「20時までにお布団に入らないと鬼さん来るからね」

けんたを寝かせるために、今日もママはお決まりのセリフを言う。

「おにさんきたことないもん」

ここぞというときにしか使わないはずだったセリフは、いつのまにか口癖になってしまった。

「ママはもう寝るからね。鬼さん来ても知らないからね」

すっかり使えなくなってしまった文句でも、言わないよりは言ったほうがいい。

「けんたまだごほんよむから」

静かに時計はカウントダウンを始める。55、56、57、58……。

けんたの後ろから大きな影が覆いかぶさった。


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