サンシキスミレ【2:2:0】【ラブストーリー/シリアス描写あり】
サンシキスミレ
作・monet
所要時間:約30〜40分程度
0:登場人物
佐倉 陽菜:女。30歳。源氏名は「ヒナノ」。ガールズバー『BerryCrash』のオーナー兼店長。元キャバ嬢であり元風俗嬢。
広河原 良介:男。21歳。ガールズバー『BerryCrash』の新人ボーイ。前科がある。(※泣くシーンがあります。泣き方は演者さんにお任せします。)
綾間 蕾:女。30歳。源氏名は「カリン」。借金返済に追われる風俗嬢。歌舞伎町で働いている。5年程付き合っているホストの彼氏がいる。『BerryCrash』には閉店間際によく飲みに来る。
(※「アユミ」を兼役でお願いします。)
伏見 涼介:男。陽菜の回想のみに登場。陽菜より9歳上。陽菜がキャバクラで働いていた時の店長。つい最近まで陽菜と関係があった。口下手。
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0:本編スタート
陽菜:(M)私の方が。私の方が私の方が、ずっと先に知っていたのに。
陽菜:(M)拒んだのは私だ。こんなに後悔することになるなんて、思って無かった。
陽菜:(M)……だなんて、もう全部今更だ。
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0:ガールズバー『BerryCrash』
陽菜:うん。いいよ。採用。明日から出れる?
広河原:えっ…。そんな簡単でいいんですか?
陽菜:あー…。夜職バイト初めてだっけ?まあ大体こんなもん。
広河原:そう、なんですか。
陽菜:うちボーイ雇うの初めてだし、けっこうこき使っちゃうと思うけど、頑張ってね。少しでも長く続けてくれたら嬉しいな。
広河原:はい!勿論です。頑張ります!
陽菜:よろしくね。広河原……広河原……良介(ひろがわら・りょうすけ)くん。私はオーナー兼店長の佐倉陽菜(さくら・ひな)です。店では「ヒナノ」って名乗ってるから、そっちで呼んで。
広河原:は、はい。ヒナノ、さん。
陽菜:……。良介…くん、かあ。…いい名前だね。(※含みありげに)
広河原:……?あの……?ヒナノさん、何か?
陽菜:ううん。何でもない。明日からよろしく。
広河原:はい!よろしくお願いします!
陽菜:(M)ガールズバー『Berry Crash(ベリー・クラッシュ)』。大事な大事な私の城。
陽菜:(M)私はこの日初めて、ボーイを雇った。……あの人と同じ名前の。
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0:過去回想(11年前)
0:陽菜の部屋
涼介:なあっ!ヒナノっ!良くないって!
陽菜:良くないって分かっててこんなことしたんですよね。
涼介:それはっ……、本当に、悪かったよ。
陽菜:……。
涼介:ごめんっ!俺責任取るから、付き合おう!な!?
陽菜:……。結構です。気を使っていただかなくて。
涼介:は…?
陽菜:一回寝たくらいで、お付き合いを強制するような女じゃないので、私。
涼介:でも…
陽菜:それに店長、私の事別に好きじゃないでしょ?
涼介:……。いや、そんなことないっ、
陽菜:クズ。
涼介:…ごめん。
陽菜:謝らないでよ。
涼介:ごめん。
陽菜:(M)嘘でも好きって言って欲しかった。……なんて、口に出していたら、未来は変わっていたのかな。
陽菜:(M)19歳の夏。働いていたキャバクラの店長と寝た。なんというか、呆気なかった。こんなもんか、という感じ。
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陽菜:(M)そして20歳の冬。私はキャバクラを辞めてヘルスで働き始めた。その筋の用語で言うなら「風俗堕ち」ってやつ。
陽菜:(M)もちろん涼介には止められたけど、私は別に抵抗なかったし、何より手っ取り早くお金を稼ぎたかった。
0:池袋・学園系ヘルス
0:更衣室
陽菜:お疲れ様です。
蕾:お疲れ様でーす。
陽菜:……。(※ロッカーに荷物を入れる)
蕾:はぁ……。(※暗い顔でため息)
陽菜:……。(※蕾の様子が気になる)
蕾:(※急に明るく)あれぇ!?もしかして新人さん!?
陽菜:わ!?びっくりした。
蕾:あわわ、ごめんごめん。驚かせちゃって。フロントに素人写真【※】増えてて、めっちゃ綺麗な子だ~!と思ったから覚えてたの!
【※宣材写真を撮る前の写真。主に店舗スタッフが撮影】
陽菜:そ、それはどうも……ありがとうございます。
蕾:え、え!?前職とか聞いてもいい?
陽菜:あ。えっと……キャバです。
蕾:キャバ嬢さんかー!そりゃ綺麗な訳だ!納得納得!風俗嬢って案外皆だらしないからさ~!ってことは~、風俗の仕事は初めて?
陽菜:ああ、まあ、はい。(※引き気味)
蕾:そっかそっかー!!うちの店大手だから回転率もいいし、スタッフさんも優しいから安心して働けるよ!
陽菜:そ、そうなんですね…。(※引き気味)
蕾:てかごめん!初対面なのに喋り過ぎだね私!まずは自己紹介自己紹介!えっと私は――
陽菜:指名率ナンバーワンの『カリン』さんですよね?
蕾:へ?
陽菜:ホームページにも載ってたし、フロントのパネルにも大きく映ってたんで知ってました。
蕾:う、嘘!?見られてた系!?恥ずかし~~!
陽菜:……。カリンさんは。
蕾:ん?
陽菜:カリンさんはどうして風俗で働いているんですか?
蕾:(※暗く)どうして……?
陽菜:えっと、あ……。ごめんなさい。私、失礼な事。
蕾:(※明るく)私さ、家出してきたの。
陽菜:へ?
蕾:地元は九州のド田舎でさ~。何にもなくて。おまけに家も厳しくて。逃げたかったんだよね。
陽菜:逃げたかった…?から?東京に来て、風俗を……?
蕾:何にも知らない箱入り娘だったからさ。生きていく術なんて無くて。これしかないって思ったんだよね。実際仕事は楽しいし、天職だって思ってるよ。
蕾:(※暗く)……でも、本当にこれで良かったのかな?って思うことも沢山ある。実際今は友達なんて居なくて……独りぼっちだし。(※ぼそりと)前は居たんだけどね。
陽菜:風俗やめたいとかは思わないんですか?
蕾:へ?
陽菜:私、自分の店持ちたいって夢があって。その為に夜職してるんです。キャバじゃ結局間に合わなくて……風俗まで来ちゃいましたけど。
陽菜:だから!私がお店をオープンさせたら、そこで一緒に働きませんか!?
蕾:……。え、っ…と……。(※困惑)
0:内線が鳴る
蕾:あ!ごめん、内線たぶん私!
陽菜:ぁ……
蕾:(※内線に出る)はい。……はい。本指(ほんし)120分ですね。かしこまりました。すぐ部屋向かいます。
陽菜:ぇと…
蕾:ごめんね!話はまた今度!えっと……何ちゃんだっけ?(※源氏名を聞く)
陽菜:ヒナノです!ヒナノ!
蕾:ヒナノちゃん!これからよろしくね!
陽菜:(M)カリンとは、池袋の学園系ヘルスで出逢った。どこか無理してそうで、空元気な彼女を、放って置けなかったんだと思う。
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0:現在
0:ガールズバー「ベリー・クラッシュ」
陽菜:お~~いカリン~~飲み過ぎだぞ~~?金無いんでしょ?
蕾:無いよ~~~鬼出勤しても借金の返済でカッツカツ。
陽菜:はぁ~~。あんたはほんとに馬鹿だねぇ。
蕾:これでも学生時代は優秀だったんですう!!特進クラスの委員長だったんだからね~!?
陽菜:はいはい。
陽菜:(M)カリンはあれから本当に私の店で働いた。働いた……までは良かったんだけど、客の男に入れあげて借金を作り、結局風俗に出戻り。
広河原:……あの、お水要りますか?
陽菜:お。ナイス。
蕾:だれ!?だれこのイケメン!!
陽菜:は~~~~。ねえカリン?さっき紹介したでしょ。新しく雇ったボーイの広河原くん。
蕾:ほへぇ~~イケメンだ~~!ひろがわらくん。下の名前はなんていうの?
陽菜:(※反応する)
広河原:ははは。どうも、ありがとうございます。下の名前は「良介(りょうすけ)」っていいます。
蕾:りょう、すけ……?ヒナノ、りょうすけって
陽菜:(※小声で)しーーっ!黙れカリン!それ以上何も言うな!
蕾:うぇへぇ…
陽菜:ありがと。広河原くん。でもこんな酔っ払いの相手しなくていいからね?そろそろ閉店だから、看板下げてきてもらえる?
広河原:はい!行ってきます!
0:(広河原退場)
陽菜:(※話題を逸らすように)さてさて。私は洗い物やっちゃおうかな~~っと。
蕾:ねぇヒナノ。
陽菜:……なに。
蕾:名前が同じだから、あの子雇ったの?
陽菜:……ちがう
蕾:ほんとはまだ、忘れられてないんでしょ。
陽菜:……違うってば。
蕾:ねぇヒナノ
陽菜:広河原くんは本当に真面目で、店の為に動いて凄くよく働いてくれてる。そんないい子をあの人と比べるのは、無礼にあたる。
蕾:……ゴメン。ヒナノ。
0:少しだけ時間を遡る
0:店を出たすぐ外
0:看板を下げようとしている広河原
広河原:えっと……?これ、電源コードってどこに繋がってるんだったっけ。……ん?ここか?
0:陽菜と蕾の話声が中から聞こえてくる
蕾:『ねぇヒナノ。』
陽菜:『……なに。』
蕾:『名前が同じだから、あの子雇ったの?』
広河原:――――え?
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0:閉店後・バックヤード
広河原:あの、ヒナノさん。
陽菜:ん?どしたの?
広河原:ごめんなさいっ!実はさっき、俺が看板下げに行ってた時に、二人の話聞こえちゃってて……
陽菜:……あー。
広河原:その、カリンさんが言ってた、「同じ名前」ってどういうことですか?
陽菜:なに、気になるの?
広河原:はい。気になります。
陽菜:広河原くんには全く関係ない話だよ?
広河原:でも!気になります。…………その、同じ名前なので。
0:(間)
陽菜:ぷっ、あははははは!!!!
広河原:えっと……
陽菜:広河原くん。君可愛いね。
広河原:(※少し照れて)えっ、かわいいってどういう――
陽菜:でも交換条件。
広河原:え。
陽菜:面接のとき、前科があるって言ってたじゃない?その話聞かせてよ。
広河原:は!?でもその話は!!
陽菜:大丈夫大丈夫。知ったからってクビにするとかないからさ。
広河原:……。
陽菜:ね?だから交換条件。私、広河原くんのこと、もっと知りたいし。私も話すから、君も自分の事教えて?
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広河原:(M)ウェーブがかった黒髪ボブに、陶器のように真っ白な肌。そして真っ赤な口紅。
広河原:(M)ヒナノさんは、誰がどう見ても立派な「夜職のお姉さん」だ。
広河原:(M)そして前科がある俺を雇ってくれた上、ここまで優しくしてくれている。
広河原:(M)だけど、あの時のことは……流石のヒナノさんにも話せない。
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0:広河原・独白
広河原:(M)俺は少年院卒の性犯罪者だ。実際に女の子に暴行をしたわけではないが、先輩達に脅され、加担した。
広河原:(M)中学生の頃。親友が居た。そいつだけはどうにか逃がしてやりたいと思ったんだ。だが、力不足だった。……本当に力不足だったんだ。
広河原:(M)先輩に殴られ、気を失い、目が覚めた時には既にすべてが終わっていた。
広河原:(M)こんな後悔があるだろうか…?
広河原:(M)今頃あいつは、何をしているんだろう。死んでないといいな、生きていてくれたら、それでいいから。
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0:現在へ戻る
陽菜:ひろがわらくーん?……大丈夫??ごめんね、私が図々しく聞いちゃったから、嫌な事思い出させちゃったよね。
広河原:いえ!そ、そんなことは……!
陽菜:じゃあ次は私の番。「りょうすけ」についてなんだけどね。
広河原:は、はい……。
陽菜:元カレとかそういうのでも何でもない、ただのセフレだよ。
広河原:えっ。
陽菜:ま、もう付き合いは11年くらいになるかなーー。
広河原:それって……。その、俺が言うのもおこがましいかもなんですけど、
陽菜:婚期、逃してるよねえ。自分でも分かってるんだ。
広河原:……。
陽菜:しかもあいつ、最近は本命ができたーとか言って全然会ってくれなくて。
広河原:……。
陽菜:ふざけんなって感じだよねー。19歳から30歳まで全部あの人に捧げてきたのに。
陽菜:――私は恋人には、なれなかったみたい。
広河原:……。
陽菜:ごめんね!こんな重たい話!聞いても気まずいだけだよね!
広河原:……ヒナノさん。
陽菜:はい?
広河原:俺ならその「りょうすけ」みたいな思いはさせませんよ。
陽菜:え…?それ、
広河原:俺の「りょうすけ」の漢字は、「良い」って書きますしね(笑う)
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陽菜:(M)誤魔化されたような気もするけど~~!誤魔化されたような気もするけど~~!
陽菜:(M)あれって告白……って捉えていいんだよね?でも落ち着けエ~!!相手はまだ21歳!9歳も年下!!……って。あれ。
陽菜:(M)そういえば結局、広河原くんのこと何も聞けてないや。
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0:閉店のBerryCrash
蕾:きゃ~~っ!!キュンキュンする!!それはもういけるっしょ!?付き合っちゃいなよ~~!!
陽菜:あーもううるさいってばカリン!!ないない!!9歳も下の子とどうにかなる想像すらつかない!!
蕾:え~~。お似合いだと思うんだけどな~~。
陽菜:そういうカリンはどうなのよ?もう付き合って5年?とかになるのよね?結婚は?指輪渡されてんでしょ?
蕾:あ~~話逸らされた~~!……まあいいけどさ。……「結婚」ねえ。
陽菜:予定はないの?それとも乗り気じゃないとか。
蕾:うーん。風俗嬢とホストが本当に結婚できると思う?
陽菜:ぁ……。
蕾:いくら人は中身だ~って言ってもさ、その人のバックグラウンドとか、影響して来るよ。かなり。
蕾:(M)ヒナノは美人だ。美人なのに自己肯定感が低い。サバサバしているように見えて、本当はかなりの寂しがり屋で恋愛体質。
蕾:(M)私はそんなところが好きなんだけど。ヒナノは自分のそんなところが嫌いなんだろうなって分かる。
蕾:(M)――ヒナノが誰の本命にもならないのは、本当は誰かに一番大切にされたいと思っているから。
蕾:(M)矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、これがヒナノの真っ暗なバックグラウンドだよね。
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0:過去回想・涼介と陽菜
涼介:その……。告白、されてさ。
陽菜:え。
涼介:いや~~断ったんだけど、これがなかなかしつこくって。
陽菜:付き合うの?
涼介:んー。まだ保留。
陽菜:保留ってことは、可能性はあるんだ。
涼介:まあ、そう、なる、かな?……なんだよヒナノ、嫉妬してんの?
陽菜:っっ!!してない!!!
涼介:はいはい。……でもさ、黒服と嬢が恋愛するのって御法度な訳ですよ~。もちろん店長である俺もな。
陽菜:……涼介は、御法度破ってまで、その子と付き合いたいんだね。
涼介:……。
陽菜:……そっか。分かった。もう会わないよ。
涼介:待てよヒナノ!
陽菜:なに?
涼介:その……ヒナノとは、これからも二人で会いたい。
陽菜:何それ、セフレってこと?
涼介:ちがっ、ちがくて!……その。なんというか。えっと……落ち着くんだよ。ヒナノといると。
陽菜:…………。ふーん。あっそ。勝手にすれば。
涼介:ありがとう。ヒナノ。
陽菜:……(※ぼそりと)何がありがとうなんだか。
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0:数日後
0:BerryCrash開店前の店内
陽菜:いいよ。付き合ってあげる。
広河原:え…?は…?
陽菜:どうしたのー。鳩が豆鉄砲食らったような顔して。っていうかこの表現初めて使ったわ(笑う)
広河原:ほ、ほんとうに、いいんですか?
陽菜:いいよ。ただ一つ条件。
広河原:は、はい。
陽菜:君が飽きたら、この関係は終わり。
広河原:え?
陽菜:付き合うってなったら、今よりお互いの内面を見るってことになるでしょ?それで、思ってたのと違う―、とか、過去を知って幻滅するー、とかあるじゃない?
広河原:(※過去という言葉に反応し、少し震えながら)過去を知って……幻滅……
陽菜:広河原くんが告白してくれた時さ、私は自分の話をぺらぺら喋っちゃったけど、広河原くんはそうじゃなかったじゃない。だから何かあるのかなーって。気になっただけ。
広河原:俺の……俺の過去は、えっと……その!
陽菜:(※被せて)ストーーップ!!無理に言えって言ってるわけじゃないからね?私にも言えない過去たくさんあるし。そもそも前科持ちなの知ってるし。
広河原:は、い…。すみません。
陽菜:私たちはお互いの事を知らない。だから、思ってたのと違ったり、飽きたら別れる。オーケー?
広河原:は、はい!!分かりました!!その、ありがとうございます。よろしくお願いします!
陽菜:よろしく。広河原くん。……あ。ヒロって呼んでもいい?
広河原:ぁ……。その、ごめんなさい。ヒロは辞めてもらえると、助かります。
陽菜:(※何かを察する)うーん……。じゃあ、良介の「良」の字をとって、ヨシくんかな!
広河原:それなら…!!ありがとうございます。気を使わせてしまって。
陽菜:こらこら。これから彼氏彼女になるんだから。そんな事言わないの。
広河原:そう、ですね。ははは。
陽菜:(※薄く笑う)
陽菜:(M)ああ。名前だけじゃなくて、笑った顔まで、似てるのか。
広河原:ヒナノさん……?
陽菜:……ううん。何も。
広河原:……。
0:時計を確認する陽菜
陽菜:ん。もうそろそろ開店一時間前かー。
陽菜:ヨシくん、出勤確認して貰っていい?今日シフト出してくれてる子は、アヤカ、ユミ、サクラ!
広河原:かしこまりました!
陽菜:あ!あとそうだ!
広河原:?はい。何か。
陽菜:私の事も、陽菜(ひな)って呼んでいいよ。
広河原:(※ドキッとして)っ…。はい。ありがとうございます。
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蕾:え!?結局付き合うことにしたの!?
陽菜:まあ、うん。
蕾:あんなに微妙そう~な顔してたのに。
陽菜:カリンに背中押されたのが大きいかな。後は昔の事、いろいろと思い出してた。
蕾:ん?私なんか背中押すようなこと言ったっけ?
陽菜:「その人によってバックグラウンドは違う」みたいなこと言ってたじゃん?カリン。
蕾:うん。言った。言った……と思うけど、なんでそれが関係してくるの?
陽菜:バックグラウンドなんて、人によって全然違うんだし、最初からそうなら、気にする必要ないのかなって。
蕾:広河原くんの過去の事?
陽菜:え?
蕾:ん?
陽菜:あ。……いや。確かにそうだ。私、自分の過去のことばっかり気にしてた。
蕾:(※ため息)ヒナノってさ、普段しっかりしてる癖に、変なところ抜けてるよね。
陽菜:はあ!?カリンに言われたくないし!
蕾:はっはっは!言ってやったぜー!
陽菜:も~~!むっかつく~~!
0:(間)
陽菜:……うーん。……でも。そうだな。広河原くんの過去に何があったとしても、別に私は気にならないかも。
蕾:そっか。それならいいんじゃない?
陽菜:うん。
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0:数日後
0:電話をしている陽菜
陽菜:…うん。…うん。ヨシくん。今日面接の子来るから遅出でいいよ。うん。よろしくね。…うん。じゃあ、また。
0:電話を切る
0:ネットの応募情報を見ている陽菜
陽菜:ええっと~?サイトの応募情報によると~?夜職は初めてで、若干男性恐怖症の気あり、か。ちょっと気になるけど……まあ、よっぽどじゃなければ大丈夫でしょう。
0:(間)
陽菜:……よしっ!店長業務、頑張りますか!
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0:数日後
0:ガールズバー『BerryCrash』
陽菜:今日から新人さんが入ることになりました。『アユミ』ちゃんです。夜職自体も初めてみたいだから、みんな仲良くしてあげてね。
アユミ:アユミです!よろしくお願いします!
広河原:よろしくお願いします。ボーイの広河原です。
アユミ:え…。
広河原:はい?
アユミ:広河原……?下の名前は何ですか?
広河原:え…?良介、ですけど……
アユミ:良介……??嘘……良介って、あの広河原良介!?
陽菜:アユミちゃん……??
アユミ:景勝(けいしょう)中学の!!広河原良介でしょ!?!未成年レイプ犯の!!
広河原:…っっ
0:(※広河原、店を出て行くまで浅い呼吸を続ける)
陽菜:ちょっと、アユミちゃん落ち着いて!!
アユミ:この店は前科者も雇ってるんですか!?あり得ないです!!しかも性犯罪者ですよこの人!!レイプ犯!!
陽菜:アユミちゃん、お願いだから落ち着いて!!広河原くんも、とりあえず離れて!!
アユミ:同じ中学だったから知ってるんです。集団レイプ事件。その中にコイツも居ました。犯罪者なんですよ!!!犯罪者!!!!この!!犯罪者ァ!!!!
広河原:っっ…!!
0:広河原、後ろを振り返らずに店を出て行く。
陽菜:ちょっと!!ヨシくん!!
0:しばらくその場の沈黙。
陽菜:……。とりあえず。今日は休業にしましょう。また再開の日取りが分かったら連絡するわ。
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0:繁華街・路地裏
陽菜:(※少々息を切らしながら)あぁ、いたいた……。
広河原:……。
陽菜:ヨシくん?
広河原:……。
陽菜:泣いてるの?
広河原:……泣いてません。
陽菜:そっか。
0:広河原の隣に座る陽菜
陽菜:よいしょ、っと。
広河原:……いいんですか?俺、性犯罪者ですよ。
陽菜:いいよ。
広河原:……。
陽菜:……。だから話してくれなかったんだね、自分の事。
広河原:……はい。
陽菜:私もね。
広河原:……?
陽菜:犯罪してたんだ。援助交際。しょっぴかれたことは無かったけど。
広河原:……。
陽菜:だからおあいこ。ヨシくんが性犯罪者だったとしても、しっかり刑期を終えて出てきたんだ。もう普通の人間だよ。
広河原:(※言葉にならずに唐突に泣く)~~~ひっ、なっ、さ、
広河原:俺っ、俺、どうしたらいいか分からなくてっ、死んだ方が良いって、何回も思ったし、何回も死のうと思ったし、
陽菜:うんうん。
広河原:(※まだ泣いてる)でもっ、、、ひなさんに会えて、よかったっっす、、
陽菜:それは私も嬉しいな~。よしよし。
広河原:(※男泣き・号泣)
陽菜:よしよーし。
0:広河原が泣き止むまでの間
陽菜:……私もね、ヨシくんに出会えて良かったって思ってるよ。
陽菜:最初はびっくりしたけどね。だってずっと好きだった男と名前が一緒なんだもん。
広河原:その話、前にも聞きました。(笑う)
陽菜:そういえばそうだったね。(笑う)
0:(しばらくの長い間)
陽菜:……ねえヨシくん。これからも私の傍に居てくれる?
広河原:いいんですか?俺、前科者ですよ。
陽菜:(※少し笑って)告白はヨシくんからしてくれた癖に。
広河原:……たしかにそうでしたね……。
0:(間)
広河原:俺でよければ、陽菜さんの傍に、ずっと居させてください。
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0:数日後
陽菜:さぁて、あの騒動でキャストの女の子もほとんど辞めちゃって。どうしようかね~~。
0:店に誰かが入ってくる
陽菜:あ。いらっしゃいま――ってカリンかよ!
蕾:うわひっど!!一応私も客だぞ客~~!!
陽菜:で?まだ開店前だけどなんか用??
蕾:ふふーーん。じゃじゃーん!!この指を見よ!!
陽菜:へ?……あ゛!?!婚約指輪じゃなくて、結婚指輪!?!
蕾:そう!!ワタクシ、結婚しましたぁ~!今日はその報告!!
陽菜:は!?え、は!?あんなに結婚渋ってた癖に!!なんだよなんだよ~~!?まじでおめでとう!!
蕾:ふふん~。ありがとう!!実はヒナノに背中押されたってのが大きいんだよね~~。
陽菜:ははは…。なるほど?背中の押し合いってわけですか……。ともかく、おめでとう。シャンパンおろそっか!
蕾:ああ!いいっていいって!気使わないで!それにヒナノには、もう一つお願いがあってきました!
陽菜:へ?嫌なお願いだったら断るよ?
蕾:もう~~!!ヒナノってホントそういうとこ辛辣~~!!
陽菜:へへーん。
蕾:(※咳払い)……えっと。ここ、ガールズバー『BerryCrash』で、もう一度働かせていただけませんか?今度は絶対あんなヘマしないし、結婚を機に風俗上がろうと思ってて。
0:沈黙
蕾:へ?へ?やっぱりこんなだらしない女駄目だった!?
陽菜:カリン~~~~~!!!!あんたは本当に救世主だよ!!!!!駄目なはずない!!今すぐ!!今すぐ働こう!!!!
蕾:ど、どしたの…?(※引き気味)
陽菜:いや実は、かくかくしかじかでキャストの女の子ほとんど辞めちゃって困ってたんだ……。
蕾:それはそれは……大変だったね、ヒナノも、広河原くんも。
陽菜:うん……。大変だった。超!大変だった!!うわああん!!!
蕾:はいはいよしよーし。……ふふーん。でも私が来たからには任せて!!超人気ガールズバーにしてあげるから!!
陽菜:だから前も言ったけど風俗と水商売は違うんだってばあ!!
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0:過去回想
涼介:……なんというか。な~。ヒナノは~、風俗向きじゃないのかもしれないな。あ。勿論悪い意味じゃないぞ?
涼介:しっかり者だし、自分の意思をちゃんと持ってて、一人でも生きていけるタイプ。だからきっとお金を貯めて、夢も叶えられる。
涼介:応援、してるぞ。俺は~、……ヒナノのことが大好きだしな?誰よりも、その、……ヒナノの味方だから。
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0:現在
陽菜:(M)拝啓。伏見涼介(ふしみ・りょうすけ)さん。お元気ですか?
陽菜:(M)私はなんとか、なんとか夢を叶えることができました。毎日が慌ただしくて、本当に、本当に大変だけど、それでも充実しています。
陽菜:(M)…そうだ。あなたと同じ名前の、ボーイの男の子が入ってくれたんですよ。性格は全然違うけど。(笑う)
0:(間)
陽菜:(M)あなたのことが本当は好きでした。たくさんたくさん、後悔もしました。
陽菜:(M)だけど今は、あなたが居なくても生きて行けるようになったみたいです。
陽菜:(M)あの時も。あの時もあの時も。随分と長いこと、私の好きな人で居てくれてありがとう。
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陽菜:……そして、さようなら。
0:(完)
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*
◇◆補足◆◇
(※読んでも読まなくても大丈夫です。)
(※自由に演じたい方は読まない推奨。)
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※サンシキスミレ(三色菫)の花言葉→「物思い」「心の平和」「愛の使者」「純愛」「私を想ってください」等。
※広河原の過去について※
出身校:景勝中学校(アユミと同中)→宮下高校(一年も通わずに中退)
・景勝中学校
部活動が盛んな中学校であるが、部活に所属していない生徒は荒れている。
広河原も当時は荒れている側であり、不良グループに所属していた。その時からのあだ名は「ヒロ」。
・宮下高校
いわゆる底辺ヤンキー高校。景勝中学時代からの親友と共に入学。当たり前に二人とも不良。
入学してすぐに他校の不良グループの先輩達が計画した集団レイプ事件に加担させられる。
広河原は暴行に加わることはなく、携帯を取り出してなんとか通報しようとするが、殴り飛ばされ気を失う。
目が覚めた時には全てが終わっていた。(親友は暴行に加担してしまっていた。)※詳しくは『あなたが居たかこそ。』より。
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