに腹が鳴る

小説は書き出しが命だなんて言うけれど「二度漬け禁止の秘伝のクソッタレ」という如何にもクリープハイプらしい歌い出しに心掴まれてしまった。掴まれてから気づいたんだけど「クリープハイプらしさ」って何だろう?
思えばファーストみたいな曲がクリープハイプらしい曲で、そうあって欲しいという何とも身勝手で幼い願望を抱いてしまっていた気がする。今も昔もクリープハイプが好きなことに変わりは無いのに。
例えるなら子どもの頃田舎の街で勝手に片想いしていたあの娘に久々に再会。あの娘はすっかり垢抜けて綺麗になっていて、それが無性に寂しかったんだけど、喋ってみるとやっぱり大好きなあの娘で安心したみたいな話だ。変わらずにクリープハイプを好きでいて良かったという安堵感と、変わっていくクリープハイプの温度感を心地良く受け入れられた。料理で始まり最後の曲らしいメロディーのこの曲でアルバムは終わる。拘り抜かれた名盤はまるで伏線が散りばめられた一編の文学小説の様だった。読了。









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