ヴァナヘイムの情報屋【2:2:0】【ファンタジー/シリーズもの】
0:登場人物
バルドル:男。元・諜報部隊。ヤニカス
アールヴィル:男。「死神のアールヴィル」
スクルド:女。元・諜報部隊。びっち
クヴァシル:女。元・戦闘部隊。クソ真面目
(所要時間:約30分)
:
0:バルドルのアジト、近く
バルドル:(※緊張した低めの声で)おい。あんた。そこで何してる。
0:銃を向けるバルドル
スクルド:っっ!!
スクルド:いや、違うの!違うのよこれは!!
バルドル:何が違ぇんだ?国家組織の格好しやがって。俺が何の組織の者か、分かるな?
スクルド:……私は国家組織なんかじゃない。
バルドル:あん?
スクルド:目が鈍ったのかしら?バルドル。この顔!私の超絶プリティーな顔を見て!!(※自分の顔を自分で指指すイメージ)
バルドル:……っっ!?
バルドル:はあっ!?あんた、もしかしてスクルドか!?
スクルド:(※ため息)……やっと分かって貰えた。とりあえず、銃下ろしなさいよ。こちらに敵意は無いわ。
0:銃を下ろすバルドル
バルドル:あんたっ!何で……!組織の玉砕命令は!?
スクルド:それはこっちの台詞。……何やら楽しそうな声が聞こえて来たものだから。何事かと思って覗いてみれば。随分と幸せそうにやってるじゃないの、「狙撃手バルドル」。
バルドル:……あんたは……その恰好は……
スクルド:変装よ。当たり前でしょう?こんな軍服一つで簡単に騙されちゃうんだから。国家組織軍も、バルドル、お前も。
バルドル:ははっ……。流石だな。「情報屋スクルド」。
スクルド:お前が幸せボケしてるだけじゃないの?国家転覆計画以前よりずっと、口元が緩んで見えるわ。そんなので、敵が狙えるのかしら?
バルドル:(※舌打ち)……あんたこそ、国家組織の軍服が随分とお似合いじゃねえか。寝返ってさぞ上手くやってるんだろーな。
スクルド:……私は寝返ったつもりはない。ずっと、仲間を探していたのよ。
バルドル:はっ、どーだかな。
スクルド:………………諜報部隊が集まると、騙し合いで埒が明かない。
バルドル:死んだならまだしも、あんたはまだ生きてるからな。ここから先は通さねーぞ。
スクルド:ほんっとうに埒が明かないわね。今すぐ殺してあげたいくらいだわ。……お前じゃ駄目だ。アールヴィル上官を呼んで。
バルドル:はいわかりました、とでも言うと思ったか?
スクルド:うざい。
0:スクルド、不意にスタンガンを取り出しバルドルに向ける
バルドル:おいあんたっ……!!ぐっ……!!
0:意識が遠のくバルドル
スクルド:私は「諜報部隊・階級Bクラス・M-スクルド」。紛れもなく……悪の組織『ヴァナヘイム』の人間よ。
:
0:バルドルのアジト
クヴァシル:……バルドル、いつもより帰りが遅くないですか?
アールヴィル:ああ。見回りに行くと言ってから、もう一時間は経っているね。
クヴァシル:外で何かあったんじゃ……
0:気絶しているバルドルを引き摺って、スクルドが現れる
スクルド:すみませぇん!!なんかぁ、外で同じ部隊のバルドルくんがぁ、気絶しちゃってたみたいでぇ。
0:スクルドに武器を向けるクヴァシルとアールヴィル
スクルド:あっ!違うんです違うんですぅ!!この格好は、変装していただけでぇ。ほら、アールヴィル上官?私が分かりませんかぁ?
クヴァシル:バルドルから離れて、両手を上げなさい。私達が何の組織の者か、分かりますね?
スクルド:いやんっ!スクルドぉ、怖い~!!戦闘部隊の方々ってぇ、本当に血の気が多いんですねぇ~!やんなっちゃう!……ね。クヴァシルさん?
クヴァシル:どうして私のコードネームを……
アールヴィル:待て。クヴァシル。武器を下ろせ。
クヴァシル:え……?アールヴィル?
アールヴィル:……スクルド。スクルドだね。組織階級はBクラス。諜報部隊所属。「ヴァナヘイムのお抱え情報屋」。
スクルド:はぁい♪思い出してくれたようで、何よりですぅ!私は敵じゃありませんよぉ?戦闘部隊・階級Bクラス、T-クヴァシルさぁん?
クヴァシル:諜報部隊……?諜報部隊は、バルドル以外全員死んでしまったはずじゃ……。それに「お抱え情報屋」なんて、聞いたことも無い……。
アールヴィル:スクルド。君が敵ではないということは、今この瞬間は認めよう。しかし、態度が良くないね。きちんとクヴァシルにも分かるように名乗ってくれないか?
スクルド:はっ!アールヴィル上官!「諜報部隊・階級Bクラス・M-スクルド」です!……これでいいですかぁ?
クヴァシル:ほ、本当に……組織の人間なんですか?
スクルド:やだなぁクヴァシルさん。疑うんですか?……だったらこの軍服、今すぐ脱いで切り裂いてあげましょう。……よいしょっと。
クヴァシル:わ、わわわ!!何してるんですか!?男性も居るのにこの場で服を脱ぐだなんて……
アールヴィル:落ち着いて、クヴァシル。彼女は「こういう人間」だ。
クヴァシル:そう言われましてもですね!!というか、アールヴィル、あなたは男性なのにどうして落ち着いていられるんですか!?スケベなんですか!?
スクルド:へ?スケベ?んふふ、まあ、アールヴィル上官にだったら見せても全然いいんですけどぉ~。よいしょっと、えーいっ!
0:スクルド、小型ナイフで国家組織の軍服を切り裂く
スクルド:これでびりびり~!!まあ、ちょっと外では出来ない行為ですけど。どうです?信じて貰えましたぁ?
アールヴィル:よし、分かった。信じよう。だがスクルド、替えの服はあるのかい?
スクルド:良かったぁ♪……あ、替えの服ですか?ありませぇ~ん!
クヴァシル:(※大きくため息)……ああ、なんてこと……。(※頭を抱える)
:
スクルド:わぁ♪クヴァシルちゃん、ありがとぉ~!こんな戦場で、替えの服用意してるなんて女子力高い~!
クヴァシル:……亡くなった部下の物ですが。サイズが合ったようで、何よりです。
アールヴィル:それで?スクルド。目的はなんだ?
スクルド:あはは……。怖いなあ、アールヴィル上官。
アールヴィル:目的は何だと聞いているんだ。
スクルド:…………不発だったんです。
クヴァシル:……ふ、はつ……?
スクルド:私の自爆用の手榴弾、不発だったんです。…………だから死ねませんでした☆てへっ!
0:目を覚ますバルドル
バルドル:……おい……信じるんじゃねえぞ……
スクルド:あ、バルドルくんおっはよー!
0:バルドル起き上がる
バルドル:こいつの言う事を信じるんじゃねえぞ。アールヴィル、クヴァシル。
クヴァシル:バルドル。無事で良かったです。……それで、「信じるんじゃねえぞ」とはどういうことですか?
アールヴィル:スクルドは「ヴァナヘイムお抱え」とはいえ情報屋だ。人を騙すのも上手い。それこそ色を使って、同情を買って、相手を意のままに操ることができる。
アールヴィル:……そういうことだろう?バルドル。
バルドル:……ああ。俺はよーく知ってる。こいつに真実を聞きたいならそれ相応の代価が必要だ。それも無しに本当のことを言うはずがねえ。
スクルド:………………本当に、不発だったのよ。
バルドル:そんな言い訳が通用すると思うか!?他にも死に方はあったはずだろ!!
スクルド:じゃあ何でお前は生きてるんだよバルドル!!
バルドル:……っっ。
スクルド:何で死んでないんだよ!?ヨルムンガンド上官もスルト上官も皆みーんな死んだんだ!!
スクルド:「他にも死に方はあった」だあ!?その言葉、そっくりそのままお前に返すね!!……私とお前が生きてる理由は、同じなはずだ。
バルドル:……自分一人で死ぬのが、怖かったから……
スクルド:「死んでくれ」と言われて「はいわかりました」と死ねる人間がいるもんか!!ましてや周りが皆死んだ中で私一人だけ生き残って、その上で自殺しなきゃならない。
スクルド:そんな状況で!!死ねるわけ無いだろ!!……だから私は、一人でも出来ることをしようと思った。「情報屋」として、この戦場にありふれた情報を集めようと思ったのよ!!
スクルド:……ずっと一人だった。孤独だった。それでも頑張って来た。国家組織軍に紛れ込んで、嫌な思いも沢山したわ!!
スクルド:そんな中で、よ!!同じ境遇にあったはずのお前は、仲間を見つけて楽しそうに幸せそうにしてやがる!!
スクルド:……私がどれだけ惨めな気持ちになったか、分かるかしら?!
バルドル:(※何も言えない)
クヴァシル:スクルドさん。少し落ち着いてください。今感情的になっても、何の解決にもなりません。コーヒーを淹れましたので、どうかお飲みになって、落ち着いてください。
スクルド:(※ゆっくりと息を吐き出す)……クヴァシルちゃん。ありがとう。確かに大人げなかったわね。私。
バルドル:……すまん。外で煙草を吸ってくる。……スクルド。逃げる訳じゃねえから。少し落ち着く時間をくれ。そしたらきちんと話す。
0:バルドル、立ち去る
アールヴィル:……流石に、バルドルも動揺を隠しきれないみたいだね。
スクルド:……バルドルは、甘過ぎるんですよ。諜報部隊でありながら、どこまでもお人よしで、人を信じたい心を捨てきれていない。私はそれが許せない。
アールヴィル:スクルド。何故君が、僕達に接触して来たのか、教えてくれないか?
スクルド:…………。…………仲間に、入れてほしいんです。
アールヴィル:……ほう。仲間に、か。
スクルド:さっきバルドルも言ってましたけど、私の求める代価は、あなた達の仲間に入れてもらう事。
スクルド:……ずっとずっと孤独だった。それは国家転覆計画以前からずっとです。
スクルド:ただでさえ信用して貰えない諜報部隊でありながら、私の役目は情報屋。……私のことを信じてくれる人なんて、本当の仲間なんて、最初から何処にも居なかった。
スクルド:……だからこそ、誰かに私の存在を認めてもらいたかった。どれだけ情報屋として仕事をこなしても、誰からも信頼してもらえることは無かった。
スクルド:だからバルドルのことが憎いと感じました。私は仲間が欲しかった。
スクルド:知っている事は全部話します。必ず役に立って見せます。仲間に入れてください。お願いします。…………もう、孤独は嫌だ。
クヴァシル:スクルドさん……。(※孤独、という言葉に反応している)
アールヴィル:スクルド、君の考えている事はよく分かったよ。でもまずは、バルドルと打ち解けて貰えないかな?
0:外から戻ってくるバルドル
バルドル:……全部聞こえてたぜ。スクルド。あんたでも、そんなに真面目に真っすぐに話したりするんだな。
スクルド:当たり前よ!私は必死なの!!
スクルド:…………さっきまでの無礼を詫びるわ。バルドル。都合が良過ぎるかもしれないけれど、でも、私は……
バルドル:……いいんじゃねえか?
スクルド:え?
バルドル:その気の強さも、あんたの長所の一つだろ?あんたは諜報部隊として完璧な人間だよ。……俺なんかより、ずっとな。
スクルド:…………。
スクルド:……りやがって。
バルドル:あん?
スクルド:自分がちょっと優位に立ったからって調子に乗りやがって!
スクルド:何が「いいんじゃねえか?」よ!諜報部隊として完璧な人間?当たり前じゃない!お前が出来損ないなだけだよ、分かってるでしょ?
クヴァシル:ちょ、ちょっと、スクルドさん……!
アールヴィル:クヴァシル。……いいんだよ、あれで。
クヴァシル:でも……。
バルドル:わーってるよ!俺は階級Bクラスの諜報部隊の中でも出来損ないだ!銃を構えて相手を狙う事しかできねえ。…………だから、あんたが居てくれたら助かる。
クヴァシル:ば、バルドルさん……?
アールヴィル:ほらね?言ったでしょ?
0:スクルド、ぶりっ子モードに切り替わって
スクルド:と、いうことで、今日からお世話になりまぁ~す!いいですよね?アールヴィル上官♪
アールヴィル:ああ。勿論だよ。よろしく。スクルド。
アールヴィル:……あと、君なら知っているとは思うけど、上官は要らないからね。
スクルド:本当ですかぁ?じゃあ、アールヴィルくんって呼んじゃおうかなあ?
アールヴィル:ははは。……アールヴィルでいいよ。
クヴァシル:あ、あの!私からも!スクルドさん、宜しくお願いします!
スクルド:ええ!クヴァシルちゃん♪女同士、仲良くやりましょうね!
:
スクルド:それで、早速なんだけど。国家組織軍の動きについて。知っている事を説明するわ。
アールヴィル:ああ。頼んだよ、スクルド。
バルドル:俺もそれなりに調査はしてきたんだが……
スクルド:そうね。でも、バルドルの調査だと何もかも甘過ぎる。
バルドル:なっ…!?
スクルド:当たり前でしょう?お前はただの狙撃手。情報収集の術(すべ)に長けていないのは仕方がない。だから黙って。
バルドル:(※舌打ち)くそが……。続けろよ。
クヴァシル:スクルドさん。その……貴女は情報屋として、何もかもを知っているのですか?
スクルド:(※軽く笑って)そんなことある訳ないじゃない。私はただの人間。
スクルド:ウルドの様にスーパーコンピュータを仕込まれている訳でも、ワルキューレの様に世の中を見渡せる魔力を持ってるわけでもないわ。
スクルド:ましてや、ヘズの様に「千里眼」という超能力を保持しているわけでも無い。……だから、今から話すのは、私がこの足で歩きまわって、人間の力で集めた情報。
クヴァシル:人間の、力……。
スクルド:そう、人間の力よ。たかだか人間。だから、私達が考えている事も、国家組織軍の連中が考えている事も同じって訳。
スクルド:……奴らも、『ヴァナヘイム』の生き残りを探して殺しながら、自分達の仲間と合流しようとしている。
スクルド:『ヴァナヘイム』も「国家組織軍」も、今は統率が取れておらず、ぐちゃぐちゃの状態。
スクルド:……そうね。どちらかが優勢だとかは、こんな荒れ果てた戦場では意味をなさないわ。
バルドル:いたちごっこっつー訳か。
スクルド:……そうよ。上手い事言うじゃないバルドル。でもね、だからといって、安心しきっていい、って訳でも無いの。奴らも馬鹿ではないわ。
スクルド:さっき、バルドルと私が出会った時、地面に落ちていた物に気が付いた?
バルドル:地面に落ちていた物だあ?爆弾も地雷も無かったはずだが。
0:スクルド、小さな袋を取り出し、中に入っていた砂を見せる。
スクルド:この砂。
クヴァシル:砂ですか……?もしかして、砂に何か仕掛けが?
スクルド:流石ね。「聡明のクヴァシル」。その通りよ。これは全部壊してあるけれど、ICチップ入りの砂が、この周囲にはばら撒かれている。
スクルド:……アールヴィルくん。変だと思わなかった?どうして次から次へと国家組織軍の奴らが近づいてくるのか。
アールヴィル:なるほど。生き残りがやけに多いとは思っていたけど……。まさか、砂に。
スクルド:このICチップの情報を元に、奴らは私達に接近してくるわ。……幸い、バルドルのアジトは特定されていないみたいだけれど。
バルドル:簡単に特定されるようじゃ、俺らはもう此処にはいねーだろーよ。このアジト周辺には、妨害電波を飛ばしてある。
アールヴィル:……バルドル、君はそんなことも出来たのか。
バルドル:ああ?馬鹿にしてんのか?妨害電波の飛ばし方くらい、諜報部隊なら初歩の初歩で習うもんだぜ?
スクルド:国家組織軍の数については、『ヴァナヘイム』と大した変わりは無いわ。……本当に少ない。
スクルド:ま、普通に考えても、国家転覆計画であれだけ『ヴァナヘイム』の人間が死んで、国家組織軍の奴らだけ生き残ってるだなんて、そんな事あり得ないからね。
クヴァシル:……ICチップ……妨害電波……。
アールヴィル:クヴァシル?何か気づいたことがあるのかい?
クヴァシル:……はい。これだけICチップが張り巡らされた中で、唯一電波の届かない場所となると、逆に怪しまれたりはしないのでしょうか?
スクルド:(※軽く笑って)大当たり。奴らは今、このICチップの情報が届かない場所に『ヴァナヘイム』の生き残りがいるのではないかと、躍起になって探しているわ。
スクルド:……まあ、運悪く気づいた連中は、ヴァナヘイムの生き残りに殲滅されてきたみたいだけど?
アールヴィル:国家組織軍のアジトは分かるか?スクルド。
スクルド:ええ。分かるわ。私が知る限りで、だけど。奇襲を仕掛ければ、あっという間に殲滅できるでしょうね。
アールヴィル:そうか。
バルドル:おうおう。次の仕事は、国家組織軍のアジトへの奇襲か?
クヴァシル:……凄いです。スクルドさん。これで、本当に国家組織軍を滅ぼせるんですね!
スクルド:ま、やろうと思えばやれるけど。……どうなの?アールヴィルくん。
アールヴィル:…………。
スクルド:国家組織軍の連中、全員殺しちゃっていいのかしら?
アールヴィル:…………。
バルドル:は!?やらねーのかよ!?おい、アールヴィル!!
スクルド:計画に支障は出ないのかしらね。
アールヴィル:……国家組織軍の中に、僕らの味方をしてくれる人間が居るというのなら、殲滅してしまうのは勿体ないだろう。
スクルド:そうよね。
クヴァシル:ですけど……!今更……!
アールヴィル:そうだ。今更、僕達と彼らが分かり合えるはずもない。
スクルド:あら、それはどうかしら?……奴らだって今は、疑心暗鬼になっているところよ。私達と同じなんだから。
スクルド:……「本当に今のままでいいのか。」、「『ヴァナヘイム』を殺したところで何になる」、と。
アールヴィル:……情報ありがとう。スクルド。そうだね、……一晩考えさせてくれ。
スクルド:分かったわ。……明日の朝までに、考えを纏めておいて頂戴。
アールヴィル:……ああ。
:
0:夜
0:水浴びをしているスクルドとクヴァシル
スクルド:ブラギのこと、残念だったわね。クヴァシルちゃん。
クヴァシル:……貴女は、そんなことも知っているのですね。
スクルド:……何でもかんでも知ってる訳じゃないけどね。たかだか人間だもの。……あ、そうだ。
クヴァシル:?
スクルド:……クヴァシルちゃんってさ、処女?
0:(少し間)
クヴァシル:は、はあ!?貴女は何を……!
スクルド:ふぅん。やっぱり処女なんだ。ブラギはおろか、アールヴィルともバルドルともやってないのね。まあ、バルドルは無いか。あいつ童貞野郎だし。
クヴァシル:ちょ、ちょっと!!女同士だからって何て話を……!!
スクルド:当然、オーディンに抱かれたことも無いって訳か。まあ、ブラギがあれだけ大切にしてたんだから有り得ないか。
クヴァシル:お、オーディンって……ボスのことですか!?へ!?何で!?
スクルド:……寝床を共にすると、案外相手の事が分かったりするものなのよ。……愛が無ければ無いほどに、ね。
クヴァシル:……スクルドさんは……もしかして……
スクルド:ええ。情報の為なら誰にだって抱かれたわ。男ってね、身体の関係になってしまえばポロポロなんでも話しちゃう生き物なのよ。
クヴァシル:……わ、私は……好きでもない人に抱かれるなんて……そんな……
スクルド:そうね。おススメはしないわ。……でも、相手がブラギだったら?
クヴァシル:ブラギ上官とはそんな関係ではないです!!
スクルド:ふぅん。……でも、一度くらいは考えたことあるんじゃない?ブラギのあの逞しい腕に抱かれてみたいって。
クヴァシル:そ、それは……!!
スクルド:あ。あるんだ~~!!クヴァシルちゃんってばスケベ~~~!!!
クヴァシル:ち、違います!違いますってば!!もう!!スクルドさんてば、からかうのもいい加減にしてください!!
スクルド:あはは。クヴァシルちゃんは初心(ウブ)なのね~!可愛い~!
クヴァシル:やめてくださいよ!!……あ、
スクルド:ん?
クヴァシル:もしかして、アールヴィルやバルドルとも……
スクルド:(※遮るように)あはは!!安心して!!クヴァシルちゃん!!仲間内でそんなことしないわ!!ほんっとうに真面目なのね!!
スクルド:今までは情報でしか知らなかったけど、話してみると案外面白い。……うん。好きかもしれない。
クヴァシル:……そんな風に言ってもらえるだなんて、嬉しいです。
クヴァシル:私も、スクルドさんの事、最初は「なんて方なんだ!」って思いましたけど、今では芯の通った素敵な女性だと思っています。
スクルド:……そう。ありがとね。(※軽く微笑む)
クヴァシル:ところでスクルドさんは、何故『ヴァナヘイム』へ入られたのですか?
スクルド:(※雰囲気がガラッと変わる)……は?
クヴァシル:え……えっと……その
スクルド:なに?ここの仲間に入ったら、そんなことまで話さなきゃいけないわけ?
クヴァシル:……いえ。話したくないのであれば……
スクルド:クヴァシルちゃんは話したの?アールヴィルくんは元から知ってるだろうからともかく、バルドル、あいつにも。
クヴァシル:ええ。話しました。……その、バルドルさんも、話してくださいましたから……。
スクルド:(※大きくため息)……ほんっとあいつ、諜報部隊としてなってないわね。
:
:
0:バルドルのアジト
0:バルドルとアールヴィル
0:バルドルは煙草を吸っている
アールヴィル:……珍しいね。バルドルがそんなに取り乱しているところは見たことがない。
バルドル:だってよ……。アイツだぞ……。第一、諜報部隊が生き残ってるってだけでもおかしいっつーのによ。
バルドル:……信頼できる訳ねえ……。
アールヴィル:でもスクルドは、情報を僕達に渡してくれたじゃないか。それも無償でね。
バルドル:それは、そう、なんだが……。
アールヴィル:その時点で契約は成立しているんだよ。バルドル、もし彼女が契約を違反するようなことがあった場合は――
バルドル:(※被せて)ああ。問答無用で撃つぞ。
アールヴィル:(※軽く笑って)うん。それでいい。それでいいんだよ。
バルドル:(※ため息)……あくまでも契約、か。
アールヴィル:その方が、バルドルも納得しやすいだろう?
バルドル:……まあな。
:
:
0:場面は戻って、スクルドとクヴァシル
スクルド:(※ため息)……ま、そうは言っても、私も今の居場所を失うわけにはいかない。
スクルド:過去の話が必要だって言うなら話すわ。
クヴァシル:え。……いいんですか?
スクルド:(※ため息)クヴァシルちゃんから聞いてきたんでしょう?……ただ一つ、条件。
クヴァシル:は、はい!……条件、ですか?
スクルド:アールヴィルくんは知ってるだろうから隠したところで意味が無いけれど、絶ッ対に!バルドルには!話さないこと!分かった!?
クヴァシル:……分かりました……。えっと、その……
スクルド:何?諜報部隊の険悪さに驚いているのかしら?……戦闘部隊「サマ」は。
クヴァシル:いえ!そんなことはありません!……部隊によって性質が違うのは、当たり前ですから。
スクルド:……そう。やっぱり頭いいわね。あなた。
スクルド:「諜報部隊」ってだけで嫌悪する戦闘部隊の構成員も少なくないってのに。
0:(少し間)
スクルド:……私ね、元々は芸能界に居たの。表から来たクヴァシルちゃんなら知ってるかもしれないけど、そこそこ有名な、恋愛禁止のアイドルグループ。
スクルド:人気投票でも毎回上位に居た。
クヴァシル:アイドル……。
スクルド:だけどね。どこから情報がリークされたのかは知らないけど、大物政治家との不倫が大きく報道されたのよね。
スクルド:……それで、芸能界に居られなくなった。
クヴァシル:……スクルドさんは、その政治家さんのことがお好きだったのですか?
スクルド:ううん。ぜーんぜん。私は少し財政に興味があっただけ。……言ったでしょ?寝所を共にすると、男は何でも話してくれちゃうって。
スクルド:……まあ、その時は、失敗しちゃった訳なんだけど。
クヴァシル:スクルドさん!貴女はもっと、ご自分の身体を大切になさってください!
スクルド:いいのよ。私が死んで悲しむ人なんて、一人も居ないし。
クヴァシル:居ますよ!……少なくとも私が、悲しみます……。
スクルド:……。……ごめん。ブラギが死んだばかりだったわね。
クヴァシル:とにかく、もう無理なことはなさらないでください。情報の為とはいえ。
スクルド:分かったわ。気を付ける。
スクルド:……うん、それでね、芸能事務所からも解雇を言い渡されて、途方に暮れていた私をオーディンは拾ったのよ。
スクルド:……オーディンは、私がどうしてあの政治家――白樺 徹(しらかばとおる)に近づいたのか気づいていた。
スクルド:知っていることを全て話せば、賠償金は肩代わりすると彼に言われて、当時、身も心も限界だった私はその提案に乗った。
スクルド:それがいい事だったのかどうかは分からないけれど。……でも、これが、
スクルド:――私が『ヴァナヘイム』に入った経緯よ。
:
0:時間経過
0:深夜
0:バルドルのアジト
スクルド:……で、その後「呪い」の経過はどうなの?アールヴィルくん。
アールヴィル:君もまた、なかなかに意地悪だね。
スクルド:『ヴァナヘイム』の幹部補佐として、上から組織を見下ろしてるだけにはいかなくなった。とくれば当然、「呪い」が発動するきっかけも増えるわけで。
アールヴィル:……僕が不安要素になり得ると?
スクルド:正直に答えて。何人殺した?
アールヴィル:……その質問には、どんな意図があるのかな?スクルド。それによって、僕の答えも変わる。
スクルド:数を正確に把握したいだけ。分かるでしょ?私は『ヴァナヘイム』お抱えの情報屋よ。
スクルド:何人殺したからといってその情報を国家組織軍にリークしたり、個人で売ったりもしない。
スクルド:――教えて。「死神のアールヴィル」は、何人殺した?
0:(アールヴィルが答える間)
スクルド:……そう。ありがとう。
アールヴィル:ご満足かな?
スクルド:ええ。充分よ。……しかしあなたも大変ね。「魔女」が絡んでいるとなると更に厄介。ただの人間でしかない自分が、本当に嫌になるわ。
アールヴィル:何を言っているんだ。「人間だからこそ」できることがある。君はよく知っているだろう?
スクルド:……ええ。そうね。「人間だからこそ」、「人間らしいやり方で」。これが私のモットー。
アールヴィル:素晴らしい心がけじゃないか。……君のことが羨ましいよ。僕は。
スクルド:……もしかして、アールヴィルくん。自分は人間じゃ無いから、とか、負い目感じたりしてる?
アールヴィル:ははっ。(※乾いた笑い)
スクルド:だとしたら、その負い目は即刻捨て去って。そうじゃないと私、「人間として」あなたと一緒に戦えないから。
アールヴィル:……分かったよ。スクルド。……ありがとう。
スクルド:どういたしまして。
:
:
0:翌朝
0:バルドルのアジト
0:アールヴィルを中心に、バルドル、クヴァシル、スクルドが集まっている
アールヴィル:……さて、作戦についてだが。
バルドル:まわり道は勘弁だ。簡潔に頼むぞ。
アールヴィル:勿論だ。分かっている。
クヴァシル:アールヴィル……。覚悟を決めているのですね。私は、ついていきますよ!
スクルド:さっさと話したらどうなの。
0:(アールヴィル、呼吸を落ち着かせて)
アールヴィル:国家組織軍との攻防戦は終わりだ。
アールヴィル:……僕たちはこれから、『ヴァナヘイム』を襲撃する!
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