ギアファンde日常。『ベルフラウと梅の実』
ベルフラウと梅の実
「あ、見つけたわ」
そう呟く、私の声は心なしか弾んでいた。
葉っぱひとつ無い裸の木の枝に、ちょこんと付いている果実。
枝に付いている方は紅色、そこから黄緑色へのグラデーションが可愛らしい。
ひいおじいさまの代にお庭に植えたらしいこの木は、梅という木らしい。
雪が解ける頃に白く甘い香りの花を咲かせ、春の訪れを告げる木。
お父様はよく、梅の花の下に幼い私を連れてきてくれた。
「親父も毎年、ここに俺を連れてきてくれたんだぜ」
と、懐かしさを含んだ笑みを口元に浮かべながら。
花はもう散ってしまったのだけれど、私にはもうひとつの楽しみがある。
それが、この梅の実だ。
熟したこの実をお酒に漬けると、とても香り高い果実酒ができるのだ。
私も、初めて飲ませてもらった時は本当に驚いた。
ふんわりとした甘酸っぱい香りが口の中に広がり、ほうとため息が零れてしまったものだ。
それ以来、梅で漬けたお酒をほんの少しだけ味わうのが、私の春の密かな楽しみになっている。
「今年もよろしくね」
私は微笑んで、梅の木にそう告げる。