はい!丸尾不動産です!~本日、家で再開します~
2021年10月3日、アクリエ姫路(中ホール)においてはい!丸尾不動産です!~本日、家で再開します~」の大千秋楽の公演が行われ、9月4日からスタートした大阪公演も含めて全8公演。10月に入ってから急激に感染者の減少傾向が続いていますが、まだまだ、予断の許さない状況が続いている状況で、無事に完走できて本当によかったです。
私は、劇場に足を運ぶことはできなかったのですが、リアルタイムの配信で観劇することができました。本当に良い時代です。
「はい!丸尾不動産です!」は、今回で三回目の公演。不動産屋さんを主役におく舞台のシリーズというのは、切り口としてよくできていると思うんですよね。不動産屋さんにお世話になるときは、人生のターニングポイント。これまで住んできた家を売る、家を購入する、賃貸を借りて新しい生活をスタートさせるというタイミング。何らかの理由があっての行動になるわけで、それまでの人生も垣間見える瞬間でもある。
丸尾不動産の面白いところは、それに加えて、現実の背後に潜んでいるディープな問題。一筋縄では解けないような時事ネタを「毒」のように、潜ませている。取り扱い危険なもの、慎重に扱わなければならないわけで、稽古を時間をかけて、慎重に念入りに毒を「良い加減」を調整し、舞台を通じて表現している。
この「はい!丸尾不動産」という演劇が、単にしゃべくりを主体にした面白い舞台というものではなく、繰り広げられる物語に奥行きと深みを持たせ、舞台という非現実の中に、現実に存在する毒をほどよいかたちで落とし込み、押し付けがましくないメッセージを伝える挑戦をしているように感じました。
★以下、ネタばれを含む内容になりますので、ご注意ください。
物語は上記のとおり。ホームページからの引用になります。
幕が上がってすぐに、朝の礼拝をにおわせる林田さんのシーン。
これは取扱いが最上級といっていいほどなものをもってきたなぁ、チャレンジャーだなぁ・・とかなり驚いてしまったのですが。
「はい!丸尾不動産」の前半は、しゃべくりを通じて今後の物語に重要になる伏線がいたるところにちりばめられます。そして、登場人物が、ひとり、ふたりと増えていくことで、物語がダイナミックに加速していく。
今回の登場人物は、男性陣は全員ヤバイものがある。地に足がついていない。言動がどこまで正しいのか分からない。そもそも息子を名乗る正成さんがウソをついているわけですから、林田さんの過去、身の上話がどこまで本当なのかわからない。舞台上では、その言葉の正しさを保障する人は誰もいないわけで。林田さんの故郷の両親の話が一言もでていないような気がするのも、どことなくおかしい。妻と息子を亡くしたのは正しいのかもしれない。しかし、もともと住んでいた住人(本当の林田?)が宝くじに当たったのか、どこにいるのかというのも怪しい。でも、町内に仕掛けた爆弾は本当なのかもしれない。
しかし、どこまで正しいのかということは、さほど重要ではないのかもしれない。重要なことは、林田という男が現にいて、繁盛していないもののお店を切り盛りしているという事実。
ふわっとして、あいまいな存在感の男性陣と対照的に、しっかりと地面と現実に根ざした二人の女性、大地主さん(未知やすえさん)、正成のガールフレンドの江崎栗子(堀くるみさん)。そして、男性陣と女性陣の間に、オカマのローズちゃん(佐藤太一郎さん)がいる。
この三人が、超絶といっていいほど「リアルな存在」として、男性陣の対比として描かれている。
問題だらけ、というか問題しかない男性陣。なにしろ、最後の最後に、菅谷さんは、同一のお店がふたつあることで、交渉相手を間違えているということに気がつくというありさま。
しかし、菅谷さんはあるまじきといっていいほどの決定的なミスをして、悪態をついて舞台から去るわけですが、でも、舞台上に残る人たちの縁を結ぶという人としての良き仕事を結果的におこなっている。
男性陣はろくでもない。林田も警官も、高校生ユーチューバーもあやしい。しかし、資産家で大地主さんがいることで金銭面はなんとかなる。行動力が抜群の江崎栗子さんもいる。
この舞台でキモとなるシーンは、終盤で江崎栗子さんが彼氏に歩み寄るシーン。
満面の笑みで一歩一歩確かめるように近づき、
「そうやな、ほかにもっと良い人を見つけたら容赦なく見捨てるけど。そうなる前に、ダメ男を卒業してくれたら・・」といって手を握る。
この物語の中に、どんなたくさんのウソが紛れ込んでいても、ウソがあふれかえっていてもそんなことはどうだっていい。
江崎栗子さんの笑顔と、将来を信じる気持ちだけは本物。
江崎栗子さんの笑顔さえ守られれば、将来はなんとかなる。(はず?)
そのような物語になっていると思いました。
江崎栗子を演じた、元たこやきレインボーの堀くるみさんは、吉本新喜劇の舞台経験があるだけで、今回が初舞台。しかし、初舞台と思えないような堂々たる存在感。肩に力が入らない自然な演技は、たくさんの稽古を重ねたことの賜物だろうな・・と感じました。ヤンキーのような絡み方は、元ヤン疑惑もでるほど、というのもうなずける演技でした。
堀くるみさんは身長が低いので、舞台でどのようにみえるのかとても気になっていましたが、カップルとして相方と立ったときの身長差の見栄えが最高に素晴らしく、これ以上ないキャスティング。
また、物語をハッピーエンドに導く存在、江崎栗子がいたらなんとかなるというようなイメージも、たこやきレインボーのリーダーとして堀くるみの存在感とリンクし、江崎栗子はハマリ役となった要因なのではないかと思います。
「はい!丸尾不動産」の二回目は、清井咲希さん。そして、今回三回目は、堀くるみさんが参加しましたが、たこやきレインボーには、あと三人。
春名真依さん、根岸可蓮さん、彩木咲良さんがいますので、この三人が舞台に立つところが観たい!と思いました。
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