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ヴァナヘイムの塀の外【2:1:0】【ファンタジー/シリーズもの】

0:登場人物
バルドル:男
アールヴィル:男
ヘイムダル:女。「鬼のヘイムダル」

(所要時間:約30~40分) 
: 
0:戦場
0:バルドルとアールヴィル
バルドル:……下がれ。アールヴィル。
アールヴィル:了解。……どうした?
バルドル:すぐそこで、相当派手に殺り合ってる。
0:バルドル、スコープを覗く
バルドル:…んああ?やけに数が多いと思ったが、
バルドル:ありゃ1対8か?
バルドル:8の方が国家組織軍で……
バルドル:1の方はうちの組織の奴っぽいな。しかも女だ。
アールヴィル:女?
バルドル:助けるか?
アールヴィル:……バルドル、その女の方が劣勢なのか?
バルドル:ああん?んなモン数が違えんだから……
0:もう一度スコープを覗くバルドル
アールヴィル:どうだ?
バルドル:……オイオイ、マジかよ……なんだあれ……。
アールヴィル:女の方が強いか?
バルドル:……お、おう。
バルドル:目がおかしくなっちまったのかと思ったぜ……。
アールヴィル:僕にも確認させてくれ。
バルドル:ああ。
0:スコープを覗くアールヴィル
アールヴィル:うん。……間違いないね。
アールヴィル:「S-ヘイムダル」。
アールヴィル:僕が殺されそうになった、女の子の戦闘員だ。
バルドル:どうする。
アールヴィル:えーっと……逃げる?
バルドル:(※被せて)「逃げる」ってこたーねえよなあ?
アールヴィル:あはは……。
バルドル:ここまで近けーんだ。
バルドル:向こうから追っかけて来たに決まってんだろ。
アールヴィル:まあ、そうなるよね……。
バルドル:……やばいぜあいつ。一人で8人も殲滅しやがった。
アールヴィル:まあ……強いからねえ。
0:照準を合わせるバルドル
バルドル:よいしょっと。……これでよし。
0:ヘイムダルはその場に倒れる
アールヴィル:おい。何をしているんだ、バルドル。
バルドル:安心しろ。麻酔銃だ。殺しちゃいねーよ。
バルドル:……とりあえず、連れて帰るか。
 : 
 : 
0:数時間後
0:バルドルのアジト
0:アールヴィルと向き合うヘイムダル
ヘイムダル:お願いだ!!殺させてくれ!!
アールヴィル:ごめんなさい。
ヘイムダル:そこをなんとかあああ。
アールヴィル:……ごめんね。
ヘイムダル:なんでだよおお!!殺させてくれよおお!!
アールヴィル:また君が危ない目に遭うかもしれないんだ。
アールヴィル:だからごめんね。
バルドル:……一体俺は、何を見せられてるってんだ……??
アールヴィル:よく生きていたね、ヘイムダル。
アールヴィル:君はずっと一人で戦場にいたのか?
ヘイムダル:そーだよ悪いか。
ヘイムダル:皆怖がって私には近づかねーんだ。
アールヴィル:「殺戮兵器・鬼のヘイムダル」だもんね。
ヘイムダル:私をそうしたのはお前ら上層部だろ!?
アールヴィル:……ごめんね。
ヘイムダル:い、いや……今更、だし別にいいけどさ。
ヘイムダル:てか!謝るくらいなら、殺させてくれよ!!
バルドル:まーまー。お二人さん、コーヒーでも飲んで落ち着きな。
バルドル:味が薄いのは勘弁してくれ。
バルドル:ここらじゃ何もかも不足してやがる。
ヘイムダル:……知ってるよ。
ヘイムダル:私もこの戦場で生きてんだ。
ヘイムダル:貴重なコーヒー、ありがとよ。
ヘイムダル:……「諜報部隊」、だっけか。
バルドル:ああ、今は消滅したがな。……戦闘部隊「サマ」よ。
ヘイムダル:そういうの、やめろ。私は別に諜報部隊を差別しない。
バルドル:麻酔銃で撃たれてもか?
ヘイムダル:う……お、おう。差別しない。
ヘイムダル:私だって戦闘部隊のはぐれモンだ。
バルドル:だがよ、まだ組織に籍はあんだろ?
ヘイムダル:……一応な。
ヘイムダル:でも、それもこの男次第だ。
ヘイムダル:「アールヴィル元・上官」。
ヘイムダル:私はお前を殺さないと、ロキ兄から見放されるし、
ヘイムダル:……最悪殺される。
アールヴィル:あー…。じゃあ今この瞬間「死んだ」ってことで……。
ヘイムダル:馬鹿にすんじゃねえよ!!
アールヴィル:……ごめんごめん。
アールヴィル:でも、ヘイムダル。
アールヴィル:…「殺した」ってことにすればいいんじゃないのか?
ヘイムダル:最初はそうしたんだよ。ロキ兄は信じてくれた。
ヘイムダル:……でも最近になってバレたんだよ。
ヘイムダル:……「魔女」が帰ってきてる。
バルドル:魔女だあ??
アールヴィル:(※ため息)ワルキューレか。なるほど。それなら納得がいく。
バルドル:……な、なあ、「魔女」ってなんだよ!?
バルドル:俺、聞いたこともねえぞ!?
アールヴィル:バルドルは知らないよね。
アールヴィル:十年前くらいまで居たんだよ。
アールヴィル:……「魔女」が。うちの組織に。
バルドル:えぇーー……。
バルドル:……待て、待ってくれ。
バルドル:えっと、……な、何?……ま、ま、魔女?……えっ?
アールヴィル:うん。魔女。
ヘイムダル:魔女だな。
0:バルドル、煙草に火をつけ、煙を吐き出す
バルドル:……ちょっと、頭ン中、整理させてくれ……。
アールヴィル:正確には「科学者・研究者チームの特別構成員」ってことで、
アールヴィル:半分所属してもらってた形なんだよ。
アールヴィル:彼女は毒や薬の調合が上手くてね。画期的な研究ばかりしていたな。
バルドル:あ~!!なるほどな!!だから通称「魔女」ってか!!あっはっは!!
アールヴィル:いや、彼女が魔女なのは本当だよ。
バルドル:あっはっはっは!…………は??
アールヴィル:五百年?いや、もっとかな。
アールヴィル:年齢を聞こうとすると「女性に聞くことじゃない」と怒られてしまうからね。
アールヴィル:正確には分からないんだ。
ヘイムダル:喋り方はババアくさいけど、見た目は若いよな。
ヘイムダル:アールヴィル元上官と同じくらい?もうちょい上?
バルドル:……五百年って、、え……?何時代だよ……。
アールヴィル:最低五百年ってだけだから、もっと生きてる可能性もある。
バルドル:…いやいや、そういう問題じゃねえって!!
ヘイムダル:でも本当のことだぞ。な?アールヴィル元上官。
アールヴィル:……その「元上官」っていうの要らないよ、ヘイムダル。
アールヴィル:皮肉も込めて言っていたのかもしれないがね。
アールヴィル:「アールヴィル」でいい。
ヘイムダル:分かった。アールヴィル。
バルドル:オイオイ、アッサリだなぁ……。
アールヴィル:バルドルは最初戸惑ってたもんね。
バルドル:今でも戸惑いまくりだぜ?
バルドル:俺ってマジで組織のこと、何も知らなかったんだな……。
ヘイムダル:諜報部隊だからってのは、あると思うぞ。
バルドル:ああ、「嫌われ部隊」だからな。
ヘイムダル:戦闘部隊ではまずこう教わる。
ヘイムダル:「諜報部隊は信じるな」「諜報部隊を仲間だと思うな」。
アールヴィル:……シグルズはそんな教育をしていたのか。
ヘイムダル:知ってんだろー?シグルズ上官とヨルムンガンド上官の仲の悪さ。
アールヴィル:……(苦笑)ごめんね。知らなかった。仲良しだと思ってたよ。
ヘイムダル:カーッ!!これだからお上(かみ)の方々はよぉ!!
ヘイムダル:なあ!そう思わねえか!?諜報部隊の……えっと……えっと……
0:バルドル、煙草の煙を吐き出す
バルドル:……「W-バルドル」だ。
ヘイムダル:バルドル!!なぁ!?お前もそう思うだろう!?
バルドル:……任務に滞りが出てたわけじゃねーんだから、今更どーでもいーだろ。
ヘイムダル:カーッ!!これだから諜報部隊の奴はぁ!!
ヘイムダル:…はっ、あ、いや私は差別はしないけど!!
0:バルドル、煙草の煙を吐き出す
バルドル:……別に、差別してくれて構わんぞ。
バルドル:今までもそうやって生きてきた。
バルドル:諜報部隊はそれが仕事だ。
アールヴィル:……バルドル。
バルドル:……諜報部隊のトップ、ヨルムンガンド上官は「裏切りの天才」だった。
バルドル:爆破テロを起こしたスルト上官も「騙しのプロ」だ。
アールヴィル:……君の言う通りだバルドル。
アールヴィル:彼らが居なかったら、国家転覆計画は実行すらままならなかっただろう。
バルドル:あー……えっと、ヘイムダル上官、だったか?
ヘイムダル:お、おう。
バルドル:戦闘部隊では、諜報部隊を敵視するよう教わるみてーだが、
バルドル:俺ら諜報部隊の教えは「誰も信じるな」ただ一つこれだけだった。
ヘイムダル:人間不信になりそうだな……。
バルドル:…ったりめーだよ、それが狙いだ。
バルドル:あとはあれだな、「人を信じたら死ぬぞ」とかもよく言ってたなぁ。
ヘイムダル:……なんか、シグルズ上官があれだけ嫌ってた意味が分かってきた気がするぞ。
ヘイムダル:あの人が大事にしてたのは、「仲間意識」とか「連携」とかそういう、
ヘイムダル:「信じる心」だったからさ……。
アールヴィル:「信じる心」のシグルズ率いる戦闘部隊と、
アールヴィル:「疑う心」のヨルムンガンド率いる諜報部隊が、
アールヴィル:組織を支えてくれていたんだね。
アールヴィル:でも今その二つを失って、組織は傾きつつある。
ヘイムダル:正直、ボスが今何考えてんのか、私わかんないよ……。
ヘイムダル:命令だっていつもロキ兄越しだし……。
アールヴィル:ごめん。それは僕も分かんないや。
バルドル:……仮にも元ナンバースリーだろーが。
アールヴィル:ごめんって。(※物悲し気に)
0:バルドルが煙草を吸う音、他二人沈黙
バルドル:……ヘイムダル上官よお。
ヘイムダル:…んあぁ、あのなぁ、バルドル。
ヘイムダル:なんか、一番歳下の私だけ「上官」って呼ばれるのも、
ヘイムダル:まどろっこしいからよ、「ヘイムダル」でいいぜ。
バルドル:わーったよ。ヘイムダル。
ヘイムダル:……それに、私もほとんど、組織を追放されてるようなモンだしな……。
アールヴィル:ここに居る三人とも、境遇は違えど、組織のはぐれものって訳だね。
バルドル:落ち着いてられるような話でもねえけどな……。
ヘイムダル:それで、なんだ?バルドル。何を私に言いかけた?
バルドル:……今のあんたからは、殺気も悪意も微塵も感じない。
バルドル:ヘイムダル、あんた本当にアールヴィルを殺す気あるのか?
アールヴィル:何としてでも殺したいんだとしたら、
アールヴィル:今話してるこの瞬間にナイフを突き刺すことも出来るし、
アールヴィル:コーヒーに毒物を混ぜることだって可能だね。
ヘイムダル:……私は……私にも、殺しの信条ってもんがある。
バルドル:大方(おおかた)、真正面から以外の殺しはしない、ってところか。
バルドル:……後は、自分に殺意を向けてる相手以外には、こちらから殺意を「向けることができない」。
ヘイムダル:…っっ。
バルドル:だーから、こんなヤク、持ち歩いてんだろ?
0:バルドル、薬の入った袋を手に持ってヘイムダルに見せびらかすようにする
ヘイムダル:そ、それはっっ……!!ロキ兄から貰った薬……!!
ヘイムダル:なんでお前が持ってんだよ!!返せよ!!
バルドル:いんや?麻酔銃で寝てもらってる間に、危険物は無いか、いろいろと物色させてもらった。
ヘイムダル:なっ…
バルドル:こりゃあそーとーキマるヤクだぜ?
ヘイムダル:っっ!!当たり前だ!!ロキ兄の薬は凄いんだぞ!!
バルドル:…いやいやいや!そうじゃなくてよ。ヘイムダル、あんた、
バルドル:「自分に殺意が無い相手」に対しては、こんだけヤクキメねぇと殺せねえのか?
アールヴィル:……戦闘部隊の「殺戮兵器」、ヘイムダル。
アールヴィル:でも本当は、誰よりも人を殺すことが怖い、か弱い16歳の女の子だよ。
ヘイムダル:そ、そんなことはない……!!私は人を殺せる!!(※取り乱す)
ヘイムダル:そうやって教えられてきた!!そうやって、ずっと育ってきたんだ!!
アールヴィル:君の戦闘能力を否定している訳じゃないよ。ヘイムダル。
アールヴィル:防衛戦において、君は並大抵の人間では出せないような力を発揮する。
アールヴィル:それこそ「殺戮兵器」だ。
ヘイムダル:……褒めていただきどーもありがとーございまーす。(※棒読み)
バルドル:しっかしよお、ヘイムダル。こんなヤクしょちゅうキメてたら、それこそ早死にするぜ?
ヘイムダル:いーんだよ!どーせいつ死ぬかも分かんねえ!
バルドル:……16歳だとか言ってたよな。
ヘイムダル:ああ。16だが何か。
バルドル:……まだまだ人生これからだろーがよ……
ヘイムダル:オニーサンがたのお説教なんていらねーから!!
バルドル:こんのクソガキ……っっ!!心配してやってんだぞ!?
アールヴィル:まあまあバルドル。今のヘイムダルに殺意は無いんだ。
アールヴィル:それが分かっただけでも、充分じゃないか?
バルドル:いや、そーだけどよ……。
ヘイムダル:んじゃ、私はそろそろ行く。
バルドル:待てヘイムダル。泊まる場所はあるのか?
ヘイムダル:んなもんねーよ。
バルドル:(ため息)……だろーと思った。
ヘイムダル:悪いか?こっちは野宿だって慣れてんだよ。
アールヴィル:……バルドル。ちゃんと言ってあげなね。
バルドル:お、女の子の……野宿は、き、危険だろ……?
バルドル:俺のアジトは、そこそこ頑丈に作ってあるし、敵からも見つかりにくい。
バルドル:……その、男二人と一緒が嫌じゃなきゃ、しばらく手を組まねえか?
ヘイムダル:……手を組むだあ?私が?お前たちと?
アールヴィル:つまりは、ヘイムダル。君が心配だから、しばらく行動を共にしないかってことだよ。
バルドル:ほ、ほら!!アールヴィル殺すんだろ!?
バルドル:一緒に居るうちにさ、弱みとか?そーゆーの?分かるかもしんねーぞ!!
0:ヘイムダル、無言からの、少しずつ笑い出す
ヘイムダル:……ふふ、くくっ、あははっ!!あはははっっ!!!
ヘイムダル:成人男性二人して、何恥ずかしがってんだよ!!あっははは!!!
ヘイムダル:私にだって、「人の優しさ」くらい分かるっつーの!!
ヘイムダル:馬鹿にしないでもらいたいね!!あっはははは!!!!
アールヴィル:……ヘイムダル。
ヘイムダル:わーったよ。オニーサン二人。不束者ですが、お世話になります。
ヘイムダル:あと……ありがとな!バルドル!!
バルドル:お、おう!!あんたが案外、物分かりいい奴で、助かったよ。
アールヴィル:……よかったねバルドル。賑やかになって。(※ぼそりと)
バルドル:そう……だな。
 : 
 : 
0:数日後
0:戦場
0:戦闘中のバルドル、ヘイムダル
バルドル:右。左。正面。背後。それから斜め右。
0:バルドルの指示に合わせてナックルで近接戦闘を行うヘイムダル
ヘイムダル:…うぉりゃっ!!…っだあっ!!…はあっ!!…死ね!!…もういっちょっ!!
ヘイムダル:(※戦闘中の掛け声はやりやすいよう、ご自由にしてください。あくまでも例です)
0:(少し間)
0:戦闘後
ヘイムダル:……(※軽く息をつく)
0:煙草を吸うバルドル
バルドル:……ありがとよ、ヘイムダル。
バルドル:5m圏内の敵は全て抹殺済みだ。
ヘイムダル:……流石はスナイパー。
バルドル:流石っつーならあんただろ、ヘイムダル。
バルドル:ナックルダスター、っつーのは、ひと殴りすれば人を殺せるモンなのか?
0:ヘイムダル、自分の血まみれのナックルダスターを見る
ヘイムダル:……うーん。急所を狙ってるから?
バルドル:いやいや!!そーゆことが言いてえんじゃねーんだよ!!
ヘイムダル:……?
0:煙草の煙を吐き出すバルドル
バルドル:……強いんだな、あんた。
ヘイムダル:ありがと。最高の誉め言葉だよ。
バルドル:……あんたがあのヤクを使わなくてもいーよーに、
バルドル:殺意のねー敵は全員俺が殺す。
ヘイムダル:……。
バルドル:不満か?
ヘイムダル:……効率的だと、思うけど。
バルドル:思うけど?
ヘイムダル:どーしてそこまで、私を生かしたがるんだ?バルドル。
0:煙草の煙を吐き出すバルドル
バルドル:……せっかく生きてる人間じゃねーか。
バルドル:死なせたくはねーよ。
ヘイムダル:……なんだそれ。
バルドル:俺にもよく分かんね。
 : 
 : 
0:バルドルのアジト
0:アールヴィルが待っている
0:簡易テーブルには少し豪華な食事と濃いコーヒーが置かれている
アールヴィル:おかえり、二人とも。無事で何よりだよ。
バルドル:……アールヴィル、あんた、これ……どうしたんだよ。
バルドル:こんな豪華な食いモンと、ちゃんとした「濃い」コーヒー。
アールヴィル:「闇商がいる」って言ってただろう?バルドル。
バルドル:まさかこれ全部……
アールヴィル:お金だけは、一応持ってるんだよね。
ヘイムダル:お前っっ!!っざっけんなよ!!アールヴィル!!
0:ヘイムダル、アールヴィルに掴みかかる
アールヴィル:……ごめん。
アールヴィル:何か君の気に障るようなことをしてしまったかな?ヘイムダル。
ヘイムダル:お前は!!死んだことに!!なってんだよ!!
ヘイムダル:私が!!殺したことに!!なってんだよおお!!
アールヴィル:……ごめんね。軽率だったよ。
バルドル:二人の問題は、俺にはよー分からんが……
バルドル:俺の居ない間に外に出て、あまつさえ、「闇商」。
バルドル:他の人間と関わるのは、得策とは言えんな。
アールヴィル:……バルドルもごめんね。
アールヴィル:僕も戦闘に付いていきたいところではあったんだけど、
アールヴィル:ヘイムダルが居てくれれば、事足りてしまうからね。
アールヴィル:僕はただの足手まといになってしまう。
ヘイムダル:……アールヴィルが「弱い」っての、いまだに信じられねーんだけど。
バルドル:俺は「強い」って方が信じられねーぜ。
ヘイムダル:何言ってんだ。私はこいつに殺されそうになったんだぞ?!
アールヴィル:あはは。僕はその前にヘイムダルに殺されかけたんだけどね。
0:バルドル、煙草の煙を吐き出す
バルドル:……いや、でもよ。俺から「バディを組もう」なんて話を持ち出しておいて、
バルドル:あっさり置いてった俺も悪かったのか。すまんな。
アールヴィル:気にしないで。隠密行動は人数が増えるほど動きづらくなるだろう?
バルドル:まあ、その通りではあるんだが……。
アールヴィル:それにバルドルは、僕とヘイムダルがなるべく顔を合わせないように、気を遣ってくれている。
バルドル:な……!
アールヴィル:(軽く笑って)そ、れに、二人の戦闘スタイルなら相性バッチリだっただろう?
ヘイムダル:それは……まあ、そう、だな……。
アールヴィル:二人で仕事をするのが、現状で最適解だと思うんだ。
アールヴィル:……でも僕は、ヘイムダル、君に殺されなくちゃならないし、
アールヴィル:路頭に迷っていた僕を助けてくれたバルドルへのお礼もきちんとしたい。
アールヴィル:手始めに、……はい。バルドル、あげる。(煙草の箱を投げる)
バルドル:うわっっとぉ!!急になんだよ!!
バルドル:……って、これって……
アールヴィル:元々吸っていたのはそっちの銘柄だろう?
バルドル:これあんた、どーやって……
アールヴィル:簡単な市場(しじょう)調査さ。
アールヴィル:ヘイムダルには……気に入るか分からないけど、これあげる。
0:アールヴィル、ヘイムダルに小さな包みを渡す
ヘイムダル:な、んだ……これ。
ヘイムダル:え?て、手鏡……??こんなの、どうして!?
アールヴィル:女の子だし。そろそろ必要かなと思ったんだけど。いらなかったかな?
ヘイムダル:わ、私は……!!殺戮兵器で……こんなの、似合わない。
バルドル:んなことねーと思うぞ。
ヘイムダル:バルドル!?
バルドル:確かにあんたの戦闘の腕はすげーけど、それより前に十代の「女の子」なんだからよ。
ヘイムダル:(※恥ずかしくてカーッとなる)
ヘイムダル:お、お前ら二人して!なんだよ!「女の子」「女の子」って!!
バルドル:照れてんのか?
ヘイムダル:照れてねーし!!
アールヴィル:照れてるね。
ヘイムダル:照れてねーし!!!!
0:バルドル、アールヴィル、笑う
0:ヘイムダル、むくれているけど楽しそう
 : 
 : 
0:深夜
0:バルドルとアールヴィル
0:ヘイムダルは寝ている
0:煙草を吸っているバルドル
バルドル:……市場(しじょう)調査、ってのはなんだ。
アールヴィル:いや、現状で、外の世界がどうなっているのか把握しておきたかったんだ。
0:煙草の煙を吐き出すバルドル
バルドル:で?お前の目にはどう映った。
アールヴィル:少なくともマーケットは機能しているし、民間人の生き残りも思ったより多い。
バルドル:俺らが命がけでやった「国家転覆計画」は失敗したっつーことか?
アールヴィル:……それは分からない。オーディン次第だよ。
バルドル:そーかよ。
0:少し間
バルドル:……ヘイムダルはどうすんだ。
アールヴィル:ヘイムダルの狙いはこの僕だ。
アールヴィル:でも、ヘイムダルに僕を殺すことはできない。
バルドル:ロキ上官…だったか?に殺されるんだよな。確か。
アールヴィル:そうだろうね。
0:煙草に火をつけ、煙を吸ってから吐き出すバルドル
バルドル:……そうか。
アールヴィル:どうにかしたい、って思っているんだろう?バルドル。
バルドル:まあ、そうなるな。
アールヴィル:……いいバディになると思うんだけどな。
バルドル:は?
アールヴィル:バルドルとヘイムダルだよ。
バルドル:俺と、あいつがか……?
アールヴィル:うん。だからどうにかして、ヘイムダルをヴァナヘイムの呪縛から解いてあげたいんだよ。
バルドル:んなこと言ったって、無理だろ。
バルドル:……「ヴァナヘイムの呪縛」か。
アールヴィル:もし万が一、僕が死んだところで、ヘイムダルはロキの手下のままだ。
アールヴィル:彼女はロキのことをとても慕っているしね。
バルドル:……じゃあどうするってんだよ……。
アールヴィル:「ヘイムダルが死亡したことにする」。
0:煙草の煙を吐き出すバルドル
バルドル:……ほう。
バルドル:理屈は分かるが、どうやるんだよ。そんなこと。
アールヴィル:……明日、僕を戦場に連れて行ってくれないか?
バルドル:……まあ、それは構わんが。
バルドル:どういう考えだ?聞かせろ。
アールヴィル:僕の力が暴走すれば、ヘイムダルを瀕死の状態まで持っていくことができるかもしれない。
バルドル:……もう一人のアールヴィルか。
バルドル:でも、賭けだろ、そんなの。
アールヴィル:賭け、だね。
アールヴィル:殺してしまったら意味が無い。
アールヴィル:ヘイムダルはバルドルとバディになるべきだと、僕は思う。
バルドル:……元・上官サマの勘ってやつか。
バルドル:まあでも、アールヴィルの言う通り、あいつのことは悪く思っちゃいないぜ、俺は。
アールヴィル:そうだろう?なんならもう既に恋慕の感情も抱いているのではないかな?
0:盛大に煙草をむせるバルドル
バルドル:……おいおい、あんなクソガキに?俺が?
アールヴィル:うん。
バルドル:冗談きっついぜ。
アールヴィル:だからこそ、邪魔なのはこの僕だ。
アールヴィル:……もし、もう一人の僕がヘイムダルのことを本気で殺しそうになったら、僕のことを撃ってくれ。
バルドル:……なんつーか、組織に居た頃を思い出すぜ。
バルドル:あったな、そんな任務も。
アールヴィル:お願いできるかい?
バルドル:……わーったよ。
バルドル:明日はちょうど、人手が必要な仕事でな。
バルドル:元々アールヴィルも、駆り出す予定だったんだよ。
アールヴィル:……助かる。(※微笑む)
 : 
 : 
0:翌日
0:戦場にて
0:アールヴィル、バルドル、ヘイムダルの三人
バルドル:俺はこの場所から的を狙う。
ヘイムダル:んで、前衛が私とアールヴィルってわけだな。
アールヴィル:よろしくね。ヘイムダル。
ヘイムダル:あぁ。私の足ひっぱんじゃねーぞ。
アールヴィル:それは分からない。僕は弱いからね。
アールヴィル:でも邪魔にはならないようにするよ。
ヘイムダル:……ムカつく。
ヘイムダル:なーにが「僕は弱いからね」だよ。
アールヴィル:あはは。
バルドル:数が多い。油断はするな。
ヘイムダル:了解。
アールヴィル:了解。
 : 
0:次の瞬間、走り出すヘイムダル
バルドル:おい!ヘイムダル!勝手に先行すんな!!
ヘイムダル:あの数なら私一人で殺れる!!私が行く!!
ヘイムダル:アールヴィルなんかに頼らない!!
アールヴィル:……いい意気込みだ!でも、僕も加勢させてもらうよっ!
 : 
0:離れていく二人を見守るバルドル
バルドル:一体どうなっちまうんだか。
0:煙草の煙を吐き出すバルドル
バルドル:……チッ、煙草が不味い。
 : 
 : 
0:前線
0:国家組織軍と交戦するヘイムダルとアールヴィル
ヘイムダル:っっ!!私はっ!!「殺戮兵器・鬼のヘイムダル」!!
ヘイムダル:人を殺せない私は無価値!!
ヘイムダル:だからっ!!お前ら全員ぶち殺してやるんだよおっっ!!
アールヴィル:ヘイムダルっっ!!前のめりになりすぎだ!!
ヘイムダル:うるせえ!!こっち来んなよ!!アールヴィル!!
アールヴィル:僕は死なないけど、君は死ぬ人間だ、ヘイムダル!!
アールヴィル:危険過ぎる戦い方はよせ!!
ヘイムダル:意味わかんねえこと言ってんじゃねーよ!!
アールヴィル:少なくとも、僕を庇うような戦い方はするな!!
ヘイムダル:ああ!?さっきからモタモタしながら何言ってんだよ!!
アールヴィル:カーラもそうだった、僕を庇って死んだ!!
アールヴィル:僕は庇う必要なんかない人間なんだ!!
ヘイムダル:ああん!?意味っわっかんねぇ!!
ヘイムダル:私はっ!戦って!死にたいんだよお!!!
0:ヘイムダル、何かに気が付く
ヘイムダル:……っっ!!!アールヴィル!!!おい!!後ろ!!
0:敵に後頭部を強打され倒れるアールヴィル
ヘイムダル:っっ!!!アールヴィルっっ!!!
 : 
0:少し離れた位置に居るバルドル
バルドル:……やべえな。本番はこれからってとこか。
0:吸っていた煙草の火を消し、スコープを覗きこむバルドル
 : 
ヘイムダル:おい!!アールヴィル!!しっかりしろよ!!
ヘイムダル:……アールヴィル??
0:頭から大量の血を流し、ぬらりと起き上がるアールヴィル
アールヴィル:……いたた。よかったよ…当たったのがヘイムダルじゃなくて。
 : 
0:少し離れた位置に居るバルドル
バルドル:……あれ?意外と普通、か……??
 : 
0:震えているヘイムダル
ヘイムダル:……あ、あ…あ、あの時の……アールヴィルだ。
アールヴィル:さて……誰から殺そうか。
アールヴィル:君かな?君かな?それとも君か?
アールヴィル:ヘイムダルに怪我を負わせたのは君だな、よし君からにしよう。
0:アールヴィル、素手で敵の頭を掴み地面に殴りつける
ヘイムダル:……ぁ、……ぁ……。
0:ただならぬ雰囲気にその場から動けなくなり失禁するヘイムダル
アールヴィル:ヘイムダルどうしたの?怖かったのか。そうだよね。
アールヴィル:こんなに大勢の敵兵に囲まれてさ?そりゃ失禁もするよ。
0:アールヴィル、隠し持っていた鎌で敵の首を次から次へとはねていく
 : 
0:少し離れた位置にいるバルドル
バルドル:嘘だろ、あんな鎌どこから……さっきまでカトラス一本で戦ってたのに……。
バルドル:まるで、死神……。
バルドル:……っ!「死神のアールヴィル」……。
 : 
ヘイムダル:「死神のアールヴィル」……。昔聞いたことがあった。
ヘイムダル:……アールヴィルの異名……。
アールヴィル:ああ、そんな風に呼ばれていたこともあったね。
アールヴィル:……ほら、隠し武器って、重要じゃない?
ヘイムダル:あ、あんたの本当の武器は、カトラスじゃなくて、鎌……。
アールヴィル:さて、ヘイムダル。
アールヴィル:敵兵は皆死んじゃったわけだけど、君は、どうするんだい?
ヘイムダル:ぇ……ど、どうするって……
アールヴィル:君もここで死んでおく?あれっ?僕のことを殺すんだっけ?
 : 
0:少し離れた位置に居るバルドル
0:震えている
バルドル:……狙うぞ、狙うぞ、俺は……撃つ!!アールヴィルを、撃つ!!
バルドル:俺は悪の組織「ヴァナヘイム」諜報部隊・W-バルドルだ!!
 : 
0:バルドルの撃った弾は見事にアールヴィルに命中、アールヴィルは血を吐いて倒れる
アールヴィル:ぐはあっ!!
ヘイムダル:バルドル!!!
0:アールヴィルとヘイムダルの元へ近づくバルドル
バルドル:大丈夫……なんだよな?死んでねーんだよな……?
0:とどめをさそうとアールヴィルに馬乗りになるヘイムダル
ヘイムダル:っっ!!今だ!!殺すなら今しかない!!
バルドル:おいヘイムダル!!下手な真似はよせ!!
0:そこで目を覚ますアールヴィル
アールヴィル:……んん?ああ、そうだったそうだった。
アールヴィル:もう一人いるんだった。バルドル。
バルドル:アールヴィル、あんた、本当にアールヴィルなんだよな……?
アールヴィル:バルドルの好きな煙草の銘柄、ちゃんと覚えているよ。
アールヴィル:……まあ、今この僕を殺そうとしているヘイムダルは、殺すんだけどね。
0:アールヴィル、鎌でヘイムダルの脇腹を貫く
ヘイムダル:がっ!!…ぐはあっっ!!
バルドル:おい!!アールヴィル!!正気に戻れ!!!
アールヴィル:足りないなあ。足りない足りない。殺したりないよ。
アールヴィル:……バルドル、君も死んでおくかい?
0:バルドル、至近距離からアールヴィルを乱射
バルドル:っっ!!くそっ!!クソおっっ!!!
バルドル:お願いだ、正気に戻ってくれ!!アールヴィル!!
0:銃弾に倒れるアールヴィル、反応は無いが撃ち続けるバルドル
バルドル:くそっ!!くそっ!!!なんでこんなことに!!!
バルドル:……くそぅ……!!クソがあああああ!!!!
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アールヴィル:……ん、あれ?バルドル?
0:目を覚ますアールヴィル、辺りは血にまみれている
アールヴィル:上手くいった、かな……?
アールヴィル:ヘイムダルは?
バルドル:……死んだよ。
アールヴィル:そうか。
バルドル:あんたが殺しただろ!!!
アールヴィル:……そう、だね。ごめんなさい。
バルドル:即死だったよ。
アールヴィル:……でも、これでヘイムダルは解放されたんだね。
バルドル:おかしいよ、あんた。
アールヴィル:ごめん。全て僕のせいだね。
バルドル:「死神のアールヴィル」。
アールヴィル:……ああ、僕の異名だね。
0:アールヴィル、周囲に散らばった銃弾を見やる
アールヴィル:この銃弾は……
バルドル:俺が撃ったよ。あんたに向かって。
アールヴィル:ありがとう。お陰で正気に戻れたよ。
アールヴィル:でも、ごめんね……大事なバディを殺してしまった。
バルドル:……俺のバディは、あんただけだよ。アールヴィル。
アールヴィル:まだバディでいてくれるのかい?
バルドル:俺から言い出したんだ。……義理堅い方ではあるんでね。
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0:バルドル、煙草を吸おうとして軽くむせる
バルドル:……ひでえ血の臭いだ。煙草も吸えねえ。
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0:END

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