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ブロックチェーンとフェミニズム

 コンティンジェント研究所は「世の中を今よりも少しわかりにくくする」ことをミッションとして2018年に設立されました。

 今回は、ブロックチェーンとフェミニズムの類似点について話をします。キーワードは「自己言及」です。

 まず「自己言及」といえば、なんといっても「自己言及のパラドックス」が有名です。”あるクレタ人が「すべてのクレタ人はみな嘘つきである」といった”というもので、「嘘つきのパラドックス」とも呼ばれています。

 ですが、今回の記事で扱う「自己言及」は、嘘つきのパラドックスほどは単純ではありません。ここでは「自己言及」の意味を拡大して、「何かをする場合に、常に自分自身と関わりながら、その何かを行うこと」と定義しておきます(なお、このような定義を採用する根拠と妥当性については、社会学者ニクラス・ルーマンの著書が参考になります)。

 これはかなり抽象的な定義ですので、「具体的にどうなるか」をいちど確認しておいたほうがよいでしょう。上の「嘘つきのパラドクス」に照らし合わせてみます。そうすると「あるクレタ人の発言が、クレタ人自身にも適用される」こと、つまり自己言及になっていることがわかりますね。

ブロックチェーンは自己言及のネットワークである

 少しつずつですが、ここから本題に入っていきます。

 ブロックチェーンは分散型のネットワークであるといわれています。この記事では一言補足して「ブロックチェーンは自己言及のネットワークである」と定義します。

 もう一度、具体的に確認してみましょう。Wikipediaによれば、ブロックチェーンのネットワークを構成するブロックは「その一つ前のブロックのハッシュ値を持っており、そのハッシュ値を遡ってたどることで、ブロックが、どのようにつながっているかをたどることができる」とあります。

 ネットワークの構成素が、ネットワーク自身についての情報を保持し、ネットワークを連鎖的に形作っていく。これを見れば、ブロックチェーンとは自己言及のネットワークである、といってよいでしょう。

 ところで、ハッシュ値とは元データを不可逆に記号化したものです。元データを特定のアルゴリズムを用いて変換することによって、固有のハッシュ値が生成されますが、固有のハッシュ値から元データを復元することはできない、という特徴があります。

 専門的な説明は避けますが、ただ元データをハッシュ化するだけでは、生成されるハッシュ値はランダムに見える文字列になります。一方で、ネットワークにはある程度の秩序、規則性が必要です。

 ネットワークでは、ランダムなものに共通点を与えて、組織としてまとめ上げねばなりません。また、そうしてできたものがネットワークである、ともいえるでしょう。

マイニングがしていること

 繰り返しますが、元データを単にハッシュ化するだけでは、そのあとに生成されるハッシュ値はランダム(に見えるもの)になります。ですが、ネットワークの中に組み入れる際は、生成されるハッシュ値が、特定の規則に従っていたほうが都合がよいのです。

 ブロックチェーンにおいて、この「規則性」の問題解決に寄与しているのが「マイニング」というプロセスです。ここでも専門的な説明は避けて、ざっくりいわせてもらいますが、ハッシュ値を特定の文字列を含むものにしてくれるような調整値を探し出すのがマイニングです。

 元データ×ハッシュ化=ランダムなハッシュ値
(元データ+調整値)xハッシュ化=ランダムだが有意味なハッシュ値

 ハッシュ化する前に調整値を付け足すことで、たとえば「必ず文頭に0が3つ連続で並ぶ」とか「必ず末尾が334になる」といった特徴を持つ、システムやネットワークにとって有意味なハッシュ値を生成することができます。

 この際、どんな調整値を付け足せば良いのかは、事前にはわかりません。元データによって答えが異なります。そこでマイニングは膨大な量の計算をしているわけです。

 つまり、マイニングとは「どんな元データからでも・特定の文字列を生み出せるように・ハッシュ化の調整値を探す作業」だということができます。

マイニングと学問の屁理屈は同じ

 これって何かに似ていませんか? そう、学問全般です。この記事では具体的にわかりやすい例として「フェミニズム」を挙げておきましょう。

 たとえば、ここに「男が何か言っていた」という元データがあります。この元データから「これは差別である」という結論を引き出したいと思います。そのために学者は調整値を計算します。これを可能にする理論的枠組みと、それを用いた活動こそが、フェミニズムの特徴というわけです。

 もう一例をあげてみましょう。どこかに「女が何かを言っていた」という元データがあります。その元データから「これは差別ではない」という結論を引き出したいと思います。そのために学者は調整値を計算します。元データに調整値を加えることで、特定の結論を導き出すことができます。これもやはりフェミニズムです。

  ネットでは「フェミニズムは矛盾している」という批判をよく見かけますが、上のような1.「計算の枠組み」を持ち、2.「調整値の算出」を行なう、システムとしてフェミニズムを理解すると、そこに矛盾はないことがわかります。

 「どんな元データからでも・規則性のある結論を作り出せるように・調整値を探し出す」ことが、自己言及的なネットワークの存続にとっては、とても重要です。これこそが生存の秘密といえるかもしれませんね。

学者の仕事もAIで置き換えられてほしい

 今回はブロックチェーンとフェミニズムの類似点について述べてきました。ですが、フェミニズムに限らず社会科学系の理論全般についても、同様のことは当てはまるでしょう。

 これをITが進歩したと捉えるか、学者も大したことはしていないと捉えるかは、人によって判断がことなるでしょう。私はどちらかというと前者ですが、そのうち「結論が決まっていて、調整値を探し出すようなことばかりしている」学者は、AIにとって代わられたらおもしろいのになあ、と思っています。

 実際、Twitterを見ていると、フェミニズムによる調整値のマイニングは、すでにネットワーク上で行われているようなにも思えますね。

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