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ヴァナヘイムの不穏分子【4:1:0】【ファンタジー/シリーズもの】

0:登場人物
レギン:男
ロキ:男
バルドル:男
アールヴィル:男
フェンリル:女

所要時間:約30分

0:現・組織本部
0:地下施設

レギン:けんけんぱっ。けんけんぱっ。

フェンリル:え……?

レギン:けんけんぱっ。けんけんぱっ……と。
レギン:ふぃ~やっと着いたよ!ガラスの破片を踏まないようにするのが、大変だったね。

フェンリル:あの……もしかして、レギン上官、ですか?

レギン:僕はレギンだよ?君は……うーーん。

0:顔の近くでフェンリルをじっと見つめる

レギン:フェンリル!フェンリルだよね!僕、覚えてるよ!
レギン:戦闘部隊の、女の子だ!でも、どうして手錠なんか……

フェンリル:(※遮って)ロキ上官ーー!!!

0:フェンリル、走り去っていく

レギン:あ、行っちゃった。
レギン:しっかし、白衣がだいぶ汚れちゃったなあ。僕、白衣が汚れるのが、一番嫌なんだけどな。

0:レギン、地下施設を見やる

レギン:……うん、泥臭い。血の匂いがする。ここが新しい本部かあ。

0:レギン、楽しそうに

レギン:けんけんぱっ♪けんけんぱっ♪
レギン:今日は久々に、皆に会えそうだなあ!こんなにいい日は無いよ!
レギン:……君もきっと、そう思ってるでしょ?(※架空の誰かに語り掛けるように)
レギン:けんけんぱっ♪けんけんぱっ♪


0:場面転換

0:戦場を歩くアールヴィル

アールヴィル:ははっ……僕は、最低だな。
アールヴィル:ヘイムダル、だったか。……殺されてあげればよかったかな。

0:アールヴィル、周囲に人の気配を感じ、警戒する

アールヴィル:……誰だ、出てこい!

0:物陰からゆっくりと青年が手をあげて現れる

バルドル:……アールヴィル上官、ですか……?

アールヴィル:(※息をのむ)君は……


0:バルドルのアジト

バルドル:「はっ!アールヴィル上官!諜報部隊・階級Bクラス・W-バルドルと申します!」

アールヴィル:……バルドル、君は、ずっとここに住んでいたのか?

バルドル:はい。そっす。……なんか、運悪く生き残っちゃったんで……。そっからは、ここで生活してるっす。

アールヴィル:そうか。普段はどうしているんだ?

バルドル:……殺したり、盗んだり、いろいろっす。

アールヴィル:君一人なのか?

バルドル:そっすね……今は、ここで一人っす。
バルドル:……あ、すんません。煙草、いっすか。

アールヴィル:構わない。

バルドル:あざっす。俺、煙草無いと駄目で……。

0:以降、バルドルが煙草を吸っている音を適宜入れてください

アールヴィル:煙草はどこから仕入れているんだ。

バルドル:闇商が居て、そっからっす。
バルドル:……すんません。(※気まずそうに)俺、上官との喋り方とか、あんま分かんなくって。失礼っすよね。
バルドル:敬語とか無理なんすよ、昔から……

アールヴィル:もう上官じゃない。

バルドル:は?

アールヴィル:僕はもう上官じゃないから、そんなに畏まる必要はない、バルドル。
アールヴィル:うん……そうだな。「アールヴィル」とでも気軽に呼んでくれ。敬語も要らないよ。

バルドル:……は!?ちょ、ちょっと、どういうことすか!?どうしちゃったんすか!?アールヴィル上官!!

アールヴィル:はっ、上官も敬語も要らないと言ったばかりだろう。

バルドル:だって、そんな!急に言われても……

アールヴィル:オーディンに殺されそうになってな。

(間)

アールヴィル:……つまりは、組織を追放されたんだよ。


0:場面転換

0:現・組織本部
0:地下施設
0:動かないウルド

フェンリル:ちょっと!!ウルド!!ねえ!!ウルド、どうしちゃったんですか!?ロキ上官!!

ロキ:ん?ああ、電源を落としたんだよ。

フェンリル:どうしてそんな酷いこと!!

ロキ:酷い?何がだ?こいつはただのアンドロイド。そして僕が作った僕の所有物だ。

フェンリル:だからって……どうして急に!!ロキ上官は、あんなにウルドを必要としていたじゃないですか!!

ロキ:……なんだ、そのことか。その理由なら明白さ。

0:真っ白な白衣を着たレギンが現れる

レギン:ロキだ~!久しぶりだよ~!

0:ロキ、レギンの肩をたたいて

ロキ:こいつ。レギンが、戻ってきてくれたからだよ。

レギン:また一緒に研究ができるのかと思うと、僕、とっても嬉しいよ!

ロキ:僕もだよレギン!
ロキ:レギンの脳みそは、僕が作った高性能アンドロイドなんかより、よっぽど優秀だ。だからウルドは要らない。

レギン:ウルド3号機が完成したら、2号機もバージョンアップをしよう!

ロキ:あぁ、レギン!それがいいな、それがいい!今日はお祝いだな!ちょっといいワインでも開けるか!

レギン:君も僕も、まだ未成年だよ?

ロキ:ちょっとくらいいいじゃないかー♪

0:ロキとレギン、楽しそうに笑いながら去っていく

フェンリル:……嘘、でしょ、そんな……。(※独り言)


0:深夜
0:無人のロキの研究室

フェンリル:(M)誰も居ない、ロキ上官の研究室。薄気味悪ささえ、感じる。
フェンリル:(M)エイル上官は、ウルドの電源が落ちていても、裏コードは発動するはずだ、って言ってたけど、……本当なのだろうか。
フェンリル:(M)それにしても、隠密行動というのは本当に苦手だ。諜報部隊に配属されなくて、心から良かったと思う。

0:(※喋っているフェンリルは小声で) 

フェンリル:……えっと、ここをこうして……
フェンリル:あっ。

0:フェンリル、書類を落としてしまう

フェンリル:……やばい、書類落としちゃった。拾わなきゃ……
フェンリル:ん……?

0:フェンリル、一枚の書類に気づく

フェンリル:え……この書類って……

0:フェンリル、息をのむ

フェンリル:そんな…………どういうこと?


0:場面転換

0:バルドルのアジト
0:最後の一本の煙草を吸い終えるバルドル

バルドル:……あーくそ煙草切れた……買ってくるか。だりーな。

アールヴィル:僕が行こうか?

バルドル:いやいや!やめてくれ!あんたここら辺、慣れてねえだろ。……また簡単に、死なれちゃ困るしなあ。

アールヴィル:誰か死んだのか?

バルドル:ははっ!!死んだっつったら、いっぱい死んだぜ!?
バルドル:諜報部隊は、ほとんどが死んだ!
バルドル:なんつったって、ボスからの命令は、「諜報部隊は全員玉砕(ぎょくさい)」だからな!
バルドル:俺はおちおち「地下施設」?に帰ることもできず、ここで暮らしてるってわけだ。

アールヴィル:……それは本当にすまなかった。

バルドル:いいんだ!もう終わったことだよ!

アールヴィル:……だが、バルドル。さっきの君の物言いには、含みがあった。ここ最近で、大切な誰かが死んだんじゃないのか?

バルドル:……。

アールヴィル:言いたくなければ、言わなくていい。

バルドル:…………弟、が。(※ぼそりと)

アールヴィル:弟か。

バルドル:……まあ、弟っつっても、血は繋がってなかったんだけどな。

アールヴィル:そうなのか?

バルドル:ああ。俺もあいつもスラムの育ちでな。親はもちろん、いつ自分が生まれたのかさえ知らねえ、名前も無え。
バルドル:その日一日をしのぐだけで、精一杯だったな。
バルドル:……そんな中、気づいたら、ついてきちまっててさ。

アールヴィル:なるほど。……ついてきたってことは、兄として認められたんだろうな。

バルドル:そんで一緒に、この組織に入って、俺ら二人だけ生き残っちまって、ここで生活してたんだけどよ。
バルドル:いつも通り「煙草買ってきてくれ」って頼んでよ、……二度とあいつは、帰って来なかった。

アールヴィル:そうか。話してくれてありがとう。バルドル。
アールヴィル:……「兄弟」ってのは、貴重なものだよな。

バルドル:……?

アールヴィル:僕も弟を亡くしてる。

バルドル:……そうだったのか。

アールヴィル:ほとんど僕のせいだよ。

バルドル:……俺も似たようなモンだ。


0:場面転換
0:現・組織本部

フェンリル:(M)「N-フェンリルは戸籍不明。出生地不明。本名不明。」
フェンリル:(M)「記憶を失った、国家組織のスパイである可能性が高いため、要観察・要注意人物。」

フェンリル:……何……これ……
フェンリル:私は……白樺(しらかば)家の、一人娘で……自分の本名だって……覚えて……覚えて……え……??

0:レギンがロキの研究室へ入ってくる

レギン:ロキの研究室で、何をしているんだいフェンリル。

フェンリル:あっ……レギン……上官……

レギン:それはー、フェンリルの個人情報の資料だね。

フェンリル:も、申し訳ありません……。

レギン:別に僕は怒ってないよ。ロキがこんなところに、フェンリルの資料を置いておくから悪いんだ。……見たところで、何にもいいことなんて無いのに。

フェンリル:はい……なかった、です。
フェンリル:あの……!レギン上官……!

レギン:どうしたの?フェンリル。

フェンリル:えっ……と……。(※言葉に詰まる)

レギン:(※ため息)僕はこの時間に研究をしているんだ。物音が聞こえたから、ロキの研究室に来ただけなんだよ。邪魔しないで欲しいね。

フェンリル:も、申し訳ありません……。でも、その、一つだけ……ご質問よろしいですか?

レギン:(※ため息)一つだけだよ?

(間)

フェンリル:…………私は、一体何者なのでしょうか?


0:場面転換
0:バルドルのアジト
0:深夜

バルドル:なあ、アールヴィル。起きてるか?

アールヴィル:どうした?バルドル。起きてるよ。

バルドル:……恥ずかしいんだが、寝付けなくてよ。

アールヴィル:付き合うぞ?僕は煙草は吸わないけどね。

0:バルドルのアジト外・暗闇
0:煙草を吸うバルドル

バルドル:……知ってんだろ?

アールヴィル:何がだ?

バルドル:俺と弟が、組織に入った理由。

アールヴィル:知ってるよ。

バルドル:……知ってんだろ?俺の初任務のことも。

アールヴィル:ごめんね、知ってるよ。
アールヴィル:……バルドル。君の大切な恩人を、暗殺させたよね。

バルドル:涙が枯れるくらい泣いたのは、人生で一度きりだったな。
バルドル:……せめて顔を見て、正面から撃ちたかったよ。

0:煙草の煙をゆっくりと吐き出す程度の間

バルドル:スラムに生まれてよ。最初から失うものなんて、何も無い人生だと思ってた。
バルドル:……でも違った!!生きれば生きるほど、大切なものが増えていきやがる!そして俺の元から、零れ落ちるように失くなっていくんだよ!

アールヴィル:……バルドル。人間はな、大切にしてきたものを失う度に、強くなっていく。
アールヴィル:失っては絶望し、また光を見つけては、失って絶望する。……それでもまた、新たな光を見つけるのが人間なんだよ。


0:場面転換

0:現・組織本部
0:地下施設

ロキ:ああ、おはよう。フェンリル。昨晩はボスとお楽しみだったかい?

フェンリル:(※大きなため息)お!か!げ!さ!ま!で!

ロキ:はっは~何よりだ!そろそろ僕の相手もしてくれてもいいんだよ~?

フェンリル:お断りします!

ロキ:相変わらず元気だねえ。

0:レギンが部屋へ入ってくる

レギン:おはようフェンリル。

フェンリル:おはよう……ございます。レギン上官。

レギン:気持ちの整理はついたかい?

ロキ:気持ちの……整理?

フェンリル:あ……えっと……まだ、ちょっと……

レギン:昨日の夜に、フェンリルがロキの研究室に入って、自分の資料を見ちゃったもんだから、僕が軽く説明してあげたんだよ。

ロキ:……フェンリル、お前、勝手に僕の研究室に入ったのか?

フェンリル:も、申し訳ありません!

ロキ:何をしようとしていた?いや、「何をした」?

フェンリル:……何も、しておりません。

レギン:フェンリルは何もしていないよ。僕が証人だ。
レギン:ただ自分の資料を見て、動揺していただけ。

ロキ:……そうか。自分の資料を見に来たのか。
ロキ:別に見ても、面白いものじゃなかっただろう?
ロキ:……僕は自分の資料なんて、二度と見たくないけどねえ!!

フェンリル:あの……私の、あの資料の情報は、真実なのですか?

ロキ:知らねーよ!!誰が管理してるのかも分かんねぇ!!階級Sクラスの僕でも知らないんだぞ!?
ロキ:……ふっ、ボス以外知らねえんじゃねえのか?

フェンリル:ロキ上官……あなたも……

ロキ:この組織は、偽の情報と嘘だらけだ。何が真実かも分からない。誰が裏切るかも分からない。
ロキ:……ここで生きてくのに、「誰かを信じる」なんて感情はいらないんだよ。

フェンリル:ロキ上官……

ロキ:さあ、研究を始めようか、レギン。

レギン:了解。


0:場面転換

0:バルドルのアジト
0:一人煙草を吸っているバルドル

バルドル:……だりーな。まーた一日が始まっちまったじゃねえか。

アールヴィル:おはようバルドル。

バルドル:うおっ!びっくりさせんなよ!

アールヴィル:ごめんね。

バルドル:いや、てか、アールヴィル、朝早いんだな。……違うか。よく眠れなかっただけか。こんな堅ってー地面じゃ眠れねーよな

アールヴィル:(※遮って)とてもよく眠れたよ。ありがとう。バルドル。

バルドル:……。そーかよ。

0:バルドルが煙草を吸って、煙を吐き出す程度の間

アールヴィル:今日は君の仕事を手伝いたいと思う。
アールヴィル:……といっても僕は戦闘は苦手だから、お手柔らかにお願いしたいんだけどね。

バルドル:甘っちょろいこと言ってられねえぞ?

アールヴィル:分かってるよ。手は抜かない。(※笑う)


0:場面転換

0:現・組織本部
0:地下施設

レギン:………あ。

ロキ:どうした?レギン。

レギン:ウルド2号機、ミスしてるよ?ロキ。

ロキ:は!?(※取り乱す)何言って……そんなはずはない!!

レギン:ほら、ここ。ヒトゲノムが再生しつつある。

ロキ:なんだと……俺は完璧に、完璧に、完璧に作ったはずだ!!

レギン:ちょっと落ち着いてよ、ロキ。

ロキ:うるさいうるさいうるさい!!レギンお前、自分が天才だからって、そうやって凡人の僕を見下しているんだろう!?

レギン:待ってくれよ!ロキだって充分天才だよ!
レギン:僕は生まれつき、サヴァン症候群で、一人でできないことも多い。でもロキは何でも一人で出来る。研究だって一人でちゃんとできてるんだよ。僕が今、指摘したミスだって些細なものだ。
レギン:……ロキ……前と変わったよ。ずっとイライラしてる。どうしてだい?

ロキ:……フリッグが(※震え声)

レギン:フリッグは死んだよ。

ロキ:お前は気楽でいいよなあ!レギン!僕はフリッグから託された意思を、読み解かなきゃいけない!その使命があるんだよ!!

レギン:何を託されたんだよ。

ロキ:シヴだ。W-シヴ。……一人の、人間だよ。

レギン:そうなんだ。僕はこれを、フリッグから託された。

ロキ:んん……?見たことも無い石の、ペンダントだな。

レギン:これが「新世界創造計画」の鍵になると言っていた。

ロキ:……お前ッッ!!何故それをもっと早く言わない!!

レギン:……聞かれなかったから言わなかった。

ロキ:とにかく、ボスに報告しにいくぞ。

レギン:ボスのところに持って行っても、解明できないと思うよ?

ロキ:そういうことじゃあないんだよ!まず報告だ!研究の前に報告!物理的に首が飛ぶぞ!

レギン:…………あ。

ロキ:どうした?

レギン:今はボスの部屋にフェンリルが居る時間だよ。

ロキ:くそっ、タイミング悪いなあ……。


0:場面転換

0:戦場
0:近接戦闘中のバルドルとアールヴィル

アールヴィル:…っ!国家組織のっ!連中って……!まだこんなにっ……!残っていたのかっ……!!

バルドル:だーから言っただろ!?……おい!!そっち来るぞ!!

アールヴィル:…うぐっ!!…申し訳ないっ!!

バルドル:ほっんと鈍いなあっ!!アールヴィルはよおっ!!

アールヴィル:…ああっ!!昔からっ!よく言われたよっ!!

バルドル:よくそんなんでっ…!!生き残れたよなあっ…!!

アールヴィル:ああっ…!!僕はなっ…!!死ねないんだよっ…!!

バルドル:意味わかんねー虚勢(きょせい)張ってんじゃねーよ!!
バルドル:おい!!そっち来るぞ!!

アールヴィル:おう!!

0:二人とも息切れ(※戦闘後、二人とも息切れしてる感じで喋ってください)

バルドル:おい、アールヴィル、さっき軽く流したけどよ、

アールヴィル:(※息切れ)……なんだ?

バルドル:…「死ねない」ってどーゆーこった?

アールヴィル:あぁ?

バルドル:いや、虚勢を張るときの、常套句(じょうとうく)ではあるぞ?
バルドル:でもな、あんたがそういうこと言う人に見えなくてよ、なんか、意味があるのかなって

アールヴィル:(※被せて)言葉の通りだ。

バルドル:あ、え、えっと……(※動揺)

アールヴィル:……まずはアジトに戻ろう。話はそれからでもいいか?

0:バルドルのアジト

バルドル:えーーっと…………とり憑いてる……??

アールヴィル:馬鹿馬鹿しいと思うか?

バルドル:い、いいや?……続けてくれ。(※動揺)

アールヴィル:記憶はしっかりあるんだ。だから多重人格では無いんだよ。

バルドル:お、おう……?

アールヴィル:死にそうになると、いつももう一人の僕が現れてさ、そいつは滅茶苦茶に強いんだ。

バルドル:へ、へえ……。

アールヴィル:……初めて人を殺したのは十二歳のとき。クラスのいじめっ子を川に落としてやったんだよ。

バルドル:それは……そのもう一人のアールヴィルがやったってことなのか?

アールヴィル:そうなるね。だって僕は当時、そのいじめっ子が怖くて仕方が無かったんだから。
アールヴィル:でも……殺したときの記憶はあるんだ。感情もきちんと。

バルドル:なんか、やべえな。
バルドル:……組織の上の方のやつらと関わることなんて、絶対無いと思ってたからさ、……改めて、やべえなって……。

アールヴィル:……やばいのかな。

バルドル:いや、やべーだろ。

アールヴィル:いや、僕ね、オーディンに殺されかけた後、また別の構成員に殺されかけたんだ。

バルドル:なんたってそんな仲間割れしてんだよ!怖ええなあ……。

アールヴィル:女の子の構成員だったんだけどさ、滅茶苦茶に強くて。
アールヴィル:あー…もう死ぬかもなー…って思ったときに……

バルドル:もう一人のアールヴィルか?

アールヴィル:うん。

バルドル:やべえな。

アールヴィル:女の子逃げて行っちゃった。

バルドル:そりゃそうなるだろうよ……。


0:場面転換

0:ボスの部屋・フェンリル
0:ノック後入室

フェンリル:……オーディンさん。いえ、ボス。今日は少し真面目なお話をさせてください。
フェンリル:私は元・戦闘部隊・階級Cクラス・N-フェンリル。現在は、あなたの「ただの愛人」にまで落ちた身です。
フェンリル:……ですが、十年前の出来事について。私とY-シグルズ、白樺家とこの組織で起こった出来事について、どうか、どうか本当のことを、教えていただけませんでしょうか?
フェンリル:この通りです!お願いします!

0:フェンリル、オーディンに頭を下げる


0:場面転換

0:バルドルのアジト
0:休んでいる二人
0:煙草を吸っているバルドル

バルドル:……そういやさ、アールヴィル。

アールヴィル:ん?どうした?バルドル。

バルドル:いや、簡単に戦場に連れて行っちまったけどよ、あんた、ここ来たとき、けっこうな怪我してなかったか……?

アールヴィル:うん。殺されかけたからね。

バルドル:え……も、もう……大丈夫、なのか?

アールヴィル:傷の治りは昔から早い方なんだよ。

バルドル:いやいやいや!!!俺が言ってんのは、一日二日で治る怪我じゃなかっただろ、ってことだよ!

アールヴィル:あー……なるほどね。……やっぱりおかしいかな。

バルドル:アールヴィル、あんた本当に、何かとり憑いちまってんのか……?

アールヴィル:これで信じてくれた?

バルドル:いや、そもそも人間?

アールヴィル:アンドロイドに血は流れないよ。

バルドル:そ、そうか……。なんか、あんたもいろいろ大変な人生歩んでんだな……。

アールヴィル:お互い様だよ。

バルドル:……俺、あんたとは仲良くなれそうだよ。

アールヴィル:それは光栄だ。


0:場面転換

0:レギンの研究室
0:レギンの研究室はひどく散らかっている

ロキ:レギン、お前なあ!まだこの施設に来て一週間も経ってないだろ!?
ロキ:どうやったらここまで散らかせるんだ、……まったくもう。

レギン:悪いね、ロキ。歩きにくいのは勘弁しておくれ。

ロキ:そういう、ことじゃ、なくて、だな、っ(※歩きにくそうに)

レギン:この石を研究していて、少し分かったことがある。

ロキ:あー今そっち行くから待ってろ!

0:(少し間)

レギン:まずこれは明確には石、「鉱石」ではないよ。……ヒトの眼球と、同じ構造をしてる。

ロキ:なるほど、ヒトの目玉のペンダントってことか?
ロキ:でもフリッグが、そんなものを持ち歩くようには、思えないけどな……。

レギン:いや、正確にはヒトの目玉そのものとも違うんだよ。構造が同じってだけでね。
レギン:ほら、ロキ。君も見てみるかい?

0:顕微鏡の位置をロキに譲るレギン

ロキ:……本当だ。目玉だな。目玉だけど、……目玉じゃない。

レギン:おそらくは何かの新しい因子によって生み出された、新物質だ。

ロキ:……。

レギン:…?ロキ?どうしたの?

ロキ:……似てる。

レギン:……似てる?何にだい?僕だって初めて見た物質なんだ。

ロキ:……間違いない。これはフリッグからのメッセージだ!

レギン:いったいどうしたっていうの!!

ロキ:「W-シヴ」。

レギン:シヴ?彼女がどうしたんだい?

ロキ:シヴの目玉にそっくりなんだよ!!
ロキ:僕はずっと面倒を見てきたから分かる。……この目玉のペンダントは、シヴ自身を指しているんだ。

レギン:じゃあ、フリッグが僕らに伝えたかったのは、シヴが重要人物ってこと?

ロキ:それ以外あるかよ!さっそくシヴを連れてきて、解剖するぞ。

レギン:ちょ、ちょっと待ってくれよ!!ウルド3号機の開発が先だろう!?

ロキ:うるさい!とにかくシヴをここに連れてくるからな!!


0:ボスの部屋から帰るフェンリル

フェンリル:(M)十年前の出来事。
フェンリル:(M)ボスが言っていたことすべてが真実なのかどうか、それは私には分からない。だけど、それでも、私が大切にしてきた事実は間違っていなかった。
フェンリル:(M)……これだけで、生きていける。

フェンリル:……シグルズ、頑張るね。私。

フェンリル:(M)ふとガラス越しに、自分の姿が目に入った。
フェンリル:(M)少しは……女らしくなっただろうか。今の私の生き方は、さながら娼婦のようなものだ。
フェンリル:(M)戦闘員としての大事なプライドも、女としての大事なものも奪われて、だけど、それでも生きている。生きていくんだ。
フェンリル:(M)……シグルズが生かしてくれた、この命だから。

フェンリル:(M)組織内の人間は今、皆、疑心暗鬼になっている。
フェンリル:(M)何が本当で何が嘘なのか。そもそも全部が嘘なんじゃないのか。
フェンリル:(M)勝ち馬に乗った方が本当に勝ち?逆転しない自信は何処から来るの?
フェンリル:(M)……真実を決めるのは簡単。
フェンリル:(M)生きるか死ぬかの殺し合い。生き残った方が「真実」「本当」になる。

0:フェンリル、深呼吸

フェンリル:……私はN-フェンリル。悪の組織『ヴァナヘイム』の人間だ!!


0:場面転換

0:バルドルのアジト
0:スナイパーライフルを構えるバルドル

バルドル:……5人死んだな。

0:煙草を吸うバルドル

アールヴィル:バルドル、君は本当に凄いな。
アールヴィル:……距離が離れているとはいえ、銃撃音が何も聞こえなかったぞ。

バルドル:そりゃあ、本業スナイパーですからねえ。
バルドル:組織でもこれで食ってきたわけよ!

アールヴィル:近接戦闘でも充分強かったというのに、……階級Bか。
アールヴィル:僕が現役なら、Aには上げていたところだぞ。

バルドル:ははっ!ありがとよ。絵空事だろ?

アールヴィル:絵空事だな。(※笑う)

バルドル:……なあ、アールヴィル。これからどうすんだ?

アールヴィル:これから?

バルドル:……おう。あんたのことだから、いろいろ考えてんじゃねーかなって思ってよ。

アールヴィル:いや、考えてないな。

バルドル:……意外だな。生きるつもりか?死ぬつもりか?

アールヴィル:……「死ねない」って説明したの、忘れたか?ふふっ

バルドル:ふふっ…ははっ!はははっ!!(※バルドル大笑い)
バルドル:そーだった!!そーだった!!あんたって本当におもしれーよ!!
バルドル:……なあ、「死ねない」元・上官さんよ。

アールヴィル:なんだ?

バルドル:これから俺と、バディを組んでくれねえか?

アールヴィル:僕は弱いぞ?

バルドル:知ってる。

0:アールヴィル、バルドル、二人でしばらく笑いあう


0:場面転換

0:現・組織本部
0:地下施設
0:折檻室・エイルに暴力を振るうロキ

ロキ:おうおう痛いか~?!エイル!!痛いよなあ!辛いよなあ!
ロキ:死んだ人間はもっと痛かったぞ!?辛かったぞ!?
ロキ:お前のせいでどれだけの人間が死んだか、自覚してるんだろうな!?ああ!?


0:レギンの研究室
0:シヴを連れ込むレギン

レギン:……暴力反対だよお。僕はあんまりこういう無理矢理なやり方は、したくなかったんだけどなあ。
レギン:でも、エイルがシヴを離さなかったから、仕方ないのかあ。……可哀想に。

0:(少し間)

レギン:よし、メスと、ピンセットと、麻酔の準備もして……

0:遮るように勢いよく研究室に入ってくるロキ(※慌てている)

ロキ:おい!!レギン!!ちょっと来てくれ!!

レギン:はあ!?急になんだよ!?どうしたんだよ!?

レギン:今からシヴの解剖をするところだったのに……

ロキ:いいから早く来い!!(※レギンの腕を引っ張る)

レギン:ちょっとロキ引っ張らないで!!痛いってば!!
 

0:監禁室・フェンリル

フェンリル:……ん?なんだろう?この香り……薔薇の香水?
フェンリル:ここに来てから、嗅いだことのない匂いがする。


0:ロキの研究室
0:顔面蒼白な二人

ロキ:……これを見てくれよ、レギン。

レギン:この薔薇の香り、まさかとは思ったけど……。

ロキ:……ああ。一輪の薔薇に、手書きのメッセージ。

レギン:……「そろそろ帰るわね」。口紅でキスマークまで……。

ロキ:……ああ、あの「魔女」。
ロキ:「P-ワルキューレ」が帰って来るぞ……!!!
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次のお話→

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