ギアファンde日常。「フランツと待ち時間」
フランツと待ち時間
うろうろ。うろうろ。足がひっきりなしに動いてしまう。
ちらと駅の時計を見る。汽車のやってくる時間には、まだまだ早い。
はぁ、と小さくため息をつく。
落ち着きのない俺を見て、一番歳の近い兄が「父上もご一緒なんだぞ。少しは落ち着け」と言った。
口調に反して、その表情は穏やかだ。
幾つになっても、俺のことを小さな子供だと思っているのかもしれない。
それは少し不服だけれど、しかし、安心もする。
国王の依頼を受け、ユマーノ王国に足を運ぶことになった父上。
数日前、俺は重要な情報を耳に挟んだ。
「レプラコーンの氏族が、同じ町に滞在するらしい」
兄上や小間使いたちは嫌な顔をしていたが、俺はその言葉に浮かれてしまった。
ベルも来ているかもしれない。
もしかしたら、逢えるかもしれない。
「その時」が、今ここに来るのかもしれない。
そのことを考えすぎて、前日の夜はよく眠れなかったぐらいだ。
うろうろ。うろうろ。
足の代わりに、視線があちこちをさまよう。
ふと、地面に咲く花に目が留まる。
小さなピンクの花びらがいくつも付いている花。
紫がかった葉が、まるで踊り子のように見えることから「ヒメオドリコソウ」と呼ぶのだそうだ。
彼女が身にまとっていた、紫のワンピースを思い出す。
ピンクの花びらは、まるで彼女の笑った時の頬のような色をしている。
ああ、逢いたいな。
汽車が到着するまで、あと少し。
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