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柑橘類の皮の砂糖漬けを乾燥させた菓子を甘夏の皮で作りたいので作った話

最近のブーム、何ですか?

私は『うちの執事が言うことには』シリーズブームに突入しています。
古くからある金持ち名家の十八歳の若き当主・花穎くんと、二十二歳の新任執事・衣更月による半熟主従のハイソサエティライトミステリー連作短編集、といったものですがこれが急に当主になっちゃったけど大好きなおじ執事のご主人様になれたぞ! やったー!! と思ったら違う男が出てきて誰だてめぇと思ったらてめぇこそお呼びじゃなかったんだわと執事にキレられるところから始まる、同じ男に憧れる男同士のてめぇじゃねんだよ俺の運命は的なギスギスしたぎこちない関係から始まったかと思えばまた別の男が長年の執着心を隠しつつ近寄ってきてハラハラさせられるかと思えばいや運命じゃねぇかーーーーーいと読者がちゃぶ台ひっくり返したくなる真実が判明するなんかもうすごい関係性作品なんですが、関係性といえば子持ちおじに片思いする可愛いようじょとそれを守るお姉さんたちとかまぁ他のとこも色々良くて、とはいえ従者男好きのわたくしの心を掴むのはやはり常にスンと涼しい顔を崩さない崩さなすぎて愛想が薄い笑顔よりもキレ顔の方をご披露してくれるタイプの丁寧敬語長身イケメン武道もいけて料理もちょっとできてバイクにも乗るハイスペ執事の衣更月くんなわけですが、彼の手腕&推理とご主人様の特殊スキル&推理でさくさく進む事件たちは殺人のようなサスペンスではなく盗まれた食器や誘拐事件で気も楽に読めて、その都度進んで……いるのか? たぶんいるはずの主従の信頼関係は微笑ましく、なにより本場英国的な上流階級の暮らしに寄り添う家事使用人の種類や序列や仕事についてもさりげなく学べる使用人ファンにとっても大満足の長くなるのでここで切りますが、読んでいるところです。

 衣更月が沸騰した湯を茶葉に注ぎ、砂時計を逆さにすると、戸棚から瓶を取り出す。柑橘類の砂糖漬けを乾燥させた菓子のようだ。

高里椎奈「うちの執事が言うことには4」p.130

 夏原が柑橘類の皮を口に放り込み、舌に感じる仄かな苦味を菓子の所為にした。

p.132

主人に付き添って訪問してきた他家の執事・夏原氏を、執事としてもてなすこともする衣更月くん。使用人は使用人同士で、一緒にお茶をします。茶菓子をお出しすることも忘れません。
ふむ………………………………………。

はいじゃあ夏の柑橘類を取り出すんですけれども。

山口県、好きですか?
山口県が大好きな柑橘類はあります。そう、夏みかんですね。
なにせ発祥の地です。山口県長門市で爆誕しました。原木も現存しているらしいです、ロマンですね。
そんなわけあって県内のガードレールもその特産品である夏みかんの色に染めてしまうというなかなかに夏みかんに狂った夏みかん国ヤマグチですが、現在の夏みかんの本場(?)になっている萩市に入りますと当然夏みかん一色かと思いきや。ガードレールはまさかの、シックな焦茶色です。狂ってますね。

さて夏みかん愛より景観を取ったオシャレ番長萩では当然、夏みかんの派生お菓子も各社で販売ししのぎを削っているわけですが。

削ります。表皮を。

皮です。皮は重要です。
夏みかんのお菓子の中で、皮を砂糖漬けにして砂糖まぶして乾燥させたお菓子。夏みかんピールとでも言うべきお菓子があります。
かくいう私はこれが大好きでね。
ただのピールと思うなかれ、厚いワタを活かした寒天菓子にも似た食感のイカしたお菓子でして、うちの農林水産省が言うことには。その名も、夏みかん菓子らしいです。

夏みかん菓子。

………………………まぁ真理はついてるので良いんじゃないですか。そのまんまやんけとは言っても良い。

というわけでこれを参考にしながら夏みかん菓子(皮)を作っていきます。
目敏い方は『それ甘夏やんけ』とお思いでしょう。誤差です

『“柑橘類を砂糖漬けにして乾燥させた菓子”は必ずしも柑橘類の皮だけを砂糖漬けにして乾燥させた菓子を指すというわけでもないのでは』ともお思いでしょう。誤差です

皮食ってるじゃん。そうじゃなくても夏になると皮を食べたくなるんだよ。ヤマグチ人は。※個人差があります。

これも萩産

忠告すると、ビニール手袋とか装着した方が良い。
みかんを剥いたときの十倍くらい真っ黄色に染まるだけならまだしも、何かしらの酸の影響か、おててピリピリしてきます。それでも皮を削るのをやめない 充満する香りが濃すぎて楽しむどころではなくなってもやめない

夏みかん(皮)、いい匂いですよね。
柑橘らしく、でもツンツンに尖っているわけではなくほのかな苦味も混ざっているような、そんな感じですか? どうだかな。

ちなみにこの削ってるこれは百均のなんだったか、チーズ削りとかかな わさびかな ともかく形状的にこのような皮削り的な用途には向いていないので、何かしら削りやすい道具を適切に用意するのが正解と思われます。
でないと効率悪くて2個で良かったなとしみじみ思うくらい2個目でもう力尽きてる

手が染まったら四等分に切れ目を入れて上側から剥いでくターンですがしっかり切れ目入れて丁寧にやらないとちぎれるけどまぁ後で切るので

切ります。ワタに付いてる大きな筋は剥いでから4等分です。
上下の凹み部分は表皮も残ってるしワタも潰れてるしなので、いい感じに斜めにそぎ落としとくのを忘れずに。
では忘れずに続々と追い剥ぎしていく

した

適切な鍋でびったびたに水つっこんで沸かす沸かす沸かす

この行程がまた宗派が別れているようで、2分ぐらぐら茹でる→水換え×3セットの人が居るかと思えばいや15分を3セットだとか一度で長時間茹でてターンエンドだとかそれぞれなので私は煮ながらソシャゲで遊んでキリが良くなったら水換え×3セット。
柔らかくなれば良いんじゃないでしょうか。あと皮は苦味がすごいので、これを抜くための行程ですが、ワタが苦味の元でもあるらしいんですね。

でもこの夏みかん菓子、ワタは残します。
なんといってもワタがサビですらある菓子なので。夏みかんの厚いツラを楽しむ菓子なので。

なので苦味取りはしっかりやります。
苦いのやだとか一般的なピールにしたいならスプーンとかでちょりちょり削ぐとよろしいんじゃないですかね。お好みです。

で、最後にまたびったびたに水責めしたら、そのまま一晩さらします。
翌日にまた水を換えて3時間くらい晒し上げ、とかやると良いようですが今回は時間の都合で半日分以上置くことになり、苦味が心配なのと私は柑橘は大好きだが柑橘の口内に残るピリピリ感にやや弱いというのがあり、その間に3回くらい水換えました。
試食したら苦味ってなにになってました。ピリピリはある。

苦味はちょっとくらい残ってると夏みかんらしくて美味しいですよ。別に無くても美味しいですよ。

これは放置時間の合間に中身の方で作ったジャム。
薄皮からちょりちょり実を取り出して砂糖とお茶パックに詰めた種と煮ます。砂糖は50%もいかなかったんじゃないかな。ちょっとゆるめの短期で使い切るソース的なものとして仕上げましたが短期で使い切れるとは限らないのが人生です。

皮に戻ります。

水から引き上げて重さを計ったら、いよいよ砂糖漬けに。

砂糖の割合は茹でた皮の重さの、8割!!!!!

を3回に分けて投入していきます。
これ砂糖で煮るものはだいたいそうしろって話ですよね。一気に煮含めると失敗して固くなります。怖いので4回に分けました。分けた上で煮ては少し冷めるまで放置とかして砂糖がきちんと入り込むようにしましたがたぶんそこまでやらずに良い お前はいつもビビりだ

最終的に辿り着いた効率的な配置

全体に透明感が出るまで煮ます。
砂糖のみなのでひたひたに浸るほどの液体とはならず、ひっくり返したりとかしなければなりませんでしたし汁がほぼほぼ無くなったんじゃねぇのこれというくらいまで煮ることになりました。焦がさなければもう良いんじゃないっすかね。透明感は不安だったけど砂糖煮としての雰囲気さえ出ていれば許されたい

許したのでオーブンペーパーの上で伸ばします。
これ皮を上にするんですよ。そしたらなんかまっすぐになるので。

冷めたらグラニュー糖まぶす つきすぎるのでザルでふるう

 

良いね…………………………………。

もう一気にあの夏みかん菓子っぽくなりましたよ。これだよこれ

これをね、干していきます。

いきたかったです。が。

なんとここで梅雨入りの発表が。(5/29時点)

ばりばり雨降り始めた! うわーーーー!!!!!!

梅雨の前にやるのが望ましいです。湿気は干し物の大敵です。
夏みかんの旬は夏とは付くけど実のところだいたい三月半ばから四月五月の春なので、これをやるならもう春の内にやった方が良い。けど萩外だと萩産がスーパー並ぶの五月だったりもするんだよね。スーパーによる。

さて湿気の中で干さざるを得なくなりましたので、とりあえず扇風機を当ててみることにしました。
寝るまで。

雑な環境

うーーん! 糖衣がカチッとはなっ……てるかぁ!?!?

とりあえず収納。
いやぁ!!! これはもう見るからに柑橘類の皮を砂糖漬けにして乾燥させたあの菓子ですね!!!!!!

ゴールしたと言っても良い光景。

まぁそもそもガッチガチに干すものではありせんのでね。だいたい一日くらい干したら完成らしいですよ。柔らかさが嬉しい菓子です。べしゃべしゃにならなければいいです。

収納して数時間後に確認したらべしゃべしゃに湿気てるものが出たのでド深夜にフードドライヤー出勤させた。
初めからそれでやれ

数時間くらい35度の風に当てました。
フードドライヤーがあると梅雨入りしてからの干し物が救われます。でもフードドライヤーは迂闊に放置すると失敗したりもしたことあるので難しいです。温風だとグラニュー糖溶けそうで怖かったけどそこそこ大丈夫だったからまぁおっけーで。

あとはいっぱいの乾燥剤と一緒にタッパーに詰めて、ほんとに寝ます。

ここまでやるともうやれることはないです。湿気たのはなるべくキッチンペーパーの上に並べるようにしました。給水してくれの祈り

三晩くらいはかかったかな。詰めたまま祈ったのが丸一日。長いですね。この手のものはひたすら掛ける時間が長いです。
でも最初のショリショリ削ったりする処理さえ乗り越えれば、お水に放置ですし暇を見つけて数回に分けて煮るということもできるし渋皮煮ほどの精神集中は必要無くて楽ですね。
渋皮煮はだめだ。本気の時しかやってはならない。

そんなこんなで迎える、梅雨の休日です。
紅茶を淹れましょう。執事も紅茶を淹れていた。
戸棚から取り出した瓶では無くタッパーを開けましょう。アイシングクッキーでも活躍する平たい便利タッパー、わりと百均にある。

それではご覧ください。

『柑橘類の皮の砂糖漬けを乾燥させた菓子』にございます。

祈りのおかげでグラニュー糖もかっちり固まり、キラキラ輝いています。これだよこれ 夏みかん菓子として売られてるあれだよ。

鮮やかな夏みかんイエローはうちの周りのガードレールのあの色です。実際のところは甘夏は夏みかんよりもちょっとオレンジ色寄りなのですが、誤差なので広義の夏みかん色です。美しい。これには本を閉じたと思ったらいきなり推しが人に出した柑橘類の砂糖漬けを乾燥させた菓子を作り出す狂ったヤマグチ人もにっこり。

衣更月くん(182センチA型11月11日生まれ)の厄介なところは、公式で好きなものは「ございません」と断言しているところです。
推しが蕎麦好き蕎麦屋の息子なら蕎麦を打ち出し推しがパエリアを作ればパエリアを作り出す推しの食べ物作って食べたい人な私でも、ございませんと言われてしまえば太刀打ちできません。せいぜい彼が常備しているらしい蜂蜜飴とじゃばら飴を常備してみるくらいです。かわいいね。

あまりにも執事らしく在ろうとしすぎる衣更月くん。個を殺してまでやる彼にとっての執事という仕事とは、というところもまた注目ですね。

私は執事の珍しい食事シーンに注目します。

 衣更月はシュガートングで菓子を摘み、自身のティーカップの皿に添え、懐紙を取り出す。彼は右手で菓子を、左手で懐紙を持って受け皿にし、優雅に菓子を味わってから、再び口を開いた。

p.133

雅かよ…………………………。

相手がご同業でも手を抜かない所作、あまりに好き。
そんなわけで初夏には夏みかん(の皮)を食いたくなるヤマグチ人心が刺激されたというのがこの件の本質ですが、推しが食ってる物なので。食うならこれだよ、になりました。
柑橘類としか書かれていないものの直感的に脳に浮かんだのはもう夏みかん菓子です。夏原氏の名前だって実は伏線、暗示ですよ。夏みかんの夏ですよ。だから衣更月くんも夏みかんをお出ししようと思ったんですよ、ここまでヤマグチ人の思い込みです。

ちなみに甘夏は確かに夏みかんの派生物ですが、甘夏自体が生まれたのは、山口県ではありません。大分の川野さんちです。かわいいね。

では執事のような優雅な食い方はできねぇですが、頂きます。

肉厚な断面。
表皮を削っているおかげで、噛んだ歯を阻む余計な硬さはありません。シャリッとした砂糖層を抜ければ、すっと寒天ゼリー菓子のように噛み切ることができる柔らかさ。鼻を通る雅な香り。
そして甘さ。砂糖菓子そのものな甘さ。舌に残るクソ甘さ、と柑橘類の苦味とピリピリ。

いやぁ。ピリピリを押し流す紅茶が美味いですね。

販売品の雰囲気的に和菓子の範疇だと判定してしまうのですが紅茶でも合いますよこれは。オレンジピールと考えたら紅茶です。紅茶が美味くなる茶菓子です、紅茶うめぇ。

販売品といえばそちらは黄色い皮に混ざって、あおぎりという熟れる前の小さく青い実の輪切りも入っていたりします。それもまたすっきりした苦味と爽やかな風味で美味しいので、食いてぇな。青いのは生で売られて無いんだよな。

行くか。萩。

皆さんも裏切りのオシャレガードレールをぜひ見に行ってみてください。城下町の白壁(とか白くない壁とか)の中、黄色い夏みかんがそこここにぶら下がる風景は、なかなかに雅で面白いですよ。
やはり五月がおすすめです。果実とはまた違う香りの溢れる白い花まで楽しめますし、萩焼まつりとか夏みかんまつりとかあるので。

まぁ五月もう終わったんですけどね。
こんにちは六月。ではさようなら。


追記

夏みかんの花としては花弁が一枚余計なシールでお裾分けした。かわい〜。

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