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ヤマノモノの棲む森に畑をつくる

 ふもとの集落では、森から「ヤマノモノ」が出てくるのを集落ごとフェンスで囲って防いでいます。フェンスの向こうはヤマノモノの世界。踏み入れると昼間でも姿を見せてくれることがあります。

 ふもとの集落の人がいうヤマノモノは、森に住むケモノ。主にシカやイノシシのことで嫌がられています。森の中に畑を作っていると、その気配を感じます。

 森の中はヤマノモノの住処なので、そこに作る畑ははじめから金網のフェンスを張っています。シカを防ぐために2mの高さにして、イノシシ対策としては足元を杭を打って固めます。

 台風で倒れてしまったフェンスをそのままにしていたら、ここぞとばかりにシカに入られ、畑の中で作っていた小豆が一晩のうちにほとんど食べられてしまいました。残ったのはシカのフン。倒れて数日は何も変化はなかったのですが、1週間すると入っても大丈夫だと思ったのでしょう。倒れたら数日のうちに直さなければいけませんね。彼らは毎日どこかにスキがないか見張っているようです。

 ある時は、栽培していた大豆が毎日少しづつ減っていくことがありました。僅かに減っているのでなかなか気付きにくい。わかった時には半分近く食べられた後でした。

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 フェンスを飛び越えてくるシカがいるのだと思い、さらにフェンスを高くしてみます。これを飛び越えれるものはいないだろうと思っていたら、それでも減っていくのです。羽でも生えているのか!?

 分からなくなってしまったので、ライブカメラを仕掛けてみました。設置する場所を変えて試して行ったところ、ついに正体が明らかに。その可愛らしい感じと飛び跳ねる姿は、野ウサギ。よく探してみるとコロコロしたウサギのフンが落ちていました。

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 その後も、タヌキやアナグマも写っていました。10cm角の金網でも、頭が入ってしまえば通り抜けることができるようで、小動物に対してまったく無防備だったようです。

 これを防ぐため網目の細かい防風ネットを金網前面に貼っていきました。歯が入らなければ破れないのだそうです。それでも穴を掘って下を潜って入るやつも出てきます。そこで、防風ネットも金網の下に挟み込んで抑え、半分を外側に広げておきます。地面に広げておけば穴を掘りにくいはず。一箇所でも入れたら食べられてしまうなんて守りきるのは大変なことです。

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 この畑のある森は、今では想像できないほど奥までヒトが入り込んでいたそうです。この畑のある場所は集落から500mは入った森の中ですが、そこからさらに500mも奥の沢沿いに石垣が組んであって田んぼの跡があります。今ではその田んぼにも杉の木が生えていました。ここまで細い山道が続いていて昔は牛を連れてきて耕してたんだという話を近所のおばあちゃんが言ってました。こうして森との境界が時代によって移り変わってきたことを見ることができます。

 辺境の森はその領域を確実に広げようとしています。それでも、使われなくなっている田畑から草が荒れ始め、フェンスを飲み込んでつぶしています。飲み込まれてしまっている場所は、結局はヤマノモノが出てきやすい場所になります。

 ヒトが見て心地よいと感じるような「かつて」の辺境の景観は、人にとって都合のよいものでしかないのかもしれない。それでもヒトが暮らし生きていくためには、人間の土地ではない森との持続的な付き合い方を考えていく必要があるように思います。

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