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舞台「ときめきステーショナリーズ」デッド・アンド・リライブ

文房具の擬人化と聞くと思い浮かぶのが筒井康隆の「虚構船団」。何かとクセの強い筒井康隆の小説の中でひときわ異彩を放つこの作品。少し前にSNSで「残像に口紅を」がバズりましたけど、とても読みやすい「残像に口紅を」に対して「虚構船団」は読まれること自体を拒絶してるようにすら感じられる内容。目的地も分からない宇宙船の中で、おかしくなっていく文房具たちの描写が延々と続いたり、物語が動き出したらと思ったら流刑の惑星にいるイタチたちを殲滅せよという指令を受けてバトルになるという展開。最終的には、どちらも陣営も絶滅し、文房具とイタチの混血だけが残るというもので、何を読まされてるのだ?的な気持ちになったりして。でも、そういったところが面白かったりするのですが・・。
ちょっと気になるという方は「萌え絵で読む虚構船団」で検索すると読める非公式なマンガがあるので、それをみると作品の雰囲気を感じ取れるのではと思います。

「虚構船団」の最後、文房具とイタチの混血児の言葉で締めくくられます。

「僕は何もしないよ、僕はこれから夢を見るんだ」

私は、ときステの舞台をみつつ、この言葉が頭をよぎりました。
もしかしたらこれは文房具とイタチの末裔がみている夢をみているのかもなぁ・・と。

「ときめきステーショナリーズ」デッド・アンド・リライブは、昨年11月に上演された「リメンバー・マイ・ラブ」に引き続き、根岸可蓮さんをヒロイン役に迎えての作品。
なにが凄いって、根岸可蓮さんを生粋のお嬢様役としたことだと思うのです。
私は、たこやきレインボーのメンバーとして活動していた2014年から根岸可蓮さんをみているのですが、所作や立ち振る舞い、ていねいな言動はもちろんのこと、時としてみせるちょっと神がかったところなど、根岸可蓮さんから感じていた個性がそのまま役柄として落とし込まれていると感じたんですよね。
本人の自覚と他者が見える視点にはもちろんギャップがあるということは承知の上で。
お嬢様というと根岸可蓮さんは「いやいやいやいやいやいやいやいや」というと思うのですが(この「いや」の多さがポイントです!)

お嬢様ときいて私がまっさきに思い浮かぶのは、森茉莉。
森鴎外の長女で、小説家にしてエッセイスト。小説では「恋人たちの森」や「甘い蜜の部屋」、エッセイでは「贅沢貧乏」や「私の美の世界」が有名なんですが、この記事を書くために改めて森茉莉のことをググって確認してみると、BLの源流にして原点とも言われているようになっててびっくりして。えっ?そうだっけ?って思って恋人たちの森をチラッと読み返してみたら、確かに確かにそうでした(笑)
森茉莉の凄いところは、森鴎外の長女として生まれ、お嬢様として大切に育てられたからこそ、上流ならではの常識感覚や価値観をそのまま文章として残していること。言い回しが独特で、父親の森鴎外をパッパと日常的に呼んでいたそのままの感性で文章を書いている。
耽美で、上品。でも場合によっては歯に衣を着せぬいいまわしで鋭く突きさし、えぐるような表現もある。地に足がついた価値観があって、上流ならではの良いものにたくさん見て触れてきたからこその含蓄と同時に、まっさらな無垢さもある。
自分の感性で美しいと感じたものは「善」であり、そぐわないものは「悪」。そういった価値観。天上天下唯我独尊。異質さや常識から逸脱し突き抜けている。でも、同時にふんわりとした真綿のような柔らかさもある。どこか神懸ったところがある。
晩年は、散らかり放題の部屋に一人暮らし。テレビをみてはエッセイを書き雑誌掲載されるような生活をしていたそうですが、一時期、まったく連絡がつかなくなって心配した関係者が自宅を訪問したらライフラインが止められてて、その理由が支払いの仕方が分からなかったという・・。

私のイメージする「お嬢様」のイメージは、森茉莉に直結しているのですが、根岸可蓮さんにも共通する同種のものが数多くあって、アニメが大好きという絶対的なゆるぎのなさだったり、本人は否定すると思うのですが、逸脱して突き抜けているところだったり、真綿のような柔らかさ、神懸ったところがある。それがそのまま、この舞台の構造の中に組み込まれているので、物語にとても説得力がある。根岸可蓮さんをこの役に据えた方は天才かよ!と思ってしまったのですが・・。

聖ステーショナリー学院の根幹をなしている宗教がゆらぎ、極端な方向に走り暴力的になっていくことで物語が進んでいきますが、その教義がまるで先鋭化した儒教のように感じられるのが面白くて、攻めてるなぁ・・と感じて。そして、物語の決着として、根岸可蓮さん演じる宝⼑亜離亜が最後に制服で登場するというのは、天界の人が天降ること。これまでの偏狭な価値観に囚われていたものが、宝⼑亜離亜の個性や精神性、無垢あり、揺るぎがない、真綿のような柔らかさ、そんな世界が訪れるんだろうなぁ・・ということを示唆しているように感じられました。まあ、それが、文房具たちというのも面白いんすが(笑)

今回の舞台では、前回よりも格段に殺陣に力を入れているように感じたのですが、その迫力が半端ない。演劇の中で殺陣をみせることは、稽古の積み重ねが大変だと思うのですが、物語に躍動感をうむことになる。
私は、20年くらい前に、つかこうへいの舞台を観ていたのですが、演者の身体の動かし方や、効果音や照明の演出に何か近いものを感じて、それがとても嬉しく感じました。この舞台に関わる方々は20年前のつかこうへいの舞台を知ってるとは思えないんですけども、でも、演劇を突き詰めていくことによってできあがるものに、おのずと共通性ができて、そのことを感じることができるありがたさ。そういった演劇の面白さを感じさせてくれる舞台でもありました。

ときステは、出演者の役柄が共通しているシリーズのようですが、前作の内空閑うつろさんや今回の宝⼑亜離亜さんが出演する舞台がまたみたいなぁ・・と思いますので、よろしくお願いします!

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