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デビー•ブーン You Light Up My Life

1984年頃の学生時代、私レンタルレコード店でバイトの店員をしていました…が、他にもやっていた季節限定のバイトがありまして、旅行会社の添乗員です。修学旅行シーズンになると社員添乗員さんの人手か足りなくなるので、秋だけ中高生の修学旅行に付いて行く臨時添乗員です。京都で引率して拝観料を団体で支払ったり、旗を持って「三組集合ー!」とかやります。

一番楽しかった記憶は茨城県の岩瀬高校との修学旅行でした。いくつかの学校に同行しましたが、都会の子よりも田舎の子達の方が素直で元気なんですよね。
この高校の印象が良過ぎたためか、その後社会人になっても私は茨城県出身の人に対しては良い心で接していました笑。茨城の人って訛ってるけどみんな良い人達なんですよね。

岩瀬高校の子達は皆バリバリの茨城弁で、ほんと明るくて「みんなー!あそこに(都会には)マクドナルドがあるぞー」とお上りさんみたいな事を言ったり「添乗員さーん、写真撮って下さーい、あっ今度は一緒に入って撮りましょー」と気が利くというか親切心を表現できるんですよね。東京の学校の子とはずいぶんと違いました。みんな賑やかな子達で、こちらまで元気をもらえました。

私はあるクラスにずっと同行していたのですが、そのクラスの中でもとりわけ明るい女子生徒がいまして、京都の神社や旅館でもすれ違う度に「添乗員さんも一緒に行かないの?」とか「ちゃんと仕事しないとダメですよー」とか笑顔で声かけてくれる生徒です。

その生徒ではないです デビーブーンです

楽しかった修学旅行もあっという間に終わりが近づき、帰りの新幹線の中で私は車両と車両の間のデッキスペースのドアの所で、少々疲れてひとりで立っていました。

すると、その明るい女子生徒の子が通りかかって私に気づき「あっ添乗員のおにーさん、そこでなにしてん?疲れた顔して」私「ちょっと疲れたよ」「顔暗いよー、じゃあ私が明るくさせてあげるー」と言って、彼女は持っていたカセットウォークマンに繋いであるイヤホンのひとつを私に手渡しました。「この曲聴くとぜったい明るくなるよ」

その時、聴かせてくれた曲が、デビーブーンの「You Light Up My Life」(恋するデビー)です

彼女のカセットウォークマンには二人でラブラブに一緒に聴ける用の付属品の二股イヤホンジャックが付いていて、私に差し出したイヤホンと別に自分のイヤホンも接続してふたりで同時に聴けるのです。

ドアに寄りかかりながら、二人でイヤホンを耳につけて、彼女はテープを早送りしたり巻き戻ししたりすると、イヤホンから曲が一瞬聞こえたり、キュルルルと早回転や逆回転している音が聞こえたりします。曲の頭出しがすぐにできなくて、イヤホンをしたまま顔を見合わせています。

キュルキュルと聞こえる音と、彼女が曲を探している様子のクルクルと動いている瞳がおかしくて、でも可愛らしくもあって、私はこのまま曲の出だしは見つからなくてもいいよ、と思いながら、彼女のぜんぜん人見知りしない親切心に見惚れていました。

そして曲も優しかった。
You Light Up My Life
貴方は私を明るく照らしてくれる。

デビーブーンは、「砂に書いたラブレター」で有名なパットブーンの娘で、この曲は1977年ビルボードチャートで10週連続第一位という大記録を打ちたてました。
そしてビリージョエルの「素顔のままで」という名曲が三位で終わったのは、デビーブーンのこの曲がずっと一位を譲らなかったからということも後で知りました。

ブーン親子

その後、曲の頭出しをして一緒に聴いてから「ねっ」と言って彼女は満足そうに戻って行きました。その時はこの曲の良さがあまり分からなかったのですけど笑、彼女の優しさがテープの早回転する音の余韻となって、幸せな空気をほのかに残してくれました。

現在の音楽配信の登場のように、当時カセットウォークマンの登場は、音楽を聴く環境を大きく変えました。そしてイヤホンの二股ジャックというアイデアもなかなかハートフルなアイテムだと思うのです。その後はもうデジタルの時代になって、曲を探すためにテープを巻き戻したり早送りしたりするような操作は、消え去りました。

あの時、アナログなウォークマンで、曲の出だしを追い求めていた十数秒間は、親切で優しい彼女の心内が伝わるような、愛しい瞬間だったのです。

You Light Up My Life は、
その事を忘れさせないでくれる歌です。


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