これもきっと「世界一幸せな家庭」のひとつなんだと思う。

ご無沙汰してます。

先日、Bee×Piiぷろでゅーす vol.1「Heyばあちゃん!テレビ点けて!」を観劇してきました。

https://twitter.com/Bee_Pii_produce/status/1677280027250163718

DVDの予約も始まっているとのことなので、もし興味を持たれたらぜひ予約してください。


以降、ネタバレアリの感想になります。


あらすじ

1男1女に孫2人という「幸せの模範」のような家庭を築いた主人公の田所治とサチ子。
間もなく定年を迎える治は、定年を機にサチ子に嫁孝行しようと思っていたその矢先に、サチ子が突如この世を去ってしまい、何も手につかなくなってしまっていた……
とにかく元気で明るくて、誰からも愛されたサチ子の四十九日が終わった翌日。
突如として現れたターミネーター的な存在「AIサチ子」。
サチ子は自分の死後、治が自立して生きていけるか不安だったため、生前お世話になった終活アドバイザーに、自分の死後、治や一家のために「死んでからしたい100のこと」というミッションを託していたのだった……

というところから物語はスタートします。


サチ子

まず、物語の軸であるサチ子のインパクトが強すぎます。
いわゆる「オバチャン」的な迫力満点のキャラでありながら、AIサチ子としてはまだ未知で不完全なAIのため、予期せぬところでロボ的な動きもします。
かと思えば、妻として、母として、本当に優しい眼差しをすることもあります。
単なる「元気なオバチャン」という一言では括れない、色んな表情を持つキャラクター、それが「サチ子」でした。
そんな一見わかりやすそうで実は非常に難しい「サチ子」を生き生きと演じられたきむらえいこさんの「怪演」には、終始驚かされっぱなしでした。

特に印象的だったのは、サチ子として最後のミッションを伝えた後のシーン。
とある理由で瞬き一つされなかったあのシーンこそ「AIサチ子」の真髄を感じざるを得ませんでした。

もう一人の主人公。サチ子の旦那であり、田所一家の大黒柱……と呼ぶにはどうにも頼りない人。
だけど、どこか憎めなくて、どうしても気になってしまう人。
その絶妙な頼りなさを演じきった坂内勇気さんもまた、見事というべき、素晴らしい演技の連続でした。
たびたび訪れる、生前のサチ子との思い出を振り返るシーンの、何とも言えない切ない表情。
家族のために奮起した時の、どこか弱弱しそうなのに「大丈夫だ」と思わせてくれる信頼感。
ミッションをすべてクリアする直前、AIサチ子を奪われそうになってしまいそうになった時の、心の奥底から溢れる熱い叫び。

そして、そのさらに奥に秘めていた、本当の想いを吐露するシーン。
そのどれもに、あらゆる感情を揺さぶられました。

田所家と、家族を取り巻く人々たち。

主人公2人もですが、登場人物全員のキャラがとにかく濃いのも魅力でした。

小気味いいテンポ感で「何言ってるの?」という現実を伝えてくる、とってもかわいい終活アドバイザーのお2人。
ギトギトの関西弁で押しまくってくる美女2人組。
もはや何から突っ込んでいいのかわからない、治の会社の後輩たち。
ごくごく真面目に責務を全うしようとする総務省の職員と、どこかズレた後輩。

最初は本当にどうしようもない長男坊だったのに、ミッションをクリアしていく度に、ひとつずつ成長していく田所家の長男・翼。

普段は娘として母として1番頼りがいがあるにも関わらず、キレさせたら1番手を付けられない長女・茜。

最初は1番の常識人かと思いきや、「この家族にしてこの婿あり」と徐々に判明していく姿が爆笑と涙を誘う茜の旦那・優。

無邪気と破天荒を絵に描いたような、茜と優の娘・凛と凪。
カーテンコールで坂内さんが仰っていたように、出演されたキャスト全員が「プロ」であると感じました。

「大切な人の死を乗り越える」ということ。

「ひとつの命が失われる」というのは、それだけでも周りの人々に大きな悲しみを与えます。
ましてそれがかけがえなのない家族なら、その悲しみに打ちひしがれてしまうのは、致し方ないことなのかもしれません。
しかし、残された人たちはその悲しみを乗り越えて生きていかなければなりません。
残された人たちは、どんなに辛くても、手を取り合い、前を向いて、笑顔で生きていく。
それは、去る人の願いでもあり、それを「AIとして復活してミッションをこなしていく」と表現されたことに、不変の命題に対する令和での表現、という魅力を感じました。

「お母さんくらいよ、命日が2回もあるの」
「だからって2回も集まってるうちの家族もどうかしてるけどな」
「いいじゃないですか、こうして皆で集まれる機会が増えて」

この作品の中で、私が最も印象に残っているセリフです。
家族団らんという雰囲気で長男・長女・その旦那でされたこのやり取りに、「大切な人の死の悲しみを乗り越えた先」を感じ、きっとサチ子も「こうあってほしい」と願った姿だったんだろうなぁ、と胸を打たれました。

幸せの形

劇中、ミッションをこなしていく中で、ともすれば聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらいまっすぐに家族どうしが愛を伝え合うシーンがあります。
「フィクションなんだから」と割り切ってしまうこともできますが、言葉で、体で、溢れる笑顔や涙で表現される家族愛は、ある意味では「幸せの模範」のようにも感じました。
何より、フィクションでありながら本当の家族のような絆を、田所家から感じざるを得ませんでした。

人によっては、こんなにまっすぐな姿を「こっぱずかしい」と感じる人もいるでしょう。
けど、表現の仕方は人それぞれでいいと思うし、「幸せの模範」とはいいつつも、あくまで回答例のひとつと考えていいと思います。
けど、これもまた「幸せの形」のひとつであり、「こんな風にまっすぐ愛を伝え合える姿って、いいなぁ」ときっと観劇した皆さんが感じられたと思います。

もちろん、現実にこれを理想として目指さなくてもいいと思います。
だってあまりにも無茶苦茶ですもの(笑)

けど、どんな形であれ、どんな相手であれ、大切な人への気持ちをもっと伝えていきたいなぁと感じました。
そして、いつか来る「別れ」の時に後悔しないよう、惜しみなく想いを伝えていきたい、と感じました。


余談。

私には、私を惜しみなく愛してくれた祖父がいました。
初孫で長男だった私。
誰よりも甘やかしてくれて、もしかしたら両親以上に大切にしてくれたかもしれません。

そんな祖父が亡くなった折には、治のようにただひたすら後悔の念ばかりが押し寄せ、亡骸の前でただただ泣くことしかできなかったのを覚えています。

正直、今でも祖父の墓前に立つのに、少し勇気がいります。
多分、まだ別れを乗り越えられてないんだと思います。

やってあげられたことがまだあったんじゃないか。
もっと大切にしてあげられたんじゃなかったんだろうか。

今でもそんなことを考えてしまう瞬間があります。

けど、今回の舞台を通じ、悲しみに暮れてるよりも、墓前にもちゃんと笑顔で向き合うのが1番なんだと改めて感じさせてくれました。






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