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【ミッドオーボン・ナイツ・ドリーム】

「「イヤーッ!」」弾丸と粘液がほぼ同時に、別の方向からニンジャスレイヤーに襲いかかった。足元には既に固まりつつある水溜まり。回避不能。

「イヤーッ!」さらに、赤熱した刃が迫る。手にあるボーで受ければボーごと焼き切られるであろう。回避不能!

「アババババーッ!?」踊り続ける奴隷ボンダンサーが悲鳴をあげた!もはや一刻の猶予も許されない!時間が泥めいて 凝る!

数分前!

行方不明者が一箇所に集められているという情報を元に廃テンプルに踏み込んだニンジャスレイヤーを待ち受けていたのは、奇妙な粘液によるアンブッシュであった。

卑劣なるニンジャ、スウィートデスがミズアメ・ジツと呼んだこの粘液は刺激によって急速に凝固していった。ニンジャは奇形キンギョめいた頬袋に再び粘液を溜め始めた。

間髪入れず打ち込まれた弾丸を、ニンジャスレイヤーは受け止めた。先ほどテンプルの戸をこじ開けたボーだ。咄嗟の防御で生じた隙をつかれ、無事だった足にも粘液が吹きつけられた。

「スッゾオラー……」シューティングギャラリーは空になった猟銃にネンリキで弾をこめる。その数、五挺。 彼の周囲に浮かんだ銃が狙いを定める。サンダンウチ!

「儀式の間に土足は勘弁願いたいな」部屋の奥にザゼンするシャーマンめいたニンジャ。彼を囲むのは踊るモータルの輪だ。何らかのジツにより強いられているか。「頼んだよ、ヒートスライサー=サン」

「オヌシがニンジャスレイヤーか」進み出たニンジャの手には真っ赤に熱せられた異様に幅広な剣。「……我が剣、テッパンヤキを受けよ。イカケバブになるが良い……!」「「イヤーッ!」」

時間が戻る!粘液が、弾丸が迫る!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはボーをバトンめいて回転!狙うはミズアメ粘液!「ヤッツケター!」「イイイヤアアアーーッ!」

……読者の中に本物のワタアメ職人の絶技をご覧になった方はおられるだろうか?おお、見よ!回転するボーに絡め取られ、伸ばされ、撹拌されたミズアメは空気に触れて繊維状に固まっていくではないか!

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはそのままシューティングギャラリーの方向を振り返り、ワタアメを打ち振る!蜘蛛の巣に飛び込む羽虫めいて絡め取られる弾丸!

「「馬鹿な!?」」両者は想定外の事態に狼狽!再装填の隙!突き進むヒートスライサー!そこに投げつけられるワタアメ!「チィーッ!」「イヤーッ!」

反射的にワタアメを弾き蒸発させたテッパンヤキ、その刀身にニンジャスレイヤーは掬い上げるような変則ボディチェックを繰り出した!身を焦がす炎熱!内より燃え上がる黒い炎が押し返す!

「グワーッ!?」跳ね返された灼熱をまともに受けたヒートスライサーは肉を焼かれ苦悶した。そこへ、拘束ミズアメを溶かしながら踏み込んだニンジャスレイヤーがさらに押し込む!「グワーッ!」

「スッゾオラー!」BLAMBLAM BLAMBLAMBLAM!猟銃斉射!「イヤーッ!」ヒートスライサーを押しつけたまま、燃え上がる鉄板を盾に死神は突進する!KRAAASH!そのまま射手を巻き込んで壁に衝突!なおも押し込む!

「「アバッ、アババババババーッ!」」ダブル・イカケバブ・サンド!「イ、イヤーッ!」「イヤーッ!」振り向きざまに投擲された炎熱刀が粘液弾諸共スウィートデスの鼻から上を切り飛ばした!サツバツ!「「「サヨナラ!」」」

「……やれやれ。オーボンの夜に血なまぐさいやら焦げくさいやら、騒がしいことだ」踊る輪の中心でザゼンしていたニンジャがゆらりと立ち上がる。

「死にゆくオヌシへのセンコと知るが良い。ドーモ、ニンジャスレイヤーです」「ドーモ、ムカエビです。あと少しの辛抱だというに、気が急いてならない」

(((ニンジャの接近する気配。これ以上遊びはならぬぞ)))ニューロンの奥深くでナラク・ニンジャが戒める。「増援でも呼んだか。アノヨへの道連れがまだ足りぬと見える」「増援。はは、増援!違いない」様子がおかしい。「何を考えている」

「考えてもみるが良い。今でこそオールドオーボンといえば真冬だが、そもそもオヒガンが近づく至は年に一度ではない……」ムカエビは半ば陶然として言う。(((ニンジャソウルが近づいている……否!これは……!)))ニューロンの悪鬼がざわめく。

「……古い言い方をすれば一種の降霊術だな」ムカエビは周囲の奴隷ボンダンサーを一瞥すると、立てた人差し指を空中で回してみせた。漂うインセンスの煙が、渦の中へ吸い込まれてゆく。「ニンジャを降ろすともなれば供物はかさむがな」

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは焦げた身体を強いて、跳んだ。「イヤーッ!」応じたムカエビと組み合った死神のメンポがバキバキと音を立てて牙を剥いた。コワイ!

「この気配……?はは、どうやら君もまともな存在ではないようだな!」ムカエビも押し返す!だが、「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーが押し勝ち両肘破壊!

「大したものだな……だが、フーリンカザンは既に私にある」ムカエビの目が光る!「アバーッ!」奴隷ボンダンサー絶命!染み出たエクトプラズムめいた光が目の前のニンジャへと吸い込まれていく!

「……フー!おかげでつまみ食いなぞする羽目になる」両肘再生!一撃で殺すべし!だが……次第に押し返されるニンジャスレイヤー!ムカエビの力が増している!

(((これはイタコ・ニンジャのクチヨセ・ジツぞ!降ろしつつあるソウルの前借りをしておる。これ以上力を得る前に必殺せよ!)))(それを今やっている……!)

いや増す敵の力を前に、ニンジャスレイヤーは力を振り絞る!そこへ、「イヤーッ!」「グワーッ!」痛烈な頭突きが彼の顔面を捉えた。吹き飛ぶニンジャスレイヤー!メンポが軋む!「もはや、君に私は倒せない」

「アバッ、アバッ、アバババーッ!」踊り続けていた奴隷ボンダンサーが次々に倒れる!そして……おお、ナムアミダブツ!口から漏れ出た光は輪を描いてなおも飛び続けているではないか!なんたる悪夢的光景か!

「殺す……べし……」譫言めいた殺意に呼応するかのように、ニンジャスレイヤーのメンポが不吉な形状へと再構築されていく。「それがナラク・ニンジャの力か?厄介ではある。だがそれが切り札となる時は過ぎた」燻る不浄の火が、死体の焼けるような異臭を放ちながら宿主の肉体を修復していく。

「そも、私と君とで何が違う?何に憤る?」喋りながらムカエビはサークルの中心へ再び戻り、油断なくカラテを構える。「非ニンジャを薪に傷を癒し、さらなる死を撒き散らす。その果てに何が残る?君だけが消えれば、これ以上人が死ぬことは無いのではないか?違うか、人食いの悪鬼よ!」

「……オヌシのような」「何?」「……オヌシのような!」ニンジャスレイヤーの身体が真っ黒に燃え上がる!「ニンジャが!いる限り!」二人の周囲を旋回していたエクトプラズムまでも、憎悪の色に燃え盛る!「これは……グワーッ!?」狼狽えるムカエビの胸が、内側から燃える爪に掻き破られた!好機!

彼は、襲いかかったニンジャスレイヤーにマウントポジションを取られながら、モータルから搾り取った己の力が急速に燃えて尽きていくのを感じていた。そこへ、死神の拳が振り下ろされる!

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

「待て!私は雇われていただけだ!ヨクバリ計画の……」言いかけたムカエビは、死神の底知れぬ深怨に煮える目を見、悟った。もはや手段は選べぬ。何としても倒す。ゆえに、召喚したニンジャソウルごと自爆する!

「ヒサツ・ワザ!」「ニンジャ……殺すべし!イヤーッ」無慈悲きわまるパウンドが一瞬早く顔面を砕いた!切り札は遅きに失した。インガオホー!「……サヨナラ!」爆発四散した名残を、戸口か吹き込んだ風が吹き散らした。

廃テンプルに再び静寂が戻った。憎悪を鎮めるように、ニンジャスレイヤーはその場に立ち尽くしていた。ムカエビの身体から漏れ出た光や鬼火めいたエクトプラズムは次第にその輝きを減じ、煙とも煤ともつかない朧となっていく。

オヒガンが近づく夜特有の現象か、降霊のジツの影響か、あるいは自身の幻覚にすぎないのだろうか。時折人の面影を淡く浮かべるソウルの墨絵は、あるものは夜風に吹かれ、あるものは黒い炎に溶けて消えていった。

ふとフジキドは、己の袖を掴む存在に気づいた。幼子の影と、それを見守る母の影を、フジキドは何も言わず見つめた。声を出せばそのまま散ってしまうように思われたからだ。

虫の声も無い、静かな夜だった。
二つの影が炎の中に溶けていったあとも、彼はしばらくそうして立っていた。

【ミッドオーボン・ナイツ・ドリーム】終わり

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