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クリエイティブスクール

■ 障害の有無を問わない「(特別)支援教育」

 ここまでに記した「特別支援教育」の枠組とは別に、神奈川県独自の制度として「中学までに能力を発揮できなかった生徒が『学び直し』によって高校卒業生として社会に出るために必要な知識と能力を身に着けること」を目標に、2009年度から既存の高校を改組して始まった制度です。

 大阪府にも「クリエイティブスクール」という制度がありますが、これは神奈川県でいう「フレキシブルスクール(通学時間帯が選べる単位制普通科高校)」や「フロンティアスクール(午前・午後などの『昼間部』を含む多部制の定時制高校)」あるいは東京都の「チャレンジスクール」に近い制度です。
 神奈川県の「クリエイティブスクール」に当たるものは、大阪府では「エンパワメントスクール」と呼ばれていますが、入学者選抜などの制度は、少し異なります。

 東京都にも「エンカレッジスクール」という、神奈川県の「クリエイティブスクール」に近い制度がありますが、神奈川県の「クリエイティブスクール」では実施している「定期考査(テスト」)が実施されなかったり、同じ「エンカレッジスクール」でも「進学型エンカレッジスクール」として指定されている「都立東村山高等学校」では実施するなど、色々と細かい部分に違いがあります。

 このように、他都府県にも類似の制度がある場合もありますし、ここにも例示した「フレキシブルスクール」や「フロンティアスクール」などについては、息子の場合は候補にならなかったことから、詳述できるほどの情報を持っていません。
 しかし、多くの自治体で、かなり色々な教育的ニーズに合わせた取り組みが行われていますので、これまでの情報や口コミだけに囚われず、より幅広い視野で「本人に合った学校」を探してほしいと思います。

 神奈川県の県立高校で展開されている「クリエイティブスクール」の最大の特徴が、中学校の「調査書の『評定』点」(いわゆる「内申点」)を問わず「観点別評価」「特色検査(自己表現など)」「面接」による入学者選抜を行うことです。
 通常の場合、ほとんど「内申点」が付かない特別支援学級の生徒にも「観点別評価」はありますから、特段「不利」にならずに受験・進学できる可能性がある、ということでもあります。

 なお、入学者選抜の日程は、他の公立高校とほぼ同様(学力検査がないだけ)です。

 例えば「発達障害」「中学卒業後」といったキーワードで検索した時に、結構この「クリエイティブスクール」に関する記事を見付けるのですが、意外とこれを中学校(の特別支援学級)で勧められた、という話を聞いたことがありません。
 実際には、学習面で困難だったとか、不登校、外国籍など、様々な層の生徒が入学しており、そこに少なからず特別支援学級の出身者もいる、という「障害の有無を問わない(特別)支援教育」と言っていいかと思います。

 まず確認しておかなければならないのが「クリエイティブスクール」も全日制普通科の「学年制」の(「単位制」ではない)「高等学校」だということです。
 なお、クリエイティブスクールの「さきがけ」の一つである「県立田奈高等学校」が、数年後に「単位制・総合学科」の「県立麻生高等学校」と統合され、県内初の「単位制・総合学科」の「クリエイティブスクール」になることが決まっていますが、単位制になることで「学年」の概念が多少変わって「原級留置(いわゆる『留年』)」という扱いにはならなくなるだけ(その代わり3年間での卒業に支障が生じる可能性は残る)で、基本的には同じです。
 つまり、当然ながら出席が足りなかったり、テストの成績があまりにも悪ければ「原級留置」になりますし、不登校が続いて「通信制高校(+サポート校)」などに転学、あるいは退学してしまう子も少なからずいることも事実です。

 もっとも、テストの成績については「追試」などで最大限のフォローはしてくれるようですので、とにかく「出席」することがポイントになってきます。
 本人に「やる気」があって、きちんと出席さえしていれば、学校側としても「何とか進級・卒業させてやろう」と色々とサポートしてくれます。
 クリエイティブスクールの先生たちは「とにかくまずは毎日、元気に学校に来てくれれば」と思っているように感じます。

 とにかく「学校に行く」ことが大前提として求められます。
 そして「高卒生として当然の社会性」を身に着けることを目標としていますので、服装や頭髪などに関する「指導」は厳しいです。

 そのあたりは徹底しているので「とにかくどこか入れる高校に」とだけ考えて入学したはいいものの、言葉を最大限に選べば「自由」な青春を謳歌しようとだけ考えた「勘違い」な層は、あっという間に来なくなって、いつの間にか転退学していなくなります。
 そのため(言い方はともかくとして)「だって昔の『底辺校』でしょ?荒れてないの?」(実際問題、指定されているのは「学区」があった時代には「下位校」とされる学校が多いです)という心配は、ほとんど必要ありません。

 現在、よく社会的課題として取り上げられる「不登校」ですが、いわゆる「不登校」って「(登校するだけの)エネルギーが足りなくて」不登校に陥ることがほとんどです。
 上で挙げたような「勘違い」層の場合は「エネルギーが有り余って『やんちゃ』する」ためですから、そもそも合う訳がありません。
 言葉が悪いことは重々承知ですが、そもそも「高等学校に行くべき人達ではなかった」ということでしょう。

■ きっかけ

 中学校の特別支援学級でもあまり「候補」にされなかった、この「クリエイティブスクール」を知ったきっかけが、実は「ボウリング」だったのです。

 「ボウリング」の項で触れた「ジュニア練習会」に参加していた高校生の先輩(もう卒業してしまいましたが全日本ユースナショナルチームに選抜されたこともあるような人です)が、とある県立高校(そこは「クリエイティブスクール」ではありませんでしたが、当時は「単位制総合学科」(現在は「単位制普通科」)の高校でした)のボウリング部に所属していました。

 大学だとたまに聞きますが、高校にも「ボウリング部」のある学校があるんだ、と思って、どんな高校にボウリング部があるんだろう、と調べてみたことがありました。
 筆者が知る限りで「クリエイティブスクール」5校のうち少なくとも2校にはボウリング部がありますし、それ以外にも神奈川県内には県立高校の数校と、私立高校でも何校かあるようです。

 「日野中央高等特別支援学校」の項で触れた、隣接している「県立横浜南陵高等学校」も、横浜市内で最も部員数の多い「ボウリング部」がある高校です。過去に、全国大会(全国高等学校対抗ボウリング選手権)優勝(2016年・女子)の実績もあります。この大会、何年かに一度、神奈川県勢が優勝していて、特に最近は女子が強いです。
 横浜南陵高校が、現在は「インクルーシブ教育実践推進校」に指定されていますので、もしこの指定があと2年早い、または息子が2学年下だったら、違った巡り合わせになっていたかも知れません。

 実は、神奈川県は(特に学生の)ボウリングが盛んな都道府県の一つとして「業界」では知られています。
 高校の「関東大会」などでは、出場枠が東京都の倍以上割り当てられていたりする年度も少なくありません。
 そんな「ボウリング部」がある高校を、それぞれ「どんな高校だろう」と調べていくうちに(5校中2校に「ボウリング部」があるだけに)「クリエイティブスクール」という制度の存在を知ったのでした。

 部とまではいかなくても、個人で全日本ボウリング協会の「クラブ」などに所属してボウリングをしている生徒が、大会(特に県高体連主催の大会など)への出場のために「所属高校名」で参加するケースもあるようです。
 ちなみにボウリング競技は、県高体連には参加しています(県によっては不参加のところもあります)が、全国高体連には参加していません。
 そのため、国体(国民体育大会)改め「国スポ(国民スポーツ大会)」にはボウリング競技がありますが、インターハイ(全国高等学校総合体育大会)にはボウリング競技はありません。

 何ごとについても、人生において何がきっかけになるかわかりません。
 あの時、何となくボウリング場にでも行ってみるか、と思わなければ、恐らく「今」はありませんし、更に「行く?」と息子を誘わなければ、やはり違った結果になっていたでしょう。

 親子ともども、可能な限りの選択肢を試してみよう、と思う気持ちは、常に持っていなければならないと思います。
 たとえそれが、直接関係なさそうに思えても、何がどこでどうつながるか、神のみぞ知る、ではないでしょうか。
 この例では「直接」ではありませんが、他者との繋がりという観点からも、色々な「コミュニティ」に参加することも有意義に作用する可能性を多分に有していると思います。
 直接の学校関係だけではなく、勤務先、趣味関係、学童や習いごとなど、多様なコミュニティに参加したことで知り合った人から、思いもかけない「ヒント」をもらうこともあるかも知れません。

 色々な知識に対して貪欲でありたい、そしてそれを有機的に結び付けられるような(そういえば、あれが……のような)感性を磨いておきたい、と思います。

■ 高校としての「特色」

 一般的な県立高校は「40人学級」ですが、クリエイティブスクールでは30人以下の学級編成をすることになっています。
 例えば、学年の定員が240人規模の高校なら、通常は40人×6クラスとなるところを30人×8クラス、という形で運用したりしています。

 特に、習得している能力等の個人差が大きい英語や数学などでは、進度別に分けたグループを作り、更に少人数で授業を行ったりもします。
 また、特に1年生では各クラスに担任の他に「准担任」を置いた複数担任制を採る(2年生以降も原則各クラスに「副担任」はいます)など、一人ひとりの生徒に対するサポート体制も手厚くなっています。

 元々、卒業後に就職する生徒の割合が高かった学校(そのため、平たく言えばクリエイティブスクール化以前のいわゆる「偏差値」はかなり低めです)が指定されていることが多く、就職に向けたノウハウが豊富です。そのため企業との「パイプ」も持っているし、「インターンシップ」なども充実しています。
 一方で、全日制普通科の高等学校の一つですので、進学するケースも少なくはありません。専門学校まで含めると、結構な割合で進学しています。
 大学や短大、専門学校の「指定校推薦」もあったりしますが、特に「大学」の推薦を考える場合には、かなり上位の成績が必要かも知れません。それでも、進路の幅はかなり広いと思います。

 入学者選抜の方法や学級編成など以外は、外見は「ごく普通の公立高校」です。制服もあれば、体操着やジャージなども指定のものがあります。
 前述したように、これは「当たり前のこと」ではありません。

 県立の全日制普通科高等学校である「インクルーシブ教育実践推進校」であれば基本的に同じでしょうが、見学した特別支援学校の「分教室」には、制服すらありませんでした。
 高等特別支援学校には制服はありますが、体操着は特に指定がなく、中学の時のものを着ている子も多いようでした。

 特に「こだわり」が強い特性のある障害児にとって、このポイントは、親が思う以上に重要になるかも知れません。
 「制服がないこと」を否定的にとらえている訳ではありません。「制服がないこと」を理由に進学先を選ぶ生徒も少なくないからです。
 私立高校には、制服がなく私服で登校する学校もあちこちにあります。一方で「何を着るか、毎日悩むから」という「制服派」の生徒も多いでしょう。

 「制服」で進学先を考えるなんて、という御意見もあるかとは思います。
 しかし「障害のない生徒」が進学先を選ぶ時にも「制服」が気に入って、というケースは、ままあるんじゃないかと思います。
 障害がある生徒でも、それは同じことでしょうし、むしろ「こだわり」が強いタイプの「発達障害」を持つ生徒の場合には、とても大切なポイントになり得ると思います。

 そして進学して、その後の通学を継続するための「モチベーション」の一つになるということも、充分考えられるのではないでしょうか。

 ちなみに、県立高校の中にも制服のない学校があったりします。既述のとおり県立希望ケ丘高校の例がありますが、特に女子には「なんちゃって制服」派も少なからずいるようです。
 「旧制一中」の伝統を誇る(いわゆる「偏差値」も高い)同校ですので、その学校に憧れて入ったけどやっぱり「制服」(っぽいもの)は着たいよね、という生徒もいるんでしょう。

 「制服」はともかくとして「クリエイティブスクール」は色々な生徒が集まる学校ですが、中学校までに学習面での「ハンデ」を背負っている子が多い、という点では、言ってみれば「学校全体が『インクルーシブ枠』みたいなイメージ」でしょうか。
 そのため「インクルーシブ教育実践推進校」の項で触れたような「お客さん」扱い的なことが起きにくい環境なのではないか、と感じました。

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