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式場カメラマンって何だろう

定期的に、「結婚式の写真は引き受けるな」とか「結婚式の写真プロに頼んだけど下手だった」の話が永遠と耳に入ってくる。

【人様の一生に一度を簡単に仕事として引き受けるな】
【新郎新婦なら、下調べを怠るな】

これに尽きる。

これから結婚する人へ!とか、撮影お願いされた時にどうしたらいいか?とかのnoteではないけど、仕事にしていて毎回思うことを書いてみようかなと思った記事です。長いです。



私は婚礼カメラマンをやっている。

婚礼カメラマンと言っても色々いるだろうが、私は毎日同じ式場にいて毎週同じ式場で撮影をする専属のカメラマンをやってる。
1年に100件弱ぐらいを撮影する。
1件の撮影が4〜5時間動きっぱなし撮りっぱなし。休憩はほぼゼロ。
これは式場によるが、私の職場は1件の撮影をほとんど1人で撮る。
カメラは2台。以前計算したら最大5キロ弱あった。
枚数は1500〜2000枚ぐらい撮ってる
(上手い人はもっと決め打ち率が高くなるので枚数が少なくても上手い写真が残る)

結婚式の写真をみんな口を揃えて「やめとけ」って言うけど、なにが大変なんだろう?

【結婚式は進行が第一】

式場からすると、やっぱり根底はビジネス。
進行通りに行かない、時間が押すなんてことがあると採算が合わない。
自分が何かをやってるとどうしてもそれが中心に見えてくるけど、進行が第一。
当日写真の為に待ってくれる時間は無いし、撮影の場所なんかほぼ思い通りに行かない。
(写真を撮る為に対象物を動かせても、せいぜい今いる位置から見える範囲への移動)

そんな追い詰められた時間で、撮り逃しができない!いい写真を残さなければ!なんてのは誰にとっても多分プレッシャーでしかない。

それを少しでも確実なものにする為に、当日までにしっかり準備するのが何よりも大事になるのは当たり前だろう。

どういう場所なのか?何人ぐらいいるの?進行はどういう順番?余興って何をするの?どこの場所でこのイベントが起きるの?こことここの進行の間はどれぐらい時間があるの?この時間この場所はどれぐらい明るいの?

挙げればキリがないほどの事を事前に把握して当日動く。
それでも、当日列席するのもそれを動かしてるのもみんな人間。トラブルはいつどこで起こるかも分からない。

語弊はあるかもしれないけど、「綺麗に撮る」より「瞬時に出来事を適正に抑える」能力の方が先に必要になる現場だと思ってる。

なので、インスタやTwitterで趣味でやる写真が上手く見えても、結婚式ではうまくいかないことが多い。
趣味でやる写真は、大概時間の制限がない。休日にいっぱい撮ったうちの気に入った写真しかSNSにあげなければ、「上手い人」って見られても当たり前。

結婚式はカメラマンからは選べない。
日にちも、条件も、人物もタイミングも。

いきなり雨が降ろうが、瞬時に照明が落ちるイベントだろうが、全て物事を写真で記録しないといけない。
言い方は悪いけど、例えるなら「自分の気が乗らなかろうが、撮りたい!と思わないものも『いい感じ』に撮らないといけない」という感じ。
そこが、「インスタ」との違いなのかなと。


結婚式の写真って具体的に何をとるんだろう?

挙式では、新郎新婦入場、指輪交換、ベールアップ、キスシーンなど。
披露宴では、全員集合写真、主賓挨拶、乾杯、ケーキ入刀、高砂の記念写真、中座、余興、謝辞、ムービーなどなど。

入場1つにしたって、動いてるそこだけを見ていてはいけない。

写真的にベストなポジションで撮影ができていても、式場スタッフの導線を陣取っていたらそれだけでもうアウト。写真は良くても映像の画角をがっつり邪魔しているかもしれない。

撮れる範囲内でベストな写真を押さえて、次のイベントを撮る為に移動しようとする。
振り返ったところにいる人がもし 感動で泣いていたら、それを新郎新婦に伝えてあげる為に写真で抑えようとするだろう。
だけど進行は待たないので、瞬時に撮れないといけない。
それが、ブレていたりピントが抜けていたりしたらそれは「撮り逃し」になる。

こちらに向かってくる人を撮るだけでも、慣れてないと意外と難しかったりする。
挙式では特に新婦は真っ白なドレスに真っ白なベールをつけている。
測距点を的確に位置しないとピントは全然合わないし、なんならすぐ背景に持っていかれる場所も多い。
それで結果人物がボケていて、撮れてない、なんてなると
写真しない人からするとそれは当たり前に「下手」になる。
真っ白いドレスは撮るのが難しいんだよなんて言っても、言い訳でしかなく、無いものは無い。


一度、キスシーンが早過ぎて撮り逃したことがある。
足が地面からスッと浮いて、全身の血が無くなったかと思った。
式後すぐ2人に謝って、スタッフと相談して、誰もいないチャペルで撮り直させてもらった。
それでも写真は無いし、式は当然押す。
この時の焦りを一生ふわふわしながら抱える。



勝手に進むイベントは、待ってくれない難しさもあるけど、
記念写真は記念写真で別の難しさがある。

記念写真でのカメラマンは基本的に「自分対大勢」の形になる。

友人として結婚式撮影に入ったとしても、大半知らない人が100名ぐらいいたりする。
その人たちがどんな性格なのか知らない、初めましての状態で声張ってまとめていかないとらちがあかない。
やっとまとめあげて、「ハイチーズ」で撮っても、結構思ってるよりつまらなそうな写真が出来上がる。

全員集合写真なんかそれの極み。
撮れる環境によってレンズ変えたり、絞る故に露出調整したり、カメラのことでも頭いっぱいやることがあるのに、いざ構えたら何十という目がこちらを見ている。黙ってシャッターを切ってイベントを抑えればいい写真とは訳が違う。

撮る側からしたら、
「写真を撮る仕事」と言っても写真以外で考えることも多く、何よりプレッシャーがすごい。

頼む側からしたら、式を挙げる時点で莫大なお金がかかってる。少しでも安くしたい。


カメラをやってる友人へ、「がっつり撮らなくてもいいから、当日写真撮ってくれない?」なんて曖昧な一言だけで両者すまそうとすると、それはすれ違いポイントでしか無い。

式場カメラマンがいた上でのサブ的な意味で写真を撮ってくれってことなのだろうか?
蓋を開けたら、プロカメラマンはおらず、カメラ持ってるのは自分だけ。なんてのもザラ。
趣味で撮りはするけど、ストロボも無いし単焦点しかない。列席経験も少ないかもしれない。
サブだと思ってたからバッテリーの予備も考えてなかった、、メモリーが足りない、、
みたいなゾッとする展開も安易に考えられる。


逆に、頼む側からの視点でもいくつもある。
プロに頼むより安かったからとはいえ、何万もお金を払ったのに、このシーンの写真がない。いざ、写真が届いてみれば、友人カメラマンの周りの人の写真が多く、他のゲストの写真が全然ない。
自分たちが楽しそうにしてる写真ではあるけど、この時誰と話しててこんなに笑ってたんだろう…?とか色々出てくると思う。

こういうお互いの言い分は確実に、結婚式以降の関係に響く。


こういう話を聞いて、自分たちの結婚式ではちゃんとプロにお願いしよう、と思ったとする。
でもこういうプレッシャーがある仕事で、長く続かないカメラマンもいる。カメラマンが足りなくなる。バイトなどを雇って、下手な写真と言われる。当たり前のループ。

その上で、人によって写真の上手い下手の感覚は全く異なるのも当たり前。
ボケボケの開放の写真が好きな人もいれば、後ろに写ってる人までどんな表情をしていたかちゃんと見たいという人もいる。
色がバキッと出てる写真が好きな人もいれば、肌を出来る限り明るく撮って欲しい人もいる。

Aさんが上手いと思っても、Bさんは下手だと言うかもしれない。
自分たちは良くても、親たちは残念に思う部分もあるかもしれない。

それを避ける為に、「どんな写真を撮るプロが入るのか」を知れるなら知ろうとする努力をしてほしい。指名ができるなら、指名した方がいいこともあるかもしれない。


こんな仕事をしている。

色んな人がその1日の数時間に色んな想いを込めて迎えている。だから広く沢山のものが見えなくなる。
だから、第三者の自分が、ベストな状態でその写真を残して
「あなたたちの結婚式は、こんなに楽しかったんだよ」っていうのを伝えてあげたいなと思う。それをなるべく伝えられるように、写真をがんばりたい。
写真は 大事にすれば、絶対一生鮮明に残せる記憶になる。この先数年の自分たちの好みだけではなく、自分たちがおじいちゃんおばあちゃんになって、自分の子や孫にその楽しかった記憶が、笑い話泣き話として話されるなら、
こんなに良いプレッシャーがかかる仕事はないなと思う。



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