明日を夢見て散らかさないで

マンホールの人はマンホールの下に住んでいる人ではない。
マンホールの人はマンホールが好きな人だ。
マンホールの蓋に彫られた模様を写真に収める。
マンホールの人はコインランドリーにいる。
風俗にいる。
Instagramにいる。
窓の外を見る。
レジに並ぶ。
マンホールの人はマンホールのこと以外、あまり考えていなかった。

マンホールの人を好きではない人もいる。
マンホールの人が写真を撮り出したら、トランポリンで跳ねるしかない。
みんな見てる。マンホールの人も見てる。
その人は自分がトランポリンを好きなことに気づいた。
このトランポリンの人は、空港にいる。
風俗にいる。
プラネタリウムを見る。
気球にのる。
惣菜コーナーにいる。
テレビを見る。
トランポリンの人は考えることがころころ変わって、もちろんマンホールの人のことも考えていた。

トランポリンの人を好きではない人もいる。
トランポリンの人が跳びはじめたとしても、逃げる場所なんてない。
目を背けて、耳を塞いだ。
その人はこんなに人生がハードだったとはと驚いた。
この逃げる場所なんてない人は居酒屋にいる。
電車に乗る。
夢を思い出せない。
惣菜コーナーにいる。
気球にのる。
逃げる場所なんてない人は逃げる場所を探し続けるか、トランポリンの人と交渉するか迫られていた。

そんな折、マンホールの人がマンホールの蓋を開けっぱなしにしたせいでたくさんの人が穴の中に落ちた。危ないので天空で生活するようになった人々は、マンホールの人が蓋を閉め終わるのを待っていたが、それより先に落ちた人を探した方がいいのではという意見があった。議論があって、それから天空から地上へパラシュートで降りていった。

500年が経っていたので、すでにマンホールの穴に落ちた人々の実情はわからなくなっていた。マンホールの人はまだ蓋を閉め終わっていなかった。

天空の人々が着陸してパラシュートをまとめていると、彼らを待ち構えていたようにマンホールの穴から人がぞろぞろと怪訝そうに出てきた。枯れた葉をまとった地下の人々は槍を持っていた。残念なことに、天空の人々は銃を持っていた。

銃を捨てろ、槍を捨てろ、いや銃はその距離でも怖いからやめろ、槍持ってたら握手できないだろ、槍置いてもいいよあんま意味ないから、でもこれが意思表示なら銃捨てる方がさきじゃないか。
これが大体300年続いた。銃を置いて蹴ったので、槍を置いて握手した。
マンホールの人は年老いて穴を閉め終わることなく死んだ。


ところで800年前、トランポリンの人はナナチキとファミチキとLチキをカロリー順に並べたらどの順番になるのか気になっていた。トランポリンを跳んでいたので調べることはせずそのまま人生を終えたが、なぜそんなことが気になったかというと、その三つが世界三大フライドチキンだったからである。

スマートフォンというもので簡単に調べることができたが、ダラダラと過ごすうちに先述の通り地上は穴だらけになってしまい、トランポリンの人は特大トランポリンを与えられ天空都市の建設に従事した。
朝に大きく跳ねて働き、昼に少し低く跳ねて働き、夜に眠そうに戻ってきた。

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