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完成の、その先。

学生時代、漫画の投稿をしていたことがある。高校の部活で原稿の書き方や同人誌の作り方を先輩から学び、原稿を描けるようになってやってみたくなったのだ。

確か高2くらい、進路もしっかり考えねばならぬ頃で自分的には「もう学校で勉強したくないから就職」とは漠然と決めていて、じゃあ「どんな仕事をすればいいか」がわからなかった。百貨店やコンビニで販売のバイトはしてたけど、できれば机に向かう仕事がしたかったし、漫画家ってどのくらい厳しいんだろう?とも思っていた。

ではいざ、どこの雑誌に?と、これまた漠然と考え、部活の友達にも相談したがみんなバラバラのことを言う。ので、バラバラに投稿してみることにした。←

その中でも厳しそうと評判のH社H誌は避け、好きで読んでいたS社M誌にまず投稿。末等にひっかかるも名前だけが載る。返ってきた原稿をK社F誌へ。←
投稿作は何度別の編集部へ送ってもいいんですよ。応募要項にも書いてあるので大丈夫。低コスパ。アナログしかない時代なのでちと返送に時間はかかるけど、その間に次作を練ってれば良かったし。

で、これが当たり?で、お金の出る賞にランクイン!!
まんがで!!お金が!!!もらえた!!!!!

漫画には作風というものがあり、雑誌にも特性がある。読者層と自分の描きたいものがマッチしているかどうかや、その編集さんの好みなどでも評価は変わるので、一社に拘らず投稿先を考えてみることは戦略として正しいはず。

それからはF誌に絞って話を考え、原稿を描くようになったけど、帰ってくる原稿に添えられている編集さんの言葉がいまひとつ当時の自分に響いてこない。こう直したらどうか、ここが弱いので強化をという適切なアドバイスだったと今ならわかることが、学生時代のわがままな自分にはわからなかった。

しかし半年もすると段々と投稿のペースは掴めるようになり、1か月で16Pを完成させられるようになっていた。たまに授業中にも描いたりしていたが、のほほんとした田舎の私立校だったためか見逃してくれる教師も少なからずいた。いやこれは昭和だから許された程度の話だ。

投稿ではあったけれど、入選すれば数万円の賞金とトーンが数枚送られてくる。これを元手に次を描くが、下位入選止まりで上の賞には上がれない……という自転車操業になった頃、ほんとに漫画家になりたいか?と再度考え直すようになっていた。

漫画は描けても、なんか違う気がする。商業で描くということは、この編集さんの言葉を聞いて噛み砕いて、時には描きたくないものも描いていくということだ。それができるのかなぁ……?

そんなこんなで高3の頃、同人で知り合った専門学生のお姉さんから「うちの漫画コースの体験会に来てくれない?」とお誘いがあって、賑やかしに友達とお邪魔することになった。

駅から程近いそこは地方都市では当時まだ珍しい漫画コースのある美術系の専門学校で、体験教室に来る人もまばらだった。金額的に自分が選択できる進路ではなかったけど、興味はあったので覗いてみることにした。

結果として、現況(投稿中で入選している)を伝えると「それはうちには入学せずに自力で」と講師から別の指導をされることになり、商業で描く上で注意することなどを聞くことができて、その点はとても参考になったしやはり自分には無理では?と考え直したりした。

また、原稿を描いて投稿までできるなら専門学校などへは行かなくてもいい道もあるんだなと知れた。

そして、描いた原稿が編集部から戻ってきた。コメント欄にいつもの編集さんが丁寧な字で「この場面はこういう気持ちを描きたいんですよね、では…」といつも通りに何気なく書かれていた言葉が突然、自分に突き刺さった。そうだその通りです!!漫画なら雷が鳴って落ちてるシーンが脳内再生された。

この瞬間に自分が「完全に読者」であることを思い知る。編集さんが描いてくれた内容を読みたい。その通りに絵を描くことはできるけど、描くより読みたいと思ってしまった。

自分の漫画が人に読んでもらえることは楽しいし嬉しい。でもそれを「仕事」にしていくことは、自分にはできないな……ということを、この編集さんの何気ない言葉に強く感じてしまった。自分は描き手ではない!と。

商業誌への投稿は、その作品が最後となった。あの時の編集さんには今でも感謝している。自分を「読者」だと気づかせてくれた、あの字の美しい編集さんは一体どなただったのだろうか。いつも的確なアドバイスをありがとうございました。それを伝えることはできなかったけど、私は今も楽しく漫画を読んでいます。

学生時代にそこまで経験ができれば充分だったので、卒業後は大人しく就職してお給料をもらう仕事に就いた。それが向いているかは別として、「自分と向き合わずに目の前の仕事をしてお給料をもらう」ことにとても安心したのを覚えている。漫画はとことん、自分と向き合う作業でもあったなぁ。

漫画は完成して投稿、その後に商業で描くことには向き不向きがある。色んなことを割り切って、受け入れて、変わっていく人が次の世界へ行ける。商業には心の強さが必要だ。自分にはそれを押し通すほどの気持ちも、伝えたいこともそこまではなかったようだ。

でも、絵を描くことが好きという気持ちはちゃんと残ったし、同人はまだまだ楽しかった。そして読みたい漫画がまだまだたくさんある。それがいいや、と自分の中でようやく完結した。

好きなことと、できることと、やれることは必ずしも合致しない。その中で何かを選び、何かを諦め、生きるためにするべきことをして、楽しむためにやりたいことをしていきたい。自分にとって漫画は読むもの。でも時々は描くのも楽しいもの。

娘にとってのまんがは、どんな形になるだろう。何にしても、好きな事がずっと続いていくといいねぇと願う。