短編小説「彼の宇宙」(全文無料)
彼は眼を開けていた。
薄暗い部屋で横たわり、闇の中で天井の向こう側の景色を見ていた。
人は誰も生まれながらに孤独だ。
何かをきっかけに「孤独になる」というものではないし、孤独に優劣はない。
だけど、彼は今、その記憶の中で器用に笑う人達より、ずっと孤独であるような気がしていた。
窓の向こう側からは、車のエンジン音が聞こえては消えていく。
闇から闇へと走り抜けていくドライバー達もきっと孤独に違いない。
何処へ行こうとも。誰と居ようとも。
孤独を「分け合う」ことなんてない。
そもそも、孤独を分け合うことなんて出来ない。
誰と過ごしたって、誰と触れ合ったって、何一つ変わることはない。
彼は独り、あなたは独り。言ってみれば孤独という小さな光が二つ、其処にあるだけだ。
闇を恐れる人達がいるけれど、誰も闇に傷つけられることはない。
だから、闇は何も恐くない。
本当に恐ろしいのは闇よりも人の心だ。
孤独をより一層引き立たせるのもそうだ。
闇の中、彼の眼には天井の向こう側の見えるはずのない星や月が映っていた。
果てしない想像力は彼の宇宙をより深くして、それこそが彼の救いでもあった。
浅はかな想像が人を傷つけることを彼は知っている。
深い想像の奥底に眠る真実を彼は求めている。
時間の経過に比例することなく、無限に広がっていく彼の宇宙……。
そして、ゆっくりと、今日が沈んでいく...。
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