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【月間noo】またきて四月【2024.4月】

《月刊noo 2024.4月号 目次》
・ごあいさつ ~はじめに~
・ソ連邦のおもひでエッセイ:『金髪碧眼のセルゲイ①』
・BLOG:滝行、それはレジャーならぬ修行…  
・レポート:劇作家の生前葬〜死後の著作権について〜
・ごあいさつ ~おわりに~

ごあいさつ ~はじめに~

新年度ですね。私はズバリ体調が悪いです。この「体調が悪い」は、春先の私にとっては「本日はお日柄もよく…」くらい定型文な定型文。季節の変わり目、特に冬から春にかけては体調が悪いのがデフォルトです。
そもそも、人間にとって冬から春にかけては一番、体に負担がかかる時期なのだとか。私の知人でお寺を継いでいる方いわく、春先が一番お葬式が多いとのこと。
発達障がいや精神疾患がある人は環境の変化に敏感、つまり環境から影響を受けやすい。そして4月は気圧の乱高下や寒暖差が激しくなりがち、かつ新年度という「何かが新しくはじまりがちな季節」の空気感。
大気からは物理的な圧を、そして大気の感じからは精神的な圧をうけて、桜さくころに息も絶え絶えな人、けして私だけじゃないはず。
なので4月号の始めのごあいさつは、ごあいさつというかエールをおくりたいと思います。
みんなー生きろー!

ソ連邦のおもひでエッセイ:『金髪碧眼のセルゲイ①』

セルゲイは、ライサ(2024年2月号参照)の紹介で我が家にやってきた運転手だ。
モスクワはソ連邦の首都だが日本の田舎なみの車社会で、電車や地下鉄もないわけではないけれど、効率や防犯の観点から、出来るだけ車移動のほうが都合がよい。
2018年に旅行でロシアを訪れた時は、ツアーガイドをしてくれたロシア人ガイドのマリアさんが「現在でも都市部の渋滞は社会問題です」とお話されていた。
ちなみに…これもマリアさん談なのだが、プーチン大統領は毎日自宅からクレムリンに出勤する際、都市部の普通の車両がつかう道路の真ん中を走っている「大統領専用のレーン」を黒塗りの車で出勤するのが慣例で、モスクワ都市部の朝、出勤時間帯の渋滞は、この大統領出勤も理由の一つだったらしい。(そりゃ自分の車のすぐ近くのレーンを黒塗りの車列が走っていたら気を遣うなんてものじゃないでしょう…)なので、プーチン大統領がヘリで出勤することになるとニュースになった時、モスクワ市民はこれで朝の渋滞が少しはマシになる、と喜んでいたが、蓋をあけたら、暗殺防止のために毎朝ヘリを飛ばし黒塗りの車列も走らせる、という改変だったらしく(どちらに大統領がいるかわからないようにするため)、結局渋滞問題は解消されなかったのだとか。
閑話休題。

さて、当時の父は日本大使館職員だったわけだが、大使館でバジィチェリ(運転手)を雇っていたのは大使や公使クラスの方々で、我が家で運転手を雇うのは異例のことだったという。父は反対したが、母は日本とは運転のルールが全く違うソ連邦、そもそもルール無用かもしれないソ連邦で自分で運転する自信がなく、さらに社交のために参加するレセプションではお酒も飲むし(もっとも、当時のソ連邦では飲酒運転など普通にみんなしていたが…そして警官にとめられたとしてもマルボロを渡せば釈放されてたが…)、子供達の送迎で運転が必要なことも多かったので、父を説得して来てもらうことにしたらしい。なので、もしかしたら当時我が家が運転手を雇うことには、なにかしらの反発もあったのかもしれない。
すでにメイドとして我が家に勤めていたライサに「運転手として雇うのに誰かいい人はいないか」と相談したところ「マダム、それならいい人がいる」と紹介されたのが、金髪碧眼のセルゲイだった。
「マダム、セルゲイはお勧めの運転手だ。仕事中に酒を飲まないし、真面目だし、運転もうまいし、そして何より、無口だ!」
というのがライサの推薦の言葉である。
そう、ロシア人は、普通にしててもむっつり不機嫌顔に見える人が多いけど、総じて陽気でお喋りの人が多い。酒飲みが多いせいもあるかもしれない。それにしても、仕事中に酒を飲まないことよりも、余計なことをペラペラしゃべらないほうがライサ的には加点対象だったというのが今思うとおかしい。ともあれ、母もお喋りな男は苦手だったのでライサの推薦が気に入り、セルゲイと会って正式に雇うことになり、晴れて我が家には運転手がいることになった。
セルゲイは、当時小学生だった私からみても美男子だった。ちょっとくすんだ金髪に青い瞳、身ぎれいで長身。さらに優れていたのは容姿だけではなかった。ライサの推薦のとおりに仕事中に酒を飲まず、無口で、でも愛想が悪すぎたり怖い印象を与えるわけではなく母へのあたりも丁寧。なんと時間に正確で遅刻したこともなく、買い物にでれば駐車場の一番よい場所にさっと車をとめ、買い物を終えて店から出てくると、すぐ前に車をまわして待ってくれているし、運転中はいつも冷静にハンドルを握り、マナーの悪い他の車に怒ったりしたこともないという、いま流行りのガチャでいうならSSR、星5の超優良人材だった。
そしてセルゲイは、ライサと同じく日本語はわからなかった。いや正しくは「わからない、ということになっていた」。このことについてはまた日をあらためて書きたい、と思う。
母は、なにかと不自由や心配事も多かった日々のなかで、ライサやセルゲイのような信頼できる人たちが我が家にきてモスクワでの生活を支えてくれたことを、今でも本当に運がよく幸せなことだったと言っている。


BLOG:滝行、これはレジャーならぬ修行…!

先日、滝行に行く機会がありました。
ええ、滝行です。滝にうたれるやつです。
「なぜ?」と思われるかもしれませんが、数年前に友達が体験したという話を聞いて、ずっと興味があった滝行。でも一人じゃなかなか行きづらいですし、かといって「滝行いこ!」と誘ってもノッてくれる友人は少なく…。昨年、思いがけずそんな滝行に「暖かくなったら行きませんか?」とお誘い頂いたのですが、春もたけなわとなった先日、その日都合のつく何名かと一緒に、夕日の滝という場所で行われている滝行体験に参加してきました。

その日はお天気もよく、夕日の滝周辺は空気も澄んでいて、ものすごくレジャー気分だった私。駅で集合し、滝行体験を主宰している方々に車で迎えに来ていただいて、いざ夕日の滝のある山中へと向かいます。
「肩をねらって滝にうたせたら、肩こりとかなおりますかね?」という私。
「いや、どうですかね…」と含み笑うガイドさん。
うららかな春の日。
水着の上から胴着に着替えて、同行の皆と写真や動画を撮りまくります。
「空気がキレイ~!空が青い~!」
体験者は全部で10数名と、けっこう大人数。なんでも芸能人や有名なユーチューバーも打たれにきている、そこそこメジャーな滝行スポットなのだとか。
ガイドの方が吹くホラ貝のブォ~という音色に誘われ、いざ夕日の滝へ。滝自体はそんなに山奥にはなく、着替え場所から歩いて5分くらいのところだったのですが…。

夕日の滝

夕日の滝。
デカくね?
「滝、でかくない?」
「ヤヴァイ、もっと小さいのだと思ってた」
「これはしっかり滝ですねぇ…」
ざわめく一同。
自分、この写真の滝の半分くらいの高さをイメージしておりました。ですが夕日の滝、思ったよりもしっかりと滝。
ビビる私と同行の人々。
「マンションの7階のベランダから水が落ちてくる、と考えてもらえたら」と、にこやかに説明するガイドさん。ちなみに「今日は水量が少ないですね~」とも言っていたが、滝、めっちゃドドドドドッていってるんですが。ジョジョの擬音くらいの迫力なんですが。
「肩こりとかなおりますかね?」と、行きの車のなかで無邪気に話してた数十分前の私よ。これ肩こりどころじゃない。性根まで叩き直されそうな勢いの滝や…。
ですが、まだこの時点の私たちは、ビビりつつもテンションをあげる余裕がありました。そう、私たちはまだ知らなかったのです。
眺める滝<<<<<<(越えられない壁)<<<<<<打たれる滝
私たちの冒険はこれからだということを…!

夕日の滝の前に到着しても、すぐに滝にはいるわけではありません。
まずは安全な滝行を祈って、滝近くの社にお参りをします。
ガイドさんから拍子木を配られて、「表には願い事、裏には反省することや改めたいことを書いてください」と言われた私たち。願い事は人に言わないほうがいいと言われているので、反省の部分だけを見せ合います。ちなみに私は「思い出し怒りと暴飲暴食をやめたい」と書きました。
願い事を書き終わったら、お経を唱えるガイドさんの案内で、社に線香をあげ、火のなかに拍子木を投げ込みます。2列になって粛々とお参りをする参加者たち。
さらに、塩を体中にふって身を清め、清酒を手の盃でうけ、準備運動で声をだし、締めに四方にむかって指で印をきって結界を結ぶ…までが、滝にはいる前の作法です。滝に入る前に、滝にお辞儀をして「よろしくお願いします!」と挨拶もします。
昔から修行として行われていたこともあり、この行事が単なるイベントではなく、信仰心や精神性を大切にしている行事であることが伝わってきます。
ルンルンなレジャー気分もいい感じに引き締まり、滝つぼでふんばるための竹の杖も渡されて、いざ、滝行へ。
「今日は暖かいですし、そんなに水も冷たくないですよ」とガイドさん。
外は暖かいので、完全に油断してジャブッと滝つぼにはいります。
「…冷たい!」
一瞬でレジャー気分が吹き飛ぶ私。滝壺、冷たいです。それに底が岩でゴツゴツしてるのに滑って、めちゃ動きづらい。

水、冷たい

滝に打たれる前に、水に慣れるために肩まで20秒水につかるのですが…
「はいっ!では皆さん、しっかり肩まで使ってください!いきますよぉーっ!!」
ガイドさんの掛け声で水につかるのも、想像よりツラい…冷たい…ちょっとズルして肩より下までしかつかれないくらい冷たい。
この時点で、約10名の参加者全員がわりと阿鼻叫喚。プチパニックからのトランス状態。
「うおおおお!冷たい!」
「うわー!」
「思ったよりヤバいぃぃい!」
と叫びながら20秒。
いよいよ滝へ向かいます。

滝に打たれる時は、ガイドさんの案内にしたがい2列に並びます。
まずは滝の前に1列に並ばされ、ガイドさんの声で後ずさりして滝の下にはいるのです。打たれる時間は、まずは1分30秒。
迎えの車のなかで聞いた時は
「けっこう短いんだなー」
なんて思っていましたが…。

「はい!滝では鼻呼吸しないでください!かけ声出して!かけ声出して息吸って!」

滝の下にはいって0.1秒で気づきました。

これレジャーじゃない!修行だ!

水が重い!痛い!冷たい!
自然の滝なので勢いにムラはありつつ、脳天をタコ殴りされてるような衝撃!
目とか開けていられませんし、開けてもなんも見えませんし、正直滝の下に入ったらもうガイドさんの声も聞こえません。私の場合は早々にかけ声もでなくなりました。
ドドドドドッという滝の勢いにあわせてひたすらイタタタッとなってるだけです。
それでも、私の両隣にいた同行の皆様のかけ声はバッチリ聞こえてたので、さすが俳優の方は鍛えてるなぁ…!と、頭の片隅で思ったのも束の間。
正直だんだん意識がフワッとしてきて、後半一瞬「無」になってました。
ガイドさんも、お隣も、自分さえいなくなる、というか考えたり意識することのない、一瞬「悟りかな?」と思えるような空白。
でも違います。
単純に、頭をタコ殴りされながら何かを考えるなんて無理!!!ってだけです。

滝行って…わりと精神統一とかそういう修行のイメージがあると思うんですけれど…精神統一って精神じゃない!物理だコレェ!水に殴られて「無」になるやつぅ!

ツラさが限界突破して笑うしかなくなってる私

永遠にも感じた1分半。
ようやく滝から解放された私の心境はまんま明日のジョー。
燃え尽きたぜ…真っ白にな…。

ですが「やりたい人は自分の体調と相談して2回目もどうぞ!」というガイドさんの声掛けで、2回目も打たれてまいりました。
なんていうか、辛いもあるラインを超えると愉快に変わるというか、体も後半はなんだかあったかく感じられるというか。

「あ、それは寒さに生命の危機を感じた体が自動的に体温を維持しようとするからですね」

とガイドさん。
なるほど…しかしそれって滝行が生命の危機を感じさせるものってことですよね…。
でも、滝に打たれたあと、なんだか一皮剥かれたような、心も体も晴れ晴れとして、めちゃくちゃ爽快だったのは確かです。
同行者の皆様も、なんだかスッキリした佇まい。

滝に打たれるまえ。
滝に打たれたあと。

劇的ビフォーアフター!
というほど見た目は変わってなさそうですが、運気とか意識とかは変化があるのかも…?
ちなみに煩悩とかは全然残ってて、滝行のあとすぐ
「寒いー!!お腹すいたー!!」とか皆で言ってました。
着替えの場所にテントサウナがあってよかった…!

ガイドさんは「冬の滝行もぜひ!」とお誘いしてくれましたが、春の滝行でもかなーり寒く感じるので、冬は本当に覚悟キマッた本気の方でないと…大変そう…。写真を見せてもらいましたが、滝壷にツララとか生えてたし。
でもいつか冬の滝にうたれるようなことがあれば、何かこう本物の目覚めとか悟りに近づけそうです。知らんけど。

滝行の後は山の中の温泉施設まで車で送ってもらい、そこでゆっくり温まってご飯も食べた後に、バスで駅まで。
無事に全員で滝行というレジャーならぬ修行を乗り越えて下山しました。

修行の成果はまだ未知数ですが、ひとつ確実に言えるのは、とっても楽しかったこと。
久々に大きな掛け声をだしたり、山の中で深呼吸したり、しんどすぎて笑ったりしました。1人じゃなかなか行かない滝行なので、お誘いしてくれた方と同行の皆に感謝です。
皆様、ありがとうございました!

滝と自撮りを試みる。
やりきった感

レポート:劇作家の生前葬〜死後の著作権について〜

4月13日、渋谷ヒカリエで開催のDeathフェスイベントにて企画しました『劇作家の生前葬~死後の作品の著作権について~』は、おかげさまで盛会のうちに終えることができました。
(イベントの詳細はこちらからご覧いだけます)

当日は、棺デザイナーの布施美佳子さん(https://www.instagram.com/mikera1973/)がデザインされた、素敵な棺もお借りすることが出来ました。葬られる役の私、自分の好きなブルー系の棺にテンションあがることしきり。出演者の田実さんにも「ワカヌさんカラーで、運命ですね!」イベント中は実際に棺のなかに入ったりもしたのですが…もともと狭いところが落ち着く私、棺のなか、安心感というか包まれている感があって、とても快適でした…。自作のリーディングの間は棺のなかにずっと横たわって目を閉じていたのですが、そのままリーディングを聴くという体験がなかなかオツで、ちょっと不思議だけれどクセになりそうな感覚でした。

イベントは劇作家の生前葬を通じて、死後の著作権について考える時間をもつという企画でしたが、せっかくなので、進行も実際の生前葬によせていこうと、チケットをお香典という名称にしたり、当日パンフレットを会葬礼状にしたり、式場で流れそうなメモリアルムービーを黒川陽子ちゃんに作ってもらったり、色々遊ばせていただきました。
当日は、リーディングにも出演してくれた中谷弥生さんの司会進行で開幕の宣言があり、その後に喪主(生前葬のため葬られる私が喪主にあたるよう)のモスクワカヌからのご挨拶、メモリアルムービーの上映、リーディングからの座談会と、しめやかにというよりは和やかに進行していった生前葬。

中谷弥生さんの安心と信頼の司会進行。
田実陽子さんと、サラリーマン村松さん、中谷弥生さん、坂本鈴による短編『高橋さんの普通の日』の初リーディング。
黒澤世莉さんをゲストにお迎えしての、著作権についての座談会。
座談会中には、私が参列者のお一人に著作権をその場で譲渡しようとして、世莉さんに「譲渡は(法的に)難しいかも…」とマジレスされる展開も。自分の作品を死後も長く上演してもらうためには、やはり遺言書の作成が大切みたいです。つくるか…遺言状…。

ご来場の皆さまも生前葬に参列するのは初めてだったかと思いますが、主催の側も生前葬をするのは初めて。色々至らない点はありつつ、無事に閉会のご挨拶をすることができました。
楽しく、かつ学びのある時間になっておりましたらよいな。

閉会のご挨拶でも述べましたが、生前葬と銘打ちながら、先月40歳の誕生日を迎えたこともあり、なんだかバースデーをお祝いしてもらったような時間でした。
Deathフェス関係者の皆さま、お力添えを頂いた皆様、ご参列の皆さま。
ご参列、あらためて誠にありがとうございました!

ごあいさつ ~おわりに~

生前葬に滝行に、年度始めもあって「区切りをつける」「禊をする」的なイベントが多かった今月。季節の変わり目の気圧の乱高下や寒暖差にふりまわされつつも、楽しかったり嬉しかったりありがたかったりする時間も多く過ごせました。春先はいつもデンジャー。ていうか1年365日いつもデンジャーですが、来月も5月病に負けずサバイヴしていきたいと思います。
皆さまもよい初夏をお迎えください。

2024の桜
ピンクと水色
期間限定パンケーキ
生前葬ビジュアル 没案



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