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ヴァナヘイムの美人薄命【3:2:0】【ファンタジー/シリーズもの】

0:登場人物
オーディン:男。ボス
アールヴィル:男。
バルドル:男。ヤニカス
スクルド:女。気が強い
ワルキューレ:魔女。

(所要時間:約30分)

◆◇◆◇

0:地下施設
0:オーディンの部屋

ワルキューレ:つまらない!つまらない!!ほんっっっっとうにつまらないワァ!!!

オーディン:……五月蠅いぞ、ワルキューレ。

ワルキューレ:どぉしてアタクシのことを呼んでくれなかったのよぉぉ!!

オーディン:……面倒事になるからだ。

ワルキューレ:アタクシが面倒ですって!?ひっどぉぉい!!あんなに激しく愛してくれたのにィッ!!
ワルキューレ:イヤよぉ。アタクシ、愛をくれないオーディンちゃんなんて大嫌ァい。……あんな小娘に、その立場を奪われるのも。

オーディン:貴様は呼んでもまず来ないだろう。

ワルキューレ:失礼しちゃうわねェ!オーディンちゃんの頼みなら、断らないに決まってるでしょーぉ?

オーディン:それもどうだかな。

ワルキューレ:それでそれでェ?やっぱり最終的に困っちゃったからァ、ワルキューレさんの力が必要になっちゃいましたァ、ってワケぇ??

オーディン:(ため息)……その見解で合っている。

ワルキューレ:アタクシならァ、アールヴィルちゃんの事も「愛した上で」殺せるしィ、ウルドちゃんの事も「愛した上で」壊せちゃう。
ワルキューレ:でもぉ、オーディンちゃんはァ、本当にそれでいいのかしらァ?

オーディン:…………。

ワルキューレ:違うんでしょォ?違うもんねェ?……だからこそ、アタクシを呼びつけた。
ワルキューレ:(※妖艶に)……ねェ。これは契約違反よォ?足の爪と手の爪、どぉーっちがいーぃー??

ワルキューレ:あ、心臓くれるってのも、アリだけどぉ。

オーディン:……人間の心臓なら幾らでもくれてやっただろう。まだ足りないのか。

ワルキューレ:ウーーン。やぁっぱりィ、アタクシを愛してくれた人間さんの心臓じゃないとぉ、ちょぉーっと、いや、すっごぉーーく、物足りなくてェ。

オーディン:A-ヴァーリの心臓はどうだ?この間貴様が気まぐれに来た時に渡しただろう。

ワルキューレ:あ、ヴァーリちゃんの心臓はとぉーーってもお気に入りよ。食べちゃいたいのを我慢して、死体部屋のど真ん中に飾ってあるワァ。

オーディン:……趣味が悪いにも程があるな。

ワルキューレ:今更でしょーぉ?アタクシとオーディンちゃんの付き合いじゃなぁい。

0:(間)

オーディン:…………足の爪で手を打とう。

ワルキューレ:……んふふ。りょうかぁい~。……久々に、楽しみましょうねェ?
ワルキューレ:――オーディンちゃん。

◆◇◆◇

0:地下施設・外
0:煙草を吸っているバルドル

バルドル:……で、結局どうなったんだ?

アールヴィル:まったく、酷いモンだよ……。

スクルド:あ、私にも一本寄越しなさいよ、バルドル。

バルドル:……うぇ、煙草吸う女はモテねぇぞー?

0:バルドルから煙草を奪い取るスクルド

スクルド:それは「男も」ね!!

0:煙草に火をつけるスクルド

アールヴィル:クヴァシルはどうした?バルドル。

バルドル:ああ、あいつなら今、休ませてある。

アールヴィル:そうか。それなら良かった。

バルドル:どっかの誰かさん達が、随分と長い事待たせやがったからな。

スクルド:しょうがないじゃない。

アールヴィル:あはは。ごめんね。悪かったよ。

バルドル:で、作戦はどうなった。

スクルド:……追い出された。(※不機嫌そうに)

アールヴィル:(※スクルドの台詞を待たずに)追い出されたんだよ。

バルドル:……あぁ??そりゃどーゆーこった。

スクルド:卑怯よ。あの野郎。死にたいんだか、死にたくないんだか。ほんっとに。

バルドル:あのなぁ、あんたら、イマイチ要領を得ねぇんだが。

アールヴィル:ごめんね、バルドル。僕からきちんと説明するよ。

0:(一拍)

アールヴィル:「魔女」が来たんだ。
アールヴィル:……だから僕らは一時退散してきた、という訳だね。
アールヴィル:今頃はオーディンと、ハードなプレイを楽しんでいるところじゃないのかな?本当に彼女は気まぐれだからね。

バルドル:ハード?なプレイ?とやらはどーでもいいんだが、その魔女ってのは、一時退散しなくちゃならねぇくらい、やべぇ奴なのか?

アールヴィル:うん。「やべぇ奴」だよ。(※にっこり)

スクルド:(※不機嫌)ほんっとに何にも知らないのね、バルドルは。一から説明しなくちゃならない、アールヴィルくんの気持ちにもなってみてよ。
スクルド:……かっわいそう。

バルドル:……チッ。(※不機嫌な舌打ち)

0:アールヴィル、二回ほど手を叩く

アールヴィル:とにかくだ。皆一旦落ち着こう。状況を整理して、作戦の立て直しだ。

スクルド:(※やれやれのため息)

バルドル:(※機嫌が悪いため息)

アールヴィル:今の地下施設には魔女が居る。そして僕とスクルドが逃げてきたのは「殺される可能性が極めて高い」からだ。

スクルド:サイアク。せっかくフェンリルと姉さんとの接触にも成功したのに。

バルドル:姉さん?

スクルド:……何でもない。

アールヴィル:スクルドが言っているのは、ヴェルダンディのことだね。スクルドには、フェンリルとヴェルダンディに話を通して貰うようお願いしていた。

バルドル:「殺される可能性が極めて高い」つったが、中に居る他の奴らは大丈夫なのか?

アールヴィル:どうだろうね。レギンは大丈夫だろう。エイルも大丈夫かな。シヴもたぶん大丈夫。フェンリルとヴェルダンディ、そしてウルドは……危ないかもしれないね。

バルドル:オーディンは?

アールヴィル:あー、どうだろう……。機嫌が悪くなければ、死なないと思うけど。

バルドル:……分かんねぇな。どういう線引きだ?

スクルド:「魔女」のことを、愛しているかどうか、よ。

バルドル:……はあ??

スクルド:私はあの「魔女」、大っ嫌いだから!目が合ったら即殺されるでしょうね!ほんっとに!サイアク!

アールヴィル:あはは…(苦笑)スクルドとワルキューレは、まあ、相性悪いだろうねぇ……。

バルドル:ワルキューレ、っつうのか、その「魔女」は。

アールヴィル:うん。P-ワルキューレ。一応オーディンがつけたコードネームってことになってるけど、ほとんど彼女の希望で「ワルキューレ」になったみたいだ。

バルドル:なんか、力関係が見えた気がするぜ……。

アールヴィル:まあ、バルドルが言う通り、「そういうこと」。彼女はね、人間の手には負えないんだ。

バルドル:んなもん、もう、どうしようもねぇじゃねぇかよ……。

スクルド:そうよ。だから作戦の立て直しだ、つってんでしょうが。脳みそスカスカ野郎。

バルドル:あん!?このクソビッチが!!

スクルド:童貞君に言われたくないんですけどー

バルドル:はあ!?くっそ、このアマ――

アールヴィル:はい。ストップストップ。……話を進めよう。

バルドル:……悪ぃ。こいつが。

スクルド:あ!?私のせいにしないでよ!?

バルドル:はあ!?あんたのせいだろ!?

スクルド:うっざあ!だから童貞なのよ!

バルドル:そもそも今それ関係ねえだろ!?

スクルド:私の事「クソビッチ」って言い出したのはお前でしょう!?

0:しびれを切らしたアールヴィル

アールヴィル:――二人とも、黙ってくれないかな?(※威圧感出して)

0:見たことの無いアールヴィルの表情に驚く二人

スクルド:あ、え、えっと……ごめん、なさい!

バルドル:マジで悪かった!アールヴィル!この通りだ、許してくれ!(※ぼそりと)見たこともねえ顔してやがるぜコイツ……。

0:笑顔に戻るアールヴィル

アールヴィル:うん。分かればいいんだよ。分かれば。……よし、話を進めよう。

◆◇◆◇

0:オーディンの部屋
0:一枚ずつ足の爪を剝がされているオーディン

ワルキューレ:んふふっ。気分はどーぉ?気持ちイイ?オーディンちゃぁん。(※剥がす)

オーディン:……いいとは言えないな。

ワルキューレ:(※聞いていない)あーんな小娘達なんかよりーぃ、よーっぽど刺激的で、「イイ」でしょぉ?んっふふ……。

オーディン:……どうだろうな。

ワルキューレ:んもぅ!オーディンちゃんてばほんっとぅにロリコンよねぇ!ワルキューレさんの方が何万倍もテクニックあるってのにぃ~!泣いちゃうもぉ~ん!(※剥がす)

オーディン:……勝手にしろ。(※少し苦しそう)

ワルキューレ:えぇ?もしかしてオーディンちゃぁん、もう苦しいのぉ?

オーディン:……黙れ。

ワルキューレ:ロキちゃんならもっと耐えれたわよぉ?

オーディン:……俺と奴は違うからな。

ワルキューレ:んふふ。頑張ってぇ。……悪の組織の「ボス」さぁん?(※剥がす)

オーディン:…(※ゆっくりと息を吐く)

ワルキューレ:…………今更全部無かったことにしたいだなんてぇ、虫が良すぎなぁい?……ねぇねぇ。そんなんで、死に方選べると思ってんのぉ?

ワルキューレ:このアタクシの「愛」を裏切っておいてェ、他の奴に殺されたいだなんてェ、……許さないからァ。覚悟、してねェ?(※剝がす)

オーディン:……悪いのは全部、俺だからな。

ワルキューレ:あらァ?

オーディン:……貴様と出会ったことも、俺にとってはいい出来事だった。

ワルキューレ:(※顔を近づけて)嬉しいコト、言ってくれるじゃなァい。
ワルキューレ:……でも駄目よォ。「全部自分が悪い」だなんて、逃げでしかないわァ。そんな「逃げ」、アタクシが許してあげなァい。(※剥がす)

オーディン:……「逃げ」でも何でもいいんだよ、もう。

ワルキューレ:ふぅん。生意気ねェ。出会った頃からなぁんにも変わってなァい。……ほら、半分まで来たわよォ。あと半分。んふふっ。

オーディン:……「奴ら」のこと、解放してやってくれ。

ワルキューレ:あらァ。後ろ向き発言……。フェンリルに殺されたかったんじゃあ、なかったのかしらァ?

オーディン:……そりゃあな。フェンリルに殺されたかったよ。

ワルキューレ:だぁいじょうぶよぉ。人間さんって存外強く出来てるからぁ、このくらいじゃ死なないわァ。(※剥がす)

オーディン:……足の爪十枚で済めば幸運だがな。

ワルキューレ:んもぅ!男の子ならァ、そんなに簡単に諦めないのっ!(※剥がす)

オーディン:っ…!

ワルキューレ:あらァ、流石にインターバルが短すぎたかしらァ?

オーディン:……問題ない。続けてくれ。

ワルキューレ:んふふ。流石はオーディンちゃぁん。モノ好きねェ。

オーディン:……モノ好きなのはどっちだ。

ワルキューレ:あーーんまり生意気きくと、黙らせるわよォ?分かってるでしょォ?

オーディン:……ああ。

ワルキューレ:さ、お楽しみの続きと行きましょうか。オーディンちゃぁん。

◆◇◆◇

0:地下施設・外
0:アールヴィルとクヴァシルは休息を取っている
0:煙草を吸っている二人

バルドル:……あんたも吸うんだな、煙草。

スクルド:まあね。……表に居た時に覚えた。

バルドル:……ま、俺もだな。

スクルド:……。(※煙草を吸っている間)

バルドル:……。(※煙草を吸っている間)

スクルド:死なないでね、バルドル。

バルドル:あ?

スクルド:……死なれたら、だるいからさ。

バルドル:あんたなんかの為に、死んでやるかっつーの。

スクルド:それならいいんだけどさ。

バルドル:んだよ?

スクルド:人の為に命かけれますー、みたいな顔してんのが、ムカついて。

バルドル:んなことできたら、もうとっくにこの世にはいねーよ。

スクルド:……それもそうね。

0:(間)

スクルド:ワルキューレはさあ、愛を求めてるって言ったじゃん?

バルドル:ああ。言ってたな。

スクルド:ムカつくのよね。

バルドル:あんたも似たようなもんじゃねーのかよ。

0:スクルド、バルドルを肘でどつく

バルドル:痛ぇ!んだよコラ!

スクルド:……嫌いだって言ったでしょ。私とアイツを一緒にしないでよ。

バルドル:わ、悪ぃ…?(※納得いってない)

スクルド:私が男と寝るのは、情報の為だけ。――「愛」なんてもの、信じてない。
スクルド:くだらない。キモイ。愛が何になるっていうの?何百年も愛に執着し続けて、人間も辞めて、なんなのアイツ。本当に嫌い。

バルドル:…はははっ。

スクルド:何笑ってんのよ。

バルドル:あんたがそんだけはっきり「嫌い」つってんのも、珍しいなと思ってよ。

スクルド:……ああ。まあ、そうね。基本的には誰に対しても中立で居たから。好きとか嫌いとかは、考えないようにしていた、かもしれないわ。

バルドル:そんじゃ、立ち向かおうぜ。その「嫌い」な魔女によ。

スクルド:は?お前何言ってんの?それが無理だからアールヴィルくんとも相談して――

アールヴィル:(見張りの)交代の時間だ。バルドル、休んでくるといい。

バルドル:おうよ、アールヴィル。……クヴァシルは?

アールヴィル:お、気になるのかい?(※にやにや)

バルドル:あ!?!

アールヴィル:ははは……。大丈夫。心配ないよ。少し疲れが出てしまっているだけみたいだ。

バルドル:そうか、ならいいんだが。

スクルド:さっさと失せなさいよ、バルドル。

バルドル:へいへい。分かりましたよ。

0:バルドル、休息へ
0:スクルドの隣に座るアールヴィル

アールヴィル:ヴェルダンディは元気そうだったかい?

スクルド:……ああ、まあ、うん。(※歯切れ悪く)

アールヴィル:なんだ、言わなかったのか?

スクルド:……言えないわよ。

アールヴィル:まあ、そうか。

スクルド:……そうよ。……だって、「黒百合家(くろゆりけ)」は現に全滅してる。

アールヴィル:そうだね。でも、例え薄くとも、血の繋がりは大切なものだよ。

スクルド:そう、なのかな。……私が遠縁の親戚だって言ったところで、姉さんの迷惑になるんじゃないかな、って考えちゃって。

アールヴィル:でも、表に居た時に世話になっているんだろう?

スクルド:まあね。……向こうは、覚えてないだろうけど。私もだいぶ見た目変わったし。性格もひねくれた。

アールヴィル:それはヴェルダンディも同じさ。

スクルド:うん。……だから、怖い。拒絶されるのが。……それで、軽口叩いて誤魔化してきちゃった。

アールヴィル:まあ、ゆっくりでもいいと思うよ。僕は。

スクルド:この切羽詰まった状況で、よく「ゆっくり」なんて言えるわね。次生きて会えるかどうかも分からないのに。ま、死ねないアールヴィル君には関係ない話か。

アールヴィル:それが、今はそうでもないんだよね。

スクルド:は?

アールヴィル:ワルキューレなら、僕のこと殺せるんだよ。

スクルド:胸糞悪いわね。

アールヴィル:ははっ。君ならそう言うと思った。

スクルド:……殺されないでよね。ワルキューレなんかに。

アールヴィル:分かったよ。善処する。

スクルド:「善処する」じゃなくて、絶対死なないでよ!

アールヴィル:はいはい(笑)分かったよ。ごめんね。

スクルド:……ハァ。

0:煙草に火をつけるスクルド

アールヴィル:バルドルの煙草かい?

スクルド:……そうよ。

アールヴィル:なんやかんやで、仲良くやってるみたいで安心した。

スクルド:……別に、バルドルの事が嫌いな訳では無いから。諜報部隊の時の癖で。
スクルド:あ。でもさっきは本当にごめんなさい!言い合いの収拾が付かなくなっちゃって……その。

アールヴィル:いいよ。

スクルド:……「いいよ」って顔、してなかったもん、アールヴィルくん。

アールヴィル:あれ?そうだった……かな?(笑)

スクルド:いや、もう、その笑顔が怖いってば。

アールヴィル:あはははは。

アールヴィル:……しかし、オーディンが心配だな。まだ彼は生きているだろうか。

◆◇◆◇

0:オーディンの部屋

ワルキューレ:ねーぇ?まだ生きてるーぅ?オーディンちゃぁん。

オーディン:…………。

ワルキューレ:生きてるならさァ、アタクシに「愛してる」って言ってよォ。

オーディン:……愛してるよ。

ワルキューレ:あ。まだ生きてたァ。足の爪くらいで死なれちゃぁ困るモノねぇ~!頑張って貰わないとォ。

オーディン:……愛してる、ワルキューレ。

ワルキューレ:ほらほらァ、あと二枚よォん?がんばれェ~。

オーディン:…………。

ワルキューレ:「愛してる」は?(※威圧的に)

オーディン:……愛してる。

ワルキューレ:もう一回。

オーディン:……愛してるよ。

ワルキューレ:んふふっ。いい子。(※剥がす)

オーディン:ぐ……。

ワルキューレ:なぁに?アタクシの可愛いオーディンちゃあん?

オーディン:愛してる、ワルキューレ。出会えて良かったよ。……愛してる。

ワルキューレ:ハァンっ!んもう!!さいっこう!!(※剥がす)

オーディン:っ…………

ワルキューレ:これで両足の爪十枚。よく頑張ったわねェ。偉いえらぁい~。
ワルキューレ:……で?このアタクシに何をしてほしいって?

オーディン:……『ヴァナヘイム』の、奴らを、解放してやってくれ……。
オーディン:アールヴィルにかかった呪いを解き、全ての構成員からコードネームを取り除き、本名を返す。
オーディン:それが……俺の……願いだ……(※気絶)

ワルキューレ:……(ため息)情っけないわねェ……。
ワルキューレ:悪の組織のボスが、正義のヒーロー気取りだなんてェ。……一体何人殺してきたと思ってんのよォ。戻れるワケないのにねェ、シー(※あなたの意)もアタクシも。
ワルキューレ:(※オーディンにそっと口づける)

◆◇◆◇

0:地下施設・外
0:スクルドはクヴァシルと共に休息中
0:言い合いをしているバルドルとアールヴィル

バルドル:おい、待てよ。アールヴィル。

アールヴィル:ごめん、バルドル。でもこれは僕が行かなきゃ。

バルドル:俺ら仲間だろ?

アールヴィル:……ああ。だからこそ、君達を行かせられない。……ワルキューレに顔を覚えられたら、終わりなんだ。

バルドル:なら尚更、俺はあんたを一人で行かせられねえ。

アールヴィル:……分かってくれ、バルドル。

バルドル:いいや、分かんねえな。

アールヴィル:ワルキューレは厄介なんだ。

バルドル:俺にも戦わせろ。

アールヴィル:君には死んでほしくない。

バルドル:死んでたまるかよ。……舐められたもんだな、俺も。

0:アールヴィルは真剣にバルドルを見つめる
0:バルドルは観念したように顔を逸らし、煙草に火をつける

バルドル:(※煙草の煙を吐き出す)……分かった。ただ一つだけ、真意を教えろアールヴィル。

アールヴィル:真意?僕の?

バルドル:俺らを死なせたくねえってのは、本気なんだろうよ。でもなあ、あんた、それ以上に理由があんだろ。

0:(間)

アールヴィル:…………まったく。バルドルには、かなわないね。

バルドル:ったりめーだコラ。

アールヴィル:僕とオーディンはね、幼馴染なんだ。子どもの頃からよく助けてもらっていた。……だからもし彼が、ワルキューレに殺されそうになっているのだとしたら、助けたい。

バルドル:なるほど。……それがあんたなりの「義理」ってことなんだな。

アールヴィル:バルドル風に言うと、そうなるね。

バルドル:死ぬんじゃねえぞ。

アールヴィル:僕は死なないよ。……バルドルこそ、気を付けて。本来君は、いつ殺されていてもおかしくない存在なんだよ。

バルドル:は……?

アールヴィル:じゃあ、行ってくる。クヴァシルとスクルドのことは、頼んだよっ。(※走り去る)

0:アールヴィルの背中を見ながら呟くバルドル

バルドル:……なんだ?……今の。「いつ殺されていてもおかしくない」?俺が?……違和感があるな。……こりゃ、どーゆーこった。

◆◇◆◇

0:地下施設
0:オーディンの部屋

アールヴィル:相変わらず、いつ見ても綺麗だね。ワルキューレ。

ワルキューレ:(※ため息)……んもう。男女のまぐわいを邪魔するだなんてェ、流石に野暮じゃなァい?アールヴィルちゃん。

アールヴィル:ごめんね。オーディンのことが心配だったんだ。

ワルキューレ:命に別状は無いわよォ。安心してェ。……それにしても。

0:アールヴィルに近づくワルキューレ

ワルキューレ:(※アールヴィルの顔を手で撫でまわしながら)本当にいいオトコに育ったァ。アタクシ好みのォ。

アールヴィル:そうかい?ありがとう。背も伸びたし少しは筋肉もついただろう。

ワルキューレ:(※無視して)でもぉ、シーの心はアタクシに無い。

アールヴィル:……。

ワルキューレ:コードネームは「R-カーラ」だったかしらァ。まるでロミオとジュリエットのようなァ、数奇な運命の二人。
ワルキューレ:アタクシそういった「愛」のお話は大好物だけどォ、その当事者がアールヴィルちゃんとなると別。
ワルキューレ:……ねえ、球根を飲み込んだ時、アタクシに絶対服従の「愛」を誓ったわよねェ?シーまで裏切るの?

アールヴィル:……ワルキューレ。君はさ、一つの愛に固執する癖に、沢山の人から欲しがるよね。

ワルキューレ:それが駄目とでも?

アールヴィル:駄目とは言わない。だけど、もっと違った生き方もあったんじゃないか、と僕は思うんだよ。

0:(間)

ワルキューレ:……。…ふ。ふ、ふふっ。あはっ!あははっ!アハハハハハッ!!!
ワルキューレ:――瘦せこけた土地に生まれ、親からの愛も与えられず、その挙句、何もくれなかった土地の為に!人間の為に!生贄に捧げられた!!
ワルキューレ:悪いのはアタクシじゃないワ。「愛をくれなかった人間」よ。だから悪魔と契約してアタクシは魔女になった。
ワルキューレ:気に入らないものは全部壊したし、殺したし、気に入ったものは綺麗に育てて、飾って、大切にした。
ワルキューレ:そうやって何百年も過ごしてきた。……「もっと違った生き方」?何よそれ、教えてよ!そんなものがあるなら、もっと早く教えてよ!!

0:感情が昂っているワルキューレ
0:アールヴィルは魔術で宙に磔にされている

アールヴィル:……ワルキューレ。君を愛してくれる人間は、いっぱいいるよ。大陸を滅ぼした時だって――

ワルキューレ:(※被せて)黙れ!!

アールヴィル:っ…(※ワルキューレの魔術で黙らせられる)

ワルキューレ:そんなこと言うなら、シーがアタクシの事愛してよ。どうせ愛してくれないのに、そんな無責任な事言わないでよ……。
ワルキューレ:アタクシは愛が欲しい。愛が欲しいだけ。だけど誰もくれない。……オーディンちゃんだって、本当の愛はくれなかった。

0:(少し間)

オーディン:――俺の愛が偽物だと、いつそう言った?

アールヴィル:!(※魔術で声が出せない)

ワルキューレ:っっ。オーディン……ちゃん……。

オーディン:……俺が女好きなのは認める。貴様以外の女を抱いたことも謝るよ、ワルキューレ。だがな、俺は貴様のことを愛さなかった瞬間など一度も無いのだぞ。

0:オーディンの堂々とした態度に狼狽えるワルキューレ

ワルキューレ:……そ、そんな、そんなの……分からない、じゃない……。

アールヴィル:(※ワルキューレが狼狽えたことで、魔術が解ける)かはっ!ハァ、ハァ……。

オーディン:「愛」がどういったものなのか、真に説明できる人間など居ないだろう。
オーディン:ワルキューレ。貴様ですら、何百年さまよっても分からなかったのだからな。

ワルキューレ:……か、帰る。
ワルキューレ:もう、どうなっても知らないから!(※一瞬で姿を消す)

0:その場に残る薔薇のような香り
0:しばらく沈黙するオーディンとアールヴィル

アールヴィル:怪我、大丈夫かい?オーディン。

オーディン:……ああ。問題は無い。……だが、しばらくは歩けねぇな、これ。

アールヴィル:酷いモンだね。レギンを呼んでこようか?処置をさせよう。

オーディン:いや、必要ない。

アールヴィル:そうかい?

オーディン:処置ならもうしてあるんだよ。

アールヴィル:…………。

オーディン:ワルキューレはおそらく、承諾してくれた。

アールヴィル:……。そうか。流石は君の初恋の人だね。

オーディン:……おい。それ以上喋るなよ。

アールヴィル:ははは。勿論。……でも、オーディンが生きていてくれて良かったよ。

オーディン:助けに来た、とでも言いたいのか?貴様は。

アールヴィル:僕はオーディンのことが大好きだからね。

オーディン:相変わらず気持ちが悪いな、貴様は。

アールヴィル:昔から変わっていないだろう?

オーディン:……ああ。変わらないな。――貴様は本当に、変わらない。

◆◇◆◇

0:時は少し遡って

0:地下施設・外
0:言い合いをしているバルドルとアールヴィルを盗聴しているスクルド
0:スクルドは取り乱している

スクルド:っ……。やっぱり、そういうことなの……?
スクルド:「いつ殺されていてもおかしくない存在」って……
スクルド:……許せないわね。人の命を遊び道具みたいに……。

0:息を吸って吐くスクルド

スクルド:…………ハッ、私は元々、「義理堅い」からは、かけ離れた存在だと思うんだけど。
スクルド:だっるい。……なんで私が、こんなこと。どうだっていいじゃない。今までだって沢山人は死んで来たのよ。見殺しにだってしてきた。
スクルド:……でも。きっとこればかりは、私がどうにかするしかないのね。

スクルド:――バルドルの命が危ない。



0:END

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