見出し画像

ザ・バンド  Stage Fright

カーラボノフの名盤「ささやく夜」の中に「The Water is Wide」という美しい曲があります。この曲は古いスコットランドの民謡で、多くのアーティストに歌われていますが、彼女のカヴァーでは、間奏のアコーディオンが特に美しく↓(1:58頃)、その演奏者は、ザ・バンドのガースハドソンです。今回は、ガースハドソンに触れつつザ・バンドの3rdアルバム「ステージフライト」について。

この3rdアルバムは、歴史的な名盤とされる前ニ作に比べると、深淵さが薄れた印象はありますが、前作と比べなければ、これはこれで良い作品です。確かに、ヴォーカルを取る三人の掛け合いは減りましたし、物語的だった詞も、内省的なものに変化しています。しかし彼らの演奏力は大いに発揮されていて、特にガースハドソンのアコーディオンやオルガンの味付けが随所に効果的です。そうしたガースの才能が最も発揮されたのは「南十字星」ですが、このアルバムもそれに次ぐくらい、彼の貢献度が感じられます。

2020年、50周年記念で発売されたリミックス盤を見て驚きました。曲順が大幅に変わっていたのです。理由は、メンバー間の確執の原因である、曲のクレジット名の問題です。彼らの曲作りは、主にギターのロビーロバートソンが作った曲にメンバー全員で手を加え構築していくスタイルでしたが、クレジット名はロビーひとりになっていて、これに異を唱えたドラムのレボンヘルムとの間に確執が生じます。レボンは、ロビーだけのクレジットの曲は後半にまわして、共作名義の曲は前半にするよう提案し、ロビーもこれを受け入れ、その結果、人気曲が後半に集中してしまうような、奇妙な感じになりました。
50周年リミックス盤でロビーが当初考えていた曲順に戻されたというわけです。すると全体の輪郭もはっきりしてきて、各曲もひき立ち、私はこの新曲順の方がずっと良いと思います。(以下その新曲順)

A①The W.S. Walcott Medicine Show
古くに実在した旅芸人の一座ウォルコットのショーから引用した曲。中間でのガースのテナーサックスソロが聞きどころ。

A②The Shape I'm In
ロビーは最近のツイートで「この曲は、ガースの鮮やかなオルガンソロとリチャードのありのままを正直に歌うヴォーカル」と評しています。Voは私が好きなピアノのリチャードマニュエル↓

A③ Daniel And The Sacred Harp
全員、楽器を持ち替えてアコースティックストリングスに衣替え。ドラムはリチャードへ、歌うレボンはアコギ、リックはフィドル!印象的なスライドギターはロビー、そしてイントロからの古風な足踏みオルガンがガース。歌はレボンがナレーター役でリチャードが主人公という配役です↓

A⓸Stage Fright
ベースのリックダンコの素晴らしいヴォーカル。ロビーは最近のツイートで、「彼はフレットレスベースを弾きながら歌ったんだ、どうやってベースを弾いていたのかわからないよ」とリックの名唱、名演を讃えています。

A⓹The Rumor
前ニ作にあった3人の、重なり合い、受け渡し合うヴォーカルが、ここでは大いに発揮され、特に終盤のリチャードの歌は力強くて感動的で、私はこのアルバムの中で一番好きです↓

B①Time To Kill
再び、楽器持ち替えです。転がるようなガースのピアノが印象的。

B②Just Another Whistle Stop
ギターが光る曲ですが、テンポを変えながら走る列車を彷彿させるレボンのドラムが素晴らしい。ローリングストーンズ誌は、この年のレボンを、ロックンロールの最高のドラマーと評しました↓

B③All La Glory
これはロビーが、誕生した娘を想う優しい曲で、曲名もフランス系の血筋を持つ奥様に敬意を示したもの。レボンがいつもと違った声で優しく歌い、ガースの全編に渡る優美なアコーディオンと中間の幻想的なオルガンが、曲全体を優しく包み込みます、ガースハドソンが居なければこの美しさは出ないでしょう↓

B⓸Strawberry Wine
通常盤ではレボンの曲のため、1曲目でした。リチャードのドラムがなかなか好きです。ガースのオルガンもイイ。

B⓹Sleeping
ラストは繊細なリチャードを象徴する素晴らしい曲、ラストがこの曲であることが、16年後の悲劇的なリチャードの最期を予期していたかのようです。この曲を評した文章を引用して、終わります。

デリケートで憂いワルツのピアノ弾き語りに他のメンバーの演奏か少しずつ加わると、リズムにスイング感がわずかに加わり、現実と睡眠の境界線の揺らぎが生まれる。そしてレボンヘルムのジャズっぽいロールも織り込んだドラムスに引っ張られ、バンド全体が大きな波を起こす。このゆったりとしたテンポでも、たっぶりのエネルギーを注ぎ込めるバンドの能力が…

「.ザ・バンド全曲解説」五十嵐正

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?