創作ノート① 作家のチャレンジ「今すぐ現金、そんな時、(中略)テアトルエス!」
去年の夏頃から取り組んでいた新作「今すぐ現金、そんな時、(中略)テアトルエス!」が、1月23日に下北沢の「劇」小劇場で初日を迎えます。
単独作品では初めての下北沢デビューで、書き終わってから気が付いたのですが、モスクワカヌ劇作史上初の「歌も踊りもない長編」となった作品。書いている間に気が付かなかったんかい、という話ですが、全然気が付きませんでした。自分はそういう人間です、はい。
今年で劇作家デビュー10周年なのですが、10年目にして演劇人憧れの地である下北沢の劇場デビュー、初めての長編ストレートプレイと、特に狙ったわけでもない初めて尽くしの本作。実は作品のスタイルというか書き方も、自分が初めてチャレンジしたやり方で、色々勉強した作品です。
本作を書くにあたって、私が作家として取り組もうと思ったことは「自分が苦手意識をもっていた書き方にチャレンジすること」でした。パッションだけでは書ききれない社会問題を含むディスカッション劇、プロット構成がしっかりしていて起承転結の鮮やかなウェルメイド、それが最初に目指していたスタイルです。
私は普段プロットをほとんど書かず、劇作のモチベーションも自分の内側と外側の社会との葛藤や不和だったりすることが多いので、事実関係の下調べや理屈にそった展開はあまり追及せず、ひたすら己のパッションを具現化する方法で作品を創っています。その自分由来のドロドロとしたエネルギー量が作品の力になったりもするわけですが、その一方で、自分のニンではないと思いつつ、ずっと憧れてもいました。
「12人の日本人」のような応酬の鮮やかなディスカッション劇に!映画「スティング」のような緻密なプロットに!
今回、NASHプロジェクトさんという劇団から依頼を頂いて執筆したのですが、劇団側からは「観た人が元気になって帰れる芝居であること」「ハッピーエンドであること」等、自分がこれまで書いてきたものとは趣が異なるリクエストがあり、それに応えることにプラスして「パッション」や「自分ゴト」という、私のよく使う劇作の武器を封印してどこまで書けるか。
それらを劇作家個人のチャレンジとして設定し取り組み、書き上げたのが今回の作品です。
ただ、作家としては新作毎に「よし、今回はこのハードルを飛ぼう」という設定をわりと作るのですが、そのチャレンジは私個人の宿題であって、依頼を頂いての仕事でお客様にお見せする以上、個人の挑戦が作品のクオリティを下げてしまうことは断じてまかりなりません。
依頼者の注文に応えつつ、作家として書きたいことも書いて自分の宿題をこなしつつ、観劇されたお客様が元気になって帰れるようなパワーのある作品にすること。
創作の過程は上記のような劇作家チャンレジとなり、書き方を変えたことで今までにない困難や混乱もありましたが、結果的にはかなりの善戦が出来のではないか、と思っています。自分の力を惜しまず愛情をもって書き上げることができました。
ただ、すべてのジャッジはご観劇頂いたお客様の目と手に委ねられたもの。舞台の幕が開いた後にどのような感想をもらえるのか、今からドキドキしております。
『今すぐ現金、そんな時。(中略)テアトルエス!』
演出:森さゆ里(文学座)
劇場:下北沢「劇」小劇場
期間:2019年1月23日〜27日
詳細→http://mosukuwakanu.blog122.fc2.com/blog-entry-879.html