ビューティアドバイザーが異世界へ行く話(仮)5
5.異世界人は、望んだ姿を描く
三人で、食べ終わった後の食器を片付けようとしていると、玄関の扉がノックされた。びくりと肩を震わせるステラに、大丈夫だと一声かけて、俺は扉へ近づいていく。
のぞき窓から外を見ると、そこには見慣れた人影が二人立っていた。
俺はキッチンスペースにいるエナとステラを振り返り、来訪者を告げる。
「自警団の団長と奥様だ」
俺は二人の反応はあまり気にしないまま、玄関を開ける。
「よう、アステル。おはよう」
「どうも、朝早くにごめんなさいね。おはよう」
「おはようございます」
挨拶をしてくれたのは、二人の男女だ。
男性の方は、ユニの街の自警団の団長。鳶色の短い髪に、無精ひげ。一応団内でも腕は立つ方で、鍛錬を怠ることはない。上背もあるしっかりした体躯のおかげで、自警団の名に箔が付いているところもある。
女性の方は、団長の奥方。長い栗毛を、後ろでひとつに束ねている。団長には敵わないが、女性にしては背が高い方だ。肌寒いのか、肩にはショールをかけている。
どちらも年のころは四十代のご夫婦だ。若い頃団長の方が惚れ込んで、毎日のように奥方の家に通い詰めたと聞いてはいるが。
仕事の時間外に団長が団員に仕事を言いつけにくることはない。どこぞの工房の師匠や親方は、夜中でも早朝でも弟子をこき使うものらしいが、うちの団長に限ってそれはありえない。それをわざわざこうして、俺の家まで来るのは、エナの件があるからだろう。
団長は多少乱雑な物言いで、用件を口にする。
「仕事の前に、一応顔だけ見とこうと思ってな。例の異世界人、今いるか?」
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