『Sing in Sigh』創作ノート① 様々な人が自分らしい一歩を
2月15日(土)から16日(日)に、大阪の天王寺オーバルシアターにて上演される『Sing in Sigh』。
本作は、ドラァグクイーン、歌手、脚本家としてマルチに活躍中のエスムラルダさんと共作で脚本を書いた舞台なのですが、モスクワカヌ個人の振り返りを創作ノートとして書いてみたいと思います。
まず、『Sing in Sigh』のざっくりとしたあらすじは以下のとおり。
耳の聞こえない母が再婚相手を連れてきた!しかし相手は私と10歳しか変わらないチャラ男。お母さん、どうしちゃったの?!
さらに弟はなぜか突然、自分がゲイだとカミングアウト!「僕!ドラァグクイーンになる!」って、あんた何言ってんの…。彼氏は頼りにならないし、私、一体どうしたらいいの?!
我ながら、なかなかのカオスだなと思います。
そもそもの発端は、劇団campさんより「手話をとりいれた芝居を上演したい。そのための脚本を書いて欲しい」「エスムラルダさんとモスクワカヌさんにお願いしたい。それぞれ独立した短篇を書くオムニバスでも、共作でも」という依頼を受けたこと。
私がメンバーをしている劇作家女子会。という団体が主宰し、エスムラルダさんにご出演頂いた『人間の条件』という舞台を、劇団campの方が観てくださったことがきっかけで出来たご縁です。
依頼を受けてからエスムラルダさんと打ち合わせをし、『人間の条件』で散々共作の辛酸を舐めたにも関わらず、打ち合わせが楽しくて「では共作しましょう、そうしましょう♪」という感じで共作が決定。(懲りない私…)
もともと多方面でマルチに活躍されているうえ、昨年「八方不美人」というドラッグクイーンディーヴァユニットでブレイクも果たされたエスムラルダさん。そんなエスムさんの多忙の合間を縫って、まさに文字通り頭を並べての執筆合宿で書き上がったのが『Sing in Sigh』です。
手話、という注文はありましたが、ドラッグクイーンやLGBT、「普通」にこだわる主人公像は、我々2人の打ち合わせから生まれてきた要素。
プロット会議と言いつつ、わりと雑談多めの話し合いのなかで、互いの材料を持ち寄って出来てきたものです。
実はエスムラルダさんと打ち合わせする前、私が一人で考えていたプロットは、コメディ要素のないドシリアスだったんです。私の手癖で脚本がついつい重ためになるきらいがあるのですが、今思えば手話、聾唖といった要素を自分のなかで必要以上に重たく捉えていたこともあると思います。
でも、真面目に書くということと、重たく書く、ということは別物なんですよね。私が最初に考えていたプロットにあった「重たさ」は、私が勝手に聾唖の方々に背負わせようとしていた「重たさ」で、当事者の方々の持ち物でもなければリアルでもないのです。
実際、脚本を書き始めてから、私が頭のなかでこね回していた「聞こえない人々やその世界」のイメージが、非常に貧困であったことに気づかされました。耳が聞こえないということは現状の社会のなかではハンデも多く、聾唖の方は障がい者とカテゴライズされますが、聞こえる人々と同じようにそれぞれ多種多様な生を生きていて、カラフル。当たり前のことなのに、私自身レッテル貼りや雑なカテゴライズを迷惑に思ってきたはずなのに、自分と属性の違う人々のことは容易に「わかったつもり」になってしまう。恥ずかしながら、書き始めてからその間違いの入り口に立った感じです。
その後のエスムラルダさんとの打ち合わせで、今の形になったことが本当に良かったと思うし、自分1人では出てこなかった発想や生かせなかったであろうキャラクターとの出会いは、私にとって新鮮な執筆体験でした。
ちなみに今回は『人間の条件』の時のように深夜のラインで殴り合い、ということもなく、平和な共作。でも劇作家女子会。の時と同様、相手を信じて、自分のなかにあるものを臆せず色々だしていく、提案することが出来たこと。違いを持ち寄ることを面白がれたこと。執筆という作業はもちろん大変ですが、その大変さを含めて楽しんだこと等が、脚本の幅というか世界が広がったんじゃないかと思ってます。
例えるなら、自分の頭でだけ考えていた時は、塩コショウだけで味付けしたスープみたいだったのが、書いているうちに、たくさんの具材が溶け込んで色んな味がするスープに変わっていった感じです。
悪気のない無理解や差別、自分と家族の埋められない違い、今の社会のなかでマイノリティであるということ。自分が自分自身や家族の味方になれないという葛藤。耳の聞こえない母の再婚と、ドラッグクイーンを目指す弟との間で右往左往する「普通」の主人公を通じて、様々な人が、自分らしく生きるための一歩を踏み出す物語になっていると思いますし、誰かのためのそんな物語になれたらいいなと思っています。
16日の千秋楽後は、エスムラルダさんとのアフタートークも決定した本公演。
皆様のご来場を、心よりお待ちしております。
2020年2月15日~16日
劇団Camp
「Sing in Sign」
作:エスムラルダ モスクワカヌ
演出:須名 梓
場所:天王寺オーバルシアター
日時:
2月15日(土)19:00
2月16日(日)13:00
2月16日(日)17:30
※受付開始は上演の30分前です。
情報保障
上映時、台詞に字幕がつきます。(手話部分の台詞には字幕がありません。)
受付にて、台本の貸出を行っております。
チケット:
一 般 :3000円
高校生以下:1500円
障がい者:1500円
介助者(障がい者1名につき1名まで):無料
※車椅子にてご来場の方は、予約フォームの「備考」欄にその旨お書きくださいませ。
ご予約→https://www.quartet-online.net/ticket/gekidancamp
出演:
渥美一稀、井坂日向子、江口智香子、ゴーゴー木村、西田夏樹、山根千尋、吉尾咲穂、西本鮎美
スタッフ:
イラスト:信長アキラ
手話指導:江口智香子
公演詳細→https://stage.corich.jp/stage_main/86178
お問い合わせ:
gekidancamp@gmail.com
応援・サポート、いつもありがとうございます。 気持や生活、いろいろ助かります。 サポートを頂いた方宛てに、御礼に私の推し名言をメッセージ中です。 これからも応援どうぞよろしくお願いします。