昭和31年 片倉政幸の日記(3月)

3月17日(土)

今日は休み。久しぶりに朝ゆつくり眠る。               「ふきのとう」を採つて来て、家のそばに植える。            来年は青々と生えるだらう。                      新平家物語をよみ、三時に家を出て、                  東京電力へ行って、修理をたのみ、                   クラブのこんだん会に行って来る。

娘からの注:

父は休日にあまり家にいない。会社のクラブにでかけたり、野原を散歩したり家にいても植物をいじったりしている。母とゆっくり過ごすようなことはしなかったようだ。そういう家族に背を向けるような態度が一家をぎくしゃくさせることになったのではないだろうか。                  新平家物語をまじめに読んでいる。父は吉川英治が好きだったが、宮本武蔵や新書太閤記は読まなかったようだ。新平家物語が特別のお気に入りで、家を建てたあとは自分の部屋にセットで揃えた。(私もそれを読んだ。)平家一門が滅び去るところ、西行法師が出家するところをよく語っていた。諸行無常、会者定離、生者必滅。6歳で里子に出されたり、戦争で収容所に送られたりした自分の体験を重ねていたのかもしれない。西行法師は仏道を求める心がはやって、行かないでとすがりつく妻や子を庭先に蹴落として家を出たというが、そういう行為にシンパシーを抱いていたのならちょっと悲しい。父にも仏道のように一生をかけて追い求める価値のあるものがあればよかったのに。仕事だけの人生で終わってしまったと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?