ヴァナヘイムの開門揖盗(かいもんゆうとう)【2:3:0】【ファンタジー/シリーズもの】
0:登場人物
オーディン:男。ボス
アールヴィル:男。オーディンのことが大好きみたい
ヴェルダンディ:女。ちょっと取り乱したりもする
スクルド:女。わりと図々しい
フェンリル:女。がんばれ
(所要時間:約20分~30分)
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0:現・組織本部
0:地下施設
0:オーディンの部屋
オーディン:くくく……ふっ、はっはっはっ!!
オーディン:面白くなってきたぞ?アールヴィル。……さあ、どうする。
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0:オーディンから少し離れた位置には、アールヴィルが立っている
アールヴィル:……僕からしてみれば、どうする、と問いたいのはこちら側なんだけどね。
オーディン:バルドルにクヴァシル、そしてスクルドまで。まーよく集めたもんだぁ。
オーディン:感心するぜぇ。
アールヴィル:……オーディン。やるのか?やらないのか?
オーディン:まあ、そう焦るな。……どうせやる。貴様以外の奴は死ぬ。
アールヴィル:そしてまた、絶望した僕の顔が見たいって?
オーディン:ま、それもあるにはあるが……。
アールヴィル:何だ?
オーディン:「魔女」が来たんだよ。
アールヴィル:(ため息)……ワルキューレか。
0:
オーディン:少し、昔話をしないか?アールヴィル。
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0:別室
0:ヴェルダンディとフェンリルのみが部屋に残っている
ヴェルダンディ:…………済まない。気を失うなど、戦闘員としてみっともないところを見せてしまったな。
フェンリル:いえ、私のせい、ですから……。
ヴェルダンディ:いったい何だったんだあれは?今はもう大丈夫なのか?
フェンリル:はい……。なんとか。シヴ上官の能力のお陰で、人間の姿に戻れています。
ヴェルダンディ:……。北欧神話におけるフェンリルは、狼、であったか。
フェンリル:ええ。おそらく――
0:部屋に入ってくるスクルド
スクルド:邪魔するわ。
0:敵意を向けるヴェルダンディとフェンリル
ヴェルダンディ:っっ…
フェンリル:っっ…!
0:困り顔で笑うスクルド
スクルド:あらあら。二人とも落ち着いて?
ヴェルダンディ:…………誰だ。
スクルド:私はあなたたちの敵じゃあない。
フェンリル:どなたですか?『ヴァナヘイム』の格好をしているけれど……
スクルド:初めまして、ね。私は諜報部隊・階級Bクラス・M-スクルドよ。
ヴェルダンディ:…………スクルド。(※名前に反応している)
スクルド:戦闘部隊・階級Aクラス、U-ヴェルダンディ上官。あなたもなかなか勉強したようね。
【※注釈:北欧神話におけるヴェルダンディ・スクルドは姉妹関係です。】
フェンリル:諜報部隊って……あの……(※裏切り部隊の?と言いかけてやめる)
スクルド:そんなしかめっ面しないで頂戴。N-フェンリル。
フェンリル:どうして私やヴェルダンディ上官のコードネームを……。
スクルド:私は、「ヴァナヘイムお抱えの情報屋」。こう言えば分かるかしら?
ヴェルダンディ:……情報屋……だと……?
スクルド:ま、聞いたことがないのも当たり前よね。そもそも私の所属は諜報部隊だし。
スクルド:……それに、情報屋として、ずっと身を潜めて生きてきた。
フェンリル:私、諜報部隊の方って初めてお会いしました。
ヴェルダンディ:…………俺もだな。
スクルド:ええ。よろしく。フェンリル。そしてヴェルダンディ上官。……二人とも随分と取り乱していたようだけれど。何かあったのかしら?
フェンリル:それは……えっと……
スクルド:……遂に書いたのね。Z-エイルが。ヴァナヘイムの物語を。
フェンリル:はい……。
ヴェルダンディ:……おい。突然現れて、お前の目的は何だ。諜報部隊。
スクルド:まあまあ、落ち着いて?
ヴェルダンディ:こんな状況で、落ち着いていられるか……!!
スクルド:……今ね、アールヴィルくんが、オーディンに会いに行ってる。
フェンリル:アールヴィル上官が!?
ヴェルダンディ:……どういうことだ。
スクルド:ふふ。ヴェルダンディ上官。あなたにも分かり易く説明するとね――
スクルド:私たちは『ヴァナヘイム』。この組織を襲撃しに来たの。
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0:【間】
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フェンリル:【語り】『あるところに、それはそれは心の優しい男の子がいました。彼は、弱い者いじめが許せませんでした。だけど彼自身も、喧嘩が強い方では無かったので、止めに入ることが出来ずに悩んでいました。「どうしたら、皆が仲良くできるんだろう」と。毎日毎日、そのことばかりで悩んで、夜も眠れない日々が続いていました。』
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0:【間】
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0:オーディンの部屋
オーディン:「魔女」が貴様に植え付けた「悪の球根」は、順調に育っているようだな。
アールヴィル:……そう言えるね。
オーディン:どうだ?気分はいいか?
アールヴィル:……分かっていて聞くのかい。
オーディン:元はと言えば、貴様が望んだことだろう。
アールヴィル:その通りだよ。……僕は喧嘩が強くなりたかった。一方的にいじめられて、搾取されるだけの毎日に嫌気が刺していた。
オーディン:俺はそんな貴様の相談に乗ってやった。
アールヴィル:……そうだ。そして君はその頃から魔女と繋がっていて、彼女の作り出した「悪の球根」を飲み込むよう、僕に渡した。
オーディン:飲み込むかどうかの決定権は、貴様に委ねたはずだぞ。
アールヴィル:ああ。だから僕は、オーディン、君を恨んではいないよ。
オーディン:……「魔女」を恨むか。
アールヴィル:いいや。恨むべきなのは僕自身だ。
オーディン:ほう。相変わらずだな、貴様は。まだ十二歳であった自分の判断を恨むのか。
アールヴィル:……アールヴィル、なんて、皮肉なコードネームを付けてくれたものだよ。
オーディン:はっはっは。良いネーミングセンスだろう。
アールヴィル:残りの球根はどうした。
オーディン:お?
アールヴィル:残り七つの球根はどうしたと聞いている。
オーディン:貴様は今更そんなことを聞くのか。
アールヴィル:「S-ベストラ」が飲み込んだのは知っているよ。僕も居合わせていたのだからね。
オーディン:……ああ。奴は立派な「悪の子供」を産んでくれたな。
アールヴィル:「悪の球根」は全部で九つ。一つは僕が飲み込み、もう一つはベストラが飲み込んだ。
アールヴィル:……残りの七つはどうした。まさかオーディン、君が飲み込んだわけではあるまい。
オーディン:そうだな。俺は「殺されなくてはならない」からな。
アールヴィル:……君は、まだ手元に球根を残しているのか。
オーディン:いいや?
アールヴィル:……全て人の手に渡ったのか。
オーディン:まあな。
アールヴィル:……適合したのは僕だけ……ということか。
オーディン:「S-ベストラ」も、惜しくはあったがな。
アールヴィル:……彼女は自ら「魔女」に懇願し、死を選んだ。
オーディン:「心臓を抜き取られる苦痛」は、どれ程のものだったのだろうな。……奴はいい表情をしていたよ。
アールヴィル:君も相変わらず悪趣味だな。
オーディン:他に球根を与えた奴らもそうだった。人間が発狂して死ぬ場面というのは、実に興味深い。
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0:【間】
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フェンリル:【語り】『ある日の夜、心の優しい男の子が、いつものように眠れずに悩んでいると、真っ赤な目をした魔女が現れました。男の子はびっくりして、布団に潜り込みます。ですが魔女は、とても優しい声でこう言うのです。「君の悩みは、解決してあげるよ」と。男の子はそっと、布団から顔を出します。そこにはとても優しく笑う、美しい魔女が立っていました。』
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0:【間】
:
0:別室
ヴェルダンディ:は?『ヴァナヘイム』を襲撃だあ……?お前、ついさっき『ヴァナヘイム』の人間だと言ったばかりだろう。
スクルド:ええそうよ。私は『ヴァナヘイム』の人間。でも……あなた達がしようとしていることも、同じなのではないかしら?
フェンリル:…………北欧神話。
スクルド:フェンリル。あなたは、あなた自身に付けられたコードネームの意味を、理解している?
フェンリル:…え、ええ。一応は。ですが、本当にそうだとしたら、オーディンさんは何故そんなことを……。
ヴェルダンディ:罠、だとも捉えられるな。
スクルド:あっはは!安心して。オーディンはそこまで頭の回る人間じゃないわ。
スクルド:……そうねぇ。オーディンの考えていることは、あなた達の考えていることと同じ。きっとそうじゃないのかしら。
フェンリル:どうしてそんな……自滅するような真似を……
スクルド:あの人が好きなのは「人間」よ。人間の狂気や悲痛、そういった類のものに非常に興味を持っている。
スクルド:……フェンリルも知ってるでしょう?(※意味深げに)
フェンリル:……。
ヴェルダンディ:……おい。どういうことだ。俺にも分かるように説明しろ。
スクルド:簡単よ。フェンリルが言った通り、あの人は「自滅」を望んでいるの。
フェンリル:そして、その決定打を討つのが私、というわけですか……。
スクルド:(※拍手)大当たり。……オーディンは、『ヴァナヘイム』のボスは、フェンリル、あなたに滅ぼされることを望んでいる。
0:(間)
フェンリル:……どうして、ボスは、私に。
スクルド:どうしてかしらね?それこそ、思考回路にハッキングを仕掛けても分からないかもしれないわ。
ヴェルダンディ:どういうことだ?……「国家転覆計画」だの「新世界創造計画」だの、俺は興味が無かったが、あれも全部、嘘だったということか……?
スクルド:嘘、かどうかまでは断定できないわね。
ヴェルダンディ:勘弁してくれよ。全く分からない。(※イラついている)
0:(間)
フェンリル:私が……。私が、戸籍不明なことと、何か関係があるのでしょうか?
スクルド:……そうね。情報屋として、あまり推測でものを言いたくはないのだけれど、おそらくフェンリル。あなたは特別な生まれ方をしている人間よ。
フェンリル:特別な……生まれ方?
スクルド:それがどういったものなのかは、私も分からないし説明も出来ない。だけど、あなたは特別な生まれ方をしている。他の人間とは違う。
フェンリル:…他の人間とは…違う…(※少し落ち込み・怯えながら)
スクルド:だからこそ、直接的な言い方に変えるけれど、オーディンはあなたに殺されたがっている。
スクルド:そして、オーディンを殺せるのはあなただけよ。――『N-フェンリル』。
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0:【間】
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フェンリル:【語り】『心の優しい男の子は、すっかり魔女と打ち解けて、仲良くなりました。そして遂に、悩みを解決してもらうことになったのです。魔女は、優しい男の子に九つの球根を渡しました。「下から数えて、喧嘩の弱い九人に飲み込ませるんだよ」魔女はそう言いました。そして、こうも言いました。「君の救いたい人は、九人だけじゃあないはずさ。もっともっと、いじめられている人を救える組織を作ろう」と。』
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0:【間】
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0:オーディンの部屋
アールヴィル:フェンリルはまだ生きているな。
オーディン:ああ。
アールヴィル:……彼女はまだ「人間」か?
オーディン:どうだろうな。
アールヴィル:まさか、フェンリルに球根を与えたということは――
オーディン:(※遮って)奴は違うぞ。そもそもがな。
アールヴィル:……。……彼女が何者であるか、分かったのか。
オーディン:少なくとも「普通の人間」ではない。だが、アールヴィル、貴様とも違う。
アールヴィル:はっ。別に僕と一緒であってほしいとは思わないよ。
オーディン:そうか。つまらんな。
アールヴィル:悪かったね。こんな体質を抱えて生きるのは、僕だけでいい。
オーディン:……何故、貴様だけだったんだろうな。アールヴィル。
アールヴィル:そうだね。僕は、僕以上に生き残るべき人間を、沢山見送ってきたよ。
オーディン:貴様の周りの人間は次々と死んでいく。「死神のアールヴィル」とはよく言ったものだ。
アールヴィル:……死神、か。…ははっ。その道に転身するのも、いいかもしれないな。
オーディン:その時は支援してやろう。俺の事も、冥界へ送ってくれよ。
アールヴィル:……どうかな。
0:(間)
オーディン:もう終わりでいいだろ。……最後は悪役らしく抗った方がいいか?
アールヴィル:本当に君は、生に対して執着が無いね。仮にも「悪の組織」のボスだろう。
オーディン:……もう飽きた。それに、疲れた。遊びは終わりでいい。
アールヴィル:可哀そうな人間だね。君は。
オーディン:まあな。誰よりも自分でそう思ってるぜ?
0:(間)
オーディン:(※おもむろに)…A-ヴァーリの心臓。
アールヴィル:っっ。(※動揺)
オーディン:おっと。流石にこれには貴様も反応するんだな。
アールヴィル:(※ひとつ息をついて)…実の弟だ。当たり前だろう。
オーディン:可哀そうだったなあ。どっかの誰かさんが、「弟には球根をやらない」なんて言うもんだから、弱いまま殺されちまった。
オーディン:……殺したのは誰だったかなあ?あんなに素直でいい少年を。家庭用包丁でメッタ刺し。ウケたぜ~あれは。
アールヴィル:オーディン。君は、ここで僕を煽りに煽って何がしたい?……ヴァーリの心臓の話まで持ち出して。
アールヴィル:――一体君は、何を求めているんだ。
オーディン:オイオイ。アールヴィル。分かってて聞いてんのか?……俺が求めてんのはな、
オーディン:――『筋書き通りの死』だ。
0:(長めの間)
アールヴィル:やっぱり、N-フェンリルに殺されたいのか。
オーディン:俺様は「オーディン」様だからな。
アールヴィル:何故彼女に拘るんだ。
オーディン:言っただろう。奴は特別だ。
アールヴィル:……そうか。では聞くがオーディン。君は彼女、N-フェンリルと出会わなかったら、『筋書き通りの死』なんて求めなかったんじゃないのかい?
オーディン:どうだろうな。それこそ適当な構成員を「フェンリル」とあてがって、同じような事をしていたかもしれないぞ?
アールヴィル:いいや、君は絶対にそんなことはしない。
オーディン:知ったような口を――
アールヴィル:知っているからね。
アールヴィル:オーディン。君が「殺されたい」と思うようになったのは、N-フェンリルと出会ってからだ。そうだろう?
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0:【間】
:
フェンリル:【語り】『心の優しい男の子は、魔女に言われた通り、いじめられている人を救える組織を作りました。ですが、球根の方は、誰にも飲み込ませることが出来ずにいました。男の子は怖かったのです。もし球根を飲み込ませたら、喧嘩が弱かったはずの皆は強くなって、自分を襲いに来るんじゃないか、と。だから、男の子は球根のことを、ずっと皆に秘密にしていました。』
:
0:【間】
:
0:別室
フェンリル:ボスが望んでいることが「私に殺されること」だとして、私は何をすればいいのでしょうか…?
スクルド:簡単よ。もう一度『狼(おおかみ)化』した姿で、オーディンを丸吞みにする。
フェンリル:ま、丸吞みって…(※想像して気分が悪くなる)
スクルド:…と、いうのはまあ、極論であって、実際に狼化した姿で戦ってボスを殺す。
ヴェルダンディ:現実的な作戦では無いだろう。諜報部隊。現にフェンリルは、狼化した時の力を自分で抑えきれていなかったぞ?
スクルド:「スクルド」と、呼んで欲しいのだけれど?姉・さ・ん?
ヴェルダンディ:……近・寄・る・な。諜報部隊。
0:しばし睨み合うスクルドとヴェルダンディ
フェンリル:……お、お二人とも~っ?私を放って置かないでくれませんかね~っ?!
0:スクルド、笑顔でフェンリルを振り返って
スクルド:ごめんねえっ!フェンリル!「姉さん」が余りにも意地悪なものだからっ!
ヴェルダンディ:「姉さん」などと呼ばれる筋合いはない。(※イライラしている)
フェンリル:あ、あは、は……。(※苦笑い)
スクルド:大丈夫よフェンリル。私にきちんと作戦がある。
フェンリル:は、はいっ!
スクルド:ヴェルダンディ姉さんも、その少ない脳みそでよーく聞いておいて頂戴っ。
ヴェルダンディ:(※静かにカチンときて)お前、ぶっ殺されてのか……。
スクルド:いやん!殺すだなんて、物騒~!でもでもぉ、ヴェルダンディ姉さんはそんな事しないでしょお?
ヴェルダンディ:……する理由が無いからな。
スクルド:(※何かを考えながらヴェルダンディを見る)……ふぅん。まだそんなに「理由」に拘るのね。あなたは。
ヴェルダンディ:…………悪いか?これが俺の生き方なんだ。
スクルド:いいと思うわよ。そういう信念って大事。
ヴェルダンディ:……。
スクルド:あ、もしかして、「信念」の意味分からなかった?
ヴェルダンディ:はあっ!?お前、何を言ってる!それくらい俺にだって――
スクルド:じゃあ説明してみてよ。「信念」ってどういう意味~?
ヴェルダンディ:そ、それはだな……えっと……
スクルド:私が教えてあげましょうか?姉・さ・ん!
0:スクルド、楽しそうに笑う
0:ヴェルダンディ、恥ずかしそうにむくれている
0:その様子を見ているフェンリル
フェンリル:(※苦笑い)あはは。なんだか…賑やかだなあ。
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0:【間】
:
フェンリル:【語り】『心の優しい男の子は、魔女から貰った球根の事を、皆に秘密にしていました。ですが、ある日一人の男の子にバレてしまいます。それは、一番喧嘩が弱くて泣き虫な男の子。心の優しい男の子にいつもついて回っていた、泣き虫な男の子は、球根をとても欲しがります。心の優しい男の子は、とても迷いましたが、一番弱い彼なら、きっと強くなっても大丈夫だろうと腹をくくり、彼に球根を飲み込ませたのでした。』
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0:【間】
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0:オーディンの部屋
アールヴィル:……そういえば。オーディン。
オーディン:なんだ?
アールヴィル:レギンが身に付けていた、あの妙なペンダントは何だ?あれにも「魔女」が関わって居るだろう。
オーディン:……まあ、そうなるな。
アールヴィル:どうしてあのような、妙なペンダントが存在している。そして、何故レギンが所持しているんだ。
オーディン:はっ。それを貴様に教えて、互いに何のメリットがある?
アールヴィル:メリットはあるさ。
オーディン:何だと?
アールヴィル:「新世界創造計画」。
オーディン:…っ。(※初めての動揺)
アールヴィル:僕は君の夢を忘れてはいないよ。だからこそ、ついて行こうと誓ったのだからね。
アールヴィル:――あれは、あのペンダントは、「新世界創造計画」の為のものだ。
オーディン:…っ。貴様は……いつも……どうして……
オーディン:俺はっ!貴様のことを!殺そうとしたはずだ!確かに「いらない」と追い出したはずだ!なのにどうして…っ!
アールヴィル:君が世界一優しい人間だってこと、僕は知ってるからだよ。
オーディン:……やめてくれ。
0:以降、「■■」は発音しないでください。
アールヴィル:ねえ、「■■くん」。
オーディン:……やめろ。その名前で呼ぶな。
アールヴィル:僕はあの時、「■■くん」、君に助けられたんだ。
オーディン:やめろ、それ以上言うな。
アールヴィル:だから僕は「■■くん」の夢を叶える為に、死なないこの身体を使わせてもらうよ。
オーディン:……ざけるな。ふざけるなよアールヴィル!!
0:大剣を取り、立ち上がるオーディン
オーディン:貴様なんか、最初から必要なかったんだよ。貴様なんか、とっとと死んじまえば良かったんだ……。
アールヴィル:そうだねえ。オーディン。でも君の「お陰」で、僕は死ねないんだ。
オーディン:邪魔なんだよ!貴様は昔から!俺の周りをウロチョロウロチョロと!!
オーディン:魔女からもらった球根で強くなれば、少しは役に立つと思ったが大誤算だったなあ…!!
オーディン:鬱陶しくて鬱陶しくて仕方がない!!クソ、何故死なない!!……クソ!!!
アールヴィル:何故死なないかって?それは今、君が説明したとおりだよ。僕は魔女からもらった悪の球根を飲み込んだ。そしてそれに適合した。
アールヴィル:もう人間ですらない。不死身の「アールヴィル」だ。
アールヴィル:……さあ、その大剣で、切りかかってくるといい。
オーディン:アールヴィルっっ!!(※大剣を振りかぶる)
0:大剣はアールヴィルの肩をかすめる
アールヴィル:どうした?震えているぞ?オーディン。
オーディン:黙れっ!!この……っっ!!(※もう一度振りかぶる)
アールヴィル:(※耳元で)そうやって苦しみながら、ロキも殺したんだろう?
オーディン:っっ!?
0:オーディンの手元は狂い、大剣は床に突き刺さる
0:オーディンはその場にうずくまっている
アールヴィル:ユミルを殺すのも、よくまあ頑張ったもんだ。
オーディン:(※震えている)
アールヴィル:大丈夫だよ。僕は君を殺さない。僕はオーディンのことが大好きだからね。きちんとフェンリルに殺させるさ。
オーディン:俺は……人を、殺すのは……嫌いだ……
アールヴィル:知ってるよ。
オーディン:なあ、どうしてこうなった?アールヴィル、俺は、俺はただ――
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0:【間】
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フェンリル:【語り】『球根を飲み込んだ泣き虫な男の子は、とてもとても強くなりました。それはもう、心の優しい男の子一人では太刀打ちできない程に。そして、泣き虫だった男の子は、いじめっ子を川に落として殺してしまいます。心の優しい男の子は思いました。「もう戻れなくなってしまった」のだと。そして彼は嘆きました。「皆で幸せに暮らせる世界を創りたかった。それだけだったのに」と。』
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