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舞台「オフィスの国のアリス」彩木咲良出演

舞台全般については、別記事で書きましたが、こちらは舞台に出演した彩木咲良さんについての記事になります。

彩木咲良さん演じる夏梅仁愛は、物語のカギを握る重要な役柄。
舞台「オフィスの国のアリス」の劇中世界で、アリスとチェシャ猫だけが原作から引用されてるキャラクター。この二人が特別な存在であり、実は、この二人の物語であるということ。
夏梅仁愛は、舞台冒頭から登場する謎の少女。主人公の華村美里を印象的なまなざしで見つめ、近づき「そのままでいいの?」と問いかける。

夏梅仁愛は、目立ちすぎてもいけない。かといって、存在感がなさすぎてもいけない、とても難しい役どころ。しかし、物語を一歩前に進めていく存在でもあり、自分の素性を告白することで、クライマックスになだれ込むという、この舞台の根幹をなす存在。舞台のキーパーソンであり、夏梅仁愛の演技が、そのままこの舞台のクオリティを決定づけるといっても言い過ぎではない役柄。

女優は、大きく分けて二つのタイプがいると思うのです。ひとつ目はとても美しく存在感がある女優。自分の強烈な個性で役柄を自分に落としこむタイプ。もうひとつは、一見、地味な印象でも、演技をするとまったくの別人になってしまう憑依型のタイプ。
彩木咲良さんは、とても美しいので一見ひとつ目のタイプに感じますが、実は憑依型のタイプ。しかも、女優としてのオーラ感を自在にコントロールすることもできる。脇役に徹することもできれば、瞬時に主役級の圧倒的なオーラを出すといったこともできる。2021年12月の舞台「大阪環状線」でも、その能力をチラッとみせて、最後のダンスシーンで観客の目を釘付けにするようなことをしていましたが、この舞台ではじめて、彩木咲良さんの女優としての能力を存分に使ったものになっていると感じました。

夏梅仁愛は、さほど気が強いというわけではない。むしろ弱いタイプ。その生い立ちから、ささいなことにも反応してしまう「気弱な猫」。しかし、主人公の華村美里を思うあまりに、決断をし行動する。
華村美里を思う気持ちは、強い目力で表現する。舞台の登場人物のちょっとした行動にも、表情や動きで反応する。アイドルグループ「パペットパーティ」のパフォーマンスには、こっそりコールをしたり、歌が止まると悲しげな表情になる。
そのようなささいといえるような演技の積み重ねが、この舞台の大きな伏線になっている。

そして舞台終盤、夏梅仁愛が舞台の中心で自分の身の上を語るとき。このときだけは、自分自身を大きく見せる必要がある。その言葉が、固く閉ざされた華村美里の心を解放させなければならない。夏梅仁愛の言葉に説得力はなければ、この物語は成立しないということになってしまう。
彩木咲良さんは、丁寧に、大胆に夏梅仁愛を演じているように感じました。

この舞台は「元アイドルとして」という要素が随所にちりばめられていますが、元アイドルとファンの心の交流を物語のカギとしたところが、この舞台をみにくる観客が共感し、感情移入できるようにしていること。また、笑わなくなったチェシャ猫が笑顔を取り戻す物語ともとれるのがすごいなと感じました。
そのファンの立場であるチェシャ猫が、ライブパートでキレッキレのダンスと伸びやかでパワフルなボーカルで魅了するというのも面白い。

さらに面白いのが、アイドルの立場からみて、ファンを「笑顔だけ残してすぐに消える猫」であるチェシャ猫としたことが、どこか少し皮肉めいて感じられたり、パペットパーティの歌詞では「違う子で忙しいんでしょ? あなたの指先が恋しいよ」と歌っている。

ファンはアイドルを思い、アイドルはファンを思う。アイドルとファンの関係性を物語の基軸にしたところに、元アイドルとしてのこだわりを感じました。

そして、個人的に感じたことですが、彩木咲良さんの初舞台だった2020年2月の舞台「キューティーハニーエモーショナル」で共演した宮崎理奈さんのプロデュース公演。そして、主演だった上西恵さんとユニットでパフォーマンスされたことで、この二年、彩木咲良さんは、アイドルとしても女優としても駆け抜けてきたことに、改めて凄さを感じ、ターニングポイントとなったこの作品を経て、そして、今後、どのような活動をしていくのか。
とても楽しみにしています。



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