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2.“曇”天の霹靂

 自分で救急車を呼び、検査だけやって治療もなく、頭痛と吐き気を堪えながら自力(地下鉄)で帰宅した翌日の4月6日。

 このまま放置プレイで飲めず食えずで死を迎えるしかないのか、と思えるくらい弱気で意欲のカケラすらなく、ただ自宅の寝床に横たわっているだけの朝。頭の中でこんなことを考える。
 発症の晩(4/4)が満月前の乙女座ムーンボイド中で、4/5朝から月が天秤座の満月域。そして太陽は、頭部を意味する牡羊座にある。満月域が終わる(4/6)までは出血が増えるかもしれないな。。。

 そこへいきなりケータイの着信が! 大学病院の救急外来からだ。
 電話に出ると昨日担当してくれた医師だった。

「昨日撮影した画像を専門科の先生にも見ていただいたら、出血が広がっている可能性があるかもしれないので、これからもう一度来院できますか?」

「……あのう、ぜんぜん動けないんです。起き上がるだけで力尽きそう」

「では救急車呼んでください」

「え、はい」

 救急車をタクシー代わりにするな、というのは置いておき、言われるままに119番。電話口で病院の救急外来とのやり取りを伝えると、すぐに最寄りの消防署から救急車がやってきた。ものの5分だ。めちゃ速い。
 救急外来、再び─────
 やはり到着即「ろー」となるが、きょうは誰も気にしていない。

 また頭部CTを撮り、画像が上がると今度は脳神経外科の医師が私の寝ているところへやってきた。
 昨日は前頭での出血だけだったが、きょうになって下のほうに広がっているという話だ。やっぱりな、と思う。ホロスコープ的に。

「もっと詳しく調べるため、あす朝イチでMRIを撮りますから、きょうはこのままいったんお帰りいただきます。あす朝8:30にMRIの予約取れましたので来院ください」

 ずいぶん冷酷である。初日も医師から
「CT検査では少し出血の跡がありますが急を要する所見ではないなので、お帰りいただいて大丈夫です」
と言われ、今回も帰れとは。。。

「はぁ? もう3日間ずっと孫悟空だし、移動しただけで吐いちゃうし、メシも食えねぇんですが!!」
「あす早朝なら一晩くらい泊めてくれたってバチ当たんねぇんじゃねーの!? アン?」
 と言いたいところ、平静を保つよう極力丁寧に吐き出して訴えたが、馬耳念仏。さすが救急外来の医者サマだ、慣れてらっしゃる。
 よく考えると、病棟のベッドの用意とか給食なんかの手配もあるだろうから、その場で入院とはいかないのはわかる。わかるけど! というところだ。なんとかしてもらいたかった。

 是非に及ばず。タクシー乗り場まで頭を揺らさないようにそーっと歩き、何度も吐きそうになりながら這々の体で帰宅。あ、這々の体を初めて使用したかもしれない。ホウホウノテイ。

 玄関で靴を脱ぎ、アルコールスプレーを手に吹きかけると、そのまま布団に倒れ込む。横になって考えるとパートナーの食料を調達せねば、と思いいたる。少し落ち着いてから近くのコンビニへ。ついでに自分の口に入るかどうかわからないが、inゼリーも2つ購入。
 それだけこなしたら、もう体力の限界。頭痛と吐き気はマックス。あした持っていく予約票、おくすり手帳、財布、スマホ、SUICA、鍵をバッグに入れ、あとはやっぱり寝るしかできないヒト。。。

 あまり眠れぬまま翌朝(4/7)6時頃に起床する。この場合、目を開けただけの起床。2〜3日飲めず食えずでHP4くらいの感覚。そのうえ激しい頭痛が続く中、本当に何もできない。しかし、
 〽行かなくちゃ、MRI検査へ行かなくちゃ

 8:00、タクシーアプリを利用。便利な世の中だ。もちろん吐き気も同行。たずさえた吐き袋を吐き気の波に合わせ、ぎゅっと握りしめたり緩めたり。アブラ汗で全身ビタビタになりながら3日連続の大学病院詣で。
 タクシーに揺られること10分。だが、シルクロード並みの遠路にすら感じられる。

 なんとかここまで吐かずに外来棟へ到着。診察カードを通してMRIの受付に直行する。
    ああ、もうダメ、ぎりぎり。技師の説明や同意書などもそこそこに待合席へ行くが、案の定そこで「ろー」の緒が切れる。
「ろーーーー」
    もう胃液もネタ切れだ。

 MRIの撮影が終わると脳神経外科(外来)のあるフロアへ車椅子で移動するが、初めて車椅子酔いを体験。ぐわんぐわん。そして頭上にいる技師と看護師の会話で不穏な単語を耳にする。

「くもまっかけっしゅ」

 え、なにそれ。この頭痛の病名なの???
 不安でいっぱいになりながら、しばらく控室のベッドで寝かされ、待つこと2時間強。脳神経外科の男性医師がなにやら道具を持ってやってきた。

「じゃ、これからPCR検査を受けてもらいますね。このフロアの廊下の突き当りに陰圧室があるんですが、歩けますか?」

「だいじょぶかもしれまい。車椅子、酔う」

「あ、ふらついて転倒すると危ないんでね。車椅子で行きましょう」

「あああああ(おい、ヒトの話を聞け)」

 鼻の穴に長い長い綿棒のようなものを突っ込まれ、PCR検査は一瞬で終了。さっきまで寝ていた控室ベッドに戻る。しばらくすると看護師がやってきた。

「ではね、夏樹さん。今、頭痛いと思いますが、『硬膜下血腫(こうまっかけっしゅ)』という病気の疑いがありまして、きょうこのまま脳外科に入院となります。ベッドが用意でき次第、病棟のほうに移動しますからもう少しお待ちくださいね」

 いや待てよ。前日、脳神経外科の医師に入院する可能性を質問したが、入院の可能性は低く、MRI検査だけだと言われた記憶がある。

 疑義があるため、この入院宣告は「薄曇りの霹靂」。降水(入院)確率10%と言われて、傘(生活用品)を持って出かけるかどうかだ。
 私は今回、傘がない。で、びしょ濡れ。これアブラ汗か。

(つづく)

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