ギアファンde日常。「カルロと静寂」
カルロと静寂
仕事がひと段落ついた昼下がり。
俺は使い慣れた椅子に腰掛けて、しずかに目を閉じていた。
開け放した窓から入ってきたそよ風が、頬をそっと撫でる。
庭の木々のざわめく音がする。
とおくで鳥のさえずりが聴こえる。
さっき淹れたばかりのコーヒーが、部屋の中にほのかに香る。
ふぅ、と長いため息をつく。
宝石の研磨は集中を要する仕事だ。
神経が一点に凝縮し、張り詰めていくあの感覚。
神は細部に宿ると言うが、目と指先に神を降ろすようなあの繊細な時間の後には、こうした全てを静寂の中に溶かすような時間が必要なのだ。
目を喜ばせる煌びやかな装飾も、お喋りも、今この瞬間は必要ない。
ただ、静寂の中に。