D進祝いブログ:触覚と失禁。とある研究者が見る未来。

morioです。D進お祝いおじさんとして活動しています。

今回、とある有望な若者のD進が決まったと聞き、お祝いの場を設けました。彼が何を考えてこの道を進むのか、インタビューしてみましたので是非ともご覧ください。

触覚、失禁、バーチャル学会

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-今日はよろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

-まずは簡単にご自身のことをお話してもらっていいですか?

「亀岡嵩幸(たかゆき)25歳です。電気通信大学修士二年で、梶本研に所属してます。スリーサイズは秘密です。 
バーチャルリアリティを研究している、研究者の卵です。
バーチャルリアリティの中でもいろいろと分野があるのですが、僕のメインは人間の知覚や感覚の研究、特に人間の触覚についてを研究しています。
人間の皮膚の変形や力を計測したり、そこで得られたデータを元に触覚を再現するための研究です。
この大学の研究以外にもコンテンツとしてのVRにも興味があり、XR開発者コミュニティにもよく顔を出しています」

-触覚をメインに研究されているのですね。

「といっても、僕について一番知られているのは失禁研究会として行っている、失禁に関する研究かもしれません。」

-はい、私もそのイメージが強かったです。むしろそれしか知りませんでした(失礼)

「失禁は個人的なテーマで、梶本研とは関係無く一人で研究しています」

-そうだったんですね!?

「はい。梶本研の正規のテーマを二件やってまして、一つは先ほど述べた計測と再現に関するもの、もう一つはヘッドマウントディスプレイに関するものです。そのほかに個人としての失禁研究があります。」

-それは相当お忙しそうですね。

「実はそれとは別にバーチャル学会というのもやってるんです。バーチャル空間内に研究者、聴講者を集めて学会を開催するというコンセプトです。12月にClusterを使って第一回バーチャル学会(※)を開催しました。
基調講演には東大の稲見先生、桜花一門さん、動く城のフィオさんにご登壇頂き、その会場には一般参加の人が来られるようにして、同時にYouTubeでの配信も行いました」
※第一回バーチャル学会については下記リンク参照

-失礼ながら、そのイベントは知りませんでした。

「その後にVRChatでポスターセッションも実施しました。12名の発表者にポスター発表をして頂き、その様子のYouTubeライブ配信もしました。バーチャル学会の配信はおきゅたんbotさんがやってくれたんです。電脳世界に地に足をつけたVTuberで、尊敬してます」

-「学会」というからには発表されたのはアカデミアの方々ですか?

「地球科学や物理学や数学のアカデミア発表もありましたし、もう少し一般寄りの発表もありました」

-それですと一般の方も参加しやすそうですね。

「そうですね。僕はこのバーチャル学会を通じて、今リアル世界で開かれているイベントを電脳世界でもやれるといいなと思っているんです。テクノロジー的にはアカデミアも一般の人ももうできるはずだと僕は考えているんですが、それがまだまだ広まっているとは言えない。これって、コンテンツやプラットフォームを作る側の人がまたまだ有益なものを提供できていない、もしくは訴求できていないのではと考えています。将来的には、何年先になるかはわかりませんが、それが実現できるといいなと思ってます。
バーチャルとリアルがミックスされた世界を作るにはどうしたらいいか、を考えながらアカデミックと一般の間の橋渡しをしたいんです」

-すごく真面目なことを考えているのですね。イメージ変わりました。

「(笑)、もちろん、リアルな学会の現実的な問題点もあると思ってます。旅費が高い、とか移動が大変とか。遠隔で開催することでこのコストを削減できます。ですが、実際に現地で参加するメリットは『その場にいる人と交流できること』。この両方を同時に満たすにはVR空間内での実施が適切なのではと考えました。また、基調講演やポスター発表がメインの学会であれば、VR内での開催に相性がいいのではと考えたのもあります。
すでにアーリーアダプターの一部の方は遠隔でイベントを実施しはじめていますが、アカデミアはそれをまだできてないのでは。我々研究者こそがそれを先にやっていくべきではと思ったんです」

-移動を削減したいのは同感です。

追記:ここ最近の事情を反映した西田宗千佳さんのブログにもある通り、「遠隔では完結しづらい理由」はあるかと思ってます。

手前味噌ながら、私の過去ブログでも遠隔で実施することとセレンディピティについて書かせてもらってます。

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「リアルではそういうアバター使ってるのね」

-少し話題を変えます。最近はまってることとかありますかね?

「今はVtuberのコンテンツをよく見てますね」

-それはやはり研究者として技術的なところが気になるからですか?

「技術的にもそうですが、純粋にコンテンツとしても面白いのでよく見てます。よく見るのはおめがシスターズさんです。姉のレイちゃんがUnityを使ったりするのも面白いですし、『VR内でバッティングセンターで練習したらリアルでもうまくなるのか』みたいな取り組みもやっていて。これって実際にやろうとすると非常に大変なことです。それをやりきったのは素直にすごい。
他にも、『VR内に止まっているエスカレーターがあったら現実と同じようにがくっとなるのか』という実験も、クロスモーダルの実験として興味深い。これがきっかけでいろいろ見るようになりましたね」

-それは興味深いですね。面白そう。

「他には『甲賀流忍者ぽんぽこ』と『おしゃれになりたい!ピーナッツくん』というVTuber二人組も面白いです。このお二人が面白いのは実写と組み合わせてるところですね。猟師と一緒に山の中を歩いてたり、リアル空間+バーチャルアバターでやるのが興味深いです」

-現実空間にバーチャルアバターを見せるのは興味深い内容ですね。ウェアラブルグラスが普及した時代にはもっと価値が出てそうです。

「後は、やはりVRChatに入って遊ぶのが多いです。もう二年くらいやってますね」

-私はVRChatの面白さがまだわかっていないのですが、具体的に何をするものなのですか?

「基本的にはおしゃべりしてます。喋りながら、『新しいワールドができたから遊びにいこうか』となります。これってリアルと同じだと思っていて、『一緒に遊ぶ人がいる』とか『面白いところがあるから一緒に行こう』とか」

-そういう遊び方であれば確かにリアルと変わらない気がします。そういう方とは『じゃあまたVRChat内で会おうぜ!』みたいなノリなんでしょうか。

「交流はVRChatだけはなくて、Discordでもやりとりしてるんです。Discord内で友だちグループがあって、そこでもやりとりしています。VRChatで知り合ってDiscordでやり取りして、『じゃあ今からVRChat入ろうか』といった流れになることもあります」

-プラットフォームをまたがったやり取りもするものなのですね。

「さらに言うと、最近はリアルのオフ会もやってますね」

-えー!そこまで行ってるんですね。何か違和感とか怖さとか無いのですか?

「特に感じません。『VR内ではアバター違うけど、リアルではそういうアバター使ってるのね』みたいな感覚というか。パーソナリティー自体を個人として認識しているので、リアルなアバターはまあ、それはそれでという感じなんです」

-面白い。

「出会いの時点でパーソナリティを知ることで、今まであった『ネットで知り合った人にあったらいけません!』という壁を超えられるかもしれないなと思ってます。
とはいえ、今はまだVRChatを始めること自体への参入障壁があり、参加している人自体がリテラシー高い人が多いので、今後誰でも使うようになったとき考えると安心はできませんけどね。こういったことを考えていたことも、バーチャル学会に踏み切った要因の一つです。公私ともにバーチャルというのはどういうものなのだろうというのが関心事なんです」

-今後普及するにあたり迎える新たな課題はありそうですね。

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失禁に魅せられた学生時代

-直近の取り組みや関心事はわかりました。学部や院で何をしてたのか教えてもらえますか?

「学部~大学院を通しての取り組みとしては失禁に関することが多いかもしれません」

-私もそのイメージしかなかったので・・・

「あれって2014年、学部の一年の頃からやってたんです。最初は学園祭向けに面白いものを作ろうとしていた中でチーム組んでアイデア出ししていて、最初はコンセプトだけだったんです。それが思いのほか食いつきがよくて、社会的な必要性を感じたんです。2015年にIVRCで出して賞をもらってから、メディアの露出もそこそこありました。今は一人でビジネスを見据えて継続しています」

-最近、大きいほうも何かやられてましたよね?

「はい。便失禁のほうもビジネスを考えて取り組み始めています。研修で使うのなら大のほうも、と看護系の方からリクエストがあり、取り組み始めました。事業者と一緒に実験を始めた段階です。大のほうが失禁した際に社会的信用度が落ちます。だからこそなんとかしてあげたいのです。もちろん、小のほうがだめだと大もだめな方が多いので、両方ケアしてあげたい。今後は大の方に本気で取り組んでいきたいです。これは事業を考えた個人の研究者として進めていきます」

-(店の中で大だの失禁だのあんまり声高に語らないでほしいが)失禁の研究はどういったモチベーションで取り組んでいるのでしょうか?

「いくつかあるのですが、失禁という体験の共有、人間の生理学的知見から将来のVR装置への貢献、技術的なチャレンジというのがあります。その応用として介護研修への利用や医療への応用、エンタメ装置としての利用などに取り組んでいます」

-モチベーションは極めて真面目ですね。

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人類の集合知をアップデート

-春から博士課程ですね。博士課程では何をするのですか?

「博士課程としてと個人のことを別々でやっていきたいです。個人の方は失禁を進めて事業化したいですね。中身はまだ言えませんが、企業にアプローチしています。あとはバーチャル学会ももっと進めたいです。
僕はアカデミア側も一般人側も両方見ている自負がありますので、この視点が今後のVR普及に貢献できるのではと考えています。
大学での研究内容としては、『再現』に注力できたらと考えています。今までの研究範囲として触覚技術の計測と再現に取り組んでいましたが、どちらかというと計測のほうに注力していたかもしれません。これからは主観的な評価とデータとの比較をしていきます。自分が何かを触ってどう思ったかという感じ方と、取得したデータのマッチングをしたいのです。それを評価することで触覚の再現に一歩近づけるのではと考えています」

-触覚の”再現”となるとその提示時の感じ方には個人差が出るのではないでしょうか?

「それはあるかもしれませんが、感じるという行為の際には、個人の皮膚形状の変形の仕方が影響しているのかもしれません。だから皮膚の変形レベルで再現してあげればうまく伝わるではと考えています。そのための前述のマッチングになります。世の中にある触覚提示装置は当然あらゆる人の感覚を再現しようと研究していますが、個人の皮膚感覚までを再現しているレベルのものは聞きません。もっと理論立てて整理することで、再現に近づけるのではと考えています。
触覚提示のための大きな壁は計測やデータ化の部分ではなく、再現のフェーズにあると考えています。極小の計測装置はありますが、極小の提示装置はまだありません。触覚再現にはミリ単位の提示装置が必要と考えていますが、アクチュエータの小型化はまだまだ困難では。博士課程の研究ではこの提示部分に取り組んでいきます」

-とても魅力的ですが、非常に険しい道のようにも聞こえます。亀岡さんはなんのために研究をするのでしょうか?

「かっこよく言うと、人類の集合知をアップデートするためでしょうか。わからないことをわかるようにすることが研究者の役割だと思ってます。
人間の仕組み、知覚というものがまだわかってないから研究が必要なのです。人類の知見があったらそれを少しでも広くしたい。それによって社会に貢献したい。
あとは、知覚の解明ができれば産業に応用できるのでは、という仮説もあります。人間は永くの間自分たちが一番生きやすい環境を作ってきました。それは一朝一夕でできたものではなく、あらゆる研究があり、その結果が工業デザインに活きています。このような知見を持つことで豊かな社会になるのではと思っています。学術研究はすぐに工業的に応用されるかはわかりません。それこそ今ようやく普及してきたヘッドマウントディスプレイも、1960年代に生まれたコンセプトから派生していますし、僕の研究も実用化されるのは20年、30年後かもしれません」

-誰のために研究する、といったモチベーションはありますか?

「一番は自分のためにでしょうか。自分が嬉しいなら他の人も嬉しいはずと考えています。自分が興味のあることを深めること、実装していくことが最終的に世界をよくするだろうと思っています」

-自分を中心に置かないとモチベーションの継続は難しそうですね。
 今後、亀岡さんはどんな社会にしていきたいですか?

「第一にはバーチャル学会のような試みを社会実装していきたいです。色々な方が言っている通り、将来的に移動の概念が変わっていくはずです。その中で僕は電脳空間でのコミュニケーションを促進したいし、広めていきたいです。一般のユーザーレベルに落とし混む前に、いまできる範囲で、研究者レベルでそれを実装していきたいです。
もう一点。今はヘッドマウントディスプレイを使った視覚、聴覚への刺激が普及しつつありますが、これに触覚を加えることで実在感を付加した強烈な体験にしたいんです」

-ありがとうございます。非常に興味深い内容でした。

「ありがとうございました!」

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インタビューを終えて

ユーザー層とクリエイター層、アカデミア層という多視点での考えを持っている亀岡君。彼は今後バーチャルとリアルとを繋ぐブリッジ役として重要な存在になっていくのではと感じました。
なにはともあれ、有望な若者と話すのは楽しいものです。
良い夜を過ごさせて頂きました。
ありがとう、亀岡君。

亀岡君より一言

これまでxRに触れる様々なジャンルの方と出会い,今後のxR技術の可能性と実現性を感じています.
その未来を創るため私なりに研究者,クリエイター,ユーザーとして活動をしています.本記事に少しでも共感していただけましたら共にxRを盛り上げていきましょう.
最後に素晴らしい記事を作成いただいたmorioさんとここまで読んでいただいた読者の皆様に感謝いたします.
亀岡

ではまた。2020/2/16 morio



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