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彩木咲良2018年生誕記念で書いたおはなし

さくちゃんのおはなし

ただいまー。さくちゃんは、玄関の扉を静かに開けて、かぼそく小声で言いました。
おかあさーん、おるー?
少しだけど声を大きくして言ってみましたが返事がありません。
なんや、おらんのか、とさくちゃんは、心の中で言って安心とちょっとだけ残念のいりまじった、複雑な気持ちになりました。
さくちゃんは、午後、お友達の家に元気よく、勉強してくるわー!と言って出かけたものの、歩いているうちに、あまりのポカポカ陽気の天気の良さで、気がついたら友達の家ではなく公園の前に立っていました。
まっ、いっか! さくちゃんはそう言うと、ベンチにチョコンと座って大きく伸びをして、おひさんあったかいなーと思いました。そして、小鳥のさえずりや、どこか遠くからするギターの音を聞き、ほほをなでる風を感じました。かすかににおう、桜や緑のにおいをしばらく楽しんで、さくちゃんは、ふと、この間、近くの土手でみかけた小さな犬のことが気になりました。あのワンコ、おるかなー。
さくちゃんは、そうして土手に向かったわけですが、この時点で、お友達の家に勉強しに行くことをすっかり忘れてしまって、気が付いたら、日も傾き、夕方になってしまったのでした。

そうして、家に帰ってきたわけですが、さくちゃんは、午後、ずっと歩いてきたせいか、お腹がペコペコになっていました。なにかないかなー。そう言って、さくちゃんは冷蔵庫の扉を開けて食べられそうなものを探してみますが、チョコがちょこっとあるだけで何もありません。さくちゃんは、チョコを一個だけ口の中にポーンと入れてほおばって、リビングの椅子に座ると、テーブルの上にメモがあるのに気が付きました。
「買い物に行ってきます」
 おかあさんの字や。さくちゃんは小さくため息をつき、メモを裏返して、近くにある鉛筆を手に取りました。
さくちゃんは、小さく『の』と書いてみました。そして、しばらくしてから、その隣にもうひとつ『の』の字を書いてみて、じーーっと見つめました。
『のの』の字を、ずっと見ているとなんだか目のように見えてきてしまいました。
さくちゃんは、『のの』の字をずっと見ていると、なんだか楽しい気持ちになってきて、鉛筆で、『のの』の字の周りに、ネコのカタチを描いてみました。
さくちゃんの目の前にいるのは、『のの』字ではなく、白くて小さなネコでした。

ののはネコです。白くて小さなネコです。ののは川沿いの土手をテクテク歩いていました。なんで歩いているのかは、よく覚えていませんが、春のポカポカ陽気の昼下がり、楽しい気持ちになって歩いていました。
しばらく歩いていると、ずーーっと向こうの方から、同じようにテクテク歩いてくる何かが見えました。それは、少しずつ、少しずつ近づいてきて、だんだんと大きくなり、目の前でばったり出会いました。『のの』の目の前にいるのは、ののよりもちょっと大きなイヌでした。
『こんにちは! はじめまして。わたし、ののっていいます』
『こんにちは! わたしは、チェリーっていいます。イヌです』
『わたしはネコです』
『いい天気なので、気が付いたら、ここを歩いてたんですよー!』
『偶然ですね! わたしもです!』
『よかったら、ともだちになりましょう!』
『もちろんです!』
そして、ふたりは、土手の斜面を駆け下りたり、ゴロゴロ転がったり、鬼ごっこをしたり、坊さんがへをこいたをしたり、にんてんどーすいっちをしたりして遊びました。
たくさん遊んでいると、お腹が減ってくるものです。のののお腹がぐーと鳴ると、チェリーのお腹もぐーとなりました。

さくちゃんのお腹がぐーとなりました。
『おなかすいたなー。パンたべたいなー』
さくちゃんはそう言って、ネコの『のの』の隣に『パン』と書きました。

ののとチェリーがひざを抱えて、お腹がすいたーと言っていると、目の前に、パンがあることに気が付きました。
『チェリーさん、パンだー!』
『ののさん、パンだー!』
ふたりは大急ぎで、パンに向かって走っていきます。
 
さくちゃんは『パン』の字を、じーっと見つめていると、あることに気がつきました。そして文字をひとつ書き足しました。『言葉っておもろいなー。ぜんぜん違う言葉になちゃった!』

ののとチェリーが、パンに手を伸ばした瞬間、パンがパーンと爆発しました。
白いけむりでいっぱいで、あたり一面、何も見えません。
『チェリーさん、だいじょうぶー?』
『だいじょうぶー。ののさんはー?』
『あたしもだいじょうぶやー!』
しばらくすると、白いけむりの中から、黒い大きな影が現れました。
『チェリーさん、あれはなんなの?』
『すごく大きいよ~、こわいよ~』
ふたりで怯えながら目をつぶって抱き合っていると、だんだんと白いけむりは消えていき、黒い大きな影が、ふたりに話しかけました。
『こんにちは。ぼくパンダ。パンからうまれたパンダです。よろしくね』
『パンダさん?』
『そうです。パンダです。だって、おふたりでパンダーって言って走ってきたではないですか。ですからパンダです』
ののとチェリーは、ふたりで目を合わせて笑いました。そして、また、お腹がぐーと鳴りました。
『お腹がおすきのようですね。ササあるけど食べる?』
ふたりは、また目を合わせて笑いました。そしてもう、お腹はペコペコです。

お腹をすかせた、ののとチェリーは、果たしてごはんにありつけるのでしょうか。
しかし、さくちゃんが、いたずら心を起こしてて、テンテンを付けなければいいなと思います。『ごはん』が『ごばん』になったら、食べられませんからね。でも、ののとチェリーだったら、お腹がすいていても、ついつい五目並べをして遊んでしまうと思いますが。

さくちゃんは、午後、ずっと遊んでしまったので、疲れて眠ってしまったようです。
このお話の続きは、さくちゃんの夢の中で聞いてみてくださいね。

おしまい

※このおはなしは2018年3月に書いたものです

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