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リリック解読: Lupe Fiasco: Jonylah Forever(前置き)

Illinois州のChicagoでもっとも権威ある新聞Chicago Tribuneによると、2018年1月〜12月25日までにおいてChicago内で570名が殺害された
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Chicagoは全米で最も風が強い街、通称Windy Cityと呼ばれている。旧More Than Noiseでも数度取り上げた事があるが、アメリカの経済や文化の中心として栄えてきた大都市である。NBAが好きな読者であれば、Chicago Bulls。MLBではChicago Cubsなど、アメリカのスポーツが好きな人でも一度は目にした事がある都市名だ。

そんなChicagoだが、Chiraqという"別名"が存在するのをご存知であろうか?これはChicago と Iraqを掛け合わせた造語である。Iraqは中東にある国を指している。

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右は現在アメリカと関係が悪化しているIran。左には現在も内戦が続いているSyriaに挟まれるIraq: 中高生が学校で学ぶメソポタミア文明はここを起源とする。2003年〜2011年に起こったアメリカが主導とするイラク戦争の舞台でもある。

Iraqに駐在する米兵の死者より、Chicago内で殺される人数の方が多いという理由で"Chiraq"という言葉が誕生した訳だが、ネガティブな単語やフレーズを"格好良く見せる"Hip Hopらしい言葉遊びである。Chiraqというフレーズは、Dictionary.comによると2009年にKing LouieというChicagoのラッパーが使った事が発端とされている。同年、イラク戦争で戦死したアメリカ兵は148人と言われている。Chicagoはというと、453人が殺害されたというのがabc newsに記載されている事から、あながち数の間違いはないのだろう。なおかつ、Chicagoは"正当防衛による殺害"は殺害とカウントされていない為に死亡者数は増える事が予想される。2011年にはKing LouieがChiraq, Drillinoisというタイトルで曲も発表している。

余談だが、DrillinoisはIllinoisとDrill(Hip Hop/Rapの中にあるサブジャンル)を掛け合わせた造語である。ChicagoのHip Hopには"Drill Music"というジャンルが存在している。上記リンク曲はまさにDrill Musicである。

さて、そんなChiraqはKanye WestやNicki Minajといった所謂メインストリームラッパー達の"宣伝"によって全米に広がっていった。そして、アメリカ映画界で有名なSpike Lee監督のChiraq(という映画)も手伝って、"Chiraq"という言葉がどんどんと1人歩きしていく。

勘違いしないで欲しいのは、Chicago全土の治安が悪いと言う訳ではない。South Side(南部)とWest Side(西部)がこの街の死亡率を顕著にあげているのである。その中で、読者に覚えておいて欲しいのがSouth SideにあるEnglewoodという場所である。

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Chief KeefやLil Reese、Lil Durkといった"Drill Music"を代表するラッパー達が生まれ育った貧困地区だ。また、NBAスターのDerick Roseもここの地区出身である。

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Englewoodは毎週どこかで銃撃があるとされ、Googleで【Chicago Englewood】と検索しようものなら日々殺人事件が更新される恐ろしい場所だ。

前置きの前置きはこの辺りにしておいて、リリック解読として紹介するLupe Fiascoについて少し触れておこう。

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Lupe Fiasco(本名Wasalu Muhammad Jaco)は1982年にChicagoのWest SideのMadison Terraceに生まれた。彼の経歴を書くととてつもない量になってしまうので、ここで覚えておいて欲しいのが、彼の父がBlack Panther党の一員だった事である。この党は黒人民族主義(簡単に書けば黒人が他の民族よりも"主体"となるべきと考える主張を信じている)を理念としていたことだ。Black Panther党はCalifornia州のOaklandで誕生しており、実際Lupe Fiascoが出したアルバムFood & Liquor 2のAudubon BallroomのOakland militantsはBlack Pantherを指している

Lupe Fiascoはイスラム教徒として育てられ、彼が住む隣の住人がドラッグの売人だった事から、父に「銃を持って武装しろ」と教えられた過去がある。18歳からミュージシャンとしてのキャリアをスタートしたLupe Fiascoは、Kick, Pushという曲でアメリカのHip Hop界で注目を集める事となる。

Atlantic Recordというアメリカの大手レコード会社と契約を交わしたがいいが、会社からは「売れる音楽を作れ」と言われ、本人は「自分がやりたい音楽を作らせてくれ」と揉める事となる。結果的に、2006年にリリースされた(Kick, Pushを含んだ)Lupe Fiasco's Food & Liqupur から2017年のTetsuo & Youthまでの計5作のスタジオアルバム発表後、彼はAtlantic Recordを去っている。Drogas Light(2017年)の後にDrogas Wave(2018年)という、本記事のタイトルにあるJonylah Foeverが収録されているアルバムがリリースされた。実は、このJonylah Foeverは2013年に既にネット上に発表されている。このタイトルを直訳すると、「Jonylah、永遠に」となる。では、このJonylahとは一体誰なのか?

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Jonylah Watkinsは生後6ヶ月で亡くなった実在の赤児である。彼の父親はギャングの一員とされており、他者からゲーム機を奪った"報復(英語でretaliation)"として殺された。この殺人事件はChicagoのSouth Side、Woodlawnで起こった。その場にいたJonylahは5発の銃弾を受け、その後病院で息を引き取ったのだ。この事件が起こったのは2013年である。彼が2018年にリリースしたアルバム Dragos Waveに敢えて収録したのはどうしてだろうか?

この曲はJonylah Watkinsの追悼曲である。「彼女がもし現世で生きていたら」という事を津々浦々にLupe Fiascoはrapしていく。次記事のリリック解読本編で、Lupe Fiascoの重たい想いを実感してくれれば幸いである。最後に、You Tube上にあったネイティブ(英語を日常的に理解している)リスナー達のコメントを紹介してこの記事を終わりにしたい。

「この曲の最後で、私の神経がぞっとした
偉大なラッパーは生きている
この曲ほど感情に浸った曲はない
「自分の赤児を抱きながら、この世界は暗く乏しいものだと感じる。
この世代の人々に祝福があらん事を
彼は我々に気付かせてくれるのだ。
「この曲はJonylah Watkinsの為のものだ。
彼女は悲劇的な死を遂げてしまったが、
彼の曲では別の人生を歩んでいる。
「この曲は最高だ。特に最後のverseだね。
彼女は彼女自身を本当の意味で救ったんだ。
「これだからLupeが好きなんだ。
目を瞑りながらこの曲を聴くと、この出来事が頭の中で想像される。
「アルバム(Dragos Wave)の中で好きな曲だ。
ストリーテーリングも然ることながら、
リリック的にとても惹付けられる。
「とても力強い曲だ。」
Lupeにしか書けないリリックだ。

では、リリック解読に移るとしよう。Lupe Fiascoの願い、そして願いを読者も実感して欲しい。

                            Article by YA

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