教えて! カーステン先生 ピッチスペルを運用するために必要なスペルの枚数


・訳者前書

 この記事はチャネルファイヤーボール(CFB)より、フランクカーステン先生の"How Many Blue Cards Do You Need for Force of Negation?"の翻訳です。カーステン先生に感謝しつつチャネルで買い物しましょう。


・はじめに

 古くからのプレイヤーであれば、アライアンスのピッチスペル・サイクルのことをご記憶でしょう。


 そしてモダンホライゾンでは、低コストになった代わりにピッチコストで唱えられるのは相手のターンのみ、という調整が加えられた新たなピッチスペルのサイクルが登場しました。


 これらのカードはデッキ構築の際、一つの命題をビルダーに突きつけます。"このカードを安定してピッチコストで唱えるためには何枚の当該色の呪文が必要なのか?"ということです。

・前提条件と方法論

 計算する前に、いくつかの前提をたてておく必要があります。
まず、

1.対戦相手の2ターン目に、forceをピッチで唱えることが求められている状況である。

 なぜ2ターン目なのかと言えば、御霊の復讐や新生化が(多くの場合)唱えられるターンであり、また親和やホロウワンが一気に展開してくるターンでもあるからです。

2.マリガンなし、ドロースペルなし、ハンデスなし。

 計算を複雑にしすぎないための処置です。これらを考慮し始めると、データを処理しきれなくなります。
 この条件下では先手であれ後手であれ、対戦相手の2ターン目を迎える際に自分は8枚のカードを見ていることになりますね。

 つまり、今回計算するのは、「否定の力を採用した60枚デッキにおいて、自分のデッキトップ8枚に否定の力がある状態で他に青いカードが最低1枚含まれている確率」であるわけです。ベースラインを導き出すためには、このくらい単純な計算のほうが良さそうです。

結果を見る前に、注意点を2つ。

・今回は、最低でも1枚は否定の力を引けている状態のみを考慮します(つまり、そもそも否定の力を引けるかどうかは確率計算に影響しないということ)。

 1枚は否定の力を引いている状態で、"他に"青いカードがあるかどうか、の確率を計算するわけですね。

・ただし、否定の力自体を別の否定の力のピッチコストにすることはできるので、採用枚数が増えると確率は上昇する。

 これを念頭に置いて、forceをF、ピッチコストになるカードをP、ピッチコストにできないカードをCと呼称しましょう。そうするとデッキトップ8枚の並びはFPCCCFPPのように表記できますね。60枚デッキで考えうる、最低でも1枚のFを含む8枚の並びのパターンのうち、最低でも1枚のP、あるいは2枚のFが含まれる確率はどうなるでしょうか。(訳注──原文ではここにカーステン先生が使用したコードと計算機へのリンクがあります。ご興味のある方はどうぞ)

・計算結果

 この表では、"Success Rate"が「相手の第2ターンに否定の力とピッチコストになる青いカードを握れている確率」を示します。
 たとえば、2枚の否定の力と14枚の他の青いスペルが含まれる60枚デッキにおいては、2ターン目に否定の力をピッチできる確率は89.1%となるわけです。4枚の否定の力と14枚の青スペルであれば、90.5%となります(否定の力そのものをピッチコストにできるので確率が上がります)。

 もちろん、たとえば活性の力と緑のスペル、と読み替えても計算結果は全く変わりません。

 今回は対戦相手の2ターン目に絞って計算しましたが、少し余談をしますと4枚の否定の力と14枚の青スペルのケースでは相手の1ターン目にピッチできる確率は86.4%、3ターン目では93.4%です。

・では、望ましい確率とは?

 否定の力が最も輝くマッチアップ(たとえば、御霊の復讐デッキや新生化デッキ)では、このカードをより早くピッチできる態勢を整えることが求められます。それ以外の状況なら、呪文貫きのような他の選択肢を取ったほうがいいこともあるでしょう。この視点に立てば、相手の2ターン目に否定の力をピッチできる確率は90%をクリアしておいてほしい、というのが個人的な意見です。

 上記の表では、2枚の否定の力+15枚の青いスペル、もしくは4枚の否定の力+14枚の青いスペル、が90%をクリアする最低ラインとなっています。これらは記憶にとどめておくと良いでしょう。もちろん、確率は上げておくに越したことはありませんが。

・MO5-0デッキリストとともに

 MOでの実装から1週間が経ち、モダンホライゾンのピッチスペルサイクルはすべてが5-0リストに顔を出しています。
 それぞれについて1つずつ、リストを引用してみましょう。


ソウルシスターズwith美徳の力 MOモダンリーグ5-0 6月12日

16 平地
2 廃墟の地
3 風立ての高地

4 アジャニの群れ仲間
3 砂の殉教者
4 イーオスのレインジャー
4 セラの高位僧
4 戦隊の鷹
4 魂の管理人
3 魂の従者

2 再誕の宣言
3 流刑への道
4 幽体の行列
4 美徳の力

サイドボード

4 減衰球
4 安らかなる眠り
2 解呪
2 墓掘りの檻
1 漸増爆弾
2 石のような静寂

 私は白エルドラージに美徳の力が入るのではないかと考えていましたが、ソウルシスターズはそれ以上にぴったりなデッキのようです。
 このデッキは1マナクリーチャーやトークンで盤面を埋め尽くすのが基本戦略であるのみならず、ピッチでのハンド損失をイーオスのレインジャーや戦隊の鷹で簡単に取り返せます。結果として、"タダで"クロックを増やすことのできる美徳の力がかなり強く使われており、また土地以外の39枚が全て白いこのデッキでは、色が合わずにピッチできないということもありえません。


青単マーフォークwith否定の力 MOモダンリーグ5-0 6月14日

1 魂の洞窟
14 島
4 変わり谷
1 雲の宮殿、朧宮

4 呪い捕らえ
4 アトランティスの王
4 真珠三叉矛の達人
1 潮流の先駆
4 マーフォークのペテン師
4 銀エラの達人
3 メロウの騎兵
2 霧の呼び手

4 否定の力
4 霊気の薬瓶
4 広がりゆく海
2 蒸気の絡みつき

サイドボード
4 儀礼的拒否
4 墓掘りの檻
3 波使い
2 剥奪
1 ファイレクシアの破棄者
1 貪欲な罠

 否定の力は力サイクルのトップランナーと言えます。すでに、青白コントロールがタップアウトの隙をなくすために採用しているところを多くみかけます。また、ヴァニファールコンボやサヒーリコンボ、青赤スペルや青白スピリットなどについても同様です。

 しかしそれら以上に、このカードはマーフォークに最適な1枚と言えるでしょう。銀エラの達人のおかげでピッチスペルのアドバンテージ損失も補えないほどではありませんし、なにより返しのカーンや神の怒りや風景の変容に怯えることなくロードを戦場に出せるというのは、ゲームプランにとてもフィットしています。もちろん、青単デッキであるマーフォークは99.9%の確率で、2ターン目に否定の力をピッチすることができます。

マルドゥ・パイロマンサーwith絶望の力 MOモダンリーグ5-0 6月12日

4 黒割れの崖
2 血の墓所
4 血染めのぬかるみ
2 湿地の干潟
3 山
2 聖なる鋳造所
2 沼
1 樹木茂る山麓

4 騒乱の歓楽者
4 若き紅蓮術士
3 歴戦の紅蓮術士

2 集団的蛮行
2 戦慄掘り
4 信仰無き物あさり
4 コジレックの審問
4 未練ある魂
3 思考囲い
3 致命的な一押し
1 絶望の力
2 コラガンの命令
4 稲妻

サイドボード
1 夢を引き裂く者、アショク
2 血染めの月
1 罠の橋
1 配分の領事、カンバール
2 ケイヤの手管
2 虚空の力線
1 ヴェールのリリアナ
1 先駆ける者、ナヒリ
2 外科的摘出
2 摩耗/損耗

 絶望の力はどこかカウンタースペルに似た効果を持っていますが、親和やホロウワンといった同じターンに大量に展開するデッキに対して真価を発揮します。純粋なコントロールデッキであれば滅びを優先するべきでしょうが、マルドゥパイロマンサーや氷雪スゥルタイのようなクリーチャーベースのミッドレンジであれば絶望の力は良いチョイスでしょう。マルドゥパイロマンサーに限って言えば、タダで騒乱の歓楽者のエサになる点でも絶望の力は優れています。歓楽者で再充填できるのであれば、ピッチコストも重荷とはならないでしょうしね。

 確率の話をすれば、このデッキの絶望の力はメインに1枚のみで、他に黒いスペルは16枚含まれています。この場合、相手の2ターン目に絶望の力を(ドローしていれば)ピッチできる確率は92%となります。それはいいのですが、この計算があくまで「自分が1ターン目にハンデスも除去もプレイしていない」前提に依るものであることにはご注意を。このデッキではそういうシチュエーションはあまり多くないはずですから、2ターン目に絶望の力をピッチできる確率は見た目よりも低くなるでしょうね。

バーンwith憤怒の力 MOモダンリーグ5-0 6月15日

4 乾燥台地
2 血染めのぬかるみ
3 山
2 聖なる鋳造所
1 踏み鳴らされる地
4 灼陽大峡谷
3 樹木茂る山麓

4 ゴブリンの先達
4 大歓楽の幻霊
4 僧院の速槍
1 渋面の溶岩使い

4 溶岩の撃ち込み
4 裂け目の稲妻
4 ボロスの魔除け
4 憤怒の力
4 稲妻
4 稲妻のらせん
4 焼尽の猛火

サイドボード
4 燃え殻蔦
2 罠の橋
3 流刑への道
2 貪欲な罠
2 安らかなる眠り
2 トーモッドの墓所

 もしも憤怒の力が"あなたの次の終了ステップの開始時にトークンを生贄に捧げる"と謳っていれば、このカードは超強力でした。なにしろその場合、ピッチで6点のダメージを叩き出せるのですから。悲しいかな、そうは問屋が卸さず、トークンで殴りたければ3マナを払うしかないこのカードは、性質としてはボール・ライトニングに似ていますね。3マナで6点というのはバーンにとって悪くないのですが、ボール・ライトニングはまずプレイされません──ピン除去や先制攻撃に弱すぎるのです。しかし、憤怒の力はトークンを2つ生成します。これが採用に値するアップグレードとみなされたようです。

 基本はマナコストを支払ってプレイするとはいえ、相手のターンにプレイするというオプションももちろん有用です。たとえば、クリーチャーデッキ同士の殴り合いでブロッカーを立てたり、あるいは原始のタイタンを討ち取ったり、など。また、相手が墓地に落とした黄泉からの橋をトークンの死亡で追放させる、なんていうシークレットテクもあります。こういった細かなオプションが、興味深い1枚のカードにまとまっているのです。

アミュレットタイタンwith活性の力 MOモダンリーグ5-0 6月14日

1 ボジューカの沼
1 ボロスの駐屯地
1 魂の洞窟
1 崩壊する痕跡
4 宝石鉱山
1 幽霊街
1 グルールの芝地
1 カルニの庭
1 光輝の泉
4 セレズニアの聖域
4 シミックの成長室
1 処刑者の要塞
3 冠雪の森
1 軍の要塞、サンホーム
1 ヴェズーヴァ
3 トレイリア西武

4 樹上の草食獣
4 迷える探求者、梓
4 原始のタイタン
2 粗石の魔道士
2 シルヴォクの開拓者
1 歩行バリスタ
1 女王スズメバチ

4 古きものの活性
4 召喚士の契約
4 精力の護符
1 仕組まれた爆薬

サイドボード
1 魂の洞窟
1 アカデミーの廃墟
4 活性の力
1 墓掘りの檻
1 強情なベイロス
1 ラムナプの採掘者
1 再利用の賢者
1 自由なる者、ルーリク・サー
1 呪文貫き
1 不屈の追跡者
1 トーモッドの墓所
1 太陽と月の輪

 活性の力は血染めの月への完璧な回答です。アミュレットタイタンにとって、連合の秘宝やカーン、否認のようなカードに頼らずとも月に対処できるようになったというのは大きいでしょう。メインボードに搭載された19枚の緑色のカードが、2ターン目には96.4%、3ターン目には97.9%の確率で活性の力をピッチさせてくれます。

 アミュレットタイタンのみならず、感染のサイドボードにも活性の力は採用されています。おそらくは虚空の杯への対策としてでしょう。ああ、それと親和使いたちがみなこのカードを憎んでいることもお伝えしておきましょうか(※訳注 カーステン先生は親和の愛好家として有名)。石のような静寂よりは遥かにマシとは言え、0マナで2倍古えの遺恨が飛んでくるというのはやはりアンフェアです。

 最後に、創造者カーン+マイコシンスの格子コンボに対して活性の力が無力であることを記しておきます。マイコシンスの格子が着地した時点で、手札のカードはすべて無色になってしまいますからね。

・結論

・対戦相手の第2ターン目に少なくとも90%の確率で否定の力をピッチするためには、最低でも2枚の否定の力と15枚の他の青い呪文が必要である。

 全体として、"力"サイクルはモダンに待ち望まれてきた安全弁であり、モダンホライゾンはモダンというフォーマットを多方面から揺り動かしたといえるでしょう。7月6,7日に催されるRedBullUntappedはロンドンマリガン正式採用後初のモダントーナメントですが、そこでどんな新たなデッキや構築が登場するかとても楽しみです──そして、"力"サイクルがトップ8のリストに見かけられても、驚きの結果とはならないでしょうね。



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