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6.早朝、危機イッパツ

 7日目の4/14(金)。そろそろ退院の雰囲気が漂ってくる程度に回復してきた。
    トーキョートッキョキョカキョクみたいな響きのカイトーケッシュジョキョジュツ(開頭血腫除去術)もなく、特別な投薬もなく、ただ、止血の妨げになる血液さらさら系の錠剤を休薬し、ひたすらビーフリードとラクトナントカを点滴すること1週間。きのう撮った頭部CTで出血の広がりが認められなかったため、キャスター付きの点滴棒、ポータブル心電図の電極などの相棒たちともきょうでお別れ。おかげさまで付き添いなしの独立歩行になり、自力でシャワーとシャンプーができるまでになった。

 8日目となる4/15(土)0:00すぎ。昨晩はよく眠れたが今夜はダメそうだ。頭痛がいつもより少し強めに訪れている。我慢してもしょうがないのでカロナールをもらって飲んだ。500mgの大きい錠剤だ。小一時間ほどで効いて、いつの間にか眠りに就いた。

 よーく寝ていると廊下のほうから電気シェーバーの音が響きわたる。「6時半の男」による時報だ。もう朝なのか。眠っていた時間が短く感じる。けさは外が暗いようだが、雨なのかな。
    スマホを持ち上げると表示された時刻は4:25

 リアル二度見

 4:25

 おい、なんだってこんな明け方にヒゲなんか剃ってんだい⁉ 6時半の男とは明らかに違う人間の仕業だ。こんな朝っぱらから非常識だろ、ミスター・シェーバー?

 起きてしまったので仕方ない。トイレへ行くついでにミスター・シェーバーの姿を確認すると、色黒で固太りのちっちゃこい男が洗面所の椅子に座ってヒゲ剃りに余念がない。
 男の特徴は、頭に浅めに巻いたペイズリー柄の真っ赤なバンダナ、上半身は白い半袖Tシャツをパンパンに張らせ、下半身もやはりパッツンパッツンの膝丈半ズボン。しかも空色と白のボーダー柄である。
 眼帯こそ着けていないが、黒ひげ危機一発! の飛ばされ役じゃないか。決してポパイじゃない。断じて違う。残念だったな、ヘビ女に殺されそうなオリーブよ。この男は助けに来ないタイプだ。

 それにしても15分以上もの間、己のひげを剃り続けるとは。。。まぁ、あの黒ひげなら仕方ないか、と思わず納得してしまうヒゲの濃さ。明け方から剃り始めないと朝食までに間に合わないほどの黒ひげか。
 いずれにしてもなかなか終わらない。耳に響く電気シェーバーのモーター音は頭痛と吐き気を誘発し、こっちが危機一髪になりそうだ。
    いったい夜勤の看護師は何をしているのか。業を煮やした私は、ついにナースコールのグリップに手をかける。

[ CALL NURSE!!!! !]

「どうしました?」
「こんな時間に男子がひげ剃っててうるさいでーす」
「ですよね〜」

 そう思っていたのなら先に短剣刺しに行ってくれても良かったんだよ。

(つづく)

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