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【改めて考察】「万引き家族」は何故カンヌ国際映画祭、日本アカデミー賞で賞を総舐めにして、世界中であれほど大ヒットしたのか?

1.「万引き家族」は何故カンヌ国際映画祭、日本アカデミー賞で賞を総舐めにして、世界中であれほど大ヒットしたのか?

今回は2018年の「万引き家族」(監督:是枝裕和)について、改めて再考察してみたいと思います。

何故「万引き家族」はあれほどヒットしたのか?

第71回カンヌ国際映画祭では最高賞のパルム・ドールを見事獲得。

第42回日本アカデミー賞では8冠に輝きました。(最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀主演女優賞、最優秀助演女優賞、最優秀音楽賞、最優秀撮影賞、最優秀照明賞)

日本での興行収入は45.5億円。

それだけでなく世界中で「万引き家族」は大ヒットしました。

アメリカでも興行収入200万ドルを突破。

アジア各国でも同様の人気で2018年は世界中で「万引き家族」の大フィーバーが起きました。

何故「万引き家族」はあれほどヒットしたのか?

それでは「万引き家族」のあらすじから順に解説していくことにしましょう。

2.「万引き家族」(監督:是枝裕和)のあらすじと結末(ラスト)

「万引き家族」に登場する家族は次の6人です。

柴田治(リリー・フランキー)

柴田信代(安藤サクラ)

柴田亜紀(松岡茉優)

柴田祥太(城桧吏)

ゆり※別名:りん、北条じゅり(佐々木みゆ)

柴田初枝(樹木希林)

治と信代の給料、初枝の年金、治と祥太が親子ペアで仕掛ける「万引き」

この4つが家族の収入源でした。

そしてゆりはもともとここの家族ではありません。

物語の冒頭、近所の団地で外のバルコニーで震えているゆりを治は家に連れて帰ります。

ゆりは親に虐待されていたのです。

体中の傷跡を見た信代はゆりを預かることを決心します。

亜紀は「誘拐ではないか?」とゆりを問い詰めますが、

信代は「脅迫も身代金の要求もしていないから、これは誘拐ではなく保護だ」と主張します。

こうしてゆりは柴田家の6人目の家族となったのです。

初枝はパチンコ店で他の客のドル箱からパチンコ玉をネコババ。

祥太はゆりを連れて近所の駄菓子屋で万引きをします。

信代はクリーニング店で衣服のポケットから見つけたアクセサリーなどをこっそり盗んで家に持ち帰ります。

初枝は前夫が後妻との間にもうけた息子夫婦が住む家を訪れ、前夫の月命日の供養ごとに金銭を受け取っていました。

そして亜紀は実はこの息子夫婦の娘だったのです。

初枝はその後死去。治と信代は自宅敷地に遺体を埋め、初枝の年金を不正に引き出します。

祥太はこのような家族の生活にだんだん疑問を感じるようになり、ゆりとスーパーマーケットで万引きをしている最中、ゆりから注意を逸らすためにわざと目立つようにミカンを万引きして逃走し、高所から飛び降りた際に足を負傷し、入院します。

家族は祥太を捨てて夜逃げしようとしますが、警察に捕まってしまいます。

ゆりは元の親のもとに戻され、残りの3人は警察で取り締まりを受けます。

事情聴取の結果、彼らは一人として血縁関係にない、いわゆる疑似家族であることが判明します。

家族は解体し、祥太は施設に入ります。後に祥太は治にわざと捕まったことを告白、治は父親であることを止め「おじさんに戻る」と答えます。

ゆりは元の親のもとでまた虐待を受けるようになっていました。冒頭のシーンで外のバルコニーに追い出されていたのと同じく、そこで一人遊びをしていた時、ふと何かを思い出したように塀から身を乗り出し、何かを見つめる姿の様子を映して、この映画は幕を閉じます。

3.「万引き家族」はあれほどヒットしたのか?そしてこの作品を作った是枝裕和監督の意図は?

「万引き家族」は日本だけでなく世界中でヒットしました。

その理由のひとつは、やはり貧困問題。

何処の国も深刻な貧困問題を抱えています。

富める者と貧しい者との格差はますます開いています。

セーフティネットが十分に張り巡らされていれば何ら問題はありません。

しかし何処の国のセーフティネットも十分でないため、その網から漏れる人達がいます。

そういう人達の何割かは法の決まりを破ってでも、自力で自分のセーフティネットを築こうとします。

そういった企ては大抵はうまくはいかず、最後には破綻を迎えてしまいます。

是枝裕和監督が問いたかったのはまさにこういった「社会の歪み」なのです。

この是枝裕和監督のメッセージは日本人だけでなく、やがて世界各国の人々に伝わり、映画は大ヒットし、多くの好意的なレビューで溢れかえりました。

つまりそれだけどの国でもこのような問題が深刻化しているということです。

4.治は仕事で骨折したが労災は降りなかった

父の治は、仕事現場で脚を骨折しました。労災が降りるはずだから仕事に行けなくても大丈夫と思っていましたが、労災は降りず、結局家族の収入源は初枝の年金頼りになります。

そしてその後の初枝の死を隠しての年金不正受給に繋がっていきます。

5.信代はゆりの誘拐のことを脅されてクリーニング屋を首になる

信代の勤めるクリーニング店が、不況の影響でベテランの同僚と自分のどちらかが首にされそうになり、もう一方のベテランの同僚は実はゆりの誘拐のことを知っており、それを脅されます。泣く泣く信代は仕事を止めざるを得なくなります。

6.初枝の遺体は自宅敷地に埋められ、信代は死亡した初枝の年金を不正に引き出した

初枝の遺体は自宅敷地に埋められ、その死は秘密にされました。信代は死亡した初枝の年金を不正に引き出し、また家の中から初枝のへそくりを見つけだして大喜びします。

そんな家族達を祥太は複雑な心境で眺めています。

その後、治のパチンコ店での車上荒らしに同行した時

「これは誰かのものではないの?」と尋ねます。

つまりこの頃から祥太の心には、もう罪の意識が芽生え始めていたのです。

7.「万引き家族」は現代版の「どん底」である

「万引き家族」はある意味で、現代版の「どん底」(監督:黒澤明)とも言えます。

どちらも貧しい人々が逞しく生きる姿を描いています。

しかし現代社会において、憲法の上では人々は平等でなければならず、法においても適切なセーフティネットが貼られていないといけない(正しく法整備が為されていなければならない)のに、現実は全くそうなっていません。

このことは大いに問われるべき問題でしょう。

是枝裕和監督はこの映画を作るのに構想10年近くをかけています。

それだけ時間をかけてでも、何が何でも取りあげたいテーマであったということでしょう。

それだけに大変見応えのある映画で是非ともお薦めです。


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