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1ダースの恋 Vol.2

オレはふらふらと路地裏に踏み入った。
路地裏に入って早々、人だかりを見つけた。

どうも男数人で女の子を囲んでいるっぽい。
あれ、やばくない?

 オレは大きなあくびを噛み殺して、
その場に向かった。

「やめてください! 警察呼びますよ!!」

 女性は気丈にチンピラ三人衆と渡り合っていたが、顔は今にも泣きそうなものだった。

というか、
この子さっきハンカチ借りた子じゃないか。
うん、恩返ししよう。

「ちょっとお取込み中のところすみません、
             その子、もう予約入ってますよ。」

「ああん?!」

 チンピラのボスがこちらにガンを飛ばす。
ああ、怖い怖い。
オレはひるまないよう、足に力を込めた。

「レンタル彼女、オレ、予約したから。
これから一緒に映画だから。
って言うか何、お兄さんたち
ボルテージ高いね、ここは猿山?
猿山なの?確かにお猿さんみたいなか……」
 女性からビンタが飛んでくる。

オレは頬を抑え、
何が起こったのかと目をぱちくりさせた。

「もういいです、
そんなに言う必要のないことまで
言わないでください」

やってしまった。。。

友達にドタキャンされ、
変なお兄さんに絡まれて
イライラしていた所に
さっきのナンパ男が来て
突然レンタル彼女扱いされた挙句
幼稚な言葉が聞こえてきて、、

思わず
ビンタしてしまった。。。

キット彼は私を助けに来てくれた
だけかも知れないのに。
そんな考えが脳内を巡る中、
私のビンタ音だけが狭い路地の中を
無駄に長々と駆け回る。

「はぁ。もうイヤ。」


思わず頭を抱え込んで、
しゃがみ込む私にナンパ男が近寄り
背中をさすってくれる。

ビンタしたばかりなのに優しくして貰えて、
申し訳ないやら悲しいやらで
自然と涙が出てしまう。

そんな私の様子にたじろいだお兄さん達は
対処に困ったのか、

「堪忍やったなぁ。」
「気、悪くせんでな。」
「お大事にやで。」

と弱腰になり立ち去って行った。

一通り泣いたあと、
私は腕時計をちらりと見る。
映画開始までもうほとんど時間がない。

でも、何だかどうでもよくなって来た。

その時、「その手に持ってるチケットは何?」とナンパ男が尋ねて来た。

「これはね、倍率125倍で手に入れた
映画のチケットなの。お気に入りのアニメと
お気に入りの俳優さんがコラボするの。
本当は友達と見たかったのに
急にドタキャンされて、
今泣いたせいでおめかしも取れちゃって、
もう行けなくなっちゃった。」

一息で言い切ると、
ナンパ男は更に質問をしてきた。

「その映画、何時から何処で始まるの?」
「14時からスターライトビル12階にある映画館。でもあと10分で3km先にある映画館までは到底行けないから。もう良いの。」

その言葉を受けてナンパ男は
「分かった。お化粧を直して
少しあのデパート前で待っていて。」
と言い残すと走って駆けて行った。

よく分からないまま指定されたデパートで
見つけたお手洗いを使い化粧直しをし終えて、デパート前の入り口で待っていると
ナンパ男が息を切らして戻ってきた。

「タクシー呼んだから。
一緒に乗っていこう!」
そう言いながら、
半ば強引に私の腕を引っ張って
タクシーに乗せ自分自身も乗り込んできた。

車が走り出して間もなく
「言いそびれたけど、俺の名前は
佐藤 律って言うんだ。
こう見えてピアノの調律師をしているんだよ。君の名前を教えて貰っても良いかな?」と彼は話しかけてきた。

内心、ずっとナンパ男と呼んでいたから
意外と綺麗な響きの名前だなぁと
少し驚きを感じつつも、
お礼がてら名乗ることにした。

「先ほどは、有難う御座いました。
色々と取り乱してしまい、
すみませんでした。
私の名前は野島亜美と言います。
グラフィックデザイナーをしていて、
将来は自立したいと考えています。」

とやっと少し落ち着いた口調で話した。
「自立!格好良いね。」と即座に
反応を示してくれて、つい笑ってしまった。

「良かった。やっと笑ってくれた。」と
彼ははにかんでいた。
その笑顔に思わず胸が鳴る。
そうこうする内にタクシーは
無事に映画館に到着し、
彼がスマートに支払いを済ませてくれた。

「申し訳ないので、私が出しますよ。」
と言ったが、まぁまぁと優しく
押し返されてしまったので
有り難く受け入れることにした。

そうして時間に間に合った映画館で
私は彼と結局楽しく映画を鑑賞した。

ポップコーンやドリンクまで
用意してくれて、推しのキャラや俳優に
黄色い歓声をあげてもドン引きもせず、
逆に一緒に叫んでくれていた。

2時間の映画と1時間のライブトークが
全て終わり映画館を出る頃には
すっかり夕日が沈みかけていた。

お礼がてらご飯でもご馳走しようとしたが、
彼は「それじゃ。また会えそうでしたら
連絡下さいね。」と音符模様の入った
メモを渡して来て立ち去ってしまった。

あっけらかんとしたその態度に
拍子抜けしながらも、
その後ろ姿を見送ってしまう自分に気づき
私は少し戸惑っていた。

日常と非日常を放浪し、その節々で見つけた一場面や思いをお伝えします♪♪ そんな旅するkonekoを支えて貰えたなら幸せです🌈🐈 闇深ければ、光もまた強し!がモットーです〇