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5.救済のアイテム三部作

 4日目。4/10 (月) けさも6時すぎ、いつもの電気シェーバーの音で目覚める。朝食を経て午前中の回診。医師たちのゴツゴツした足音が仕切りカーテンに近づいてきた。

「夏樹さーん、おはようございまーす」

「ぁいざいまーーーす」

 これは自分でも驚く。「おはようございます」がこうなってしまうのだ。救急搬送依頼の電話で「よろひいでふ」と返答したときのように、まだ言葉が非常にゆるい。医師たち半笑いの中、あれこれ状況をふがふが喋ると、担当医曰く

「とりあえず、ごはんをがんばって食べてもらって、できるだけ体を起こすようにしてください」

 それができたら苦労しないのだよ、ちみ。。。あ、そうだ。コーヒー飲みたいんだった。カフェインだし念のため聞いておこう。

「あのー、かへいん(カフェイン)て(摂っても)ダイジョブすか?」

「あ、カフェインね。コーヒーってことですよね、いいですよ。ある程度は。。。カフェイン製剤っていうのもありますから、ま、あんまり最近は使わないですけど」

 OK出ました! やった、ありがたい。あとでヘルパーさんにお願いしよう。

 お昼前、食欲が少し戻ってきた気がする。点滴と吐き気止めのおかげだ。
    冷やし中華たびたい、と思っていたらランチに麻婆豆腐と春雨サラダが登場した。が、寝たまんまでないとせっかくの食欲が頭痛に勝てない状態だ。
 あ、そうだ! 仰向けになった胸の上に小鉢を置いて、うまいこと食べる技をラッコ師匠に倣うことにしよう。最初のうちは箸でつまんだ春雨や刻んだきゅうりをデコルテに落としてしまい、きゅうりパックか! などと自分ツッコミを入れながらもなんとかコツをつかみ、食べきることができた。欲していた冷やし中華に味や食感も似ていて大満足であった。ラッコ師匠、ありがとう(?)

❏ 救済のアイテム その1
 午後いち、ヘルパーさんに来てもらい買い物をお願いする。

「ボトル缶コーヒーのブラック、無糖のやつです。はい、無糖で!」

 無糖は大事なことだから二度言った。少し待っているとタリーズのボトル缶コーヒーをたずさえたヘルパーさんが帰還。って、さほど遠方でもないが。。。手元に届いたのは指名したかったタリーズのこれ。うわぁ、わかってもらえて助かります。さっそく一口。

……まっっずっ!

 これは自分の味覚がおかしくなっているのであって、商品は美味しいに決まってるのはわかっている。めげずもうに少し啜る。それから5分〜10分間の寝落ち。
    目が覚めると頭の中にあった霧が晴れていくように蛍光灯の明かりが鮮明になり、カーテンの質感などもはっきりとわかるようになっていた。

まさにカルディの山羊伝説

である。

 私の場合、まだ踊れるほどまでは回復していないが、たしかに頭はスッキリし、だんだんに頭痛も消えていった。まるでクスリじゃないか。コーヒーの素晴らしさをあらためて実感したのであった。

 その日は、会話がおぼつかなかった期間を取り戻すかのように、看護師が来れば適当に世間話をし、ドクターが来れば余計な話をして笑いを取った。久しぶりのコーヒーはちょっとハイになる。しかし、好きなコーヒーでこんなに楽になるのは有難い。

❏ 救済のアイテム その2
 コーヒーで救済された翌日だったか、見るからにおいしそうなホロホロ牛肉の入ったビーフカレーがディナーに出された。その日のランチまでは全体の40%しか食べられなかったのに、今やカレーを乗せたスプーンを口へ運ぶ手が止まらない。まるで老舗洋食屋レベルの旨さだ。参った。いきなり完食である。

 未だベッドで横になった状態でしかモノが食べられないのに、必死に生きようとする本能に突き動かされた感。カレーが疲労回復を助けてくれるのは自宅にいるときにも感じていたことだが、これほどまでに効果があるとは驚異である。

 ちなみに数多のスパイスがインドからシルクロードを経てアジア、中国、日本へと伝わっているようだが、カレーが伝来する経路はインドからイギリス経由らしい。


❏ 救済のアイテム その3
 
頭痛と言えば、巷でステルスメジャーなこれである。

平沢進「賢者のプロペラ」

 発売当初から聴いているアルバムだが、頭痛薬として使ったことはない。半信半疑で寝ながらスマホで聴いてみる。
    リピート再生3回目あたりで、頭が楽になっているような気がしてきた。もう少し聴いていてみよう。
 ああ、頭痛が治るというウワサは本当かもしれない。師匠(ラッコじゃないほう)の声とギターはいつも尊い。

(つづく)

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