大学合唱団の新歓は難しい

新歓の目的は新入生を団体に確保し、その団体を維持継続することにあるのだから、新歓のイベントは新入生のためではなく、むしろ在部生のためのイベントである。

このことを念頭において、「在部生のための新歓」を考えたとき、「どういう新入生がほしいか」はその団体の在部生の意思によって決まる。

しかし、コンクールで華々しい成績を挙げるわけでもなく、毎月コンサートを開催するわけでもないような大学合唱団においては、「在部生の意思」といっても在部生も一枚岩ではない。

・高校から合唱部で大学でも本格的な合唱をやりたい者
・合唱部ではなかったが自らの音楽経験を生かして本格的な合唱をやりたい者
・特に音楽経験はないが大学で本格的な合唱をやりたい者
など、本格的な合唱を思考する者達と

・とにかく仲間がほしい/ご飯奢ってくれる先輩(カモ)がほしい
・器楽or体育会よりは楽そう
という事情で入団した者がおり、またその活動形態も週3回の練習に欠かさず来られる者から、月に1回がやっとの者まで多種多様である。

大学合唱団は合唱団である前に大学の課外活動団体なので、その団体の同一性を害しない限りにおいて様々な背景の学生を受け入れることが要請される。したがって、どのような意思で入るか、どのような活動形態ならとれるかということにつき、原則として優劣は不存在であり、例外的にその団体のビジョンにより、新歓の際や退部勧奨を行う基準として一時的に設定されるに過ぎない。(たぶん)

「ハーモニー」1月号(全日本合唱連盟)のいうように、令和5年度の全日本合唱コンクールではユース団体が台頭し、大学合唱団がある種厳しい立場に置かれていることがわかった。ここで、大学合唱団はユース団体とは違った役割が求められるようになった。その1つは、「大学から合唱を始める者にとって過ごしやすい合唱団を作り、成功体験を与え、生涯にわたり合唱を楽しむ人口を増やすことに寄与する」(以下、「合唱界全体の要請」という。)ことである。

しかし、大学合唱団で技術系を担当する層はユース団体の中心となる層と重複し、彼らがやりたいことと、大学合唱団が求められていることは異なる。彼らのやりたいことの中心は、(おそらく、)「より音楽的に価値の高い演奏活動を行う集団に大学合唱団を変えていく」ことであり、そのことはしばしば「大学から合唱を始める者にとって過ごしやすい合唱団を作」ることと衝突する。(そのことに自覚的であるか、自覚していないかはまた別の問題としてある…。)

もちろん、大学合唱団が合唱界全体の要請に全面的に従う必要はない。大学の課外活動団体としての要請と合唱界の要請はしばしば衝突するため、どちらを重視するかはその団体が総合衡量により決するべきであるからである。


とはいえ、誰が総合考慮するの?となるとき、幹事学年が中心になって、(一枚岩ではない)在部生で決めるわけで、その方針は予測不可能である。だからこそ、腰を据えて、対話をするべき…ではあるが、次から次へとやってくる行事にきちんと対応しようとするとおちおち対話の機会も持てない。

(4年に一度団員が100%入れ替わる大学合唱団の宿命でもあるが、)きちんと活動しようとすると、1年間は短すぎる。新歓って難しいね。


(2024.3.12 23:44加筆)
従来からこの問題はあったと思うけど、あの感染症の制限から脱する過渡期に幹事学年をしていた者としては、「自由の味をしってしまった」せいで学生の興味関心があちこちに向いているという点は否定できないと思う。

つまり、自分の唯一の所属団体が活動制限を食らうのを恐れて、複数の団体に所属してリスク分散を図ることが学生の間で一般化し、「大学合唱団」を他の学生団体との間で相対化してみるようになったことで、合唱団に専念できない人が増えたのではないか。(以前のことはわかりませんが。)

学生個人にとってはいいことのような気がするけど、大学合唱団にとっては厳しい時代になってますね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?