目前心後

「目前心後」という言葉は、なじみのない言葉だと思いますが
もんての座右の銘です。
 
以下は 自分で調べたりしたものですが、
引用があることを 先に断わっておきます。

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「目前心後」

『目前心後』という言葉を表した世阿弥という人は
600年も前の超有名な能の役者・能作者です。
近代の哲学者のように(デカルトなど)精神と物質の二元論を
考えたわけではないと思いますが、
ものごとを「二つ」<表裏・陰陽などのように>に分けることで
対象を明晰に分析し理解しようとした人ではないかと僕は思っています。
「一つ」だけの結論ややり方に陥ることを
避けようとするための二元論の人だという事です。

その極致が 伝書『花鏡[かきょう]』で
世阿弥が説く「離見の見」だそうです。
それは舞の舞台全体の流動に身をまかせている演者が
陥りやすい陶酔や一元的な演技に釘をさす
演劇的二元論だと考えられているようです。

「箱崎」(世阿弥作 シテ・観世清和)

舞に、目前心後といふことあり。
「目を前に見て、心を後ろに置け」となり。
目前左右までをば見れども、
後ろ姿をばいまだ知らぬか。

舞を舞う演者である自分は、目前や左右までは見ることができる。
しかし自分の後ろ姿まで見ることはできない。

ここで世阿弥は、「離見」(自分を見られているさま)と
「我見」(自分の見ている目に映ったさま)という概念を持ち出します。

見所より見る所の風姿は、我が離見也。
しかれば我が見るところは我見也。
離見の見にはあらず。
離見の見にて見る所は、則、見所同心の見なり。  
其時は、我が姿を見得する也。

つまり、観客が舞台上の自分を見ている視線と同じ見え方で考えて
自分自身を見て(想像し見通して)、
自分の眼では決して見ることのできない、
自分の後ろ姿まで見よ、
自分の姿の全体を捉えなさい、と言っているのです。 

自分が演じている姿を自ら感じるのは「我見」です。
観客席から自分の演技を見るのが「離見」です。
その「離見」をさらに後ろから見ているように意識しながら
全身に意識を通して演じなさい。という事にもなります。

  <離見の見にて、見所同見となりて、不及目[ふぎょうもく](肉眼の届かない)の身所まで見智して、五体相応の幽姿をなすべし。>

役者は、演じている自分とそれを客観的に認識している自分を
つねに合わせ持たなければならない。
 演技や役に没入する自分と、
それを醒めた目で見つめる自分との二重性を生きることが、
すぐれた役者の要件だというのです。

世阿弥はおよそ600年も前に
「目前心後」を『花鏡』のなかで『離見の見』と呼びました。

もちろん、これは、能の舞だけにとどまらず、
全ての人間の心身のあり方に通じるものだと考えます。
人生の生き様をどう演じきるかに通じるものであると。

人は当然、目の前を見て判断し考えて行動しますが、
同時にもう一つ心の眼で自分の後ろ姿も、いいえ、
自分の全体の姿をも見よ、という教えです。
前を眼で見、後ろも心で見る、
これは悟りにも近いゆとりある心ではないでしょうか。    

世阿弥のような境地に到達するのは凡人である我々には、
なかなか難しいかもしれませんが、
 
辛い時、苦しい時、
ふと一歩離れて、自分を見つめ考えてみる。
その中から本当の優しさや厳しさも
自分が思い込んで決め付けてきた考え方も
自分がしっかり生きていこうとする目的も目標も
生まれてくるとは思いませんか。

しかもそれを考えるにあたって

自分を見ている観客(相手)が
どう思っているのか、
どう見ているのかを想像し、

それが
醜いもの(みにくい)であるかどうか、
邪(よこしま)なものではないかどうか、
卑しく(いやしく)ないかどうか、  

を道理や道義に照らし合わせて

自分の行動を見つめなおし、
常に改めながら生きていく事が真っ当な人生を送れる方法だと考えます。

うまく行かなくなった時は、皆さんも『目前心後』してください。

相手の気持ちになって自分自身の所業を省みて
相手が何を望んでいるのか、
自分のどこがいけないのか、
焦らずに考えてみましょう。
そうすれば、後手後手にまわる事の無い10手先(自分の未来、将来)の
先手(対処法)が見えてくると思います。

これは自分自身の人生も国と国の付き合いも同じ
各々一人ひとりが 相手を含む世界を自分を含む立場になって 

近江商人が考えだした「三方よし」より、さらに上の「四方八方好し」で
世界を見つめ直し、行動していかないとならない時代になっていると
心の底から感じる今日この頃です。

もんては、これからも自分の周りを361度見渡し、
全天と足の裏側まで見透せる「目前心後」で生きて行くつもりです。

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