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朗読劇「呪い喰らいの魔女」春名真依出演

ネタバレは含まない記事を心掛けていますが、これから舞台をご覧になる方はご注意ください。人によってはネタバレと感じるかもしれません。
とても素敵な舞台ですので、配信で観ていただくきっかけになっていただければ、という気持ちから千秋楽前に公開します。

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儚くも美しい世界観。洗練された短編小説を、視覚と聴覚、肌感すべてで堪能させて頂いた舞台でした。
私自身、朗読劇ははじめてで、演者は椅子に座って本を朗読し、照明は少し暗めで効果音で演出していく舞台。勝手にそういうイメージをもって行ったのですが、その固定観念を見事なまでにぶち壊してもらえて、良い意味で予想を裏切られました。もちろん、椅子に座って朗読するようなタイプの舞台もあると思うのですが・・・。
演劇は、どこまでも自由で面白い。改めてそう実感しました。

演者が持っている「本」は、単に朗読するためのものではなく、物語に組み込まれた小道具。その世界において、とても重要なアイテムになってるところが面白い。朗読劇を、魔法の本を誰もが持っている世界としたアイデアに、脚本のセンスを感じます。
本に書かれている言葉が発動されると、魔法になる。でも、魔法を使うことによって、呪いが生まれてしまうという世界。その世界は、厳格な法則によって成り立っている。
言葉にはチカラがあり、そのベクトルによって、プラスに働けば魔法になる。でも、同時にマイナスである呪いも生み出されてしまう。
魔法によって人は便利に、幸せになる。でも、それを望めば望むほど、人を不幸にする「呪い」も生み出される。

人間の欲と、その欲から自ずと生み出される不幸。
では、どうしたらいいのか?
そのような普遍的な問いかけを、物語に落とし込んでいるように感じました。

呪いを駆除する「呪い喰らいの魔女」は、どの時代にも存在している忌み嫌われることを生業とする人たちと重なる部分があり、魔法と呪いを題材にしたファンタジーでありながら、妙な生々しさを感じられる。そのような心を針で刺していくような感覚が、脚本の中から随所に見え隠れする。
魔法とは、想いが言葉として放たれることで発動する。でも、呪いも生まれる。そして、人の強い想いが変化をもたらすという物語。

春名真依さんは圧倒的な存在感で物語の鍵となる役を丁寧に演じていました。春名さんのふんわりとした包み込むような声は、この舞台の不思議な世界にとても合う。
そして、終盤、デリカの「思い」が、春名真依さんの熱演で肌感として伝わってきて、それがこの物語を決着させる。しかし、決着といっても、あくまでもひとまずであって、この「業」ともいえる呪いは存在し続ける。
デリカのそのものの言葉の意味を考えると、なるほど納得とも思えるし、すこし皮肉めいて感じられるのも、この舞台の面白さであると感じます。

春名真依さんは、たこやきレインボーの活動で鍛えられた表現力を、遺憾無く発揮している舞台に感じました。舞台で風格すら感じられる立ち姿。そのオーラ感。
真綿の手ざわりのような、ふんわりとした声は、舞台において強烈な個性となり、圧倒的な存在となる。その魅力が存分に伝わる舞台という意味で、必見です。

春名真依さんの凄さは、その魅力的な声を自分の努力で手に入れたところにあります。
迫真の演技で客席全体に伝わる空気感は、鳥肌もので、その空気感が舞台で演じられる物語に、ひとまずの決着をつける。
演劇だからこそ感じられるダイナミズム。舞台において、物語を大きく動かす役を演じる女優、春名真依さんの更なる可能性を感じました。

終演後のアフタートークでは中盤くらいまで、感情移入した気持ちをうまく切り替えることができずにいるところにも凄味を感じ、でも、トーク終盤、圧倒的なトーク力で、会場を沸かせるセンスは抜群で、春名真依さんの魅力を存分に堪能できる舞台でした。

ごくごく個人的な余談ですが、魔法の等価交換をテーマにした物語を、ずっとむかしに書きたいと思っていたことを思い出しました。本当にどうでもいいような魔法が、たったひとつできる魔法使い見習いが旅をする物語。溜息をつくことで一輪の花を咲かせる魔法。溜息という小さな不幸が、一輪の花という他者をほんのちょっとだけ幸せにする。そんな物語をいずれ書きたらいいなと思いました。

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