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敦賀だより13 光るコースター

せっかく自然が多いところに住んでいるのだから、ここでしか見られないものを見ようと思った。
梅雨の時期である。
蛍が飛ぶ季節だ。
見たい。
もしかすると乱舞が見られるかも。

首都圏にいた頃は、とっておきのマル秘スポットだと思って見に行っても、実際にはたくさんの人が口コミで押し寄せ、どう見ても蛍より人間の方が多い蛍狩りだった。
こちらはどうだろう。
ネットで調べて、蛍がいそうなところをピックアップする。
なるほど。なるほど。だいたいどの川でも上流域には蛍が生息していそうだ。

家からバイクで10分程度の湿原が蛍スポットだと書いてあった。
「熊が出るので一人で行くのはやめましょう。熊鈴を携行し、複数で行きましょう」
但し書きがついている。
熊鈴はあるが、一緒に言ってくれそうな友達に心当たりがない。
仕方ないので一人で熊鈴を二個ぶら下げていくことにした。

湿原には入り口が三か所ある。①山のてっぺんまで登ってから下っていくルート。②比較的民家に近い駐車場から入るルート。③まったく人けのない細い道を延々すすんで到達するルート。
①は論外、③は場所を知らないので、必然的に②だと思って出かけた。
が、この駐車場が午後5時に閉鎖される駐車場だった。
私の移動はバイクなので止める場所には困らないが、ルートは駐車場の奥にある。
フェンスを乗り越えるのもなーと思い、しかたなく③に向かうことにした。

敦賀の道路は市街地を少し外れると途端に街灯が無くなる。
見事に真っ暗だ。
バイクのライトだけを頼りに細い山道を進む。
顔面に小さな虫が大量にぶつかってくる。
熊よりももっと恐ろしいものが出て来そうである。

左手に沢、右手に緑の濃い森。
その中を5分ほど進むと視界が開けた。
湿原だ。
手前にバイクを止めて明かりを消すと、本当の闇が広がった。

蛍を探して、一人細い道を歩く。

遠くに二匹飛んでいる。
近づきたいが、足元の草むらの下がどうなっているのかわからない。
何しろ湿原なので、気を付けないとそのままずぶずぶ埋まってしまい、翌日まで発見してもらえないことだってあるだろう。
諦めて道に沿って進むと、木の影に5匹ほどの蛍が舞っていた。

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撮影に成功したのはこの一枚のみ。
人魂みたいだ。
真っ暗な中、こっちにこいと誘うように離れていく蛍を追いかけて歩いていると小さなトンネルが現れた。
ホラー映画だと進んだら絶対恐ろしいことが起きるから、やめて帰るが吉なポイントだ。

当然踵を返して戻る。

この間、一人の人間にも会わない。
聞こえるのはカエルの声だけ。
あの人間でごった返していた蛍狩りが懐かしい。

バイクを止めたところに戻り、ヘルメットをかぶってさっさと戻ることにする。
来た道を戻ると、暗闇に慣れた目が沢沿いに小さな青緑色の点滅を見つけた。
「ここにもいたんだ」
バイクを止めて明かりを消す。じっと見ていると点滅しながら飛んでいる一匹以外にも、足元で光っている集団が見えてきた。
「なんだろう?」
暗くて良く見えない上に、足元は急傾斜で沢に落ちている。
死にかけている蛍たちが、ここに集まって最後の力を振り絞っているのだろうか。

いやちがう。
高校の生物の授業を思い出した。
蛍は卵、幼虫、さなぎ、成虫とどのステージでも光るのだ。
成虫に比べると光は弱いので目立たないが、これだけ真っ暗ならよく見ればわかる。
土手に集まっていたのは、動かないところを見るとどうやらさなぎらしい。
もうじき成虫になって飛び回る。
蛍狩りには少々早すぎたようだ。

よく見ると光は数匹という単位ではなかった。
クリスマスのイルミネーションのように、土手を埋めている。
が、光のじゅうたんというほどの広範囲みっちりではなく、光のコースタークラスの塊が点々とあちこちにある感じだ。
スマホで撮影できないだろうかと試みたが、明かりが弱すぎて無理だった。
一眼レフで開放、手持ち露光4秒でとってみたのがこれ。
ブレブレだが固まって光っているのがわかる。

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生まれて初めて蛍のさなぎが光っているところを見た。
自生している環境がそのまま残っているだけでもすごいのに、街の明かりがまったく届かない真っ暗闇が蛍をより幻想的に見せてくれている。

これだけ舞台装置が整った蛍狩りはそうそうできないだろう。
明日も蛍を見に行く予定。
蛍の撮影の仕方を予習していこうと思う。

最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。 サポートは、お年玉みたいなものだと思ってますので、甘やかさず、年一くらいにしておいてください。精進します。