ギアファンde日常。「エインズワースと強風」
エインズワースと強風
いや、風、つよっっっ!
外に出て、真っ先に脳裏に浮かんだのはその一言だった。
昔から「春一番」という言葉があるように、冬から春になっていくこの季節は、強風になりやすくもある。
しかしながら、今日の風はいくらなんでも強すぎる。
仕事の関係で外に出たはいいが、今すぐにでもギルドに引き返したくなる。
油断したら飛ばされてしまいそうだ。
身体に当たる風は百歩譲って許すとして、問題は、音。
ビョウ、と空を切るような音がひっきりなしに響く。
この騒音が、俺にとってはたまらなく不快なのである。
長い耳を持つエルフは聴覚が鋭く、遠くで針が落ちた小さな音でも聞き取ることができると言われている。
そのエルフの血を半分だけ引いている俺も、純血には劣るが耳がいい。
だからこそ、こういう騒音にはとても弱いのだ。
耳栓をしていても、音が頭の中にガンガン響く。
しだいに頭痛がしてくる。
はぁ、とため息をつく。
仕方ない。危険を察知しづらくなるので普段は使わないが、どうせ車など通らない道を行くだけだ。
小声で呪文を唱える。
と、周囲の音が、スウッと遠のいていく。
あんなにうるさかった風の音は、ごく小さなものになった。
家を出る時、エルフの母親から教えてもらった遮音魔法。
エルフは自分の子供が独り立ちする時、餞別としてこの魔法を教えることが習わしになっている。
どんな習わしだよ、と思いつつ、実際に役に立つのだから仕方ない。
遠くで聞こえる微かな音は、もう俺の頭を脅かすことはない。
あーあ、老後は静かな場所でゆっくり過ごしてえなぁ。
そう思いながら、俺は強風の中を歩いていくのであった。