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柏を採りに行って柏を採らなかったけど柏餅を作った話


「柏の葉行かない?」

こんな誘いを受けることが人生に何度とあるだろう。

五月、端午の節句もとうに過ぎた下旬。LINEに飛び込んで来たのは友人からのその誘い文句である。
柏? の葉? に行くとは、いったい……? などなど、様々な疑問が頭を駆け巡る。当たり前だ。急にそう言われてもここで返すべき言葉などひとつしか無い。

「何時から??」

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ということで山に来た。

なんかおもろそうやんってだけで一も二もなくホイホイ気軽に来るのがダチってやつです。ただね、大変でした。
この辺りを説明すると長くなるのですが、短くやんわりと説明すると、
所属するギルド(調理系)の長から“柏餅をするので柏の葉っぱを採ってくるべし”という任務を受けた友人氏がその長より口伝で授けられた採集場所情報を手に山へと踏み込むので山の民の一人である私に同伴しないかという依頼を出した、というのがまず最初の流れです。ウォーー!!! 採集クエスト受注!!!!!

この事実を車中で確認しつつ、そこに向かってるのが冒頭会話イベントの翌日の我々である。
口伝言いましたけども、友人氏は過去に一度だけ長に導かれその場所でその葉っぱの現物を確認したことはあるらしいんですね。これがそうだから必要な時はここに来る、という教えを授かっています。
ただ過去のその一度きりだし記憶も曖昧で、それ故にヘルプを受けた私も当然ながら別にこの世の全ての山に詳しいわけでも無く、つまり二人ともにとってほぼほぼ知らん山なので普通に迷いまくって山までの知らん道をぐるぐる回りまくったあげく車を止めて長々と山を上がる道を求めて右に左に歩き回ったりしてる間に道端にこの時期やたら草原とかで集団でふわふわしてる例のあの草(チガヤ)があったので
「これ食べれるらしい」
とそれを引っこ抜いて齧って二人して味、無っ………と真顔になったりなんだりしてるやや日が傾いてきた頃の我々である。このクエスト終わるんか?

でまぁそんな適当な山歩きをしつつ、木に引っ掛けた日傘の柄の部分がすっ飛んでくなどのハプニングも起こしつつ柏の葉を探してたんですが、これが似てる、と友人氏がある葉っぱを指さしました。
それがツル植物だったんですね。おや? と思い過去に見たという葉っぱの話を詳しく聞くと、
「ツルだった」「丸かった」
と彼女が証言するではありませんか。
なんと我々の探しているものが“柏の葉”そのものではないということが判明しました。

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柏餅の話をしましょう。これは日の傾く中で出会ったネコチャン。

新芽が出るまで葉が落ちることのない木がある。そこに途切れない跡継ぎ、つまり子孫繁栄を見立て願う、縁起の良い食べ物・柏餅。そう、使うのはカシワの葉っぱです。

柏、という漢字で表記される植物、これはカシワはカシワでも実のところ柏餅に使われる葉っぱのカシワのことではなく別のカシワを指す漢字であってじゃあ柏餅の葉っぱのカシワはなんなのかというと“槲”と表記される方のカシワの葉っぱのことらしいとかそういうややこしい話もあるらしいけどまぁ今は要らんので要ることだけ言うと。
なんにせよ、木なんです。柏餅の“カシワ”とは。

決してツルではない。
では、長が柏餅にと所望するツルとは何か?

これは我々の住まう地域そのものが、答えに関わります。
西日本です。現在では物流のおかげて全国的に手に入るカシワの葉ですが、どうもかつての西日本においては、カシワの木の自生が比較的少なかったようなんですね。分布自体は広いようですが、一般人が気軽にむしってこれるとこにある木となると少なかったのかな? まぁ知らんですけど ということで、柏餅と呼ばれるような餅菓子を作る場合、カシワの葉っぱの代用として、カシワでない葉っぱでそれをくるむ地域が多かったようなんです。

そもそも、“カシワ”の語自体が、単純に蒸し料理に使うための葉っぱを指しての呼称、“炊し葉”から来ているという話があります。
調理に使うための葉っぱ、それをどの葉っぱにするかというのは、西に限らず全国どこでもその地の植生により様々であった、という話になるわけで。どんな葉でも使えばそれがカシワというわけです。
つまり葉っぱに包まれていればそれは柏餅。カシワの葉ではない柏餅だって、その場所における柏餅そのもの。それにより名称もちょっと様々になってるとこある話はきりが無いので置いておく。

そしてこの西日本で特に多く、カシワじゃない葉っぱの柏餅に使われているそのカシワじゃない葉っぱいや言い方ややこしいな。ともかく西日本版柏餅の葉っぱの代表とも言うべきそれこそが、先の問いへの解答そのものであり、とりもなおさず我々の探している物ということなのです。

名を“サルトリイバラ”。
西日本民たる我々が今、柏餅の葉としてその辺から採ってくることを求められているのは、それだったのです。

植物あるあるですけどこれ地域で様々な呼ばれ方してるんですよね。例として我々が西日に焼かれながら歩き回ってるこの地・山口県ですと、いぎ、ほてんど、など呼ばれます。山口における柏餅は、いぎ餅なのであった!

という事実をネット検索で把握し合ったところで山を見ましょう。探すべきものが明瞭になった今、見る目も変わります。

「この風景──、思い…出した!!」
と友人氏が前世の記憶からようやく見つけてくれた道を上がる瞬間も来ます。
この辺だと急に目を輝かせる友人氏、見渡せばそこにはワッサーーー、と他の木に絡み付いて広がるツル植物が。

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はい最初の写真と同じ写真です。
いや山の風景とか撮ってる余裕無かったわけ……、撮ってても配慮あるモザイクだったことでしょう。場所特定されちゃうとかネットこわいからね。
で、この中にまさしく目当ての葉っぱが、居ます! 分かりますか!!!!!

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というわけでこれがサルトリイバラだ~!!!

イバラというだけあって、あちこちトゲがあります。
あと写真のものだと茶色くなってますが、2本セットのぴろぴろしたヒゲが葉の根本から出てるのも特徴。カシワとは違い全体的に丸々としてツルツル、平行した三本の葉脈が目立ちますね。
その辺から見分けて、周囲の植物(と自分の肌)を傷付けないよう注意して必要量を用意したハサミで切断あるいはむしっていきましょう。

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むしりました。

完全に山を舐めてる格好ですが山を舐めてすんませんでした。
場所が指定されてるならすぐそこのお散歩レベルかなってめちゃ気軽に行きました。山のモノを採るのだからハサミ以外も軍手とか帽子とかその他装備はしっかりめにするものです。トゲのあるものを掴むとか、その為にはクモの巣が蔓延ってる草むらに分け入らなきゃいけないとか、よくあります。強くあろう。
(念のため言っておきますが、長からの正式な依頼と保証があって、今回のこの場所での採集に至っております。私有地での勝手な採集は控えましょう)

という感じで無事、生きてクエストを達成した我々は、山を後にするのであった。
ありがとう、山、いのち………。


というここまでが導入です。はい。本題に入ります。
誰ですが短く説明っつったの?


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そんなわけで個人的にも数枚頂いて帰ってまいりました。
サルトリイバラの葉っぱでーーーす。

さて、では柏餅に使われる葉を手に入れたらどうするか?

つくろう。柏餅。

今時らしくレンジで手軽にも作れるようですが、せっかくがんばって取ってきた葉っぱなので、がんばっていきたいですね。
ということでレンジじゃない方を調べたら、行程としては単純です。

捏ねる→蒸す→捏ねる→包む→蒸す→食える。

一直線じゃん。イケるイケる。

主材料として用意するのは上新粉です。上新粉か~!! ねぇな~~!!!

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ご家庭に米(上新粉)がねぇなら地元の米(米粉)を食え。

米粉はあった。同じ米の粉なので問題無いでしょう。実際のところ、違いってなん?

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材料です。

・葉っぱ むしったほど
・米粉 150g(内20g程度片栗粉)+白玉粉 50g
・砂糖 25g
・あんこ 25gずつ(つぶ餡(好みによる))

て感じ。米粉はあの………、葉っぱが少ないので四個くらいを作るつもりで100でやろうと思ってたんですが、残りが130とちょっとだったので使いきりたいじゃん? で上新粉に片栗粉入れるレシピそこそこあったのでじゃあそれがいいよってキリが良いとこまで足してみるじゃん? 白玉粉混ぜるともちもちおいしいってレシピもあるじゃん? キリが良いとこまで入れてみるじゃん??

予定の倍に増えたので丸めたあんこが足りないのは目に見えました。
後で足します。あんは市販のあんです。がんばってないわけではありません。市販の、おいしいからね!!!

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まず粉を捏ねていきます。熱湯160ccを数回に分けてヘラで混ぜ混ぜ。
その後は手でまとめてこねこねですが、なんかちょっとべとついたので水分150から始めてみた方が良かったかもしれません。分かりません。初めて作ります。なにもかもわからないけど白玉粉の粒が残らないようにがんばります。

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棒にして切り分けてころころして潰しとく
おだんごの生地ってなんか紙粘土みたいだよね。

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蒸し一回目です。

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ご家庭に蒸し器はねぇのでこのような原始的なお皿オンお皿インザお湯戦法。
なのですが、フタをして蒸してる間、鍋の中でゴトゴトゴトゴトドコドコガコガコガタガタとうっせぇうっせぇうっせぇですわ~!!!!! になったので下で逆さにおいて台にしていた小鉢をまた逆にひっくり返したら静かになりました。先生は伏せたお皿と沸騰したお湯の中で発生する事象について詳しくありません。

蒸し時間およそ15分。この間にあんこ玉増やすとか氷水用意するとかやっとく
で15分後。

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ウォ!!! 蒸せた!!!!

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潰せ潰せ~~~!!!!!!

というターンですがなんか、すりこぎだとわりと抵抗力すごくて、ここで練り込む砂糖もうまく混ざんなくて、しゃーねぇのでちょっと早いけどすりこぎ捨てて素手で行ったら大変熱くて泣きながら捻り潰してまぁここはがんばって捏ねあげます。ぐちゃぐちゃやってたらまとまる

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サッと冷水につけて冷ましてまた捏ねると、ツヤが出るとか

いやめちゃめちゃ労働ですわ こねこねとは労働ですわ
蕎麦も労働だけどあれより手応えすごくて労働。

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出た?

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八つに分けて丸めて、気持ち縦に伸ばして(そこに捨てられたすりこぎがあると人はすりこぎを使う)、あんこ玉を包みます。

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折る感じで。ふち閉じて。
なんかたぶん、葉っぱだけじゃなくあんの包み方にも宗派がある。

これをいよいよ葉っぱで包むと

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ウォ!!!!! それっぽいのができとる!!!!!!!

これは気分も上がります。
大きさが足りたからこうなってますが、小さい葉っぱなら二枚で挟む形になりますかね。閉じ目が見えんのはなんか我ながら雑すぎて閉じ方きったねぇな、となったので閉じ目を下にする方式にしたりしてみたけどまじで宗派によるでは わからん 何が正しいのか あるいは何もが正しいのか 包まれていればいいのか 開いていてもそれでいいのか 正しさとは

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蒸し二回戦目。

ふきんが結べなかったのでこうなってるけどけして褒められた形態ではない

ここは5分とか10分とか様々な説がありますが、まぁ一度蒸してあるので深く気にすることも無いと思いますね。6分にしました。

ストレッチとかしてたらすぐ時間は経ちます。肩凝りってみんなどう対処してる?
そして……、蓋を 開ける…………ッ!

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ウォオオオ!!!!!! できとる 柏餅!!!!!!!!!!!!

あのね!!!!!! ビックリした!!!!!!!!!!!!

においが!!!!!!!!!!!!!!!!!! 蒸すことで爆発的な 匂いが!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

サルトリイバラのポテンシャル!!!!!!!!
開花!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ぶわ~と匂いましたが、さすがカシワに並び柏餅に選ばれた葉っぱ、なんかすごい なんというか 青々しくも 甘味と ほのかな酸味のある お茶を思わせるような 薬みたいな いややっぱ上品な草というか なんか なんだ?? なにこれ???? わからんけどいやなんかすっごい匂いした。

そういやこいつ、ちゃんと薬効もあるようです。漢方とかで根っことか使う。すごい。

労働した甲斐がありました。あちあち言いながら取り出して終了です。お疲れさまでした。もちろんあと半分あるけど葉っぱがないから剥き身で蒸した

ということで

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おめでとうございます。柏餅です。

餅ごと蒸したのでこのような色になりましたが、一番最後に挟んで完成でも鮮やかな青色が清々しくて良いですね。そこも様々な宗派があるけど生葉が調達できるかどうかによるのではそれは
でも蒸してからが匂いすごかった。

改めて手に取っても分かります。柏餅といえばカシワの葉の匂いが醍醐味、そしてこのサルトリイバラ餅も、すごいあのなんか……貧民の私では非常に表現が困難なすごい香りです。香りはあります。

実食

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蒸し立てうっっっま!!!!!!

もちもちのやわやわでほかほかで、出来立てブーストが十分にかかっててあんこは普通に市販ので美味い。
米粉特有の香りも強いです。うーーん、いや不味くなる要素は無いな。甘くなった口にお茶がうめぇ。

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良い体験でした。

柏餅といえばサルトリイバラ。そんな常識もこの世界においては正解です。

間違いなんて気にすることこそ間違いなのかもしれませんね。どんな選択、そしてどんな出来上がりでも、その人にとってはその人の答えそのもの。正しい真実なのですから。

でも山に入る格好とお菓子の分量は間違えないほうがいいよ

おわり