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困窮層DE京大出身の今昔物語 黒のピース1「困窮層ジェンガの入手方法」



夜逃げ先の広島県にあるどこかの山中で僕は、4歳の誕生日を両親と過ごしていた。



大阪から逃げてきた車を両親はまだ葉っぱのついた木の枝やら蔓のようなものを引っ張ってきて隠していた。



車の中にあった銀色のバケツをボンネットにおいて、雨水を確保し、下山した父が賞味期限切れの菓子パンやおにぎりを1日に1回持ってきてくれる生活が続いて20日くらい経った頃だった。



夜の風の音や、鳥の鳴き声らしきものや、動物の移動しているであろう音を怖いと思うどころか、どこかその音にも安心した頃。



その日は、父が賞味期限切れの三色団子を三本を左手に、右手に何やら黒やら白やら積み木のようなものが透明のプラスチックの細長い入れ物に放り込まれていたものを持って帰ってきた。



泣き疲れてやつれた母と、誇らしげな父の顔はあまりにも正反対だったが、僕は4才の誕生日のお祝いに一本の三色団子を食べることを許された。



いつも、食事は必ず父から食べることがルールだったにも関わらず後にも先にもこの日だけが父と食卓を囲んだ中で、唯一僕が最初に食べ物を口にいれた日だった。



初めて見た団子と呼ばれるものは、ほんのり甘く表面がパリッとしていて美味しかった。



食べ終わる前に、父は拾ったというおもちゃを誕生日プレゼントにくれた。



僕の誕生日の贈り物は、父が広島県のどこかのゴミ捨て場から拾ってきた全部で11ピースのジェンガというおもちゃだった。



それは元々は木のような色をしていたと思われるが、上から恐らく子どもがマジックで8ピースは黒色に、3ピースは修正液で白色に塗りたくったものが入っていて、父に遊び方を教わった。



本来は3本づつ並べて、積み上げていくらしいが、ピースが全然足りなかったそのジェンガは綺麗に並べて最大で4段という代物だった。



手が不器用だったらしい僕は、一本のピースを抜くこともできず、結局いつもいつも音をたてて倒してしまう。



上手く1本を積み立てようとするにも、地面の上や後部座席のシートの上ではささいなことで倒れてしまう。



それでも僕は、少しでもその塔を高くしたくて1日のうちに何百回もジェンガで遊んでいた。



たまに、父と下山して食べ物を貰いに行くこともあったが、通報されることを心配した母は基本僕とその山中にいた。



その間、僕はこの父のくれたジェンガばかり狂ったように積み上げようとした。



高さが出てくると、僕は新しいピースが欲しくなった。



お腹がすいているような感覚が浮かび上がると、とりあえず目に入る緑色のものか動いているものを食べるように教えられた。



車の近くには低い場所に草は生えていなかったので、道路に面していない反対側のふもとの草を食べ歩きしていると、僕の空腹からくる危機感のようなものは和らいだ。



食べ物よりも父が下山する時は、またジェンガが捨ててあったら拾ってきて欲しいと頼み込んだ。



もちろん、そう都合よく欲しいものは手に入らなかったけれど。



ピースが崩れ落ちる先は、怖い場所、高くなればなるほど、そこは見たこともないような楽しい場所だと言い聞かせて僕は懸命に11ピースを1段でも高くすることを目指していた。



僕が9歳になった頃、レジャーシートに埋もれたそのプレゼントを見つけて僕は廊下にそれを引っ張り出してきた。



簡単に崩れていくジェンガは、僕の生きている環境そのもののようで、黒いピースは僕の経験や決められた条件や持っているものや逃げれないもののように感じた。



白い少ないピースはまれに僕に舞い込んでくる素敵なことのように見えてしまった。



そして、ジェンガを見ると僕の心臓や血液は大きな音を立てて、冷たい汗が流れ出るようになってしまった。



早く、早くここから逃げないと、もっと高くへ逃げないと。

毒親と呼ばれる存在に悩んでいる人も、貧困に苦しんでいる人も、困窮を恐れる人も、犯罪者になってしまいそうで不安な人も、そんな人に興味がある人にも役立ってくれると嬉しいです。